カナリア 〜この想いを歌に乗せて〜 フロントウイング

2000年8月4日発売
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 多くのボーカル曲を使い、サウンド面で非常に豪華なものになっているということを聞いて手に取ったものの、最初の数分でテキストを読み続けることができなくなり、その後もリプレイしては中断、を繰り返し、結局コンプリートしたのは購入してから2年以上たった冬でした。

シナリオ

 主人公・八朔洋平(姓名とも変更可能)は、四国のある街に妹とともに引っ越してきた。慣れない街の二人暮らしの始まりだが、親戚が経営している楽器屋に足を運んだところ、彼は1人の女の子に目を奪われる。そして転入先のクラスで、その娘と出会うことになった。彼女が所属している軽音部に入った彼は、恋に部活に、多忙なる日々を送ることになる。

 

 シナリオ担当は、桑島由一、ヤマグチノボル、和音の各氏。

 主人公と出会ったヒロインがさまざまな悩みを抱えながら結ばれていく、という流れが基本なのですが、まず主人公の行動や思考のパターンに一貫性がないだけでなく、どの場面場面においても方向性がまったく見えません。このため、いろいろなイベントが発生しても、プレイヤーキャラクターが主体的に参加している気にはなれず、ただ引っ張られているようにしか感じられないのです。新天地で積極的に動いていたはずの主人公が、むしろ行動力をどんどん低下させて内向化したあげく、最後になってようやっと“壁”をクリアしたかのような流れになっていますが、結局主人公のパーソナリティはどういうものなのでしょうか。感情移入できるのできないのという次元の話ではなく、主人公という“視点”から世界を描くことができないのです。

 またヒロインの側を見ても、主人公に惹かれていく過程の描写がみごとに欠落しており、いくつかのイベントをクリアしていくと仲良くなった、というだけにしか見えません。綾菜など、ヒロインの悲劇性を濃くすることでエンディングの盛り上げをねらったのがミエミエなので、楽しいものにも感動するものにもなりえませんでした。めぐみなども、設定が突拍子もないうえに、主人公が(義務的にではなく自主的に)なぜその流れに入って行かなくてはいけないのか、さっぱりわからないのです。(当人にとって)重大な問題があるのはいいとしても、それをどうやって乗り越えていくのかという問題解決のアプローチが徹底的に省略され、悩んで答えを出してオシマイ、としか見えません。

 このため、主人公とヒロインとが結ばれても、満足感のようなものはなく、そこで物語がエンディングになることに対して納得することもできず、ただ「ああ、やっと終わったか…」と思ってしまいます。キャラクターそっちのけで物語のみがめでたくハッピーエンドになっても、見ているほうはハッピーにはなれません。

 

 それだけならまだしも、各キャラクターの行動や言動に対する描写がきわめて希薄なので、主人公が“そのとき、どのような状態におかれているのか”がリアルに伝わってこないため、なかなかイベントを楽しめないという面もあります。

 イベントの配置にしても、ストーリーの作りとマッチしているものとはとうてい思えません。学園祭の発表のためのバンドの練習をしているはずなのに、その学園祭のシーンがゲーム中ではほとんど出てこないというのは、いったいどうしてなのでしょうか。これにかぎらず、必要と思えるイベントが入らず、主人公が単に家と学校を往復するのみとしか見えない期間が長いこともあって、せまい覗き窓からゲーム世界を見ているような感じにさせられます。これが、私がこのゲームのプレイを何度にもわたって中断した大きな理由の1つです。

 

 また、テキストは基本的にモノローグと会話とが半々ぐらいで出てくるのですが、どちらも日本語の表現が非常に稚拙に感じられます。いくつか、“これは”と思えるフレーズを単発で出してそれをふくらませたと思われる表現が多いのですが、1行21文字の等角明朝フォントにはそぐわない、句読点の少ないテキストは読んでいて疲れます。さらに、その場その場で口先から出てくるような表現をそのままテキスト化しているとしか思えないことも多く、文章として破綻しているケースも少なからずありました。

ゲームデザイン

 放課後の移動画面でイベントを起こし、また発生したイベント中で出てくる会話の選択肢を適宜選んでいくタイプのアドベンチャーゲームです。一部の選択肢では、選択するまでの制限時間が設けられていますが、私がプレイした感触では、特に鍵となる重要なところでは制限時間がないものが多いようです。

 攻略対象となっているヒロインは、メイン2人とサブ3人の計5人で、各ルートに入るのはシナリオの後半なので、コンプリートするには前半部分がかなり重複します。また、毎朝妹に起こされるシーンと寝るシーンが必ず入りますが、似たようなパターンが繰り返されるうえ、たいしておもしろいものでもありません。リプレイする際にはけっこう面倒です。そのくせ、イベントの発生などが各ヒロインごとで重なっていたり、ヒロインごとに優先順位があったりして(きちんと確認したわけではありませんが、メイン2人が優先されるようです)進めるにはやや骨が折れました。ただし難易度はあまり高くなく、ハッピーエンドに到達するのは容易でしょう。

不具合・修正ファイル

 BGMが切り替わる際に、前のBGMが一部乱れて再生されるという不具合が発生しています。2003年12月23日現在、この問題に関する修正ファイルは公開されていません。

デモ・体験版

 いずれも、存在を確認していません。

操作性など

 対応OSはWindows95/98です。WindowsMe/2000/XPはサポート対象外となっていますが、私の環境ではWindowsXP SP1で問題なくプレイできました。CD-ROM2枚で、インストール時に必要なHDD容量は約580MB、プレイ時にはCD-ROMが必須です。私が購入した初回版には、ファンブックやオリジナルピックといったグッズがついていましたが、それよりも巨大な紙1枚のマニュアルが非常に使いにくいのが困ったところです。

 画面はグラフィックが640×480全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示との切り替えが可能です。下部に日付表示とメッセージウィンドウが表示されます。

 テキスト読み返し機能があるほか、「Ctrl」押下でメッセージスキップ(既読/未読の区別なし)ができますがあまり使いやすいものではありません。また「シナリオ」欄で触れたとおり、テキスト自体がメッセージウィンドウでの表示にあまり適していないこともあって、やや読みにくい点が指摘できます。

 セーブ&ロードは選択肢が表示されていない任意の位置で可能ですが、10個所というのは少ないでしょう。セーブすると、セーブ時の実日時とゲーム中の日付が記録されます。

 CGモード(ヒロイン別)はポジフイルムのような形でサムネイル表示され、ヒロインごとに達成率が分数で表示されます。Hシーンの鑑賞モードはありません。また、このゲームらしく、BGMモードもしっかり装備してあります。

サウンド

 BGMはCD-DAで演奏されます。オープニング曲があるだけでなく、エンディング曲がメインヒロインのほか、各サブヒロインごとに1種類ずつの4曲、合計5曲ものボーカル曲が用意されているのは豪勢です。BGMのレベルも総じて高く、各イベントシーンがこれらの曲によって支えられているという感じを強く受けます。

 音声は主人公以外フルボイスですが、特に男性陣の演技がなかなかよいですね。

グラフィック

 キャラクターデザイン担当は、片倉真二氏。ややのぺっとした感じがあります。 背景の構図がややありきたりという印象が否めないのですが、これは望みすぎでしょうか。

お気に入り

 特にありません。

総評

 各キャラクターは、割とベタであるものの、それなりにできてはいます。しかし、そのキャラクターがどのように動いていくかという部分で致命的な破綻がそこかしこにあったのが問題で、特にそれが主人公において顕著だったため、救いようがない状態になっています。

 サウンドのクオリティが非常に高い一方で、それ以外はすべてにおいて中途半端、引きつけるものがほとんど何も感じられませんでした。またそのサウンドにしても、各イベントの内容に見合ったものになっているとはいえ、逆にシナリオがそのイベントを使いこなせていないことを浮き上がらせてしまい、逆効果になっています。

 改善可能な問題点を列挙し、それによってしっかりしたゲームになった可能性はあるでしょう。しかし実際には、プレイして得られた徒労感は満足感よりもはるかに大きかったのが実際のところで、問題点を冷静に分析するにたるほどには、リプレイしたい気にもなりません。シナリオの展開とイベント間の連関がしっかりしていないため、凡作に甘んじたものと判断しております。

個人評価 ★★★★☆ ☆☆☆☆☆
2003年12月24日
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