【中国・四川省成都市】フ・リアンさんは高級住宅地「ゴールデン・レークショア」の横におんぼろ車を止めた。ここのショールームはシャンデリアやベルベットの調度品などで飾られており、住宅地は新興富裕層が夢見るようなイタリアのトスカーナ地方の風情をかもし出している。
フさんは「ここはわたしの養魚場があったところだ」と明かす。
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住宅の価格はフさんの手には届かない。2010年12月、一連の嫌がらせを受け、経営していた養魚場を手放すことになったとフさんは言う。地元政府はフさんに1平方メートル当たりわずか9人民元(約135円)を支払った。
その土地はすぐに1平方メートル当たり640元で開発業者に売却された。これは土地の売買を記録している国のデータベースで示されている。その開発業者は高級住宅を建設し、1平方メートル当たり6900元で販売している。
現在、失業中のフさんは、中国南西部の四川省成都市の不毛な辺縁部で暮らす数万人の元農民の1人だ。フさんにはもう新規事業を始める気持ちがない。「政府がただ破壊するだけかもしれないのに、意味がない」と話す。
フさんのケースは中国社会最大の断層線を如実に表しているほか、次期指導者の習近平氏がぜい弱な社会の安定を下支えし、持続可能な経済体制――つまり土地の個人所有――に変えていこうと試みるうえで、最も深刻な脅威でもある。
問題の根本は地方政府と開発業者が法的な対抗手段をほとんど持たない農民を相手にした一方的な土地取引によって莫大(ばくだい)な利益を得ることができる経済システムにある。
この状況はやがて中国の所得格差の拡大に部分的に寄与することになり、ひいては不均衡な経済成長へとつながる。歴史上でも最大級の経済成長に伴って裕福になった都市部のエリートと、格差が一段と拡大する農村部の6億5000万人強との間に対立の構図ができあがる。
急速な都市化がこの10年間の際立った成長を支えてきた。2001年から12年までの間に、中国の国内総生産(GDP)は年率10%に近い伸びを示してきた。しかし都市部の拡張に対する抑制が十分でないことと、人工的に安価に設定された土地により、工場や不動産、インフラストラクチャー(社会基盤)への投資は制御不可能なほどに増加し、11年にはGDPの48%を超えるまでになった。01年には36.5%だった。
中国の農民にとって不安定な土地の権利は、農作物の生産を増やすための投資の動機にはならず、都市に移住する資金をねん出するために売却できる資産でもない。農地から追い出された数百万人に支払われた少ない補償金は、多くにとっては都市辺縁部での貧しい暮らしを意味するにすぎない。これらの農民は、都市住民として登録されていないため、社会的便益を享受する資格もない。
成都市にある西南財経大学の学者が実施した最近の調査は、中国が所得の配分において世界で最も不平等な社会の1つであることを示した。消費を経済成長のけん引力にしようという政府の目標に水を差す結果だ。
間もなく退任する予定の温家宝首相は、改革者としての評判をかけて農村部の土地の権利の強化に出た。国務院が昨年11月末、地方政府による土地の接収をより困難にすると同時に、土地の購入の場合には補償金を引き上げる法律の修正案を支持したのだ。
地方政府にとって、農民へ支払う土地の代金と開発業者への売却価格との巨大な差額はぬれ手で粟(あわ)の利益を生む。
シアトルにある非営利のランデサ・ルーラル・デベロプメント・インスティテュートが中国の17省を対象に実施した11年の調査によると、平均で地方政府が農民に支払った補償金は、土地の市場価格のわずか2%だった。
中国財政省のデータによると、中国全土の地方政府が農民から安く手に入れた土地の売却で得ている収入は全収入の26%を占めている。09年の景気刺激策で地方政府が負ったローンをこうした収入で返済したところもある。
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