アスペルガー症候群と鉄道オタク趣味

何故か分からないが、ウチの息子は鉄道オタクである。2歳半の時、義父さんから、新幹線を見に連れてってもらったり、JR特急のVIDEO・DVDを買ってもらったりしてから、特急の名前はほとんど言えるようになってしまった。一見同じに見える特急も、型番とかの違いがあるらしい。うーむ俺にはわからん。例えばJR北海道の特急スーパー宗谷とスーパー北斗は、私が見ても同じにしか見えないのに、3歳の子供には違いがわかるらしい。
 2歳半も過ぎた頃、電車に乗せてあげたらもう興奮してしまって、「しゅっぱつしんこう!」と大声で叫びまくり。向かいの席のお婆ちゃん達の笑いを誘ってました。
 3歳の頃、嫁さんがスーパーに買い物をしてる間、時間潰しのために近くの線路脇の墓地で、鉄柵に掴まりながら延々と2時間近くも電車を見ていた。電車なんか10分に1本ぐらいしか通らないのにねえ。とにもかくにも電車が大好きなのである。
 私自身小さい子供の頃は電車が大好きで、「まあ子供なんて皆そうなんだろう」と思ってました。この頃は、言葉が少し遅いぐらいとしか認識はなかったので、広汎性発達障害なんて、夢にも思ってませんでした。
 3歳半の時の検診で自閉症の指摘を受けて、それからは嫁さんと自閉症やアスペルガー・情緒障害の本を片っ端から読みました。でそれらの本の中に書いてある事実・・・情緒障害の子供達は、大抵が鉄道が大好きで、オタク並みの知識を持っているらしいとの事。なぜ?
 一番の疑問は、何故鉄道なのか?戦闘機やレーシングカーでないのか?ミニカーは何十種類もあるのに、何故500系新幹線のぞみなのか?乗り物図鑑の飛行機や船のページは全然開かないのに、鉄道のページはよれよれ。この違いは一体何が原因なのか?うーむこのテーマは奥が深いぞと、このページを作りました。皆さん「鉄道趣味(オタクでもいいです)」について、いろんなご意見をお寄せ下さい。


ある本をめくってたら、自閉症の方本人が書かれた文章がありました。

「二、電車の美学

 なぜ自閉症児・者は、電車が好きか?
 なぜ、電車を、自閉症児・者は好きなのだろう。
 それは電車が走る時、カンカンガタガタガタコトーガタコトーという音が、私たちにとって刺激的感覚だから。
 これを書いている筆者も、電車の音に刺激的なここちよさを憶えた。これは他の人々にはわからない感覚だ。
 それは客観的に意識されたものではない。(これは、電車の事に限らず、モノの感じ方というものはそうである。)
 電車は、色がカラフルだ。この事は右脳の色彩感覚を刺激する。記憶力を使う、左脳のひとり遊びを営むわれわれに、電車遊びはうってつけでお似合い。
 例えば、時刻表というものは、電車に乗る時かかせない。記憶力がよく、デジタル思考族のわれわれに、あの細かい時間の数字は感覚的にピーンと来る。
 私の知ってる子は、凡人の知らない駅・路線を知る事は、楽しみなのだ。これがいつまでも幼く、ごく感覚的なレベルでしか理解できない子の場合、電車の絵本を見て楽しむ。

・・・「書くことによって得たもの 自閉症克服の記録 P185〜186 電車の美学」三一書房・・・

うーむ自閉症の本人が書いた文章なのだが、いまいち感覚的でわからん。本人も「客観的に意識されたものではない」って言ってるしなあ。わからんわからん。


なんて事を書いてたら、ある本にその原因がズバリ書かれてました。

「アスペルガー症候群の子どもたちは、「機関車トーマス」のアニメや絵本などに強い関心を持っていることが多くあります。これは、その子供たちを引きつけるのが、秩序正しさ、予測しやすさ、一貫性や配置の美しさなどであることを考えれば、よく分かることです。列車は、まっすぐ一列に並んで、予め定まった線路に沿って行くしかありません。並行して走る線路や枕木は、その対称性や規則性のために、彼らには非常に魅力的です」

・・・「ガイドブック アスペルガー症候群 第四章 特別な興味と日々のきまり P149」東京書籍・・・

なるへそなるへそ、自動車やスポーツカー・戦闘機には線路が無いからか。それで(興味はあるけど)電車には負けるんだな。しかも日本だけではなく海外でも同じらしい。答えが出てしまいましたが、せっかく「アスペルガー症候群と鉄道趣味」っていう専用のページを作ったんだから、私の子供の鉄道オタクぶりを紹介します。


ウチの子供の鉄道オタクぶり

 3歳過ぎた頃から、ウチの子供の鉄道に対する執着は、異常とも思えるぐらいになりました。「JR北海道 特急」ってDVDを見てから、北海道のローカル特急に対する知識の半端じゃなくなってしまいました。「地下鉄100選」って絵本を買ってから、大阪御堂筋線専用車両と谷町線専用車両の違いが判るようになり(?)、両親ジジババ親戚一同は唖然。広汎性機能障害者の遺伝子DNAは、アデニンとかの塩基配列が螺旋状ではなく、電車の線路状になってるのでは???
 夜寝る時は、私が枕元で「JR特急」「日本の私鉄特急」「地下鉄100選」という絵本を読まねばぐずる。必ずぐずる。嫁さんは「ぐりとぐら」とかを読みたいらしいのだが、当人は全く興味なしで、いつも電車が勝つ。子供は「おかあちゃんこれ読んで!」と電車の絵本を嫁さんに持ってくが、嫁さん怒って曰く「お父ちゃんに読んでもらい」・・・で結果的に私の出番となるのである。「23番営団銀座線06系 この電車は駆動部分がVVVF制御車で、台車はボルタレス台車・・・」こんな朗読を毎日聞いてるのである。嫁さん曰く「ったくそんなのどこが面白いのかねえ」、「あははは嫉妬するな嫉妬!電車は男の世界だ!お前にはわからないだろう」「ええわかりません!わからんのが普通でしょ」・・となるのである。
 3歳半の時、たまたま図書館で分厚い写真集を発見。福音館書店から発行されてる真島満秀さんの「鉄道記」という物。正確には私が発見して、一緒に連れてた子供に見せたら、異様に興奮してしまったので、仕方なく借りたという物。勿論2週間後の返却し、またすぐ借り出しました。都合3回借りて、「これ以上借りっぱなしは図書館に悪い。ネットで買おう」と嫁さんと相談。購入してその晩から、寝しなの朗読が始まりました。この本は写真集なのですが、必ず説明が付いてる。その説明を読まされるのである。しかも1ページに5枚ぐらい写真がある・・・で300ページは軽く越える・・・これはキツイ。ただ写真はむちゃ綺麗なので、電車に興味が無い人でも、すんごく面白いです、飽きません。嫁さんが友人にメールでこの事を教えたところ、その友人の旦那さんが筋金入りの鉄道オタクらしく、「カメラマンの真島さんって鉄道写真の第一人者です」と教えていただきました。うーむ恐るべし鉄道オタク!


趣味の中でのアスペルガーの特徴

この次に本屋に連れてった際、子供の視線はなぜか絵本のコーナー児童本のコーナーではなく、普通の雑誌売り場で、しかも右手には「鉄道ファン1月号」がしっかと握られてるではないか!「あかん!そんなん読めへんて!」と怒るのにもかかわらず、「これ買うの!」と大声で叫ぶ。仕方がないなあ、んじゃそれ買ってやろう。ってなわけでその月から鉄道ジャーナルと鉄道ファンを買うことになってしまった。写真が少ないにもかかわらず、夜寝る前なんか熱心に読んでる(眺めてる)。しかもぶつくさと何かしら言いながら・・・
 「名古屋あおなみ線開通・・・」「JR新快速アーバンネットワーク223系・・・」「小田急ロマンスカー50000系は接合台車で・・・」・・・私が寝しなに読み聞かせた事をそのまま暗記。恐るべしアスペルガー!記憶力は抜群だ。小さな写真のキャプションまで覚えてやがる。
 ビックリ仰天したのが、いろんな違う本の中の鉄道写真で、違うカメラマンが全然違うアングルから撮った写真を「これ同じなの!」とよく指摘する事だ。「お前嘘つけ、全然写真違うやんか」なんて言いながらよく見ると、キャプションの記されてる撮影場所が同じ・・・なぜわかるんだあ!お前は超能力者かあ!それとも霊能力者か!お父ちゃんはそんな能力なんぞ無い平々凡々人だぞ!(←ちょっと親ばかです)
 この事もよく考えてみたんですが、やはりアスペルガー特有の抜群の記憶力と関係するようです。写真の中の信号機や列車・ホーム・改札口・電柱や架線etcなどの情報から、AとBは同じ場所と判断するんでしょうね。同じアングルならかろうじて私でもわかるんですが、別アングルでは素人にはさっぱりわかりません。
 嫁さんと一緒に鉄道雑誌を眺めてるのですが、広告に「鉄道高校」「鉄道専門学校」とかある。もしウチの子が普通の学校に行けて、学業に何とかついて行けたとしたら、こういう進学もいいかも・・・なんて親ばかしてます、ハイ。


プラレール地獄

2004年のクリスマスプレゼントに、とうとうプラレールを買ってしまいました!それまではアパート住まいだったので、「狭いから絶対に買わないでおこう!」と嫁さんと二人で誓い合っていたのだが、実家に帰ることになり場所的問題は解決。で「欲しがってるんだから仕方がないか、買ってあげよう」となりました。それ以前にもプラレールの電車だけ(トーマスと新幹線E4系MAX・・・ご存知の方は鉄道オタクです)だけは買ってたんですが、でもやはり線路は・・・と躊躇してたんです。
 ですけどまあ、障害がわかってから初めてのクリスマスだし、玩具売り場のデモのプラレールで喜んでる子供の姿を見たら、親が逆上しちゃいました。で玩具売り場でさりげななく「〇〇ちゃんはどの電車が好き?」「ソニック!」・・・うーむJR九州のドマイナーな特急を指差すとは、おぬし中々やるな。すばやく子供に見つからないようにしてレジに持って行く。「お父ちゃんトイレだよ」と嘘をついて駐車場の車の中に運び込む。家に帰っても箪笥の上に隠して知らん顔。うひゃあドキドキ!クリスマスの朝にどんな顔するんだろうかなあ?
 実は他にもクリスマスプレゼントいっぱい買いまして(親バカですはい)、夜中にそれらを枕元にてんこ盛りで積み上げたんですが・・・やはり一番のお気に入りはプラレールでした。嫁さん一押しのトーマスすごろくも撃沈、トーマスかるたも撃沈、多くの絵本も撃沈、まるで戦争末期の帝国海軍である。プラレール一人勝ちであった。♪プラレールよあなたは強かった。まるでアメリカである。
 買ったのは一番安い基本八の字SET。これを「お父ちゃん作って!」と私に作らせ、朝から夜まで延々と動かしてる。時々積み木や椅子などを使って「トンネルだ!まっくらまっくら!」と喜んでる。最初は「微笑ましいな」と見てたんだが、モーターの「ジージー」音に嫁さんが切れる「喧しい!」。電池を無理矢理外して手でしか動かせないようにしたにも拘らず、一日中熱中である。ああこの集中力、将来の学業や就職に役に立って欲しい、という親の願いも知ってか知らずか・・・。
 さてその1週間後、子供のお年玉は軽くウン万円を突破、私の小遣いの2倍は行っちゃいました。で大半は取り上げ強制貯金なんだが、「可哀相だから一部で玩具を買ってあげよう」となり、必然的にプラレール追加SETに。でしかもまたまた私が逆上して、一番大きい物を買ってしまった。
 さて家に帰って箱を開けてみると・・・うぎゃあなんじゃこりゃあ!この複雑なパーツは何だあ!嫁さんは早々に逃げる、で結局私が作ることに・・・とほほほ。「まあ適当でええやろ」とばかり幾つかパーツが余ったんだが、一応畳二畳分のどでかいグルグルレールを作った。でも子供はパーツが余った事が気に食わないらしい。「それも作る」。うー、四苦八苦で約1時間、ようやく全てのパーツを使って2層式3重環状線が完成。で完成して子供と一緒に列車を動かし始めた時、「御飯だよ!」の嫁さんの声が・・・。「あー早く片付け!御飯やから!」の声と共に、箱の中に分解してしまわれるプラレール、子供は「ごはんいやだあ!プラレールするの!」と叫んでるが嫁さんは強制没収片付け。横で私は「ああ俺の1時間を越える作品が・・・ああ!無惨!」と心の中で泣いてました。親子ともども号泣。

 ここで一句
 「無惨やな 御飯の前の プラレール」
 お粗末。

プラレールは知育に役に立つか?

 自閉症やアスペの子は、想像力が乏しいらしい。である本から得た知識なんだけど、なるべく積み木やブロック遊びなんかをさせたほうがいいらしい。と言っても親も一緒にコミュニケーションを取りながらなんだけどね。それから考えたら、プラレールなんて線路を自分でいろんな形に設定できるんだから、子供には最適なんじゃあないかな。
 なんてこじつけです。実は子供とプラレールを作ってて、親の私が嵌まってしまいました。毎回毎回違う線路を組み立てて、「今日は名鉄の新しい路線です。名前は名鉄三ヶ根登山線」なんて子供に教えながら率先して作ってる。「今日は何して遊ぶ?うーとプラレールしようか?」とさりげなく誘導。「うん!」と言おうものなら「よしよしえらい子だ」となり、怒涛のごとく部屋一面にレールが敷かれる事となる。で嫁さんが激怒し「狭い!」。あははは。
 嵌まっちゃったお父ちゃんは、今度は「複線のカーブSETを買いたいな、いや1/4直線も何パーツか欲しい、凹凸調整レールが・・・」とぶつぶつ呟く事しきり。子供をだしに何楽しんでるねん。でも買っちゃう。
 まだ子供自身では環状線は作れないのですが、子供は子供なりに線路を組み立てて遊んでます。いつもは手を出して作ってあげるのですが、これからはある程度は自分でやるよう方向で行きたい。少しずつ少しずつ・・・これも立派な療育だ!

 と書いた半年後、応接間で子供がプラレールをぶちまけて何やら作ってる。よく見ると・・・おお!二重の環状線を、しかも高架付きで完成させているではないか!これは進歩だ!
 やはり子供は子供なりに成長しているようです。プラレールは役に立ってます。お父ちゃんは断言する!

 ここで一句
「療育に 一家に一台 プラレール」

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