社説
日米首脳会談/TPP参加は説明不足だ
安倍晋三首相とオバマ米大統領がきのう、政権発足後初となる日米首脳会談を行った。 焦点となっていた環太平洋連携協定(TPP)交渉について両首脳は、「全ての関税撤廃があらかじめ求められるものではない」とし、コメなどを「聖域」とする余地を確認した。 首相は帰国後に自民、公明両党に会談内容を報告。交渉参加の可否を「政府の専権事項」とするとともに、参加の意向を近く表明する考えを示した。 自民の高市早苗政調会長と山口那津男公明代表は判断を「首相一任」とすることを了承。首相帰国後、交渉参加の動きが一気に加速する公算は大きい。 だが、TPP参加に伴う利点や不利益など、国民に示された判断材料はあまりにも乏しい。 生産者と消費者、農業と輸出産業など利益が対立する層が存在し、国論が二分される中、説明不足のまま大きな転換点を迎えようとしていることに、大きな不安を禁じ得ない。 自民は昨年末の衆院選で「聖域なき関税撤廃が前提なら不参加」との公約を掲げた。首相自らも、国益を優先し交渉参加を判断すると明言していた。 米側の説明は、2011年11月の「TPP交渉の輪郭(アウトライン)」の枠を出るものではない。各国が配慮を求める例外化要望品目に交渉の余地が残ることは、事前協議のやりとりの中で分かっていたはずだ。 民主党政権当時と条件的に大きな変化が生じていないにもかかわらず、首相がすんなりと壁を越えようとしていることに、国民不在のまま進められる議論の危うさを感じざるを得ない。 農村部を地盤とする民主候補が衆院選で、党中央のTPP対応と支持者の声との間で板挟みとなったケースが多かったことは記憶に新しい。 交渉参加に前のめりとなっていた民主政権に対し、自民党は「条件次第で不参加」の可能性を示唆したと読み取れる内容の公約で対抗、農業者から一定の支持を得た。 明確な理由を説明することがないまま、首相が交渉参加への前向き姿勢に転じるのは、生産者から託された期待を裏切るものではないか。 TPP交渉への参加は、日本の将来にかかわる、重大な岐路であることは間違いない。 全国農協中央会は「現状では賛成できない」と反発する。無理もない話だ。自民も民主も、党内に異論を抱えたまま、議論はぶれ続けていた。 例外は容認されたものの、TPPが主眼とする原則的関税撤廃は大きな選択である。輸出産業にしても、自動車に対する米側の反対など、これからの交渉次第で背負うリスクは過大なものとなりかねない。 国会での論戦は終始低調なものだった。説明不足は与党ばかりではなく、野党を含めた国会全体の責任だ。 首相は、「国益」と「痛み」について国民に説明を果たす責任がある。交渉への参加を表明してからでは遅い。
2013年02月24日日曜日
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