薬物依存:処方される向精神薬が2位に
毎日新聞 2013年02月22日 11時34分(最終更新 02月22日 12時00分)
薬物依存症の原因として、精神科の医療機関などで処方される向精神薬が急増し、シンナーなど有機溶剤を初めて上回ったことが、国立精神・神経医療研究センター(東京都)の調査で分かった。覚醒剤に次ぐ2位で、乱用の対象が「捕まらない薬」にシフトしつつあることを示した。同センターは「従来の司法だけの対応では限界がある」として、依存症対策の拠点となる精神保健福祉センターの態勢強化を訴えている。
国立精神・神経医療研究センターは1987年から2年に1度、精神科病床がある全国の医療施設を対象にアンケートを実施(94年から偶数年に変更)。10年は全国1612施設に同年9〜10月に関わった患者の原因薬物などを尋ねた。回答があった1021施設(63.3%)の有効症例671を分析し、このほど結果がまとまった。
それによると、薬物依存症の原因で最多の覚醒剤は53.8%(361例)。次いで睡眠薬と抗不安薬を合わせた向精神薬が17.7%(119例)に上り、シンナーやトルエンなど有機溶剤は8.3%(56例)だった。
向精神薬は96年の5.6%から徐々に増える傾向にあり、08年の13%から一気に4.7ポイント増加。これに対して、91年に40.7%と覚醒剤(35.3%)を上回っていた有機溶剤は減少傾向にあり、08年の14.1%から急減していた。【江刺正嘉】
◇早急な患者治療拠点の整備必要
処方薬による薬物依存の急増という新たな問題が浮上したことで注目されるのが、依存症対策を担う全国69の精神保健福祉センターの役割だ。回復に有効な「認知行動療法」を依存症患者に受けさせ、正常な社会生活を送るためのマネジメントを担う施設として期待されているが、その態勢は十分とは言えない。
再犯率の高い薬物事犯を減らすため、法務省が関連法案を今国会に提出する方針の「刑の一部執行猶予制度」でも、センターは依存症の治療拠点の一つに想定されている。だが、毎日新聞が全施設に実施したアンケートでは、7割超の52施設が「対応不可能」と回答。45施設が理由に「人員不足」を挙げ、42施設は国による人員確保や専門研修などの態勢整備を求めた。このままでは「捕まらない薬」による依存症患者の急増に対応できないのが現実だ。