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サイバー攻撃に強い懸念

2月21日 20時40分

小原健右記者

企業やインフラを狙ったサイバー攻撃が相次いでいるアメリカ。
アメリカ政府は、中国がサイバー攻撃を行っていると指摘し、強い懸念を示しています。中国はこれに反発。今、米中の間で、サイバー空間を巡る新たな攻防が繰り広げられています。
アメリカ総局で取材に当たっている小原健右記者が解説します。

サイバー攻撃にさらされるアメリカ

アメリカで急増しているサイバー攻撃。今月に入って、アメリカを代表するIT企業のアップル、世界最大の交流サイトを運営するフェイスブック、そして、ネット上に短い文章を投稿するツイッターの運営会社が相次いでサイバー攻撃を受けたことを明らかにしました。
アメリカの国土安全保障省によりますと、国内のインフラを標的にしたサイバー攻撃の報告件数は、2009年の9件から2011年には198件と20倍以上に急増しています。

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中国を名指しした報告書

こうしたなかで、アメリカに対するサイバー攻撃の背後には、“中国”の存在があると指摘する報告書が、18日、公表されました。
この報告書は、アメリカのコンピューターセキュリティー会社が作成したもので、サイバー攻撃をアメリカに対して次々に仕掛けているのは、「APT1」と呼ばれるグループだとしています。
2006年以降、全世界で少なくとも141の機関や企業を標的に、数百テラバイトのデータを組織的に盗み出したということで、このうち115件がアメリカの企業などに集中しています。

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「APT1」は、標的となった機関や企業のコンピューターネットワークに数か月から数年にわたって不正にアクセスを続け、情報を盗んできたということです。
被害にあった情報は、製品開発や事業計画、設計図のほか、重要な会議の議事録、さらには、機密度の高い電子メールなどの情報も盗み出されているということです。
このサイバー攻撃を行った「APT1」というグループをセキュリティー会社が追跡したところ、上海にある4つの大型コンピューターネットワークにつながっていることを突き止めました。
このうち2つのネットワークは、上海の浦東新区に割り当てられたものでした。この地区には「61398部隊」と呼ばれる中国人民解放軍の部隊があり、分析では、「APT1」の使っていたIPアドレスは、「61398部隊」に通信回線を提供している中国電信のものだったということです。
こうしたことなどから、セキュリティー会社では、「APT1」は「61398部隊」の可能性が高いと結論づけたのです。
「61398部隊」は、中国人民解放軍の総参謀部の傘下にある電子情報などを担当する部局に所属し、中国の大学からコンピューター技能に優れ、英語が堪能な学生をリクルートしているといいます。

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狙われるメディア

中国のハッカー部隊は、アメリカの大手メディアも攻撃の標的にしているとみられています。
先月30日には、ニューヨーク・タイムズが一面で、みずからが中国のハッカー集団からサイバー攻撃を受け、全従業員のパスワードが盗み取られるなど、社内のネットワークに不正に侵入されたと報じました。
ニューヨーク・タイムズの記事のあと、ウォール・ストリート・ジャーナルやワシントン・ポストなどアメリカの複数のメディアも、同じように中国が発信源とみられるサイバー攻撃を受けていると名乗り出ました。
ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルへのサイバー攻撃で共通しているのは、中国の取材や報道に関わる記者などが所属する社内のネットワークやパソコンなどが集中的に攻撃されたという点です。
このため、サイバー攻撃のねらいは、どのような情報筋から中国に批判的な記事を書いているのか、その取材源や情報網を割り出すことではないかとみられています。

日本も標的に

今回の報告書によってその一端が明らかにされた中国によるサイバー攻撃。実は日本も標的になっています。
私が取材してきた日本の複数の専門家は、少なくとも5年前から日本の官公庁や企業も中国が発信源とみられるサイバー攻撃をたびたび受けていて、セキュリティの強化など対策に追われてきたことを明らかにしています。

強まる懸念

中国による国家レベルでのサイバー攻撃への関与が疑われるという異例の事態。中国からの脅威にさらされるアメリカは、サイバー空間を陸海空宇宙に次ぐ第5の戦場だと明確に位置づけ、サイバー攻撃による脅威を国家の重要な安全保障問題に位置づけています。
アメリカのホルダー司法長官も、20日、中国などによるスパイ活動やサイバー攻撃で情報が盗まれる事例が、今後さらに増加していくと指摘して強い懸念を示し、オバマ政権の最優先課題として取り組んでいく姿勢を示しました。
サイバー空間での攻防が国家的な課題になろうとしています。

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