安倍首相がオバマ米大統領との会談後、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わる考えを事実上、表明した。10年秋に当時の菅首相が交渉参加に意欲を見せてから2年半近く。農[記事全文]
日米同盟強化に完全に一致できた。強い絆は完全に復活したと宣言したい――。安倍首相は日米首脳会談のあと、高らかに成果をうたった。日米同盟が大切である[記事全文]
安倍首相がオバマ米大統領との会談後、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わる考えを事実上、表明した。
10年秋に当時の菅首相が交渉参加に意欲を見せてから2年半近く。農業団体をはじめとする国内の根強い反対を受けて迷走が続いた末、ようやく軸足が定まった。
首相の姿勢を評価する。
安倍政権は、デフレと低成長からの脱却を最優先課題に掲げる。そのためには海外との経済連携を強め、その成長を取り込むことが欠かせない。
ただ、すぐに交渉に入れるわけではない。TPPを主導する米国では、政府が通商交渉に入る場合、議会の承認を得るのに90日間かかる。一方で、オバマ政権は今年中に交渉を終えるとしている。日本に残された時間は多くない。
これから米国との事前協議が本格化する。米政府は議会の声を受けて、自動車と保険、牛肉の3分野で日本市場に関心があると表明済みだ。
米国との事前協議、その後の本交渉を通じて、政府が守らねばならない原則がある。
まず、情報をできるだけ開示することだ。通商交渉では手の内を全てさらすわけにはいかないが、TPPに不安を感じる国民は少なくない。丁寧な説明を心がけて欲しい。
米国との事前協議で、交渉に早く加わりたいからと理不尽な要求を秘密裏に受け入れるようでは、TPPへの反発を強めるだけである。
なにより大切なのは、特定の業界の利害にとらわれず、「消費者」の視点に基づいて総合的に判断していくことだ。
TPPのテーマは物品の関税引き下げ・撤廃にとどまらず、投資や知的財産、電子商取引、環境など20を超える。さまざまな分野で規制・制度改革が求められるのは必至だ。
当然、恩恵を受ける業界があれば、打撃が予想される分野もある。いかにプラスを増やし、マイナスを抑えるか。
高関税で守ってきたコメなどの農産物について、激変を避けるよう交渉するのは当然だ。
それと並行して、高齢化や耕作放棄地の増加など山積する課題への対策を急ぎ、体質強化をはかる必要がある。
むろん、TPP交渉の見返りに予算をばらまくのは許されない。コメの「聖域化」ばかりに目が向いて、他の分野が二の次になるのも論外だ。
TPP交渉で、安倍政権は外交、内政両面での総合力が問われる。
日米同盟強化に完全に一致できた。強い絆は完全に復活したと宣言したい――。
安倍首相は日米首脳会談のあと、高らかに成果をうたった。
日米同盟が大切であることには、私たちも同意する。
だからといって、中国との対立を深めては、日本の利益を損なう。敵味方を分ける冷戦型ではなく、懐の深い戦略を描くよう首相に求める。
首相は、軍事面の同盟強化に前のめりだった。
首脳会談では、防衛費の増額や、集団的自衛権行使の検討を始めたことを紹介し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの検討を進めると述べた。
一方で、中国を牽制(けんせい)した。
会談後の演説で、日中関係は最も重要な間柄の一つとしつつ、尖閣問題について「どの国も判断ミスをすべきではない。日米同盟の堅牢ぶりについて、だれも疑いを抱くべきではない」と述べた。
そういう首相と、米国側の姿勢には温度差があった。
オバマ大統領は記者団の前で「日米同盟はアジア太平洋地域の礎だ」と語ったが、子細には踏み込まず、「両国にとって一番重要な分野は経済成長だ」と力点の違いものぞかせた。
ケリー国務長官は外相会談で、尖閣に日米安保条約が適用されることを確認する一方、日本の自制的な対応を評価すると述べたという。
背景にあるのは、日米同盟を取り巻く状況の変化だ。
東西冷戦期には、米国とソ連が敵対していた。米国には、日本を引きよせておく必要があったから、同盟は強固だった。
だがいまは、経済の相互依存が進み、米国は中国と敵対したくない。米中よりも日中のあつれきのほうが大きく、米国には日中の争いに巻き込まれることを懸念する声が強い。
だから米国が日本に求めるのは、いたずらにことを荒立てない慎重さだ。そこを見誤れば、日米の信頼も崩れてしまう。
そもそも、グローバル化が進むこの時代、世界を二つの陣営に分けるような対立は起こりにくい。アジアの国々も、どちらにつくかと踏み絵を迫られる事態は望まない。
日米同盟を大切にしつつ、いろんな国とヒト、モノ、カネの結びを深め、相手を傷つけたら自身が立ちゆかぬ深い関係を築く。日中や日米中だけで力みあわぬよう、多様な地域連携の枠組みを作るのが得策だ。
対立より結びつきで安全を図る戦略を構想しないと、日本は世界に取り残される。