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27 第一次大戦①
 1914年(皇紀377年)



 サラエボ事件発生

 オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者、フェルディナント大公とその妻がサラエボを視察中、セルビア人の青年によって暗殺。逮捕後、暗殺犯の1人が武器はセルビア政府の支給品であったと告白した。
 これにオーストリア政府はセルビア政府を非難し、セルビアにとって受け入れ難い要求を含んだオーストリア最後通牒を突き付け、48時間以内に無条件で全条件を受け入れなければ宣戦布告することを通告した。
 この通告にセルビア政府は二点のみを除き、要求を受諾した。

 しかし、オーストリア政府は無条件での受諾を求める事前の通告通り、セルビアに対して宣戦布告。第一次大戦の契機になるのだった。









 第一次大戦勃発

 ロシア政府は1909年に、オーストリアのボスニア併合を承諾する代わりにセルビア独立を支持することを誓約していた。そのため、オーストリアのセルビアへの宣戦布告を受けてロシア軍部は戦争準備を主張し、皇帝ニコライ2世へ圧力を掛けて承認させる。ロシア政府は部分動員では手遅れになる可能性を想定し、総動員令を布告した。

 ロシアの拡大を警戒するドイツはロシアに動員解除を要求するが、ロシア政府は動員を解除した場合には短期間で再び戦時体制に戻すことは難しいと考えたため、要求に応じなかった。
 ロシアの総動員下令を受け、ドイツ軍部はかねてからのシュリーフェン・プラン(対フランス侵攻作戦)を発動させて総動員を下令し、同時にベルギーに対し無害通行権を要求した。
 ドイツ政府は翌日にロシアに対して宣戦布告し、更にその翌日にはフランスに対しても宣戦布告した。

 ドイツによる突然の宣戦布告にフランスも即座に総動員を下令し、対ドイツ戦を想定したプラン17と称される戦争計画を発動。そしてフランス首相は議会に戦争遂行のための「神聖同盟」の結成を呼びかけ、議案は全会一致で可決されて議会は全権委任の挙国一致体制を承認した。

 イギリス政府はドイツ軍のベルギー侵入を確認すると、外交交渉を諦めドイツに宣戦布告し、フランスへの海外派遣軍の派遣を決定した。
 また、1867年に自治領となっていたカナダも宗主国イギリスに従い参戦し、同様にオーストラリアやニュージーランドも参戦する事となった。

 イギリスと同盟関係にある日本帝国も同盟に沿って、イギリスの翌日にドイツに宣戦布告。

 オスマン帝国は数度に渡る露土戦争においてロシアと対立関係にあったため、ドイツが盟主の中央同盟国に加わった。



 こうして、ヨーロッパで起きた戦争は瞬く間に世界大戦へと発展した。
 しかし、ヨーロッパでは普仏戦争以来約40年ぶりとなる大規模な戦争に、騎士道精神に彩られたロマンチックな姿を想像して両陣営の首脳部・国民共に戦争の先行きを楽観視していた。多くの若者達は戦争の興奮によって想像力を掻きたてられ、「この戦争は短期決戦で終わるだろう」「クリスマスまでには家に帰れるだろう」と想定し、国家宣伝と愛国心の熱情に押されて軍隊へと志願した。
 フランスでは予備役兵はこの戦争を神聖な祖国防衛戦争として捉え、『ラ・マルセイエーズ』を高唱しながらアルザス・ロレーヌ奪還に燃えた。ドイツでは民衆は戦争を漠然とした不安や不満を解決する手段として歓迎した。
 ――後に長期消耗戦となり、どれほどの膨大な被害が出るのかも知らずに。









 イギリスが宣戦布告した当日、日露戦争同様に北郷の屋敷では臨時会議が行われていた。

「…諸君、遂に待ちに待った大戦が始まった。この大戦によって我が国は更なる拡大を迎え、後の本番たる太平洋戦争に向けての大事な契機にもなる。
 ……派兵準備は万全か?」
「はっ、既に全部隊の準備は整っており、何時でも進軍出来ます」

 早期侵攻のために史実とは比べ物にならない数の艦艇や人員、物資が準備されていた。

「良し、史実では8月30日にニュージーランドが西サモアを占領し、同年にオーストラリアがニューブリテン島やドイツ領ニューギニアを占領する。
 我が軍はその前に太平洋にあるドイツ領を全て占領し、南洋諸島に組み込む。これが至上命令だ」
「はっ、畏まりました」






 翌日、予定通り日本帝国はドイツ帝国へ宣戦布告。直後に太平洋へ艦隊を派遣した。

 金剛級巡洋戦艦2隻を中核とする高速艦隊で、サモアやニューブリテン島など他国に狙われやすい島から攻略を開始。
 各島にはドイツ帝国の守備隊などがいたが、戦艦の主砲を島に向けると直ぐ様降伏勧告に従い降伏した。あまりに呆気ないのだがこれは仕方ない事で、この当時戦艦は核兵器並の戦略兵器であり、そんな兵器に僅か数十~数百単位の守備隊では勝てるどころか抵抗する事すら愚かしいのだから。

 降伏した島々には海兵隊を上陸させて占領した後、捕虜を載せて対馬収容所へと移送する。流石に日露戦争時のような至れり尽くせりなサービスは無いが、大きな屋敷でドイツ軍捕虜達は終戦までを過ごす事となった。



 この他にも、ビスマルク諸島やカロリン群島、パラオ諸島、マーシャル諸島、マリアナ諸島など南洋諸島は勿論の事、史実ではオーストラリア領になるニューブリテン諸島やニューギニア島の一部も占領し、統治体制を整えるために海兵隊から陸軍部隊に引き継いだ。
 途中、ドイツ東洋艦隊の艦艇とも接触したが、大抵の艦は金剛級を見ると敵わないと諦めて降伏した。それもその筈、ドイツ東洋艦隊には戦艦はおらず、精々が巡洋艦や砲艦。伊勢級には劣るとは言え他国では最強クラスの金剛級巡洋戦艦を見れば戦意を喪失しても仕方ない。
 中には頑強に抵抗したり逃走を図る艦もいたが、抵抗した艦はことごとく沈められ、逃走しようにも巡洋艦並みの速さを誇る金剛級に逃げられる筈も無く、結局は降伏するか沈められた。

 他国に占領される可能性の高い遠くのドイツ領諸島から次々占領するという、自分達をあからさまに意識している日本帝国軍の動きにオーストラリア軍やニュージーランド軍も、意趣返しにマリアナ諸島など日本帝国に近いドイツ領諸島を占領しようとしたのだが、事前に準備を整えていた日本帝国軍に比べるとどうしても初動が遅れる。
 平時から常に戦争可能な常備軍を誇る日本帝国軍と違い、その都度必要な兵士を徴兵しなければいけない他国軍では動きに違いがあって当然、更には一月前から戦争準備をしていた日本帝国軍に進軍速度で敵う筈も無い。ようやくオーストラリア軍やニュージーランド軍が軍備を整えた時には、既に太平洋のドイツ領は日本帝国軍が支配していた。

 この日本帝国軍の動きに当然不満はあるのだが、白豪主義のオーストラリアも流石に日本帝国に喧嘩を売る度肝は無かった。というよりも、日露戦争後に宗主国であるイギリスから「日本帝国を挑発するな」と命令されていたので不承不承ながら黙って見ているしかなかった。
 宗主国たるイギリスとしては、白豪主義に固まるオーストラリアのせいで自国と日本帝国との関係の悪化や、最悪戦争に発展するなど御免なので事前に「オーストラリア側から挑発し、日本帝国と戦争になろうともイギリスは助けない」と釘を刺したのだ。
 もしも日本帝国と戦争になればオーストラリアやニューギニアは勿論として、香港やシンガポール、太平洋のイギリス領諸島。最悪イギリスにとって最も重要な植民地と言って過言ではないインドさえも陥落しかねないのだ。オーストラリアを失うのも痛いが、インドを失っては大英帝国は終わるのでイギリスはオーストラリアに自重命令をした。
 それが効をそうしたのか、日本帝国とオーストラリアの間に目立ったトラブルは起きず、イギリスはホッとしたのだった。






 南洋諸島を制圧した後、日本帝国軍はようやく中国のドイツ租借地、青島攻略に乗り出した。

 青島にはドイツ東洋艦隊がいたのだが、旅順のように封鎖された挙げ句にいぶり出されては堪らないので、ドイツ東洋艦隊は日本帝国艦隊が南洋諸島攻略にかかっている隙に青島を脱出し、大西洋やインド洋に向かった。
 勿論偵察衛星を持つ日本帝国はドイツ東洋艦隊の行動を知っていたのだが、あえて見逃した。何故なら別に日本帝国は艦隊戦をやりたい訳では無く、ただ青島を占領すれば良かったので、わざわざ自分達から逃げてくれるなら妨害する必要は無い。もしも南洋諸島を奪還しにいくなら撃破したのだが、ドイツ側としても戦艦も無い艦隊で日本帝国軍に戦いを挑む程愚かでは無く、むしろ日本帝国軍の隙を突いて無事逃げおおせたという、後世においては名判断と評価される行動をした。――日本帝国軍は全て知っていたが。



 ドイツ東洋艦隊が青島を脱出した事を確認した後、ようやく日本帝国軍は本格的に青島攻略作戦を開始。

 先ずは史実通り水上機母艦から水上機を飛ばし、青島への威力偵察を敢行。
 ヨーロッパにおいても初期は航空機戦は無く、もしも敵国の航空機に遭遇したとしても戦闘どころか、互いに航空機パイロット同士としてハンカチを振り合った。程無くして本格的に戦闘機時代に突入したが。

 日本帝国軍同様、ドイツ軍も航空機を保有していたので偵察任務に導入した。
 ドイツ軍側の航空機はルンプラー・タウベで、史実では日本軍側のモーリス・ファルマン100馬力水上機よりも機動性に優れていたので排除は難しかったが、日本帝国軍は横廠式ロ号甲型水上偵察機を複数機導入し、更には7.7mm機銃1基を装備していたので難なくドイツ軍機を撃墜。その後は偵察や、ドイツ軍陣地に対して機銃掃射や空爆も敢行した。



 史実通りドイツ軍は頑強に抵抗したが、金剛級など戦艦による艦砲射撃や、航空機や飛行船からの機銃や爆撃によって追い詰められ、更には日本帝国軍とイギリス軍の連合軍によって遂に青島は陥落した。

 こうして、アジア・太平洋のドイツ領は日本帝国軍によって制圧された。








 青島陥落の報を聞いた北郷は、特に喜ぶ事も無くただ頷くだけ。史実日本は青島を得るために中国に対華21ヵ条を要求したのだが、日本帝国や北郷にしてみれば青島は手に入れれば必ず騒動に巻き込まれる災厄の地でしかない。出来るなら今すぐ中国に返還したいのだ。

「…とりあえず青島は直ぐに中国に売却せよ。ヴェルサイユ条約まで待とうかとも思ったが……返還せよ返還せようるさいからな」

 日本帝国軍が青島を占領した後、中国政府は日本帝国政府に対して青島の無条件返還を要求し続けていた。
 青島を手に入れる気満々な史実日本なら無視や反論もするだろうが、初めから返還する気満々な日本帝国からして見れば、うるさいからさっさと手放したかった。

「中国政府は無条件返還を要求していますが?」
「だったらこのままヴェルサイユ条約会議まで待てば良い。史実のような対華21ヵ条の要求はしてなく、初めから売却する姿勢を見せているのだから、戦勝国たる我が国の主張は認められるだろう。その事を中国政府に伝えてやるのだ。
 それでも分からなければ本当に待てば良い」
「畏まりました」

 その後、日本帝国政府からの青島売却案に当初中国政府は反対して無条件返還を要求したが、日本帝国政府からの説明や今売却するなら多少値引きしても良いなどの交渉によって、中国政府も折れて青島売却に同意。売却後速やかに日本帝国軍は青島から撤収し、中国に返還された。
 初めから日本帝国政府は青島を中国に返還する気だったため、戦闘によって破壊された建物の瓦礫などは全て放置したまま。むしろ微かに残っていた軍港設備などを破壊した後に返還した。
 売却同様、少しでも中国に負担を強いるためだ。



「イギリス政府からヨーロッパへの派兵要請が来ていますが、いかがなさいますか?」

 前記した通り当初ヨーロッパ諸国はこの戦争は短期決戦で終結すると楽観視していたが、徐々に長期戦の様相が明らかになってきた。
 切っ掛けはマルヌ会戦で、ドイツ軍が戦前から想定していたシュリーフェン・プラン(対フランス侵攻作戦)が成功すれば短期でフランスを席巻してドイツ軍の勝利となる筈だったのだが、イギリス、フランスの連合軍によってシュリーフェン・プランは頓挫し、互いに長大な塹壕を築く長期戦へと移行したのだった。
 元々ある程度予測はしていたのだが、想像以上の消耗や長期戦が見えてきた事でイギリスは焦り、同盟国であり強大な戦力を誇る日本帝国にヨーロッパへの派兵要請を繰り返していた。

「そうだな、南洋諸島を取って青島も陥落させた所だし……そろそろヨーロッパ派遣軍を出すか。
 イギリスからの派兵要請はどの程度だ?」
「イギリス政府は、金剛級巡洋戦艦を含む2個艦隊と、陸軍10個師団の派兵を要請してきています」
「……流石イギリス。際限無く要求してくるな…」

 普通の国なら、そんな数を派遣したら国防に大きな穴が空いて他国からの侵略に対抗出来なくなるだろう。日本帝国ならばまだまだ許容範囲内だが、ほとんど得られるモノが無いヨーロッパの戦争に注ぎ込んで良い数では無い。

「……陸軍部隊を送った所で塹壕戦や毒ガスで多大な損害が出るのがオチだ。
 金剛級2隻を中核とする艦隊を派遣する代わりに、陸軍部隊は派遣しないとイギリス政府に伝えるのだ。ついでに、現在建造中の伊勢級も派遣を検討する、と言っておけばイギリス政府も文句は言えまい」
「畏まりました」

 こうして、日本帝国軍のヨーロッパへの派遣が決定した。来年への派遣に向けて準備を開始したのだった。









 一方、日本帝国軍のヨーロッパ派遣の報告を聞いたイギリス首相、アスキスはとりあえずホッとしていた。

「そうか、日本帝国はヨーロッパ派兵に応えてくれたか…」
「陸軍部隊の派兵こそ断られましたが、金剛級巡洋戦艦2隻を含む艦隊の派遣は了承してくれました」

 外相のグレイも心なしか明るい顔で話す。

「うむ…まぁ、陸軍部隊の派遣拒否は仕方あるまい。元々無理だろうと想定し、とりあえず要請したまでに過ぎん。
 肝心の日本帝国艦隊を呼び寄せられたのだから問題無い」

 イギリスの目的は、現在世界最強の一角を占める金剛級巡洋戦艦と、強大な日本帝国軍をヨーロッパへ引き込む事だった。当初楽観視されていた戦争は長期戦の様相を露にしてきて、更にはドイツ軍のUボートによる通商破壊によってイギリスの航路はズタズタにされてしまった。このままではドイツを中心とする同盟諸国側に負けてしまいかねないので、イギリスは日本帝国政府に再三派兵要請をして、今日ようやくその苦労が実ったのだ。
 日本帝国軍は当初、かつての清国のように戦力を疑問視されていたのだが、日露戦争によってとてつもなく強大な軍隊と認識された。幸運な事にその日本帝国とイギリスは軍事同盟を結んでいるので、遥か遠い日本帝国には全く関係の無いヨーロッパの戦争にも派兵を要請出来るのだ。

「更には、現在建造中の新型戦艦である伊勢級の派遣も検討中との事です」
「ほぅ…」

 アスキスは二つの事に驚いた。
 一つ目はまだ完成してないとは言え、大事な新型戦艦を送ってくれるかも知れないという事。二つ目はその新型戦艦が完成し、尚且つ戦力化するまでこの戦争が続くと日本帝国政府が予想している事だ。

「……確か伊勢級は来年に完成する予定だったな?」
「はい、更に訓練を終えて戦力化するには最低でも半年はかかるかと…」
「という事は…日本帝国はこの戦争は後1年半以上は続くと予想しているのか…」

 塹壕戦や通商破壊など長期戦の様相を見せてきているので、日本帝国の予想通り終戦まで1年以上かかる可能性は十分あり得た。

「…まぁ妥当か。ドイツはフランス侵攻に失敗してからは防御体制を整え、潜水艦による通商破壊で我が国の経済を崩壊させに来ている。
 その証拠に潜水艦による有効な対抗手段が無い現在、我が国の輸送船は次々沈められている」

 この当時、ソナーや爆雷はまだ実用化されてなかったので潜水艦の発見や攻撃は困難だった。
 潜水艦を沈めるには浮上中に砲撃を加えるしかなく、潜水中では攻撃はほぼ不可能。そのため、浮上させるためにカッターボートで近付いて潜水艦の潜望鏡に布を被せるという、現代ではふざけているとしか思えない戦法が真剣に考えられていた。

「…まぁ、来年には来る日本帝国艦隊に期待するしかあるまい。あの国なら潜水艦に対する有効手段も持ち合わせているかも知れんからな」

 日露戦争に投入されて未だに公開されていない戦車など、日本帝国は他国には無い様々な兵器を有している国なので、自分達が知らない対潜水艦兵器や戦術を有している可能性が高かった。
 原状のイギリスや連合国としては、新たにヨーロッパ戦線に参加する日本帝国艦隊に期待を寄せる他無かったのだ。



「日本帝国と言えば、開戦直後からドイツのアジア植民地を次々と占領し、現在では全てを支配したのだったな」
「はい、日本本土に近いマリアナ諸島やカロリン群島ではなく、わざわざ遠いサモアやビスマルク諸島、ニューギニア島から占領していったとの事です」
「ふむ…明らかにオーストラリアやニュージーランドに取られるのを警戒したのだな」

 普通に考えれば近い所から占領して補給線を確保してから進軍するというのに、日本帝国はわざわざ1番遠い所から占領するという全く逆の事をした。これは、どう考えても比較的近くのオーストラリアやニューギニアに取られる前に取るための行為だ。

「えぇ…おかげでオーストラリアやニュージーランド、特にオーストラリアが強く反発しました…」
「……だろうな」

 宗主国であるイギリスにとって、オーストラリアの白豪主義は頭痛の種だった。別に白人至上主義は珍しい事ではないのだが、問題なのは他国が唯一例外とする日本人でさえ、白豪主義の前では差別の対象なのだ。
 おかげで日本帝国とオーストラリアの間に人種間のトラブルが起きる度に、宗主国たるイギリスが引っ張り出されて仲介に入らなくてはならない。
 もしも日本帝国が史実日本ぐらいだったならそこまで問題にはならないのだが、日本帝国は強大な軍事力や技術力、領土を誇る超大国であり、更にはイギリスは同盟によって他国よりも日本製工作機械の優先販売権を得ているのだ。そんな国との関係は極力悪化させたくないのだが、オーストラリアが問題を起こす度に宗主国たるイギリスも日本帝国との関係悪化が避けられない。
 あまりにも目に余るので「挑発した挙げ句に戦争になっても助けない」と脅したせいか、最近では減少傾向にあった。
 しかし、今回の日本帝国のあからさまな行動によって白豪主義が再燃され、オーストラリア政府はイギリス政府に日本帝国に対する苦情を伝えてきた。しかし、イギリス政府としても日本帝国軍のヨーロッパ派兵を要請しているのだから日本帝国に苦情を言う事は出来なく、仕方なくオーストラリア政府の苦情を黙殺。そしてバカな真似はするなと命令するしかないのだ。
 これにオーストラリア政府は不満を募らせるのだが、流石に日本帝国と戦争になれば頼りのイギリスは助けてくれないだろう事は分かっているので、仕方なく命令を受け入れて自重している。

「エクスコン共は現実が理解出来んのか?」

 エクスコンとはイギリス人がオーストラリア人に使う蔑称で、意味は受刑者。
 これはオーストラリアが元々流刑地として使われていたため、犯罪者の子孫と皮肉っているのだ。

「まぁ我々ヨーロッパ人と違い、オーストラリアは周りが有色人種ばかりですからね。だから白豪主義でも掲げないと自分達の優位性が保てないのでしょう」
「ふん、領土と気勢だけは大きい国だからな」

 侮蔑の感情を隠すこと無くアスキスは言い切る。
 アスキスなどイギリス政府から見れば、オーストラリアは白人至上主義に縋って現実が見えていない愚か者で、現状ではイギリスのお荷物でしかない。失うのは痛いが、だからと言ってオーストラリアと引き換えに日本帝国と戦争になるのでは釣り合いが取れない。
 そのため、最悪イギリスはオーストラリアを切るつもりだった。もし戦争が起きそうならオーストラリアを生け贄に差し出し、インドやシンガポールなど他のアジア領土を日本帝国の侵攻から守るつもりなのだ。


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