61 最後通告
1942年4月3日
後に、歴史的に重要な意味を持つ事となるこの日の深夜、日本帝国軍占領下のカリフォルニアで数機の深山(B-52)が飛び立ち、メキシコ方面からアメリカのニューメキシコへと侵入した。部隊は速やかな任務達成のために、燃料消費は激しくとも高高度の中1000km/h以上もの速度を出しながら、ロスアラモスを目指して飛行していた。
ちなみに、レシプロ戦闘機全盛のこの時代において、レシプロ戦闘機が出せる最大速度は700km/h強が限界。ジェット戦闘機においても、この時代の技術力では出せても800km/h強が限界だった事から、この時代に深山に追い付ける戦闘機は存在しない。
しばらく飛行した後、部隊は目標のロスアラモス原爆研究所を確認。アメリカ軍はこの研究所の存在を自国政府内ですら必死に隠していたが、衛星を持つ日本帝国政府にとっては丸わかりであり、研究所の建設時から常時監視が行われていた。
「目標確認、爆弾槽開け」
「了解、爆弾槽開けます」
深山の爆弾槽が開き、中から大きな爆弾が顔を見せる。通常ならは爆弾槽にはビッシリと爆弾が詰められているのだが、今回は1つだけしか搭載されていなく、他の深山も映像などの記録用だ。
「爆弾槽に異常無し」
「了解、目標をロックオン…………投下!」
「…投下を確認。全機、全速撤退!」
今まで顔色1つ変えずに投下までを行なって来たパイロット達にとっても、緊張の一瞬だった。
爆発に巻き込まれないよう必死に退避するのもあるのだが、何より一番の心配な事は、キチンと起爆するのかだった。日本帝国は30年以上前に原爆を開発し、今まで幾度となく地下核実験を行なって来てはいるものの、今回のように地上での起爆は初めてだった。地上で核兵器を起爆させれば、核爆発特有の強力な閃光や衝撃波、巨大なキノコ雲などが発生するため、この時代の技術レベルでも見つかる危険性が非常に高いので地上では核実験は行えず、地下でしか出来なかった。
投下された爆弾はパラシュートが開いた後、緩やかに降下して設定高度に達した瞬間っ…深夜にも関わらず眩い閃光が走り、とてつもない衝撃波と爆音を生み出した。
「起爆確認っ!」
「了解、帰還するぞ」
任務中故に表面上には現さないが、パイロット達は歓喜していた。自分達の働きが帝国にとってどれほどの意味を持ち、帰還後には昇格や勲章が期待出来る事もあって、上機嫌でカリフォルニアの基地へと帰還した。
「……ロスアラモス研究所が消滅…しただと…?」
突如入ってきたニュースに、ルーズベルトは呆然としながら聞いた。
「……はい、本日深夜、ロスアラモス研究所にて強烈な閃光と爆音が確認され、確認のために研究所に行ってみた所……研究所は消滅していました」
「消滅とは一体どういう事なのだっっ!!? 実験の失敗でもあったのかっ!!?」
ルーズベルトは必死に聞く。何しろ唯一の希望が無くなってしまったのかも知れないのだから。
「…いえ、実験の失敗などではありません。……日本帝国軍の大型爆撃機による攻撃によるです…」
「日本帝国軍の?………まさかっ!?」
「…閣下のご想像通り……原子爆弾による攻撃です」
「に、日本帝国は……原爆を……開発したのか…」
車椅子に座っているので大きなリアクションこそ無かったが、もしもルーズベルトが健常者だったならガクッと椅子に座り込んだだろう。
それほどルーズベルトにとって、日本帝国の原爆開発のインパクトは大きかった。
「……研究所は全て消滅したのか?」
「……残念ながら。レーダーで爆撃機を感知した時には手遅れだったらしく……研究者達も纏めて失いました…」
「…………」
希望が全て潰えた。もしも研究者が残っていたなら新たに研究所を建て、時間はかかるが1から開発も出来た。しかし、研究者も全て失ったのなら簡単にはいかない。簡単に建てられる研究所とは違い、研究者達を育成するには膨大な時間と資金、そして何より才覚が必要であるため、失ってしまっては二度と手に入らない。
ロスアラモス研究所には全米から集められた天才達や、ドイツなどから逃れてきたユダヤ人研究者が大勢いたのだ。それらが全て失われてしまったのだから、人類にとっても重大な損失と言えよう。
「……爆発の威力は?…」
「…まだ調査の段階ですので大まかにしか言えませんが、恐らく威力は20kt程度と思われます」
「…開発中の原子爆弾とほぼ同等か…」
そしてもう一つの絶望が……唯一の希望を日本帝国が先に手にしてしまった事だ。
今まではどれほど日本帝国軍との間に差があろうとも、原子爆弾さえ開発出来れば逆転の目があった。未だ原爆の投下可能なB-29の開発が出来ていないので運用は難しいが、少なくとも本土に居座る日本帝国軍を撃退する事ぐらいは可能だった。そして撃退した後に講和会議を開き、アメリカが少しでも優位に立てるよう交渉をする積もりだったのだ。
…しかし、その希望は潰えた。アメリカより先に日本帝国が開発し、唯一の希望だった研究所が吹き飛ばされた事で最早アメリカに勝ち目は無くなった。アメリカがもう一度原爆の開発を試みようとも、黄金より貴重な研究者達が失われてしまったのでは開発は大幅に遅れ、何時開発出来るのか分からない。
一方、原爆どころか運用手段すら既に持っている日本帝国はアメリカのどこにでも原爆を投下する事が可能であり、更には今までの実績から言ってアメリカ軍機が日本帝国軍機を撃墜出来るとは思えないので、日本帝国は好きな所に落とす事が出来る。
「…ロスアラモスは砂漠地帯だから被害は最小限に出来たが……こ、これがっ…ニューヨークなどの大都市だったならっ……」
その先は言えなかった。想像してしまったからだ……ニューヨークに大きなキノコ雲が発生して、ビル群や自由の女神像が倒れ、アメリカが崩壊していく光景が。
「……閣下…日本帝国政府からの連絡が入っています…」
「……講和の要求か?」
今まで散々突っぱねて来たルーズベルトだったが、今回ばかりは素直に受け入れるつもりだった。彼我の戦力差は圧倒的であり、頼みの綱だった原爆も無くなった。
いかにルーズベルトが人種差別主義者だと言え、ここまで勝ち目が無ければ諦めるしかなかった。
「…今度はミシシッピ川以西でも要求してきたか?」
半ば自棄になりながも、ルーズベルトは現実逃避する事なく聞いていた。
領土の半分以上を失うというのはあまりにも痛すぎるが、大事な事はアメリカ合衆国を存続させる事だと改めて確信していたため、例え自分の人生が終わりになろうとも講和を受け入れるつもりだった。
……しかし、日本帝国政府は…北郷はそこまで甘くなかった。
「…いえ………日本帝国政府の要求は……我が国の無条件降伏です…」
「…は?」
(今何と言ったのだ? 聞き違いか?)
ルーズベルトは思わず聞き返さざるを得なかった。例えそれが何ら意味が無いと分かっていてようとも、万々が一の望みに賭け、聞き返した。
「…今…何と言ったのかね?」
「…日本帝国政府の要求は……我が国の無条件降伏です」
「…無条件降伏だとっ!?」
ルーズベルトは激昂する。
国を守るために屈辱的な講和でも受け入れるつもりだったのに、日本帝国政府が突き付けて来たのは無条件降伏。これでは交渉すら出来なく、最悪アメリカが無くなりかねない。
「講和でさえ最大限の譲歩だというのに、無条件降伏なぞあり得んっ!! 奴等は何様のつもりだっっ!!?」
圧倒的な戦力差と最終兵器たる原爆すら保有という、状況的に見れば日本帝国政府の無条件降伏要求に不思議は無いのだが、人種差別主義者であるルーズベルトにとっては驚天動地の要求だった。
偉大なる白人国家であるアメリカが、有色人種国家である日本帝国に敗けを認め、講和を結んでやるのがルーズベルトにとっての最大限の譲歩であり、黄色猿に国を滅ぼされかねないなど、到底受け入れられるモノではなかった。
「奴等がその気ならば良かろう、徹底抗戦だっ!」
「っ!? まだ続けられるのですかっ!?」
大統領の言葉に補佐官は仰天する。
確かに無条件降伏など屈辱以外の何物でもなく、アメリカが併合されて消滅してしまう可能性はあるが、既に勝敗は決しており、どう贔屓目に見てもアメリカに勝機は無い。ならば早目に降伏して少しでも被害を抑え、勝者たる日本帝国に慈悲を乞う方がまだ建設的だ。
「講和だったならまだ納得も出来た! 大幅に領土を割譲されようが、アメリカ合衆国が存続するなら何れは再起を期待出来よう。
しかし、無条件降伏では最早その希望は無い。今までの日本帝国のやり方から考えるに、無条件降伏などすれば間違いなくアメリカ全土を併合し、合衆国そのモノを無くす筈だ! そんな事が認められるかっ!?」
ルーズベルトの言う通りで、日本帝国相手に無条件降伏などすれば併合は免れない。
韓国や中国という例外はあれど、あれは幾ら洗脳教育を施そうが日本人になれそうにないという、例外中の例外であり、大抵の人種なら日本帝国は受け入れる。特に、アメリカ人の国民性は単純で操作がしやすく、まだ建国してから150年程度と日も浅いため、幾らでも意識改革が可能だ。少なくとも何千年も変わらなかった中華や朝鮮に比べれば、ずっと楽に日本人化が進むだろう。
「……確かに無条件降伏などすれば合衆国は日本帝国に併合され、地図上から消滅してしまう可能性が非常に高いです。それを何とかして回避したい気持ちは勿論、私にもあります……しかし、戦況から言って最早我が国に勝ち目はありません。唯一の希望だった原子爆弾がご破算になり、逆に日本帝国軍が原子爆弾を保有している現状では……他に選択肢は無いかと…」
補佐官は何とかルーズベルトを思い止まらせようと説得する。
このまま対日戦を続けていても勝てる筈が無く、それどころか都市部に原子爆弾が降り注ぐという悪夢すら起きかねないのだ。
「…原子爆弾は夢と消えてしまったが、アメリカはまだまだ十分な戦力を有しているから戦争は可能だ。
それに、新型戦闘機であるP-47やP-51の量産も始まった。これらがあればあの忌々しい爆撃機にも対抗出来る筈だ」
P-47サンダーボルトと、P-51マスタングは高度1万mまで上がる事が可能で、速度も700km/h近く出る高性能機だ。史実では戦力化されるのは43年以降だったが、この世界では戦況の悪化から開発が急がれ、何とか戦力化にこぎ着けた。
「た…確かに新型戦闘機は目覚ましい性能を見せ、レシプロ戦闘機としては間違いなく最高峰でしょう。…しかし、敵の主力はジェット戦闘機であり、最高速度はマッハに近く、更には対空ロケットまで搭載しているのです。…勝ち目は薄いかと…」
「やって見なければ分からん。
…それに、新型戦闘機の配備によって原子爆弾の投下を防げるかも知れん。研究者が遺したレポートによれば、原子爆弾はその威力と比例してとんでもない重量を誇るため、運用には大型爆撃機を必要とする。つまり、原子爆弾を扱うには大型爆撃機が必要であり、その大型爆撃機を落とす事が出来れば投下を阻止出来る!」
「……確かにそうですね…」
ルーズベルトがまるで名案を見つけたかのように話すが、補佐官の目は冷めていた。
確かに新型戦闘機ならば以前のような惨敗よりかはマシになるだろうが、だからと言ってレシプロ戦闘機がジェット戦闘機に勝てるとは思えないので疑問が付く。数で押せば何機か落とせるかも知れないが、それではキルレートが悪すぎてアメリカ軍パイロットがあっという間にいなくなってしまう。
「もし原子爆弾がロケット兵器に搭載されていたならば、流石に防ぐ手立ては無かっただろうから無条件降伏もやむを得なかったかも知れんが、大型爆撃機ならば何とか対抗手段はある。流石の日本帝国でも原子爆弾の量産はそう簡単ではない筈だから…原子爆弾を防ぐ事が出来れば交渉の機会を得られる。
……ミシシッピ川以西どころか五大湖までもを失いかねないが…それでも無条件降伏とでは雲泥の差だ。何とかアメリカ合衆国を残さなくてはならない……それがアメリカ合衆国大統領である私の最後の責務なのだから…」
ルーズベルトは悲壮な決意を固める。
最早この方法しか国家存続の手立ては無く、でなければ大人しく無条件降伏を飲んで少しでもアメリカ合衆国領土が残る事を祈るぐらいしかない。出来るならば2日前に戻って西部4州やパナマ運河での講和、いや、一番最初の講和要求を飲んでいたなら、西部4州どころかハワイすら失わずに済んだかも知れない。
ルーズベルトはその事を何度も何度も悔やんだが、最早過ぎた事でしかないので振り切り、今は合衆国が何とか存続するよう、無理矢理にでも己を奮い立たせるのだった。
一方、そんなルーズベルトを見る補佐官はまるで別の事を考えていた。彼はルーズベルトと違い、祖国が日本帝国に勝てる所か講和さえ不可能だと確信していた。
日本帝国の国力を考えるに、例え原爆を搭載した爆撃機を落として原爆投下を阻止した所で、日本帝国は新たに原爆を作ってまた爆撃機を飛ばす事も容易いだろうし、最悪地上軍を前進させて正攻法でアメリカを蹂躙する事も出来る。普通の国ではアメリカ全土を占領下に置くなど不可能だが、何もかもが規格外の日本帝国軍なら十分可能に思われた。それに、もしも原爆が失敗すれば日本帝国軍は再び絨毯爆撃に切り替え、中国のようにアメリカ全土を爆撃して何もかもを破壊し尽くす可能性すらある。
つまり、どんな手を取ろうがアメリカの敗けは確定しており、これ以上の抵抗はいたずらに被害を増やすだけの無意味なだけである。
では何故彼はルーズベルトを止めないのかと言うと、目の前の男は既に決断しており、説得をした所で聞き耳を持つ所か自分をクビにしかねないので、とりあえずは従っておいて、裏で活動する事にしたのだ。
(こうなったらこの男を弾劾して無理矢理にでも大統領の座から引きずり下ろし、一刻も早く日本帝国に降伏するしかない。そのためには軍の力が必要不可欠だが…確か陸軍参謀総長のマーシャルが何度も早期講和を訴えていたから、私の話にも乗ってくれるだろう。
…それにしても……大統領の弾劾が必要になる程落ちぶれたとはな……アメリカは…もう…終わったのだな…)
ルーズベルト同様に覚悟を決め、せめて負けるにしても祖国の損害を最小限に抑えるため、奔走を開始した。
……しかし、それはあまりに遅すぎる行動だった。
一方、無条件降伏要求を黙殺された日本帝国政府では、最終攻撃の準備が行われていた。
「ルーズベルトは無条件降伏を受け入れなかったか……愚かな」
北郷や戦略研究会メンバーは嘲笑する。
普通の国ならとっくに諦める程の戦力差が広がり、戦況も最悪。更には他国の助けも期待出来ない。
「まるで史実日本だな……史実のルーズベルトもこんな気分だったのか?」
既に勝敗は決まっているのに徹底抗戦を叫び、遂には原爆を投下されてもまだ敗けを認めない。あまりの愚かさに哀れみさえ感じる程だった。
「まぁ…こちらとしては好都合だ。恐らく原爆は大型爆撃機にしか搭載出来ないから、その原爆搭載機を落とせれば原爆を防げ、それが講和に繋げられるとでも思っているのだろう。…こちらの計画通りに…」
北郷は再び嘲笑う。わざわざこのために面倒な爆撃機による原爆投下をしたのだから。
戦術核ミサイルを使えばもっと簡単に、そして確実にロスアラモス研究所を破壊出来ただろうが、それではミサイルに対抗手段を持たないアメリカは屈伏するしかなく、今頃対米戦は終結していただろう。しかし、それでは日本帝国は困るのだ。
「後は最終攻撃でアメリカを完全に破壊するだけだな。併合する予定の土地を放射能まみれにしたくはないが…アメリカには邪魔なモノが多すぎる。
かつての繁栄を語るニューヨークのビル群、自由と独立を勝ち取った証の自由の女神像、世界有数の規模を誇る企業群、そして、大国の国家予算並みの資産を有する資産家達………何もかもが後の統治活動に邪魔だ…」
無限の資金や物資を有する日本帝国にとって、わざわざかつてのアメリカを思い起こさせるビル群や建築物を残す必要はなく、大企業達も、普通の国なら接収して新たな技術力などを手に入れるだろうが、遥かに進んだ技術力を有している日本帝国にとってほとんど価値は無い。
中でも一番の問題は、国家予算並みの財産を有する資産家達だった。
彼等に国という概念は無く、自分達の寄生先に相応しくないと思えば祖国でさえ潰しにかかる。アメリカは資産家達の国という言葉に相応しい程、資産家達を優遇し、減税や法改正など様々な便宜を図ってきた。そのため、多くの資産家達はアメリカを寄生先に選んだ。
しかし、その反対に日本帝国は国益を何よりも優先とするので規制が厳しく、資産家達に優しい国とは言い難い。なのでもし日本帝国の支配を受けたなら、資産家達は外国へと活動拠点を移すか、かつての住みやすかったアメリカを復活させるために独立運動や反日活動への資金や武器援助をしかねない。
千年以上を生きた北郷にとっても、資産家というのは厄介極まりない存在なのだ。
「開戦から今まで4度も講和を結ぶチャンスを与えてやり、最後通告として無条件降伏を提示してやったにも関わらず、それさせえも拒んだ。これほどまでに何度も何度も警告してあげたのだから……例え千万単位で死人が出たとしても問題はあるまい。
全ては警告を無視したアメリカ大統領、ひいては、その大統領を選挙で選んだアメリカ国民が悪いのだ」
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