司会 それでは、ただいまより第1セッション「オランダの挑戦と日本の試み」を始めます。まずは、本日お招きいたしましたパネリストの皆様とコーディネーターに登場いただきます。皆様大きな拍手でお迎えくださいませ。
それでは、パネリストの皆様をご紹介してまいります。アムステルダム大学教授、カレル・ヴァン・ウォルフレンさん。王子製紙会長、大國昌彦さん。龍谷大学教授、久場嬉子さん。連合総合労働局長、龍井葉二さん。コーディネーターは朝日新聞企画報道室の竹信三恵子でございます。
この後の進行は竹信さんにお願い致します。どうぞよろしくお願い致します。
竹信 皆さん、竹信でございます。最近、日本ではワークシェアリングが非常に話題になっています。失業率が5%を超えてしまったとか、いろいろと問題点が起きてきて、仕事をみんなで分け合って雇用を増やすにはどうしたらいいかということで、つい先日、3月の末でしたでしょうか、政労使で基本合意ができまして、ここでは「生活のゆとり」とか「家事と仕事の両立」、それから「短時間労働化した場合の効率化をどうするか」とか、「少子化対策としても必要なのではないか」、それから雇用の不均衡、働き過ぎとか仕事が足りないとか、女性は家事ばかり、男性は仕事ばかりと、こういう「労働の不均衡を調整するためにもワークシェアリングは必要ではないか」という幾つかのポイントで方向性が基本合意されました。
そのときの主なモデルといいますか、基本的なモデルになったのがオランダのワークシェアリング、「ボルダーモデル」と言われていますオランダのワークシェアリングではないかと私は思っています。今日は、「ボルダーモデル」(オランダ型ワークシェアリング)を中心にして、日本でどのようなワークシェアリングが可能か、やる場合にどのような問題点が出てきて、どうすればいいのかという問題についてパネリストの皆さんにお話しいただくことに致します。
これは第1セッションですが、第2セッションもありまして、この第1セッションでは、ワークシェアリングに何が必要かを話し合います。第2セッションでは、それを可能にする枠組みと言いますか、社会的なシステムとは何であるかについて、別のお四方の素晴らしいパネリストをお迎えしてお話をいただくことになっております。これはセットですので、途中からお帰りにならずに最後までお聞きいただくことがいいかと思います。
また、2時ごろになりますと質問用紙をお配りしますので、第1セッションにつきましてのご質問は、そこでお受けいたします。残り30分かそこらでご質問について皆様にお答えいただくという方式で考えておりますので、質問用紙、どうぞお書きになってお渡しくださいませ。
さて、今日はワークシェアリング、「オランダ型」ということですけれども、この「オランダ型ワークシェアリング」とは何かを簡単に申し上げておきます。賃金を抑制するという約束を政労使でオランダはやるわけです。その後にパートタイマー(短時間労働者)の差別をなくして、この人たちが短い労働時間でも働きやすいようにする。そういう枠組みを作ることによって、女性や高齢者の方々も労働市場に参加しやすくなったということです。
そうしますと、賃金は抑制されたにもかかわらず、例えば、女性が働きに出ることによって、世帯収入が上がる家庭が増えて可処分所得も増える、こういう形で経済が活性化して、何とか苦境から脱出した、これが「オランダモデル」だと日本では解釈されているわけです。
今日は、オランダのアムステルダム大学教授のカレル・ヴァン・ウォルフレンさんに、その「オランダモデル」についてのお話をまず最初にしていただくのですが、その際に、ウォルフレンさんはオランダの苦境から脱出した後の最新状況を、オランダにお帰りになって見てこられている。
ウォルフレンさんはもともと、皆さんご存じのように日本の政治状況とか日本の社会状況について非常に鋭い批判を浴びせられた方で、一部には「日本バッシャー」であるとかと言われている方ですけれども、その方がオランダにお帰りになって、「オランダモデル」と言われているものの最新状況を見てきてどうなのかを、今日お話ししていただくということでは、ほやほやの情報です。日本にも詳しいので、そうしたオランダの状況が日本にどのように影響してくるかを、じかで聞けるという貴重な機会だと思います。
まず最初に15分という非常に短い時間で、「これが基調報告か」と驚かれておられましたけれども、何しろ短時間労働で生産性を上げるというワークシェアリングの試みでございますので、ぜひ、そのことでご協力いただきたいと思います。では、ウォルフレンさん、お願い致します。
■冒頭発言■ カレル・ヴァン・ウォルフレン氏
「女性の社会進出と起業家精神向上はプラス」
ウォルフレン 皆様、こんにちは。私、この場をいただきましてお話しできますことを大変にうれしく思います。私は、ほかのパネリストと比べますと、オランダから来ておりますので、時間をより長くいただいておりまして光栄ではございますけれども、しかしながら総体的に複雑な問題について、この時間の中でお話しすることは大変に難しいことだと思います。
早速お話に入りまして、プラス面、マイナス面についてお話ししたいと思います。このワークシェアリングのオランダへの導入の事例について、もう導入されまして10年以上たっていますので、プラスの点、マイナスの点についてからお話しします。
プラスの点ですが、まさにこれは最も重要な1つの仕組みとなりまして、女性がオランダの労働力の中に参入を高めてまいりました。日本では「ワークシェアリング」と呼ばれています、この制度がオランダで導入されます前、オランダの女性は英国や米国の女性とは違っていました。つまり、フルタイムの形で労働力の就労者としては見られていなかったわけです。常に、やや抑制されていたということです。
日本と状況は違うわけですが、オランダの女性は完全な形では雇用されていませんでした。雇用されたとしても、いろいろな事情があり、自ら完全な形でそこに入ることができなかったのです。そこで、派遣会社が潤滑剤のようになりました。需給の間を取り持つ役割を果たしてきました。そして、労働市場に女性が参入する上でプラスになりました。
もう1つの重要なワークシェアリングの結果とは、起業家精神が中小企業の中で非常に刺激されてきたということです。多くの従業員は選択肢を与えられました。例えば5日間ではなく4日間、または4日未満の労働日数ということで、フリータイムが増えることにもなったわけです。
もともと、このワークシェアリングの「オランダ型」が意図していたのは、労働者に対し、賃金の上昇ではなく、もっと時間を与えるということでインセンティブを与えることでした。時間がもっとあるとなると、例えば、アルバイトもできますし、収入を上げることもできます。自ら企業を設立することも奨励されました。
その意味においては、中流階級の起業家精神が非常に盛り上がってきたことで、経済全体にとって非常にプラスになったわけです。
さらに、派遣社員の地位が大変に上がってきました。派遣社員、またはパートタイマーの人たちで、特に派遣社員の場合、ある1つの派遣会社と契約すると、通常の就労者が持っている権利はすべて保障されます。つまり、派遣会社が会社の代理をして、仕事がしやすくなる環境がだんだんと整ってきたわけです。
そういう意味では、例えば住宅ローンも事前にコミットすることができるわけです。通常は、派遣社員はワークシェアリング導入前にはできなかったことができるようになったのです。派遣社員の雇用状況、そして機会も増えてきています。
このようなすべての要素が相まって、労働の柔軟性がそれ以前と比べてかなり増してきました。より多くの人たちが自分たちの才能に見合った職、得意の分野での仕事を見出しやすくなったということです。例えば、特別な能力を持った人々に対してはそういうものも求めやすくなったということです。
会社の中でも、従業員に対しての態度が変わってきたと言えるでしょう。派遣社員になり、企業に出向くことになるので、より容易に自分たちがもっと適した仕事として考えている職場を求めやすくなったわけです。
また、オランダでは定年退職者がより仕事を探しやすくなったのが現在の状況です。もともと、ワークシェアリングが導入されたのは、失業率がかなり高い時代でした。そして、ワークシェアリングとは企業が余剰な人員をなくす1つの方法でもあったわけです。もちろん、同じような状況が、諸条件は違うにしても日本でも現在あるのではないかと思います。