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【シンポジウム】

ワークシェアリングは働きやすい社会を可能にするか

【第1セッション】 オランダの挑戦と日本の試み



 ■「世界最強の工場」でなく、新しいサービス産業を■

 ウォルフレン そうですね、2つの点についてコメントしたいと思います。大國さんがおっしゃった点です。私は大國さんのおっしゃることに非常に高い関心を持っています。と言いますのも、かなり合意ができる部分があるのです。しかし、ある特殊な視点で私は見ています。日本の生活水準と言われましたが、おっしゃる通りだと思います。日本では、もしかしたら自分たちは生活水準が実際よりも低いと思いがちだという事実があります。

 1カ月ほど前、私、ロサンゼルスのカリフォルニア州立大学に行き、米国の経済状況や日本の経済状況についてお話ししました。そのディスカッションの中で、ある人が言いました。「日本の生活水準はもしかしたら、アメリカの形の生活様式よりも望ましいものなのかもしれない」と。

 いろいろ意見はあるかもしれませんが、これも1つの真実であると思います。つまり、経済の不安がない状況が日本にはあるということです。例えば、アメリカの非常に貧しい人たちは、日本で数少ない本当に貧しい人たちよりも、より悲惨な生活を強いられてしまっている事実があります。こういう点はさらに考えていかなければならないのではないかと思います。

 そしてもう1つのコメントですが、大國さんが言われました。「巨大な国が隣にあって、賃金がはるかに低い、だからこそ日本の賃金は上げることができない。またはある程度一定のレベルに維持しなければならない」と。これは大変重要なポイントです。

 と言いますのも、日本は産業構造には、ある意味ではこの隣国と競争するようなものを作り上げていかなければならない、という思考があると思うんです。これは、官僚の多くの人たちの念頭にもある考え方ですし、日経連や実業界の官僚機構の中にもある考え方です。「日本は世界最強の工場でなければならない」という考え方です。

 これは、1945年の戦後ずっと持ってきた考え方であり、これこそが製造の超大国に日本がなったゆえんでもあったわけです。もし、日本が世界で最強の工場という立場を保つということであれば、中国タイプの賃金を将来支払わなくてはなりません。と言いますのは、賃金が競争の中心的なポイントになるからです。

 しかし、それは必要なことだとは思いません。というのも、日本が最強の製造大国として、引き続きやっていかなければならない理由もないと私は思います。

 久場さんの方が、その点ではいいアイデアを出されたと思うのです。「新しいサービス産業について考えようではないか」と言われました。そして、「現在、焦点が当てられていないような新しい思考を持とう」と言われました。私がまさに言いたいのは、その再考です。つまり、この社会産業システムを抜本的に見直すという提案なのです。

 政府の高官たちは、より広い視点を持つことが重要だと思います。もっと想像力を持って、もっと新しいサービス産業の余地を作っていくことです。

 その点について、労働者の柔軟性、例えば、ワークシェアリングというようなものは、ある意味では、「オランダモデルが正しいモデル」と言うのであれば、かなり労働者の柔軟性を作り出すということなので、その面では大変に役に立つものになり得ると考えています。

 竹信 つまり、産業構造の方から考えていかなければいけない部分が、随分あるだろうということだと思いますが、さて、かなり時間もたってきてしまったのですが、まだ、労働を分け合うに当たっては、短時間労働者の価値をどうするかという問題、どのようにそれをルール化していくかという問題が残っていると思います。大國さん、その点についてはいかがですか。短時間労働者の価値はどのように測り、これから経営者としてはどうしていったらいいだろうと思っておられるのでしょうか。

 ■外国人規制を見直し、新産業の育成を■

 大國 いろいろな産業がありますので、全部を知っているわけではありませんし、私は1つの装置産業で育ったので、その範囲からなかなか頭の中が出ていくことが難しいのですが、非常に努力をして外に出たとしますと、やはり、私どものやっている装置産業というのは、少なくとも現時点で日本を支えている1つだという自負を持っています。

 先ほど、ウォルフレンさんが「柔軟に考えなさい」と言われたのですが、付けたばかりの設備は40年も50年も持つのです。従業員もエクセレントなトレーニングをされています。これによって何とか持ちこたえるということだけはやれる。これも、日本を支えている1つだと思っていますが、それを支えているのは従業員の忠誠心です。そういうことで、生産性がまず世界の中で絶対に負けない第一位の生産性、ただし賃金だけは高いということです。

 それで、今どういうふうに日本をこれから持っていくのか、そういう製造業がどう変わるのかについては、悩みながら、あるいは高付加価値のものを作っていくのか。そういうようないろいろな努力をしながら進んでいくわけですが、何といっても日本の製造業、どの分野でも間違いなくロイヤルティー(忠誠心)が何が何でも世界最高の効率をどの産業も多分維持していると思います。

 これは忠誠心によるもの、もちろん設備投資その他もありますが、それがすなわち生産性というものにつながっているということで、これをやめてさっさと他のものになるということは、日本の貿易黒字を稼げなくなるということもありますし、また、プライドもあるということもありますから、そう簡単ではない。しかし、変わっていかなければいけないことも確かである。そういうことで、時間をある程度かけながら、あるいは、時間を一生懸命詰めながら努力して、サービス産業に日本全体が変わっていくという方向に持っていくのが、日本の産業全体のあり方だろうと思います。

 もちろん、今、ウォルフレンさんが言われたような小さな視野だけで、私どもの製造業なら製造業の問題だけを考えているわけではなく、全体を考えても、日本はもっとサービス産業の分野でしかるべき大きさ、いろいろな女性も働けるような「ダイバーシティー」の問題、あるいは外国人労働者、現在は高度な熟練の技術のある労働者しか入国が許されませんが、そういうことも考え直して、日本のいろいろな産業の可能性を引き出していくことがこれからの、私どもはもちろんですが、ここにおいでの皆さん方の責務ではないかと思っています。お答えになったかどうか分かりませんが。

 竹信 時間がかかるということだと思いますが。久場さん、短時間労働者を日本でちゃんとやっていくためにはどんな条件、何が必要だとお考えでしょうか。

 ■日本は改革に時間をかけすぎだ■

 久場 大國さんが言われることも分かるのですが、やはり製造業の大企業の正社員中心の、忠誠心をちゃんと持てばそれに見返りがぼんとあって、妻も子供も潤えるような、かつての働き方が日本の経済を支えたのは十分分かりますが、それは他ならぬ、同じような仕事をしても全然報われない、全く身分が違うというふうに位置づけられていた女性パートタイム労働者を作っている、それと裏腹になっているんですよ。

 ですから、やはりそこは見直す所に今、来ている。それから、「時間をかけなければ」と言われたことについても一言。私はオランダの経験を見て学ばなければならなかったことの1つは、日本は時間をかけ過ぎたということです。「失われた20年ではないか」とさえ思っています。

 既に、1985年の雇用機会均等法を作ったときに、女性も雇用の場に男性と同じ均等な条件で出ていくのだということが決まったわけですよね。これから高齢社会に入ると、高齢社会を支える稼ぎ手も必要だと、これも分かっていた。あのときから、働き方、生き方、ライフスタイルを真剣に考える必要があったと思うんですね。それがずっと先送り。バブルが来ましたから、もう一丸となって「まず賃金を」という話になってしまった。労働組合もそれに乗ってしまった。そう思うと、今逃したら、それこそ後がない。大企業中心の、今までの忠誠心で報われたシステムがもたない。もうもっていない、と私は考えています。

 竹信 今のうちに方向性はここで決めて走るべきだということですね。龍井さん、時間も足りなくなってきましたが、ちょっとだけ、短時間労働者の問題も含めてどのようにお考えになっているかということですが。

 龍井 私は、例えばこれが別の例だと、男女の賃金格差も言えると思うんです。スタンダードがそもそも、今、久場さんがご指摘のように、先ほど私が申し上げた無理な働き方、フルタイムではなくオーバータイムワークであることを基準にして計るのはもう多分通用しないだろう。ですから、今の典型が実は典型ではないのです。職場によっては「基幹パート」と言われていますように、若い正社員1人が店長で、後はみんな非典型という職場はごろごろあります。そういう所で基準を新たに作っていく。

 ですから、職場の中で同じ仕事をして均等処遇をするという面と、それから、先ほど申し上げた絶対必要な水準、これは「均等というバランスの問題」と「絶対これが必要という面」と両方から尺度を作っていかなければいけなくて、その物差しそのものを作らなければいけない。

 その場合、やはりキーになるのが、ウォルフレンさんは「柔軟性」と言われましたが、日本の労働者は十分に柔軟なのです。ただし、それは企業の中の話。一歩出ると、尺度もない、何もない、ルールもない。ですから、それがこの壁を壊す作業とここもセットなのですね。ですから、私が先ほど言った「社会合意」とは、その回路を作ること。これはヨーロッパにない、一番求められているインフラだと思っています。

 竹信 ここで私は皆様お一方ずつ、最初3分と言ったのですが2分、今の話を受けまして、これが決め撃ち、ワークシェアリングで先ほど言った合意はもうできていますから、その目標のために何が必要かをお一人ずつ話していただきたいと思います。ウォルフレンさんは一番最後でよろしいですか。では、龍井さんからお願いします。

 ■「同床異夢」なので、合意形成が不可欠■

 龍井 問題は、ワークシェアリングのイメージがまだ定まっていないことです。「個別企業で導入することを考えておられる方」と、「社会的な仕組みづくりが必要と考えておられる方」と、むしろ、「働き方と暮らし方のアンバランスを考えている方」と、多分それぞれおられて大変だと思います。これは何を実現するかというと、私は「3つのアンバランス」という問題提起をしましたが、それをそれぞれの場でまず何が必要かという問題提起として受け止めて欲しいのです。

 つまり、どこかが何かで政労使で合意しました、これがワークシェアリングです、ですから導入しましょうとか、入れましょう、ではなくて、この「3つのアンバランス」をそれぞれ抱えている所でどうやって手がけていくか。私はその合意の積み上げが必要だと思います。冒頭に申し上げたように、どうやって実現するかというプロセスが一律であったり、どういう形でやるかは何の意味もないのです。

 私はある種の「産業民主主義」と言うか、地域や家庭も含めた民主主義と言うか、そういう合意形成システムを作っていく、そのシステムにかかっていると思います。一言で言うとそういうことです。

 竹信 久場さん、いかがでしょうか。

 久場 こういう所からまず作っていったら、ワークシェアリングを始めていったらどうだろうかと考えてみますと、私はまず2つあるのではないかと思っています。ワークシェアリング。すなわち「時間によって様々な権利が比例的に認められた正規の短時間労働」というものを日本で作っていく。こういうことに、一番入りやすそうな所、あるいは入れる必要が今生まれている所、この2つがあるのではないか。

 まず第1に入りやすそうな所は、これはもう既に正社員である人たちの中に、「自分はボランティア休暇が欲しい」とか「再教育のために大学に戻りたいから」とか、いろいろな休暇制度を充実させるという形で、短時間労働を入れていく。すなわち、育児休業後の男女のペアレントが短時間労働を利用するということも含めて、正規労働者の中に短時間をある時期選んで、また元に戻るという、それはすごく入りやすいのではないか。

 もう1つは、ウォルフレンさんが指摘されている中で重要な点だと思いましたのは、オランダでいろいろやってみて、教育部門やヘルスケアの部門に大変テンポラリーな、フレキシブルなものを入れると、いろいろ問題が出てくる、これはまた大変重要な問題で、私はホームヘルパーさんとか介護、教育、保育、そういう所にサービス経済化ではありますが、まず第一、公的な視点をしっかり入れた公共的な短時間のサービス職を入れていく、それは大変ニーズにもかなうし、働き手もいる。今なら間に合うという感じで、その2つの領域でワークシェアリングを始めたらどうかと思っています。

 竹信 分かりました。ありがとうございました。大國さん、いかがですか。

 ■育児と両立できる勤務形態を■

 大國 ワークシェアリングとは大変いろいろな分野にまたがるものですから、一々これもこれもというのではなく、今、まず最初というお話ですから申し上げますと、まず、いろいろな意識を喚起する運動に入ることが一番最初だと思いますね。

 そういうのを、「うまずたゆまず」と最初に申し上げましたが、そういう努力をすること、これはワークシェアリングというはっきりしたものばかりではなく、先ほど申し上げましたような「ダイバーシティー」についても、これからそうなっていくんだよということを、事あるごとに、特にここは朝日新聞でございますから、その武器を使ってどんどんやっていただきたいと思います。

 それからもう1つは、久場さんも言われたのですが、女性の問題がやはりまだ同列に並んでいない分野が非常に多い。特に、私どもから見て一番よく分かるのは、出産とか育児に対して女性が会社を休むことが非常に難しい。また、戻ってくるということでもなかなか、当社の例ではなかなか戻ってこないのですが、育児も会社に来ながら、あるいは時間も半分でというような、そういう勤め方が当たり前になるような、それにはまず保育所は昨年、いろいろな運動の結果、やや手広くやれるようになりました。それまでは公務員でなければできなかったわけです。それで午後6時には締め切りですから、もうだれも預けられないというのが実態だったのですが、それがようやく少しは広がってきた。こういうものをもっともっと大きくする。

 あるいは病院。小児科がもう既に足りない。それから、大体、子供が病気になるのは土曜・日曜なんですね。そこは必ず閉まっているんです。

 そういうことがないようなことを国としても力を入れてやらなければ、日本の人口はもうなくなってしまうと本気になって考えなければいけないと思います。先ほど、公共的なサービスのお話も久場さんがされましたが、公共ばかりでなく、民間でもそういうことが企業として成り立つようなことだって考え得るのではないかと思います。そういう、まずやれそうな所はそこら辺ではないかと思います。

 竹信 ありがとうございました。ウォルフレンさん、お待たせしました。いかがですか。これまでの議論をお聞きになってどのようなことが必要かという提言ですが。





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