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【シンポジウム】

ワークシェアリングは働きやすい社会を可能にするか

【第1セッション】 オランダの挑戦と日本の試み



 ■生産者から消費者中心の産業システムを■

 ウォルフレン 私の2分の提案ですが、一部は、先ほど申し上げたことの繰り返しになってしまいます。まとめということでお話ししたいと思いますが、私の提案とは、このワークシェアリングを孤立した感じで見ることはしないでいただきたいということです。それだけを見て、他のことを全部忘れてしまうということではないと思います。他の方も同じ意見だと思います。

 龍井さんが言われた「産業民主主義」ですが、まさしくそうだと思います。「産業民主主義」とは、日本が目指すべきものだと思います。可能だと思います。しかし、多くの人たちが焦点を当てていないという現実もそこには生じます。すなわち、日本の産業制度は生産者中心のものです。現在も、生産者が中心の構造です。いろいろな仕組み、日本が繁栄する経済となる仕組みとは、すべて生産者のためにどのようにうまく生かせるかが主眼になりました。1945年以降、非常にこれはうまくいき、「日本の奇跡」を作り上げ、そして世界は大喝采したわけです。

 当然それは、それに値することをやってこられたわけですが、しかし、問題にも立ち至っています。成功がゆえの問題となったということです。なぜ問題になったか。国内の消費者を無視してしまったところがあるからです。ですから、国内の消費者が、ある意味では、アメリカの消費者が日本の製品を買うことに補助金を出しているような奇妙な状況になってしまっています。

 そして、多くの日本人が持っているドルがアメリカ経済の中で流通し、そして、日本に持って帰ってきて、非常に複雑な話ですが、投資に使うようなこともできないということで、アメリカ経済の中で流通しているのです。

 つまり、経済全体、社会全体を消費者中心のものにしていくこと、これは生産者にとっても健全なことになるでしょうし、必要なことでしょう。長期的に見れば、日本の生産者には消費者中心の社会が必要なのです。そうなると、現在は少ない内需が立ち上がってくる所に、結びついてくるようになってきます。

 そして、もう1つの問題も解決していくと思います。大國さんが言われたことは人口が少なくなってきているという点です。いわゆる「出産スト」という言葉をよく耳にします。その1つの原因は、消費者つまり主婦が「自分たちは面倒を見てもらっていない」という気持ちを強く持っているから、この「出産スト」になっていくわけです。私は、幾つかの本でこのテーマについてお話しし、そして解決策も述べています。

 ですから、このワークシェアリングだけで見るのではなく、もっと広い視点で見て、そして前進的に生産者中心の産業システムから消費者中心のものへ移行することも考えることです。

 工場を維持していくことはもちろん重要でしょう。大國さんが言われたように、日本の生産者にとって製造業は特別なものであって、それは温存していかなければならないでしょう。しかし、価値を高めて、中国や他の国と賃金だけで競争するような所から脱却していかなければならないと思います。

 私は、アメリカやヨーロッパ人に対して、経済についてかなり批判します。そして、製造業を無視してきたのが、まさにアメリカとヨーロッパだと思います。ですから、原則で言えば日本は間違ったことをしたわけではありません。しかし、このシステムの中で志向を変えていくということです。

 消費者の方に、もっと注目を与えるようなものにしていく。そうなると、現在は存在しないようなサービス業も育ってくると思います。

 【質疑応答】

 竹信 ありがとうございました。構造そのものを大きく変えるという所に行き着いてしまうのかもしれませんが、ここでご質問がかなり出そろいましたので、お四方に聞いていきたいと思います。結構多かったのは、ウォルフレンさんにですが、テクニカルな質問かと思いますが、「教育やケアで非常に悪い結果があったということ」について、一体どういう結果があったのかということですが、いかがでしょうか。

 ■教師不足で休校や手術待ちの事態も■

 ウォルフレン 教師や介護をしている人たちが、その職場に対して意識が変わったことに由来し、こういう人たちの職業に対しての基本的な態度、姿勢が変わってしまったということです。たくさんのパートタイムの教師が誕生いたしました。しかし、それと同時に、教師不足の問題も出てきました。

 私は、実は小学校または中高生の子どもたちを持っている友人から聞いたのですが、子どもたちは教師が学校にいないので、2、3日学校を休まざるを得ない状況にあるということです。

 また、病院の状況はもう大スキャンダルなんですね。患者はもう長い待ち時間を、例えば、手術1つ受けるにしても甘受しなければならないということです。生命の危機にあるような状況、つまり速やかに手術して救命しなければいけないのに、それができないということも出てきています。目の手術に半年、1年待つのはかなり普通のことになってきてしまいました。これはもう本当に論外なことだと私は考えています。

 10年ほど前と比べたら、これは全く新しい1つの展開になっています。だからこそ、オランダの有権者は、現在の連立政権に対して怒りを感じています。そして、このワークシェアリングの実験が一部の原因となって、十分にマイナスの問題が出得ることについての配慮がなかったことに結びついています。

 竹信 ワークシェアリングだけということよりは、むしろいろいろな要因と言いますか、どうやってやる気を起こさせるかという問題も含んでいるようで、なかなか難しい問題だと思います。それこそ、いかに意欲を保ちつつ短時間労働を導入していくかは、これから日本社会でも考えていかなければならないテーマだと思いますが、他にも幾つか、他の方々へのご質問です。

 久場さんに、これはいい質問ですが、「日本でのワークシェアリングで経済はよくなるのか」というご質問と、「個人単位化すると、大企業が家族に行ってきた社会保障は当然公的なものに回っていくから、増税になると思うが、減税という主張は反対ではないか」というご質問ですが、いかがでしょうか。

 久場 そうですね、しかしそれはどのような政策・制度をとるかということで、そのような結果になるとは思っていません。企業内福祉を見直さなければいけないというのは、私は正論だと思います。

 個別企業が企業内で社員に対して様々な福祉をするということではなく、ましてや非常に幅広いサービスに関わる部分は、私は個別企業から離して、もっと社会全体あるいは政府の責任できっちり行うことを考えるべきで、結果としては減税ではなく増税になるじゃないかということが出てくることもないとは言えませんけれども。どのようなサービスが返ってくるか、それによって私たちがどういうセーフティーネットを張れるか、コストとベネフィットの関係ですから、まず仕組みをそちらの方へ変えることが基本的には大事ではないかと思っています。

 竹信 ウォルフレンさんが生産者から消費者へのシフトと言われましたが、公的資金の回し方、配分の仕方も変えればいいのではないかというご意見でよろしいでしょうか。

 九場 はい。

 竹信 分かりました。大國さんに対して、これは若い方でしょうけれども、「20代・30代の人たちには忠誠心は80%ないと言っても過言ではないと思います、何の根拠をもって日本には愛社精神・忠誠心があるとおっしゃるのでしょうか」といったようなご質問ですけれども、それについてはどうお答えになりますか。

 ■愛社精神とは「自分の仕事に愛着を持つこと」■

 大國 愛社精神とは、何も社長を愛してくれとか、そういうわけではございません。自分の仕事に愛着を持ってもらう。そうしなければ8時間、今、残業とか何とか盛んに言っておられますけれども、非常に長い時間、会社にいるんですね。しかも一生。私は長期雇用、60歳定年までということを普通に考えているのですが、これから変わるかもしれませんが、1日のうちの寝る時間を除いたら、やはり大きな時間なんですね。その時間を嫌だ嫌だと思って働くようなことでは、本人は不幸だと思うんです。

 ライフスタイルの全体から見ましても、やはりそこで一生懸命やれるような仕事を自分自身で考え出すこと、上司もそれを助長することが、いわゆる言葉で言うと忠誠心というのはちょっと昔の軍隊みたいな感じでよくありませんけれども、やはり大事なことだと思います。生きがいを感じてもらうのが、イコール忠誠心と考えていますので、今の20代、30代の人が嫌で嫌でしようがない、とは私は見ていません。

 竹信 多分、おっしゃりたいことは、会社への忠誠心のことを言っているのではなく、仕事への愛着、仕事への忠誠心ということだなと、今のお話を伺って思いました。でも、それはかなり実は違うことかもしれませんよね。ひょっとすると。

 大國 それは誤解でも結構なんですよ。自分の仕事を一生懸命やる気になったら、 それで会社はいいんです。 <

 竹信 なるほど。そういう方向の忠誠心というものをこれからどうやってもっと引っ張り出すか、こういうご趣旨かなと思います。それ以外に、龍井さんにですが、これはサービス残業の問題についてちょっと個別のご質問です。「厚生労働省から通達が出ているのだけれども、実態はかなり悪いのではないか。こういった問題についてどうお考えになっているのか、問題意識をお話しして欲しい」というご質問です。

 ■裁量労働の生産性をどう判断するか■

 龍井 今の2番目の話題、大國さんのご指摘の点と重なると思っているのは、先ほど私がオーバータイムワークと申し上げました。これが結局、仕事に裁量労働権がある人、裁量労働者の場合ですが、仕事へののめり方の問題と、いわゆる組織の一員・メンバーシップである、つまりそれが外れた場合にはメンバーシップではなくなるという境目がとても難しいのです。自発的か非自発的か、ここは自発か強制か。結局、このところが時間当たり生産性の問題にも重なってきて、そういうオーバータイムワーカーが本当に生産的かという議論があり、時短をしたことで生産的だったというデータもあるのです。

 そうなると、そのときに大國さんの言われたことは多分、2種類に分かれていって、そういうメンバーシップであることと、そうではなくまさに仕事、片方ではホワイトカラーの場合には「成果・業績」という言葉が使われるわけですけれども、そこはまさに仕事の尺度になる。そこの所がないまぜになっていることが、先ほどオランダの組合の人から指摘されて答えに窮したと申し上げたのはそこの所です。結局、方針は出していますし、そういう春季生活闘争を通じた取り組みも指導もやっているのだけれども、結果的にそこが排除できずにいる。

 これは、我々自身が本当に厚生労働省に監督・指導をさせるだけではなく、我々自身が何とかこの問題に手をつけなければいけない。それが先ほど申し上げた、今いる典型労働者と非典型労働者の尺度を変えていくということなので、ここはご指摘の通り、すぐ来年からということにはなかなか確信が持てないのですけれども、これはもうワークシェアリングの議論の「ワークシェアリング以前の前提条件」になるという認識で、労働時間短縮はもう10年言い続けてきましたが、むしろここに焦点を当てて連合としてはやっていきたいと、その決意だけ申し上げておきたいと思います。

 竹信 どうしてもサービス残業してしまうという働き方の問題について、久場さんは世帯主義ということを先ほど問題にされていましたが、お父さんが家族全体を養わなければいけないということと、先ほどのジェンダー、男女の問題の関係で、どのような改善が可能かとお思いになりますか。

 久場 世帯主義は制度としては残っていますけれども、実態においてはオランダは率で比べれば結構いい線をいっているから、同じくらいに女性は世帯の中に入り込んだままではなくて、働いているのですね。ところが、女性の働き方が家計補助的と言われる働き方で、一人前の働き手にはなれない。

 それがもうずっと、先ほど「失われた20年」と申しましたけれども、そういう形で続いてきているわけで、それを社会保障にしても雇用政策にしても、世帯主義の制度そのものを見直す方向に今変える所に来ていると思いますし、実際にそういう議論がもう始まっているわけですね。ですから、それをしっかり進めていく。

 ただし、そのときに、先ほど申しましたように家庭責任を女性だけではなくて、すべてが持ち合えるような、そのベンチマークをしっかりつけていくことだと思います。

 竹信 それに関連してご質問があります。「現在の専業主婦はワークシェアリングを導入すれば働けるのか」というご質問ですが、簡単にお答えいただけますか。

 久場 ワークシェアリングをすれば働けるかという問題は、社会全体で見て、様々なミスマッチの問題も出てくるでしょうけれども、男性が労働時間を短縮して、その空いた部分にあまり技能のない女性がすぐに入って役に立つかとか、ミスマッチのいろいろな問題があろうかと思います。しかし、そういった可能性が全然ないわけではないです。つまり、男性の労働時間を短縮しながら、龍井さんが言われた第一番目のアンバランスをなくしながら女性が出ていくことを考えるのが大事だと思います。

 竹信 そうすれば可能であるということですね。

 久場 はい。私は可能だと思います。

 竹信 ウォルフレンさんに、これもかなりテクニカルな話ですが、オランダの事情についてです。「ワークシェアリングを導入するに当たって、オランダではどのような人事制度の変化や評価の変化が起こったのか」。これは、先ほどの評価制度の問題に絡んできますが、それについてはいかがですか。





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