【ワシントン＝柿内公輔】米コンピューター大手デルが発表した非上場化計画が波紋を呼んでいる。
市場から株式を買い戻そうという創業者に、株主が相次ぎ反発している。かつてパソコンで世界首位のシェアを誇ったデルは、多角化で後れを取り業績が低迷。創業者主導で経営改革を急ぐが、市場から姿を隠すデルに注がれる視線は厳しい。
◆２割近くが反対
デル創業者で、最高経営責任者（ＣＥＯ）のマイケル・デル氏は今月５日、投資会社と共同で、１月１１日の終値に２５％上乗せした１株当たり１３・６５ドルで、一般株主からデル株を買い取り、非上場化すると発表した。
だが、デル株の８・５％を保有する米投資ファンドのサウスイースタン・アセットマネジメントは８日、「企業価値を著しく過小評価している」と非公開化に反対する書簡をデルに送付。委任状争奪戦（プロキシファイト）や訴訟など「あらゆる手段」で抵抗すると揺さぶった。
米メディアによると、２割近い株主が反対を表明している。
非公開化にはデル氏の保有株（約１４％）を除く株主の過半数が承認すればＯＫだが、賛否を決めかねている株主も多いとみられ、６月にも行われる株主投票の行方は流動的だ。
◆多角化で出遅れ
デル氏はテキサス大の学生だった１９８４年に学生寮で創業。やはりパソコンから出発し、大学中退でアップルを創業した故スティーブ・ジョブズ氏としばしば比較されてきた。
ただ、スマートフォン（高機能携帯電話）など新分野を開拓したジョブズ氏と違い、デル氏は受注・直販のパソコン事業に固執。最近多角化に本腰を入れ始めたが、なおパソコン事業が売上高の半分を占める。新興国メーカーとの価格競争も激しく、１９日に発表した昨年１１月〜１３年１月期決算は、４四半期連続の減収減益。一時は１千億ドルを超えていた時価総額も２００億ドル台まで転げ落ちた。
デル氏が打ち出した窮地打開の一手が非上場化だ。利益還元をせかす株主の圧力を逃れ、利益率の高い法人向け事業の強化など中長期の改革を目指すが、「個人経営」の回帰を疑う声は社内にも多い。米紙ウォールストリート・ジャーナルは「デル氏は取締役会が自らを脇に追いやろうとしているとの疑念を強めているようだ」と指摘する。
デル氏は基本ソフト（ＯＳ）の供給を受けるマイクロソフト（ＭＳ）からの出資も模索したが、デル以外のメーカーの目を気にしたＭＳは非上場化に必要な一部資金の融資にとどめた。「顧客に最善のサービスを届ける長期戦略がある。忍耐が必要だ」。デル氏は市場にこう訴えている。
■米デルの歩み
１９８４年 マイケル・デル氏が大学時代に創業
９３年 日本で販売をスタート
９４年 ノートパソコンに参入
２００７年 会長に退いていたデル氏がＣＥＯに復帰
０９年 スマートフォン事業に参入
１３年 ２月に非上場化方針を発表