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プレッシャーがやばいです……。
『かの赤子、理想を追えば異端となり、臣従すれば天才となる』
〜教会洗礼語録・第28巻より抜粋〜
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皆さんは空気が凍り付いたということを経験したことがあるだろうか。
恐らく誰しもがそのような経験をしたことがあると思う。………まさか、生まれてすぐにそれを体感するとは思わなかったけど。
幼いながらも、恐ろしいほどの美貌を持つ我が次兄は僕の正体を見抜いてくれやがりました。
「リ、リチャード?お前は何を言っているのだ?」
にこにことダンディな笑みを浮かべていた父親の頬に冷や汗が流れているのは気のせいだと信じたいのだが。
「こちらにきてみてください、ちちよ。そしてみるのです。わがおとうとのめを」
冷静な表情を崩さずに淡々と言う。金髪灰眼で、まるで母親の髪に父親の目がミックスされたような容姿の次兄。お前一体幾つだ。(注:8歳です)
てくてくと背筋をきっちり伸ばしてこちらに来る父上。うーん、ダンディ。荒野とかが似合いそうだね。
「それほどのことか?…………確かに。恐ろしいほどの深遠を感じるな」
僕の顔(というか目)を覗き込んだ父の表情が微かに変わった。面接官とかの表情を読むのに利用してたことがこんなところで役に立つとはね。
っていうか、『恐ろしいほどの深遠』って何!?
(彼は気づいてはいないが、彼の保有する知識量は地球のルネサンス時代の貴族を上回っている。もちろん、知らないことも多いが)
「とにかく、教会に行って洗礼を受けさせなければならない。トーマス!」
なんとかごまかしたな、父よ。(次兄を真似してみたけど、似てる?)
洗礼と言う言葉から察するに、この異世界にはキリスト教的な一神教が根付いているのだろう。
トーマスって誰?
「何でございましょう?」
そうだよね。何となく予想はしてたけど、まさかその通りになるとは思わなかったよ。メイドがいるなら、執事もいるよね。
現れたのは、灰色の髪を後ろに撫で付け、執事服をきっちり着こなした好中年だった。父親ほどのイケメンではないにしろ、顔は整っている。執事らしく穏やかな笑みを口元に浮かべている50がらみの男。恐らく彼が『トーマス』だろう。執事の名前ってセバスチャンじゃないんだね。初めて知ったよ。
「教会へ行く。馬車を用意してくれ」
「かしこまりました」
執事ことトーマスが外へ出て行くと、僕を含むハルトベルツ家全員が僕の周りに集まった。
「この子はたまにいる天才かもしれない。今日行う洗礼以外、教会に行かせてはいけない。我が子を異端にかけられてはかなわん。分かったな」
父が声を潜め、誰にも聞こえないように言葉を漏らす。『天才』を嫌う教会、ということはよっぽど腐敗しているか排他的なのかのどちらかだね。
父の口ぶりから、カルト的な教団ではないと推測。そもそも、そんな場所に馬車で堂々と乗りつけたりしない。すなわち、前者。
つまり、後者。教会権力の世俗化による堕落と腐敗だろう。歴史上有名なところでいうとメディチ家出身のローマ教皇、『レオ10世』さらには、ロドリゴ・ボルジアこと『アレクサンドル6世』ってところだろうか。
前者は免罪符を発行したことで有名で、後者はヨーロッパの悪役と言っても過言ではない有名人だ。政敵を『カンタレラ』と呼ばれる毒薬で暗殺したことで知られる。ボルジア家といえば『カンタレラ』と悪名高きチェーザレとルクレツィア兄妹による近親相姦である。
チェーザレ・ボルジアはアレクサンドル6世の息子で軍事・政治両面に卓越した能力を示し、『覇王』とまで形容された悪の英雄である。彼はヴィアナでの戦いの最中に何者かによって殺害され、その波乱の生涯を閉じた、とされる。(実際は暗殺だと僕は思うけどね)
ルクレツィア・ボルジアはチェーザレの妹で、実の兄に兄妹以上の感情を持っていたとされている。結婚した相手が次々と死んだため、歴史上の悪女として有名であるが、夫を逃がそうとしていた記録もある。受け身で、意思虚弱な女性であったのではないだろうか。彼女は、父と兄が死んだ後に八人目の子どもを産む際の合併症で亡くなっている。(一説には毒殺とも噂がある)
『カンタレラ』はヨーロッパではかなり有名な毒薬で、スイスの歴史家、ヤーコプ・ブルクハルトは、著書の中で「あの雪のように白く、快いほど甘美な粉薬」と形容している。
原料は不明だが、一番現実性があるのは、「逆さ吊りにして撲殺した豚の肝臓をすり潰したものに、亜砒酸を混入して腐敗したものを、乾燥させ粉末にしたか、液体にしたもの」が、『カンタレラ』であるという説だ。亜砒酸の毒性は非常に強く、摂取すると死にいたることもある。さらに、亜砒酸を含む砒素化合物はその摂取経路や摂取量によって症状が慢性にも急性にも変化するため、亜砒酸をカンタレラの主成分とすれば、「処方により即効毒にも遅効毒にも自由にも操れた」とされる当時の記述のも説明がつく。
これぞオタクの神髄!見たかリア充め!
はっはっはっはっは!………空しくなるやめよう今すぐ。
なんてどうでもいい歴史談義をしているうちに教会についたようだ。
「相変わらずキンキラな場所だな……つまんねーの」
おい長兄。発言自重しろ。一歩間違えればうちの家財産没収とかされちゃうぞ。
「口を慎め……。気持ちは分かるが、聞こえたらどうする」
おい親父。あんたもか。
そこまで悪口を言うことか?と、疑問に思っていた僕の気持ちは教会に入った瞬間に氷解した。あまりに美しすぎるその場所は確かに異様な空気を僕に感じさせた。ここは確かに、『整いすぎている』
「どうしました?ハルトベルツ伯」
にこやかな笑みを浮かべた神父がこちらに歩いてくる。その図だけみれば神に仕えるお仕事大好きです、って感じだけど、その笑みがどこか胡散臭く、作り物めいたものを感じる。
「運命」が題名の有名なゲームに出てくる「愉悦」が口癖のマーボー大好き神父っぽいよね。
「いや、私の末っ子の洗礼を受けさせようと思いまして」
「そうですか、ならこちらへ」
言●神父(仮称)は父と母(腕に僕を装備)を奥に促した。
そこにあったのは金メッキされた大きい杯のような器。え、純金?まじで?
「では、彼をこちらに」
●峰神父(笑)は母にそう言って僕を手渡させた。触んな、マーボー神父め。悪役め。
「む……。何故私は彼ににらまれているのかな?」
ばーかばーか。お前なんて正義の味方に倒されちゃえばいいんだ。
「家族以外の手に抱かれているのが嫌なんでしょう、申し訳ありませんわ」
なんか母親勘違いしてるし。
「ははは……」
神父、思わず苦笑。
神父はオホン、と咳をして場の空気を戻すと、厳かに言った。
「では、洗礼の儀を始めます」
似合ってないことこのうえない。
周りにいる僕の家族は手を組んで祈っている。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
祝詞的な何かは僕の理解するところの言語ではなかったのです。もしかして僕が喋らなきゃならないのってこんな理解不能な言葉なの!?
いやでも、家族の言葉はわかるから、神父(爆)の唱えている言葉がおかしいんだな、うん。
神父の手に抱かれた僕はゆっくりと聖水(多分)に浸けられていく。あばばばばばば。
どれくらい時間がたったか分からないけど、僕が入っている杯の後ろにある神様の像的なやつから白くて丸い光りが降りてきました。おおう、ファンタジー。
その光(なにこれ?)が僕の手に触れたと思っ………って熱ッ!超熱い!なんじゃこりゃあ!新手のイジメかおいコラ!
ぶしゃあ。
気がついたら、僕はその光りの玉を握りつぶしていました。うわー。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
うわーうーわー。
生暖かい視線が四方八方から降り注いでるよ。これが針のむしろ(キリッ)(注・違います)
「………かの赤子、理想を追えば異端となり、臣従すれば天才となる」
神父さん、中二病?
いかがだったでしょうか。
次回は本編を離れて別視点を書く予定です。
それでは。
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