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11 嵐の前の静けさ
 1903年(皇紀366年)



 アメリカ、パナマ運河地帯永久租借。

 建設しているパナマ運河が欲しいアメリカはコロンビアと交渉し、資金を支払うことを条件にパナマ運河を建設しそれを支配することを認めさせるヘイ・エルラン条約を締結した。しかしコロンビア議会は金額を不服として条約を批准しなかったため、アメリカはパナマの独立派を支援してコロンビアからの独立をさせた。
 これによってアメリカはパナマ新政府と運河条約に調印し、パナマ運河地帯がアメリカの支配下とする事に成功した。








 ロシア、満州撤兵不履行。

 奉天のロシア軍は一旦は停車場に向かって行軍を開始したが、結局元の兵舎に引き返して満州に居座る。
 これに清国は約束が違うと抗議したが、ロシアは撤兵のためにとして更に7項目の要求を清国に突き付ける。しかし清国は要求を拒否。するとロシアは再南下を開始して奉天を占領。更には旅順に極東総督府を設置した。
 こうして、一気にロシア対日本の戦争機運が高まった。

 このロシアのあからさまな動きに対し、日本政府は戦争回避のための日露交渉を開始。しかし国民の誰もが交渉が上手くいくとは思っておらず、むしろさっさと開戦しろという意見がほとんどだった。
 史実の日本ならば、大国であるロシアに勝てる筈が無いので何とか回避が出来ないか最後まで粘っていたが、日本帝国は逆に戦争がしたいのでさっさと初めてしまいたい。しかし、今からロシアに攻め入るとシベリアに着いた頃には冬将軍が訪れてしまい、流石の日本帝国軍もシベリアの冬はキツイので史実の2月まで引っ張る事になった。









 北郷の屋敷では日露戦争に向けての報告が行われていた。

「……いよいよ来年、待ちに待った日露戦争が始まる。特に大事なのが北方制圧作戦だが、準備は万全か?」

 北方制圧作戦とは極東、シベリア、ウラルを占領する日露戦争において最も重要な作戦であり、この作戦のために日露戦争を起こすと言っても過言では無い。

「はっ、既にロシアの劣悪な環境下でも問題なく運用出来る車両や武器の生産、配備は完了し、冬季戦に備えた訓練も万全です」

 この時代、極東やシベリアの交通インフラは無いも同然。唯一あるのはシベリア鉄道ぐらいで、舗装された道路などほぼ皆無。そのため、戦闘車両や装備についてもシンプルで壊れにくいソ連製を参考にした物が多い。
 また、シベリアの極寒に耐えられるように北方制圧作戦に動員される兵士達は北海道や千島、青森での訓練を重視していた。

「そうか。……やはり日露戦迄に偵察衛星の開発は間に合わないのか?」
「…残念ながら。送信に必要な太陽光パネルや燃料電池の開発にはまだ時間が必要との事で、日露戦には間に合いません」

 これが北郷にとって日露戦争に向けて唯一の不満だった。偵察衛星が完成すれば敵の動きを直ぐに察知出来て非常に役立つのだが、いかに諸外国より優れた技術力を有する日本帝国でも偵察衛星開発は難しかった。
 初期の偵察衛星のように、地上の写真を取らせた後に落下させて回収する事は既に可能なのだが、衛星の回収を目撃される可能性があるので使えない。

「……ならば仕方あるまい。日露戦には高高度偵察機による撮影で何とかしよう」

 高高度偵察機とはアメリカのU-2偵察機を参考にした物で、高度2万~3万mから高性能カメラで地上を撮影する偵察機だ。現代では防空ミサイルによって撃ち落とされる可能性があるが、ミサイルなど無いこの時代においては撃墜手段は無い。

「はい……ですが輸送ヘリの開発は間に合いました。既に量産体制に入っており、開戦までには必要な数がそろうかと」

 輸送ヘリとはMi-6の事であり、当初はロケット弾ポッドを持つMi-8が良いのではという意見も出たが、積載量の多さからMi-6に決定した。

「ほぉ、それは喜ばしい。これで前線への物資や兵員輸送の速度は飛躍的に上がるな」

 前の世界での北方制圧作戦は20年かけてウラル山脈までを制圧する予定だったのだが、この世界では僅か1年で制圧しなくてはならない。なので大量に物資を輸送するためにどうしても輸送ヘリが必要だった。

「他にもスノーモービルや雪上車、大型除雪車も配備済みですし、冬季装備も万全ですので、厳寒期でなければ冬も進軍は可能です」

 冬季装備は陸上自衛隊の冬季戦技教育隊の装備と同等か少し下ぐらいで、マイナス30℃までなら耐えられる装備だ。

「それは頼もしいが、流石にナポレオンのように冬将軍に挑む愚は犯さん。シベリアの冬は早い。10月には進軍を停止し、速やかに越冬準備を整えなければ多大な被害が出るだろう」

 場所によってはマイナス50℃を下回るシベリアの冬では、流石の日本帝国軍でも成す術が無い。ただ冬が過ぎ去るのを待つだけだ。
 それに、越冬中はただ待つだけではなく、補給路のために交通インフラを整える必要がある。シベリア鉄道は場所によっては微妙にレール幅が違うので、安全性のために新たに鉄道を敷設しなければならない。他にも、道路も戦車が通過しても問題無い分厚いコンクリートで整備しなくてはならないなど、やるべき事は沢山あるのだ。



 北方制圧作戦についての最後の詰めを終わらせた後、表向きの艦隊や満州侵攻作戦についてに移った。

「河内級戦艦5隻は既に就役し、艦隊運動についての訓練も終えました。現在はロシア艦隊との戦闘を想定した演習を行なっています」
「そうか……史実で大日本帝国海軍はロシア海軍に勝利したが、奇跡的な勝利など幸運に恵まれた場面が多々あった。
 しかし、我が軍は奇跡的な勝利など求めていない。必然的な勝利でなければならないのだ」
「はっ、重々承知しております」
「ならば技能を限界まで引き上げるのだ。
 ロシア海軍に比べ表向きの日本帝国海軍は量では負けているが艦の性能では勝っている。技能でも勝れば負ける事はまず無い」
「分かりました、訓練濃度を更に密に致します」
「うむ、表向きの日本帝国海軍は国の顔だ。勝利以外は許されない」
「畏まりました」

 こうして、日露戦争に向けての訓練や演習の要求難度は更に上がる事となった。
 日本帝国軍はその性質上、陸海空共に表向きの兵器と本来の兵器の2種類があるため、どうしても練度は二分される。その分を敵国より新型兵器を使う事によって補っているのだが、今回の日露戦争は日本帝国にとって生存圏を賭けた大戦争であるため、特に大事である海軍の表向きの艦隊を優先させた。
 勿論、現段階においても日本帝国海軍の表向きの艦隊は弱くない。何しろ日本帝国の予算は無限なので、金がかかる訓練や演習を好きなだけやれる。更には、北郷が訓練や演習の標的として無線誘導出来る艦隊をコピーしているのでより実践的で効率的な訓練や演習が出来ている。間違いなく敵国であるロシア艦隊は勿論の事、大日本帝国海軍よりも実力は上なのだが、病的なまでの臆病者である北郷はまだ安心出来ず、更なる向上を命じた。



「海軍は分かった。では朝鮮や満州に上陸する海兵隊や陸軍はどうなっている?」

 もし北方制圧作戦の部隊と同じ装備や兵器を使えれば、旅順要塞や奉天も一月とかからずに落とせるだろう。しかし、それでは今まで兵器レベルを隠して来た意味が無いため、朝鮮や満州で使える兵器レベルは制限される。

「海兵隊や陸軍につきましてもこの時代相応の装備や兵器の配備は完了し、一通りの訓練も終了しました」

 ちなみにこの時代相応の装備とは九九式小銃、M1911ガバメント、手榴弾、空冷式機関銃、速射砲などだ。義和団事件の時とほとんど変わっていないように見えるが、実際はかなり変わっている。
 先ず大きいのガバメントで、この時代にも自動拳銃は発明こそされているがまだ技術が未熟で、幅広く使われるようになったのは1908年にルガーが開発したP08からだ。そして手榴弾も開発されたのは第一次大戦中の1915年なので、この時代ではまだ導火線が付いた手投げ弾のみ。
 このように、北方制圧作戦部隊と比べるとどうしても見劣りするが、この時代からして見れば最新装備で固めているかなり贅沢な軍隊だ。

「そうか、陸軍も海軍同様に更なる練度向上に努めるのだ。
 …言うまでもないだろうが、史実の大日本帝国陸軍のような無謀な突撃を行うでないぞ」
「分かっております。大日本帝国軍と我が日本帝国軍の兵士の値段は大きく違いますので、そのような無駄に被害の大きい作戦は行えません」

 日本帝国軍は予算や兵器を無限に増やす事が出来るので、相対的に増やす事が出来ない兵士の値段は高い。逆に、貧乏な大日本帝国軍では兵士の値段は安い。大日本帝国軍にとっては徴兵可能な兵士はハガキ一枚分の価値でしかないので、軍馬の方が高かった。



「分かっているなら良い。
 ……そういえば陸軍だけではなく、日本帝国軍全体に捕虜になった際の訓練は行なっているのか?」

 前の世界では勿論捕虜の扱いに対する条約はなく、敵の捕虜になれば虐殺されるのが当たり前だった。逆に日本帝国では捕虜は何れ新たな三等国民になるので、それ相応に扱って親日感情を持たせていた。
 それでも敵に捕まればまず間違いなく殺されるので、前の世界では捕まる前に少しでも多くの敵を巻き添えに自決しろと命じていた。
 しかしこの世界ではジュネーブ条約やハーグ陸戦条約が制定されているのでむやみに捕虜を殺す事は出来ない。特に、日露戦争はこのハーグ陸戦条約が制定されたばかりの戦争だったため、両国共出来る限り条約を守った。
 大日本帝国は他国に野蛮な国と思われないようにとジュネーブ条約を必死に遵守し、ロシア軍捕虜に小遣いをやって酒や博打も公認し、特に労働などはなくただ気ままに過ごさせて道後温泉にも入れた。ロシアにしても、後のソ連時代には考えられない程に大日本帝国軍捕虜を人道的に扱った。
 日露戦争は捕虜に対する人道的配慮の絶頂期だったのだ。後は衰退する一方。

「ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約について詳しく説明しました。
 捕虜になった際には名前、所属、階級以外は全て黙秘し、脱走など反抗はせず終戦を待てと命じてあります」
「うむ、それで良い。日露戦争においてはロシア側も最大限の人道的配慮を取る筈だ。ならば必要最低限以外は黙秘し、危険が高い脱走はせずに終戦後の捕虜交換を待つ方が良い。
 ロシア軍捕虜を収容する収容所はどうなっている?」
「既に対馬に建設致しました。収容所とは名ばかりで、高い塀と鉄格子がついたホテルに近いです」

 収容所についての書類を見て北郷も苦笑する。

「…改装すれば立派な高級ホテルとして経営出来そうだな。……まぁ良い。今回の戦争でロシアはかなり痛い目に合うんだから、これぐらいの役得は目を瞑ろう」

 書類を置いた後、再び真剣な目をして北郷は尋ねる。

「……尋問や拷問に対しての訓練はどうなった?」
「ある程度の尋問や拷問までなら耐えられる訓練は致しましたが……流石に本格的な拷問に耐えられる訓練はあまりにも厳しく、脱落者が続出するでしょうから特殊部隊員などにしか施せません」

 幾ら狂信的とも言える愛国心があろうと、長く苦しい拷問の前では無力だ。人間なら永遠に続くと思える痛みに耐えられる筈がない。

「……まぁやむを得んだろう。訓練で脱落者が続出しては本末転倒だからな。
 だが拷問を受けた際に、耐えられなくなったら直ぐに自決出来る装備を開発するべきだな」

 日本帝国軍では兵士であろうと重要な情報を持っている。人的価値は高いが、情報漏洩は不味いので自決の訓練も始める事となった。



「各国から観戦武官の問い合わせが殺到していますが、いかが致しましょう?」

 表向きには戦争を回避するために日露交渉が開始されたが、交渉が上手くいくなど日本人でさえ信じてないのだ。外国が信じる筈もなかった。間違いなく日本とロシアは戦争になるだろうから、新たな戦訓を得るために各国は日露両国に観戦武官受け入れを要請していた。

「……何人ぐらいだ?」
「合計しますと120人ぐらいです。イギリス、アメリカ、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、スペイン、イタリア、スイス、ノルウェー及びスウェーデン、ブラジル、チリ、アルゼンチン、オスマン帝国と言った13ヶ国が観戦武官受け入れを要請しています」
「120人か……」

 史実では70人程度だったが、未だ未知数の日本帝国の戦力をより詳細に知りたい各国は史実より多くの観戦武官を派遣していた。

「最も多いのはイギリスで、45人の受け入れ要請をして来ています。次に多いのがアメリカで25人です」
「……同盟を結んでいるイギリスは当然の事だが、アメリカも随分多いな」

 出来る事なら観戦武官は受け入れたくない。満州や海戦ならまだしも、北方制圧作戦に使う戦車や航空機、ヘリの情報は極力漏らしたくないからだ。しかし受け入れを拒否すれば各国との関係は当然悪化し、何より同盟を結んでいるイギリスからの受け入れ拒否は不可能だ。
 ……それに、どれだけ巧妙に隠そうとも実際に秘匿兵器を目撃したロシア兵からロシア政府に伝わり、結局は世界中に知れ渡るのだ。だったらある程度調整した情報をこちらから公開した方が良い。

「……観戦武官は受け入れる。しかし見せるのはあくまで満州や海戦のみで、北方については一切許可しない。
 それと、同盟を結んでいるイギリスの観戦武官にのみ河内級戦艦への乗船を許可せよ。勿論常時監視を付け、下手に探られないように警戒するのだ」
「はっ、畏まりました」


 こうして、日本帝国の戦争準備は整ったのだった。後は開戦あるのみ。









 日本帝国が開戦までの最終調整を行っている時、イギリスでも日露戦争についての話し合いが行われていた。

「……いよいよ来年にはロシアと日本の戦争か…」

 首相に就任したばかりのアーサー・バルフォアはため息をつく。自国の事ではないのでそこまで気負う必要は無いが、日本帝国の未知なる戦力を知る絶好の機会なのでどうしても身が引き締まる。

「ロシアと日本による戦争回避の交渉は行われていますが……予想通り決裂するでしょう」

 ランズダウン外相も真剣な顔で報告する。

「ふむ……開戦はいつ頃になるのかね?」
「このまま何も進展が無ければ……来年の1月か2月には開戦と我々は予想しています」
「そうか……それでいつ頃に終わると予想している?」
「日本帝国の国力や戦力がイマイチ分からないので何とも言えませんが……私の予想としましては1年、長くても2年以内には終結するかと思われます」
「ほぉ、それは何故かね?」
「日本帝国がシベリアにでも攻め込むのなら長期戦もあり得ますが、日本帝国も冬将軍に挑む愚は犯さないでしょうからまず無いかと。行ったとしてもサハリンやカムチャッカ半島、チェコトが限界でしょう。
 ですので必然的に日本帝国が攻めるのは朝鮮や満州となり、後はロシアの太平洋艦隊とバルト海艦隊を撃滅して早期講和と私は予想します」

 ランズダウンの予想にバルフォアも頷く。それが最も可能性が高いシナリオだからだ。
 幾ら日本帝国の技術力が進んでいるとは言っても、ロシアの奥地に攻め入るなど正に自殺行為。ナポレオンのように奥地へ奥地へと引き摺り込まれ、冬将軍によって撃退されるのがオチ。ならばロシア本国には攻め入らずに朝鮮や満州を占領し、ロシア艦隊を撃滅した方が比較的少ない労力で勝利を収められる。
 ただし……そのためには日本帝国艦隊がロシア艦隊を撃滅する必要がある。

「日本の艦隊はロシアの艦隊に勝てるのかね? 質的には日本帝国が勝っている事は否定出来ないが、量では完全にロシア側が勝っている」

 日本艦隊がロシア艦隊を撃滅出来れば早期講和はあり得るが、もし逆に日本艦隊が破れればロシア軍によって日本本土は占領されかねない。もしそうなれば日本帝国は終わりだ。

「確かに数においてはロシアが有利ですが、戦争に重要なのは数だけではありません。兵器や兵士の質、それに士気の高さです。
 ロシア軍兵士にとって日本との戦争は祖国から遠い戦場であり、例え負けたとしても祖国が滅びる事は無いので士気は上がりません。逆に、日本の兵士にとってはロシアとの戦争は祖国存亡をかけた戦争であり、自分達の敗けが祖国の滅亡に繋がるかも知れないので嫌が応にも士気は上がります」
「……成る程、それなら確かに日本の兵士の士気は非常に高く、もしかしたら死兵となってロシア軍に襲いかかる可能性もあるな」

 自分の命を省みない死兵は恐ろしい。もし遭遇すれば多大な被害や士気の低下は免れない。

「それなら日本帝国軍が勝利する可能性があるな。
 ロシア皇帝にしても、満州を失った所で何とでもなる。太平洋艦隊やバルト海艦隊を失えば講和に乗る事も十分あり得る」

 ロシア皇帝、ニコライ2世は世界一の大富豪であり、世界の10分の1程の莫大な資産を持っているのだ。そんな皇帝からして見れば念願である不凍港だとしても、そこまでの痛手ではない筈だ。



 観戦武官についてに移った

「日本帝国軍への観戦武官派遣は問題無いかね?」
「45人の観戦武官を派遣し、何とか戦艦への乗船許可も得ました」

 海洋国家であるイギリスが最も知りたいのは戦艦であり、何としてでも日本帝国軍の戦艦に乗り込み、戦訓や内装が知りたいのだ。

「噂に聞く日本帝国軍の新鋭戦艦についてはどうなったのだね?」

 日本帝国政府内の情報提供者によれば、日本帝国軍はロシアとの戦争のために戦力増強として、新型戦艦を建造していたとの情報が入っていた。情報を聞いたイギリスは新型戦艦についての調査に乗り出すも、現在においてもあまり有益な情報は得られてない。

「何でも新機軸を盛り込んだ今までに無い戦艦だそうだが、その戦艦は既に完成しているのかね?」
「日本帝国政府の話によればカワチ級という戦艦で、全部で5隻造られ既に全艦完成し、現在はロシア戦に向けて急ピッチで訓練中との事です」
「既に完成していたのか…それも5隻も……」

 情報提供者によればこの世界に来てから建造を開始したというので、僅かな期間で戦艦5隻を建造したという、日本帝国の国力の高さを改めて思い知らされる。

「そのカワチ級への観戦武官の派遣は出来たのかね?」
「はい、初めは断られましたが同盟国である事などを何度も説明しながら頼んだ結果、同盟国への配慮として我が国のみ乗船を許可されました」
「ほぉ! それは喜ばしいニュースだ」

 バルフォアは二重の意味で喜んだ。
 1つ目は日本の新型戦艦への観戦武官を許された事。2つ目は自国のみが乗船を許された事だ。
 上手く行けば日本が公開しない情報を自国のみが手に入れる事が出来、現在建造中の戦艦にも取り入れる事が出来るかも知れないからだ。

「そのカワチ級戦艦にはもう乗船出来たのかね?」
「いえ、まだ訓練が終わってないからと断られました。しかし就役し次第、乗船許可は降りるとの事です」
「ふむ……出来る限りロシアに新型戦艦の情報を教えたくないのだな。
 そのカワチ級はロシア戦に間に合うのかね?」
「遅くても来年の4月には就役すると言っていましたので、恐らくカワチ級の就役を待ってからロシアと戦うのでしょう」
「…では来年の4月に開戦する線が濃厚だな」



 各国でも似たような会話が行われ、新型戦艦の就役後の3月か4月に開戦と予測する。
 日本帝国の新型戦艦についてはロシアにも情報は行ったが、ロシア側はそこまで心配はしていなかった。幾ら異世界から来たとは言え黄色猿の国、そこまで強い戦艦でないだろうという何ら根拠の無い楽観論が占めていたからだ。
 むしろ日本の発達した技術力を接収するなどの戦後についての話し合いすら行われる程だ。勿論ロシア人全員が楽観視している訳ではなく、新型戦艦が就役する前に攻め込んだ方が良いという意見も出たが、一応まだ日本と交渉しているのだからまだ手は出せないという慎重論が大多数を占めていたので、あえなく封殺された。
 後にこの意見に従っていればと後悔する事になるのだが、今はまだ誰も気付く者はいなかった。









 真空管の白黒テレビは既に完成しているが、流石に1903年でテレビ放送はまだ早すぎるので先ずは映画やニュース映画の上映を開始した。

 各地に公営や北郷グループなど私営の映画館を幾つも建設し、料金設定も大衆向けなのでかなり安い。
 技術的には現代の映画のようにカラーでトーキーも出来るのだが、やはりこの時代ではまだ早いので白黒で無声となる。映画のセリフや効果音についてしばらくは活動弁士が活躍する事となった。
 上映内容は無声なので分かりやすくオーバーな表現のコメディが主体だ。しかしニュース映画などでは外国の街並みやその国の人々、または戦意高揚のために砲撃訓練の様子などを流している。


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