法制審議会が少年法改正要綱を谷垣禎一法相に答申した。改正要綱は全体として厳罰化を志向している。罪を犯した少年の更生と社会復帰の面からみて果たして有効な改正なのか、疑問が残る。答申を受けて法務省は改正法案を国会に提出するが、事件を起こした背景や少年を裁く司法の在り方をしっかり見据えた議論を求めたい。
2001年の法改正で刑罰の対象が「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられ、16歳以上の少年による重大事件は原則、検察官送致されて刑事裁判で審理されることになった。きっかけは、神戸市の連続児童殺傷事件などだった。07年には、少年院に送致する年齢の下限が「14歳」から「おおむね12歳」に変更されている。
少年に対する刑罰として、刑期を固定せず一定の幅を持たせて言い渡す不定期刑がある。現在は下限が最長5年、上限は10年。今回の要綱では、下限を最長10年、上限を15年に引き上げる。さらに、少年審判への検察官関与の拡大も盛り込まれている。検察官の立ち会いは2000年の少年法改正で認められたが、殺人、強姦[ごうかん]、放火などに限定されていた。これを窃盗、傷害、恐喝、業務上過失致死傷などにまで広げるよう求めている。
凶悪事件や悲惨な交通事故が起こるたびに、加害者への厳罰化を求める世論が高まってきた。それを受ける形で法改正がなされてきたのが過去10年余りの大きな流れだろう。少年犯罪に対しても同じ状況だ。
少年を甘やかしてはいけない、厳しい姿勢で罪に向き合わせなければ立ち直れない、との意見もある。被害者やその家族からすれば、20歳に満たないという理由だけで刑罰が軽くなることに、いたたまれない思いがあるだろう。
ただ、成人と少年は違うのも事実だ。少年は人格形成の途上にあり、周囲の環境に影響を受けやすい。事件を起こした少年の多くは虐待や差別、いじめに遭ってきている。家庭崩壊や性的虐待を経験してきた少年もいる。ゆがめられた体験が非行に走らせる側面も否定できない。
少年事件特有の不定期刑の考え方は、社会に適応させることに主眼を置いたものだ。刑罰が応報なら、罪の重さによって刑期を決めれば足りる。社会復帰を重視するならば、教育の実が上がったかどうかを見極めなければならない。その時期は受刑者によって異なるので、不定期刑という制度を設けている。社会生活の経験が浅い少年を長期間刑務所に入れた場合、出所後に社会に適応するのが難しくなる恐れもある。
少年審判を刑事事件のように、検察官が被告を糾弾する構図にしては少年に罪の重さを理解させ、処分を納得させることができない、との考え方があった。2000年の法改正まで少年審判の出席者から検察官を除いていたのは、そのためだ。
罪を犯し服役した少年も、いずれは社会に戻ってくる。そのとき再犯をさせないことが何より重要だ。被害者に心から謝罪し、社会人として復帰させるためには何が必要か。少年法改正案の国会論議では、その視点が欠かせない。
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