19 観賞用
1906年(皇紀369年)
史実ではカリフォルニア州議会にて日本移民の制限に関する決議案採択がされるのだが、海外に移民した旧日本人のほとんどは日本帝国に帰属して台湾に住んでいるため、議題に上がる事すら無かった。
まだ僅かにハワイやカリフォルニアには旧日本移民はいるにはいるのだが、あまりにも数が少ないので問題にならなかった。
アメリカ軍がキューバを占領
キューバは400年もの長きに渡ってスペインに支配されてきたが、1898年の米西戦争でアメリカが勝利した事によってスペインはキューバから撤退。アメリカによる4年の軍政を経て、1902年に遂に独立を果たした。
しかし、実際はアメリカの保護国も同然だった。
1901年のキューバ国憲法に盛り込まれたプラット修正条項には、アメリカの内政干渉権やグアンタナモ、バイア・オンダの2つの湾を租借し、アメリカ軍基地を置くなどが盛り込まれていた。更に、独立後からアメリカ資本が多数進出し、精糖産業などキューバにとって重要な資源産業を支配した。
せっかくスペインから独立を果たしたというのに、今度はアメリカの支配下となった事にキューバ国民の不満は積もり、そこに政治家の汚職や不正が度重なった結果、必然的に大規模な内乱が発生した。
しかし、皮肉にも独立を目指した内乱の結果、アメリカ軍がキューバに上陸して占領。アメリカ軍政下に逆戻りする事となった。
日本帝国が北極点到達を宣言
日本帝国軍北極探検隊が世界初、北極点に到達したと発表した。
日露戦争前なら、有色人種の国が未だ白人が成し得ていない北極点到達を信じなかっただろうが、前年に列強各国が「日本人は異世界人だから例外」と発表した事によって白人諸国も信じた。
そして、このニュースによって改めて「日本人は白人と同列の人種なのだ」と認識するようになってきたのだった。
サンフランシスコ地震が発生
マグニチュード7.8の大地震がサンフランシスコ、オレゴン、ロサンゼルス、ネバダの中部まで届いた。
特にサンフランシスコの被害が大きく、市内では充分な耐震強度を備えていなかった建造物の多くが倒壊し、少なくとも50ヶ所で火災が発生。更には水道管が破損していたため満足な消火活動を行えず、火災は3日間続いた。
しかし、災害は地震だけに留まらず、人災も降りかかって来た。
地震の混乱に乗じてサンフランシスコ市内では各地で略奪が横行、市民達は倒壊した商店から商品を次々と盗んでいく。これにサンフランシスコ市長は市内に出動する兵士と警察官に対し「略奪者はその場で射殺せよ」と命じる。勿論この命令は違法なのだが、市長が責任を問われる事は無かった。(実際に射殺された者はほとんどいなかった)
この大災害に多くの保険会社は「地震で倒壊した建造物には火災保険が適用されない」という条項を盾にして保険金の支払いを渋り、逆に市当局や産業界は被害のほとんどが地震ではなく火災によるもの(つまり天災ではなく人災)だとすることによって投資の落ち込みを避けようとしたが、西海岸の中心的都市の座がサンフランシスコからロサンゼルスに移ることは止めようがなかった。
日本帝国政府は被災したサンフランシスコ市に対して莫大な援助金を送った。
史実日本では更に在サンフランシスコ邦人に対しても援助金を送ったが、日本帝国政府は自分達が差し伸ばした手を拒絶した者達に援助金など送ろうともしなかった。
その日、北郷にとって原爆開発に匹敵する嬉しいニュースが舞い込んだ。
「偵察衛星の開発に目処がついたのか!?」
「はい、情報送信に必要なソーラーパネルや燃料電池の開発に成功しましたので、これで宇宙空間での長期稼働も可能となりました」
「そうかそうか、それは目出度い!」
北郷にとって、偵察衛星はある意味原爆より価値のある物だった。
原爆はどんなに劣勢な戦局も根底から覆す事が出来る最終兵器足る存在だが、その威力の高さからそうそう使う事は許されない伝家の宝刀。しかしその一方、偵察衛星に関しては存在が認知されない限りは最強の存在。例えどんなに厳重に秘匿しながら行軍や航行をしようとも、宇宙空間から見える限りは丸裸同然。
原爆は使用すれば誰の目にも一目瞭然だが、偵察衛星は少なくとも宇宙開発が始まる第二次大戦後までバレる心配は無い。技術レベルを露見したくない日本帝国にとって、これほど都合の良い物は無い。
「打ち上げは何時頃になるのだ?」
「現在組み立てや最終チェックを行なっていますので……遅くとも来年には1号機を打ち上げられる筈です」
「分かった。打ち上げ成功の暁には原爆の時同様に、開発チームに豪華な酒や食事は勿論の事、皇帝直筆の文を贈るのだ」
「ありがとうございます。これで開発チームの苦労も報われるでしょう」
開発チームの苦労を知っている戦略研究会メンバーは嬉しそうに頭を下げる。
皇帝(北郷)からの至上命令により、開発チームは原爆の時同様に1日でも早く開発出来るよう毎日早朝から深夜まで作業を続けていたのだ。そしてその様子を直接見ていた彼からして見れば、皇帝(北郷)からの労いは何よりも勝る事なのだ。
「また、偵察衛星に加え電子戦機や哨戒機、雲龍級空母の建造も完了しました」
「ほぉ、遂にジェット機運用が可能な空母が完成したか」
雲龍級空母とはキティ・ホーク級空母の事で、エセックス級空母の代替艦として千島の秘密軍港にて建造された。電子戦機はE-2Cホークアイの事で、哨戒機はP-3Cオライオンの事だ。
「雲龍級空母については現在慣熟航行中で、来年に就役する予定です」
「そうか……原潜開発はどうなったのだ?」
「原子力潜水艦につきましても、原子炉開発に成功しましたので順調です。現在1番艦を建造中です」
建造中の原潜とはパーミット級原潜の事で、まだハープーンは開発していないので武装は魚雷と対潜ミサイルのみ。
「他国はまだ実用的な潜水艦開発にすら成功していないが、第一次大戦となれば珍しい兵器では無くなる。それまでに性能や静粛性を上げて見つからないようにせねばならない」
「はっ、開発を急がせます」
潜水艦は水上艦と違い秘匿性が高いので、日本帝国軍にとっては使い勝手が良い兵器なのだ。特にソナーがまだ無いこの時代では好き勝手出来る。偵察衛星に近い存在だった。
「他の開発はどうなっている? そろそろ前の世界から開発しているミサイル艦艇が出来て来てもおかしくない筈だが?」
「はい、若竹級ミサイル駆逐艦と浪速級ミサイル巡洋艦の1番艦は間もなく完成します」
若竹級ミサイル駆逐艦とはチャールズ・F・アダムズ級ミサイル駆逐艦の事で、浪速級ミサイル巡洋艦とはリーヒ級ミサイル巡洋艦の事だ。
両艦とも前の世界の時から研究・開発をしていたのだが、電子技術などがまだまだ未熟だったので建造が遅れていた。
「それは良かった。ジェット機運用の空母を守るのが砲戦や水雷戦を想定した水上艦では流石に不味いからな」
若竹級や浪速級が出来るまでは旧式艦艇を改装して使っていたが、流石に古過ぎるとして用兵側からも不満が上がっていた。――最も、この時代で考えれば最新鋭艦と言っても差し支えが無いのだが。
「ハープーンやトマホーク、VLS、CIWSはどうなっている?」
「流石にまだ……ハープーンにつきましては進んでいますが、トマホークやVLS、CIWSは全然進んでいません」
「まぁ…まだ技術力が足りないのだから仕方ないだろう。
しかしハープーン開発は急ぐのだ。ハープーンが完成すれば様々な艦艇な哨戒機にも搭載出来、攻撃力は飛躍的に上がる」
「畏まりました」
こうして、日本帝国軍の兵器技術はベトナム戦争時に突入した。他国では未だにカ級(弩級)戦艦建造に必死だというのに……。
「秘匿艦艇の開発状況は分かった。では表向きの主力たる戦艦建造はどうなっているのだ?」
「金剛級巡洋戦艦5隻の建造を予定しており、4年後の1910年には1番艦金剛が完成する見込みです」
他国ではカ級戦艦の建造必死なのだが、日本帝国軍は表向きであっても既に超弩級戦艦を建造していた。
「うむ、秘匿艦艇から見れば良い的でしかないが、この世界の常識では戦艦は国の顔だ。
それに、第一次大戦にも参加するのだからまた日露戦同様の訓練が必要になる」
「はい、それに加えユトランド沖海戦に備えて水平甲板面の防御強化や砲の仰角向上も設計に組み込みました」
史実と違い、日露戦争時に日本帝国軍が長距離砲撃を行なっているため、観戦武官を派遣した各国はその戦訓を本国に伝えていた。
「十分な防御体制を整えるのだ。どうせ第一次大戦が終われば旧式艦艇に意味は無くなる」
史実日本に比べれば遥かに強化されているとは言え、超大国アメリカに表向きの艦隊や兵器で挑む気は北郷には毛頭無かった。第一次大戦が終われば表向きの艦艇はあくまで国威を見せつけるための観賞用でしか無く、太平洋戦争が始まった時点で除籍となるのだ。
「戦艦の他にも新型防護巡洋艦や駆逐艦の建造、駆逐艦へのソナーや爆雷の搭載などを進めています」
本当なら更にレーダーも搭載したいのだが、流石に第一次大戦にレーダーは目立つので不可能だった。
「順調だな。まだ第一次大戦の気配は薄いが、バルカン戦争が始まれば濃厚になる。それまでに戦力を整えるのだ」
「畏まりました。
…旧式戦艦の改装はいかがなさいますか?」
「そうだな……最早前弩級戦艦にあまり価値は無いが、第一次大戦までは現役で使われる事が多い筈だ。大改装を施して弩級戦艦に近付けよ。
戦力としては期待出来ないが一応戦艦としてカウント出来るし、領海警備には使える」
現在表向きの日本帝国軍が保有している弩級戦艦は河内級5隻のみなのだが、流石に5隻だけでは列強諸国に侮られる。なので香取級5隻と薩摩級5隻を加えれば書類上では戦艦15隻を保有と記せる。戦力にはあまりならないが、数字としてなら戦艦にカウント出来た。それに、日露戦争によって広まった領海を哨戒するためには旧式でも戦艦が必要なのだ。
しかしこれは日本帝国から見た事で、他国から見れば香取級や薩摩級は十分戦力として期待出来た。従来の前弩級艦と違い、両艦とも強力な中間砲を有しているので現時点でも準弩級艦と言えなくも無く、機関をレシプロからタービンに改装さえすれば立派な準弩級艦と言えるだろう。
こうして、表向きの戦力についての確認も終わった。
表向きの戦力だけで十分列強の上位に君臨していると言っても過言では無いのだが、日本帝国から見れば観賞用でしかなかった。
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