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24 モンゴルの可能性
 1911年(皇紀374年)



 辛亥革命が勃発

 中国の武昌で軍隊が蜂起して革命政権を樹立。2ヶ月の間に中国全体の8割に当たる14省が独立を宣言。
 清朝が崩壊の危機に瀕した。



「史実通り辛亥革命が起きたか…」

 辛亥革命勃発に1番喜んだのは、北郷と日本帝国政府だった。
 何故なら辛亥革命に重要なキーパーソンたる孫文は1897年に大日本帝国にいた。つまり転移の際に大日本帝国ごと孫文が異世界に飛ばされた可能性すらあったのだ。
 そして更に、仮に孫文が異世界に飛ばされてなかったとしても、孫文や革命の重要メンバーのほとんどは大日本帝国に留学して様々な知識や財源を得ていた。しかし日本帝国は留学制度が無いので当然受け入れる筈が無く、辛亥革命に必要な人材が揃わない可能性が高かった。

 このまま中国が清朝でいるより、中華民国が成立した方が都合が良い日本帝国政府は、孫文のような存在の育成を始めた。
 流石に日本帝国への留学は不可能だが、中国国内で革命に必要な人材を探し、教育して出資をした。幸いにも中国国内では清朝に対する不満が強かったので人材には困らず、日本帝国政府ではなくあくまで個人として、様々な教育を施して革命するよう洗脳し、莫大な出資や武器を提供してきた。

 そしてその苦労が遂に実り、狙い通り辛亥革命が起きたのだ。

「辛亥革命さえ起きてしまえば後は自動的に進む。最早清朝は終わりなのだから」

 ほとんどの省は独立して今や中国はバラバラ。日本帝国としては下手に統一されるよりはバラバラな状態の方が好ましいのだが、流石の漢民族もそこまで愚かではないので中華民国成立を目指している。









 辛亥革命によって清国の実行統治が急速に弱体化するのと同時に、外モンゴルは清からの独立を宣言。ボグド・ハーン政権が樹立。

 史実では1913年のチベット・モンゴル相互承認条約によって正式に中国から独立となるのだが、この世界ではボグド・ハーン政権は日本帝国に支援を要請。日露戦争によってシベリア全土を領有して国境を接するようになり、更には周辺諸国で中国に対抗出来る国は日本帝国しかないので、必然的にモンゴルは日本帝国の庇護を求めた。
 これに日本帝国はモンゴル国内の鉱山や油田などの採掘権と引き換えに支援を約束、モンゴル独立を承認した。

 そして日本帝国の支援を取り付けたモンゴルは内蒙古(内モンゴル)の併合も宣言した。
 史実ではロシアからの干渉によって内蒙古併合は失敗したが、そのロシアは日露戦争によってアジアに対する影響力をほとんど失っていたので黙認。そうなると宗主国である清朝は辛亥革命によって混乱していて内蒙古に構う余裕が無く、更には日本帝国がモンゴルの後ろ楯になっていたので拒絶出来ず、仕方なくモンゴルによる内蒙古併合を承認した。

 こうして、モンゴルは内モンゴルを併合したのだった。
 ちなみに、現代では内モンゴルの人口の大半は漢民族だが、この時代ではまだ内モンゴルに漢民族はあまり住んでいなかったのと、併合後に漢民族を強制退去させた事によってモンゴル人が多数派を占める事になった。



 早速日本帝国は様々な顧問を派遣して憲法の制定や学校建設など近代国家に不可欠や知識を授ける。モンゴル軍にも、日本帝国の兵器を供与して戦力を強化し、軍事顧問も派遣して近代軍としての規律や訓練を教え込む。
 この他にも、様々な近代国家となれるように支援をしていくが、あくまでモンゴルは独立国なので過度な干渉はせずに政権に任せた。併合して日本帝国領になるなら徹底的に開発するが、独立国として留まるなら日本帝国にそこまでの義理は無い。支援は続けるが、それを生かすも殺すも自由だ。

 様々な支援の引き換えに得た採掘権を使い、モンゴル国内の油田や鉱山開発を開始する。インフラなど言葉さえ存在しないので、採掘地周辺の鉄道網の構築や道路整備をして作業機械や作業員が活動しやすいようにした。
 ちなみに、ウランバートルなど首都近郊や都市部の鉄道網や道路網も支援の一貫として整備したが、あくまでモンゴル国内のみで日本帝国領であるシベリアと民間路線は繋げず、貨物路線のみ。シベリアはまだ三等国で外国人の入国を禁じているためだ。
 モンゴル政府の要請により、首都近郊や都市部の鉄道網や道路網の整備にはモンゴル人労働者を大量に雇用し、財政と技術力獲得に大いに貢献したが、採掘地の鉄道網や道路網は日本帝国のみで整備した。その方が早いのと日本帝国資本のみで開発したかったからだ。

 通商条約を調印して日本製品を輸入出来るようになったのは良いのだが、欧米向けの高級商品が貧しいモンゴル人に買える筈がないので、欧米には輸出しない格安商品を主に輸出する。
 格安とは言っても他国から見れば高級商品と言っても過言ではない品質を誇るので、もしもこれらの商品が他国に安価で大量に出回れば、その国の産業を破壊する事になりかねない。しかしモンゴルでは先ず産業自体が存在しないも同然なため、格安商品の販売もほとんど影響無かった。
 その後の国内産業が育つのかはモンゴル次第だ。

 このように、日本帝国による様々な支援でモンゴルは急速に発展していく。まだまだ人材の教育が済んでないので何もかもを日本帝国に頼りっきりだが、着実に近代化していった。
 未だ混迷するかつての宗主国よりは。









 イタリア・トルコ戦争勃発

 イタリアが経済的不況を打破すべくトルコ領のトリポリタニア(トリポリ)割譲を要求したが、トルコ側から色好い返事が貰えなかったので宣戦布告。
 イタリア軍による史上初の飛行船からの爆撃などがあり、イタリア軍の圧勝。イタリアはトリポリタニアに加え、フェザーン・キレナイカを獲得した。

 戦争自体に特筆すべきモノは無いのだが、戦争後の影響は大きかった。
 イタリア王国軍が陸海戦でオスマン軍を圧倒する様子は、オスマン帝国の支配下から脱したばかりのバルカン半島諸国に大きな勇気を与えた。「バルカンが結束すればオスマンに勝てるかも知れない」という希望が生まれたのだ。
 これがきっかけになってオスマン帝国に対抗するバルカン同盟が結成され、後に第一次バルカン戦争、第二次バルカンが起き、そして第一次世界大戦が引き起こされたのだった。









 日本帝国軍が史上初の水上機母艦、若宮を建造。

 史実の若宮は、日露戦争中に拿捕したイギリス商船を航空機の実験艦として水上機母艦に改装したが、日本帝国の若宮は初めから水上機母艦として建造された。大きさやトン数は史実の若宮と大差無いが、機関や設備は最新式(時代相応)になっているので性能は高い。
 ちなみに、横廠式ロ号甲型水上偵察機を搭載している。

 史上初の水上機母艦なのだが、他国の反応は微妙。まだまだ航空機のレベルは低く、機銃すら装備していない偵察機がほとんどなため、搭載量や航続距離の観点から見ればまだまだ飛行船の時代だ。
 他国も水上機母艦の開発はしているが、全て何かしらの艦艇を改装して水上機母艦の機能を付与しただけで、日本帝国のように1から水上機母艦として作る国は無い。
 航空機の地位はまだまだ低かった。








 日本帝国が世界初の商業用トーキー(有声)映画の上映を開始。

 史実ではトーキーが出てもしばらくは短編映画のみだったが、日本帝国は初めから長編映画の上映を開始した。
 そして他国より先んじてトーキー関連の特許を取得した。










「ICBMとSLBMがいよいよ完成したか!」

 待ちに待ったニュースの来訪に、北郷のテンションは原爆完成時並みに上がる。

「はい、両方とも発射実験に成功し、現在ICBMは北海道やシベリアに地下サイロを建設しています」

 地下サイロは普段発射口が閉じられ、発射口も土を被せて植物が植えられているので航空偵察では判別がつきにくい。しかし有事となれば即座に発射口が開いて弾道ミサイルの発射が可能になる。

「そうかそうか…。
 SLBMの配備はどうなったのだ? 戦略原潜は完成したのか?」
「越後級戦略原子力潜水艦も既に完成し、現在は何時でも攻撃出来るようにとアメリカ、ヨーロッパ付近の海域にて待機しています」
「成る程成る程…」

 越後級戦略原潜とは、ラファイエット級戦略原潜の事だ。
 北郷は上機嫌そうに頷きながら答える。何故ここまで上機嫌なのかと言うと、何時戦争に入っても対処出来る体制が整ったからだ。
 今までも原水爆が完成していたのだから、もし今すぐアメリカや世界中の国々と戦争になろうがまず間違いなく勝てただろう。しかし、弾道ミサイルが使えなかったので核攻撃の方法は戦闘機や爆撃機による投下のみ。
 確かに戦闘機や爆撃機による投下でも核攻撃は出来るのだが、それではどうしても時間がかかる。それに何より、あまりにも威力が強すぎる核弾頭だと投下した機体も巻き込まれる可能性があるため、制限が付いてしまう。
 それに引き換え、ICBMやSLBMならそんなリスクは無い。
何十何百もの核ミサイルをほぼ同時に打ち出せ、こちら側への被害など気にする必要は無い。
 コピー能力で幾らでも増やせる北郷にとっては、正に理想の兵器なのだ。



「核弾頭のMIRV化は進んでいるのか?」
「多弾頭核ミサイル開発は今のところは順調で、現在は水爆の小型化の研究を行なっています」

 多弾頭核ミサイルとは、弾道ミサイルの中に複数の核弾頭が入っているミサイルの事で、一つの弾頭ミサイルで複数の目標を攻撃出来るという画期的な兵器だ。

「再突入体の開発も順調なのか?」
「それだけが唯一ネックでして…。断熱層については問題無いのですが、精密誘導についてはまだ技術不足が否めません」

 再突入体とは弾道ミサイルの弾頭部を防護する機材の事で、大気圏外から再突入するに時にミサイルの弾頭部を空力加熱から保護する役目と、搭載された核弾頭を1発ずつ速度と方向を微妙にずらして軌道を変え、弾頭ごとに別の目標に向かわせる機能も併せ持つ。

「ふむ…まぁ技術不足は仕方ないだろう。集積回路がLSIに発展したとは言え、MIRVには更に発展したVLSIやULSIが必要になる。
 今は技術力の向上と核弾頭の小型化に専念するのだ」
「畏まりました」



 日本帝国は電子技術向上のために集積回路の更なる発展を目指す。
 他国は未だに真空管すらマトモに使えてないというのに、徐々に技術レベルは追い付きつつあるという、悲しい錯覚をしているのだった。


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