舞台「灰とダイアモンド」二次創作サファイア・スピンオフ

「灰とダイアモンド」Spin Off Sapphire②

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日光の降り注ぐ明るいサンルームに通されると、その人物はゆっくりサファイアの方に振り返った。

「……青池さん、すっかり完治されたようで安心しました。……失礼、初めまして。私は蜂須賀皓造と申します。ここのビルのオーナーをしております」

ロマンスグレーの髪をオールバックに整えた70代の男性が笑顔で挨拶をしてくる。“ハチスカ”という名前がこの人物のものだった事が分かり、サファイアは妙に安心感を覚えた。

「この度は大変御親切にして頂き、このように五体満足でいられた事を、感謝致します。……助けて頂いて、有難うございました!」

きちんと背筋を伸ばしたまま、90度の角度にお辞儀をした。ゆっくり3秒ほど数えて頭を上げると、蜂須賀が温かい笑顔を向けてくれる。

「すっかり見違えるくらいに立派になられましたね、青池さん。どうぞ、ソファにお掛けください」

イタリア製のシャンパンゴールドのソファに、二人は同時に腰を降ろした。すぐに美しい女性秘書が二人分のティーカップを盆に載せて現れる。

「失礼致します。」

洗練された所作で女性がティーカップをそれぞれの前に置いた。白いウェッジウッドの茶器に、温かな湯気のたつ朱色の飲み物が淹れられている。

「冷めないうちに召し上がって下さい」

「戴きます」

斎藤に教わった通り、ティーソーサーごと手に取って、紅茶に口をつけるとアールグレイの香りが口の中に拡がった。今までにこんなに美味しい紅茶は口にしたことが無かった。

「……さて、何からお話ししましょうか?」

笑みを湛えた蜂須賀が本題を切りだす。

「ではまず、貴方と私にどんな繋がりがあって、5000万円という大金を払ってまで私を助けて下さったのかを教えて頂けませんか?」

「私と青池さんに直接的な接点はありませんが、私の孫娘がね……、貴方を良い先生だと言うんですよ。」

「蜂須賀さんのお孫さんが、私の生徒なのですか?……お名前を教えて下さいませんか?」

すると蜂須賀は手に届く範囲に置かれていたフォトフレームを取り、それをサファイアに見せた。

「……これが孫の長島千華です。……貴方が初めて教えた生徒の中の一人ですから、覚えていないでしょうけれど……。千華は、数学の若い先生をとても好いていました」

ふっくらした頬の少女が祖父と一緒に写っている写真を見て、サファイアは記憶の中にその少女を探した。新任の頃に、杖をついた脚の悪い生徒がいた事を思い出す。

「思い出しました。千華さんは、とても頑張り屋さんでしたね。」

ほんの5年前の事なのに、とても遠い記憶になってしまっていることに驚く。

「ええ、あの子は数学が苦手でしてね……、お恥ずかしい話しですが、成績もとても良いとは言えませんでした」

「でも、学期を追うごとにどんどん点数が上がって行きましたよね……。最終的には、その年に贈られる“桜花賞”の対象になりました。……千華さん、とても嬉しそうでした」

“桜花賞”とは、その年に学年ごとに10名選考されて表彰されるもので、優秀な成績や学校に貢献した生徒に贈られるものだった。彼女は成績が躍進的に上がったことや、脚が悪くても無遅刻・無欠席だったことを評価されて表彰されたのだ。それを一番初めに自分に見せに来てくれた事を思い出した。

「青池先生のお陰だって、千華は大喜びしていました。千華はそれ以来、とても明るい性格になりました。表彰されて自信が持てたことが、ターニングポイントになったんでしょうね」

「とんでもない、千華さんが元々粘り強い性格で諦めなかったから、自然とそうなっただけですよ。僕が与えた影響なんて、ささやかな物ですよ。」

サファイアはそのころの自分が誠実に生徒に接し、日々やりがいを感じていた事を思い出した。

いつから自分は薄汚れた道に反れて、踏み外し、教職を失う結果になったのだろう? と考えた。

蜂須賀がまっすぐにサファイアを見据えた。

「私の孫はね……千華は、貴方の生徒であることに誇りを持って生きているんです。だから、それを汚されたくなかったんです。……私の気持ちがお分かりになりますか? 青池さん」

試験問題のデータを横流しした事で、脅迫されて金が必要になり、宝石強盗をするまで堕ちて行った自分がとてつもなく恥ずかしくて、いたたまれない気持ちに見舞われる。

サファイアはソファから立ち上がり、床に膝をついて土下座をした。そして頭を床に押し付ける。

「大変、申し訳ございませんでした!」

出来るだけ気持ちを込めて、サファイアは蜂須賀に謝罪をする。まるで憑きものが落ちたように、サファイアの瞳から涙があふれ出してくる。

自分の愚かさが身に沁みて分かる……。教職を失って当然だ。こんな自分が誰かを教える立場に無いことが分からなかったことが、おかしいのだ。

「私の孫や、貴方に教わった生徒さんたちの気持ちを、もっと大切にして貰えませんか?」

「はい!……おっしゃる通りです」

これからはきちんと正しい生活を送り、真面目に誠実に生きて行かなくては、とサファイアは反省した。

蜂須賀に払って貰った5000万円をどう返済して行ったら良いのだろうか……。

そして、犯した罪をきちんと償わなければいけない。

「表を上げてこちらにお掛けください。これから、まだまだ話さなければいけない事があるのですから」

「はい……」

蜂須賀にそう言われて立ち上がると、サファイアはソファに座り直した。

蜂須賀がスマートフォンを取り出して、何処かに連絡を入れると、サンルームに男性が入って来る。

「斎藤、調査結果を青池さんに報告しなさい」

“斎藤”という名前を訊いて男性を見上げると、サファイアがもう一度会いたいと思っていた彼が目の前に立っていた。方手にダークブラウンのブリーフケースを抱えている。

「斎藤さん……!」

「青池様、すっかりお元気になられたようで、安心致しました。」

美しい笑顔を見せて一礼をする斎藤に、サファイアは少しの間見惚れていた。自分よりも頭一つ分高い長身にダークネイビーのスーツを纏った姿は、絵に描かれたように完璧な容姿だ。

斎藤は目の前のローテーブルにブリーフケースを置いて蓋を開き、中の書類を取り出して二人に渡す。

「これが、調査結果です。」

「口頭で説明を」

蜂須賀に短い言葉で要求されて、斎藤は書類も見ずに説明を始める。

「まず、約3カ月前、青池様が学校のパソコンから試験問題のデータをコピーし売り渡したという事件についてです。……この試験問題の入ったメモリを手に入れましたが、中身はブランクでした。」

「……そんなハズが無い! 自宅のPCで確認したんだ、中身が空な訳がない! それに、買いとった奴だって、何も言って来なかったし……」

「では、その横流ししたデータはどこで使われたのでしょう?」

「……そこまでは分からない。」

「青池様は、あの脅迫をかけて来た山本という男に騙されていたんです。まず、山本の仲間を使って、試験問題のデータを高額で買い取る話しを青池様に吹き込み、別の仲間に買い取らせる。山本はその現場を押さえて貴方を脅迫し、高額な金額を継続的に支払わせる。それが山本の計画です。……青池様の他にも騙された教師が数名おりましたよ。」

「では、青池さんは罪に問われないと言うことか?」

「はい、会長。少なくともこの件に関しましては、青池様がデータを持ち出した証拠がありませんし、立証することは難しいでしょうね」

「試験データの事がクリアになったところで、俺がジュエリー店に数名の仲間と押し入って強盗をした事は、立派な犯罪だろ? その店の防犯カメラにも俺の映像が残ってるはずだ。」

「あのジュエリー店自体がフェイクだったとしてもですか?」

「店自体が偽物って、どういうことだ……?」

「あのジュエリー店は、半年前に開店したばかりの店ですよね? 私の調査では、あの店に並んでいる宝石類はすべてが偽物でした。裏の商売をカムフラージュする為に作られた店だったのです」

「じゃぁ、店からは一切盗難届が出されていないって事か?」

「ええ、その通りです。それに青池様は、実際に宝石には触れていらっしゃらない。そしてその盗まれたフェイクジュエリーもどこかへと消えてしまった。物証はひとつも見つからない。店に設置された防犯カメラも電源が入っていなかったのです」

「そんな……!」

じゃあ俺たちは何のためにあの地下室で、プロの殺し屋まで雇って、ルビーを殺すハメになったというのだ? フェイクジュエリーに躍らされた愚かな自分たち。自分が破り捨てた鑑定書も、最初から単なる紙切れだったのだろう。

「あの地下室のある廃墟は先月、予定通りに取り壊されました」

「ルビーの遺体は……どうなった?」

サファイアの身体が小刻みに震えだす。……ルビーの事が、あれからずっと気になっていたのだが、一切のメディアを禁じられた今日まで約40日間、それらの情報を得ることが出来なかったのだ。

「ルビーと名乗るあの詐欺師は、フェイクを掴まされた事も知らずに、嬉々としてピザ屋に扮していた仲間と海外へ行ってしまいましたよ」

「……俺らが二人に騙されてたって事か!」

斎藤はブリーフケースの中から数枚の写真を取り出して、サファイアに見せた。そこにはルビーとピザ屋の男が空港のターミナルに居るところが写っていた。

「すべて、このルビーと名乗る男の狂言だった訳です。……どうです? この男に一杯喰わされて、腹が立ちましたか? それとも自分が犯罪者じゃないと分かって、安心しましたか?」

「良かったじゃないですか! 青池さんはこれで、白昼堂々、元の生活に戻れるというわけですよ」

サファイアが答える前に、蜂須賀が笑顔で釘を刺してくる。

……元の生活に、戻る。

これが、斎藤と自分の住む世界を分かつ“境界線”を意味していることを悟る。だが、これ以上を望んではいけないのだ。

これはまさに“奇跡”としか言いようのない偶然のなせる業であり、望んだとたんに崩れ去ってしまうものだ。そして、それらを一つ一つ拾い集め、きちんと集約させて、自分の元に届けてくれた斎藤。

彼が言ったように、自分は“粗悪品のガラクタでくすんだガラス玉”なのだ。そんな自分に誠実に向き合って、更生させてくれた斎藤を、好きにならない方がおかしい。……だが、もう遅い。

俺、斎藤さんが好きだ……。

サファイアが改めて気付いたところで、もう共に過ごすことも無いのだから。

「本当に何から何までお世話になり、感謝しています。ありがとうございました!」

サファイアは立ちあがり、二人に向かって最敬礼をした。それ意外にどうすることも出来ないと、自分に言い聞かせるしかなかった。……ところが、

「青池さんに、もう一つだけ贈り物を用意させてあるんです」

慈愛に満ちた声が頭の先から聞こえて、サファイアは蜂須賀を仰ぎ見た。

「……いえ、もうこれ以上はとても受け取れません。5000万円の返済計画の目処が立ちましたら、必ず少しづつ返済致します」

お金の話しは又にしましょうと、蜂須賀は笑いながらサファイアをソファに座らせる。

「まぁ、そんなに堅苦しく構えないで、もう少しだけこの老人のお相手をして下さい」

「はい。蜂須賀さんが、そうおっしゃるのなら……」

サファイアも本当は出来るだけ長く、ここに留まって居たかった。斎藤と過ごせる空間に、身をゆだねていたかったのだ。

斎藤は出した書類や写真類を片づけて、A4サイズの封筒を取り出し、それをサファイアの前に置いた。

「これは、あくまでも選択肢の一つとしての御提案です。強請するつもりもありませんし、断る自由は青池様にございますので」

「はい、ではどんなお話しなのか聞かせて下さい。」

斎藤が封筒から数種類のパンフレットを取り出した。それらのパンフレットは、学校関係のものだった。

「そろそろ教職に復帰されてはいかがでしょう?」

蜂須賀が深い眼差しでサファイアをみつめて言った。目元の皺が深く刻まれた優しい表情に、サファイアは胸が熱くなる思いがした。

「私のような者が、再び教職に就けるのですか?」

「同じ学校に戻れる訳では無いのですが、私が寄付をしている所なら、推薦状を書きますよ」

蜂須賀の推薦状があれば、確実に就職先が決まるだろう。サファイアは嬉々としてパンフレットを手にした。どこも私立の設備が整った学校ばかりだ。斎藤がその中から最もサファイアに見合ったものをチョイスして奨めてくれる。

「ここなど青池様には宜しいかと存じます。……京都にある男子高ですが、校風も自由過ぎず、生徒の質も悪くありません。教師が自分のペースで授業を進めることが出来る環境も整っております」

「斎藤さんのお奨めなら、間違いないと思います。是非、その学校で働かせて下さい」

京都……ここからずっと遠くにある土地に行ってしまったら、斎藤と偶然街中で合うことすら叶わなくなってしまうけれど。

サファイアの胸が鈍く痛む。一瞬だけ、淋しさを滲ませた視線を斎藤に向けてしまうと、銀縁眼鏡の奥の斎藤の視線とサファイアの視線が絡み合った。斎藤は視線を外すことなく、笑顔を浮かべる。

その笑顔を見てドキリと高鳴る心臓が、切なさに痛みだす。

「では、諸々の処理は私がすべて済ませておきますので、青池様はご自宅に戻られて、転居のご準備をお願い致します。……それと、これはささやかながら、私から青池様への贈り物でございます」

斎藤から差し出された青いスマートフォンを見て、サファイアは驚いた。

「……どうして、これを?」

「実は青池様の携帯電話は、山本達に襲われた時に、壊れてしまったのです。ですから、新しい携帯電話が必要でございましょう?」

「ありがとうございます。……本当に、斎藤さんには驚かされてばかりです」

斎藤もきっと自分と繋がっていたいと思ってくれているのだと感じて、サファイアの目頭が熱くなった。

 

 

 

 銀色のベンツに送られて、サファイアは自宅アパートに約40日ぶりに帰宅した。住み慣れたはずのこの部屋が、今はまるで別物のように感じる。

以前の自分は常にイライラして、周りを睨みつけて威嚇していた。教師だというのに赤い開襟シャツなどを着て、学校へ出勤していた事も、今では愚かしくて笑えてくる。

クローゼットに並べられたホストのような安っぽい洋服は、全て処分しようと決めた。女子生徒の目ばかり気にしていた以前の自分とは決別し、もう一度、教育者として新たな一歩を踏み出すために。

 

 

 

もともと多くない荷物をまとめて、種類別に段ボール箱に分ける作業も終わり、引っ越しの為に依頼した赤帽のトラックを待っていると、ジャケットの胸ポケットに入れてあるスマートフォンが震える。

「……斎藤さん?」

知らぬ間に登録されている斎藤の電話番号に驚いたが、嬉しさが勝って、サファイアは笑顔になった。

タッチパネルを操作して電話に出る。

「はい、青池です」

『サファイア様は本日、東京を発たれるのですね。』

スマートフォンから聞こえて来る声も、彼の佇まいと同様に凛として美しい。しかしながら、いまだに犯罪で使ったコードネームで呼ばれるのも、恥ずかしい。

「斎藤さん、もうそのサファイアってコードネームで呼ぶの、止してくれないかな?」

『いいえ、私はこの呼び名を変えるつもりはございません』

「相変わらず、意地悪なこと言うんだな。斎藤さんにそう呼ばれる度に、俺は自分が犯した罪深い行為を思い出すじゃないか」

『ええ、一生そうして生きて行けばよろしいのではないでしょうか?』

楽しそうに笑う声が聞こえて来る。斎藤から一生“サファイア”と呼ばれる事を想像して、笑いが込み上げて来る。

「意味わかんねーよ、斎藤さん! アハハハハハ!」

『ですから、サファイア様も私を“崇也”と呼んで頂けないでしょうか? “斎藤さん”と呼ばれる事に飽きてしまいました』

「え……?」

いきなり名前で呼べだなんて、ルール違反にも程がある。諦めかけた恋を、諦められなくなる。

『崇也と、呼んで頂けませんか』

再度、念押しする声は甘さを含んでいる。今日、このまま東京を離れてしまえば、斎藤と会うことは

難しくなってしまう。だからこそ彼も、少しでも自分との距離を縮めておきたいのだろうか。

そんな風に、都合良く解釈しても良いのなら、

「……崇也さん」

甘さを含んだ声音で応える。

斎藤はしばらく沈黙した後に

『今夜、貴方のお部屋に伺っても、構いませんか?』

と遠慮がちに尋ねて来た。

「……それって」

『京都の新しいお部屋に、お邪魔させて欲しいという意味でございます』

確かに、京都の新居であるマンションを契約してくれたのは斎藤だった。場所も分かっているのだろうけれど。

「東京から遠いのに、どうしてわざわざ来てくれるんだ?」

『わざわざ訪ねて行きたい理由があるからに、決まっております』

きっぱりと告げられれば、分かったと、答えるしかない。

 

 

 

 その日の夜、21時過ぎに斎藤はサファイアの新居であるマンションの部屋を訪ねて来た。

インターフォンのカメラで確認したサファイアは、施錠を解いて彼を部屋の中に招き入れた。

「サファイア様こんばんは、遅いお時間に失礼致します」

斎藤の相変わらずの慇懃さに、サファイアは思わず笑みが零れた。

「どうぞ、まだ何にもないけど上がれよ……崇也さん」

やはり名前で呼ぶのにはまだ抵抗がある。だが、名前を呼ばれた斎藤の表情が柔らかく緩むのを見て、こちらまで嬉しくなる。

以前暮らしていた東京の手狭なアパートと違い、一応キッチンと居間が別れており、ついでに4畳ほどの寝室まであった。去年建てられたばかりのこのアパートは、密閉律を上げるために壁も厚いつくりになっている。バスとトイレが別々なのも嬉しい限りだ。

一通り案内してから、リビングのソファに座ってもらう。

「京都市に勤務している者に確認させましたが、まずまずの物件のようで、安心いたしました」

「まずまずどころか、俺にしたら“すごい満足な物件”だよ。こんないい所、契約してくれて感謝してる。ありがとう……崇也さん」

サファイアが“崇也さん”と呼ぶたびに、怜悧な斎藤の口元が綻ぶ。

「寝具なども揃っていますね。初日にここまで片づけられるなんて、上出来ですよ」

「もともと荷物、多くないから」

久しぶりに二人きりの時間を過ごしているのに、以前とは流れる空気感が変わってしまったように思える。それは恐らく、斎藤が自分に対して緊張しているからかも知れないと、サファイアは思った。

長い脚を何度も組み替えたり、ソワソワと落ち着かない様子が可笑しい。普段、自信に充ち溢れて慇懃な態度をとる執事の面影は、今やかなり薄れているように感じる。

けれど、やはり彼は見るほどに自分を魅了して止まないと、熱い視線でみつめてしまうのだ。

「そんな風にじっと、私をみつめるのは良くありませんよ、サファイア様。」

「そうだな。いくら崇也さんが綺麗な男だからって、じっと見るのは失礼なことだって分かってるんだ」

「いえ、そうではありません。……私だって、貴方をみつめたくなるのを必死に堪えているのです」

「何……言ってるんだ、俺なんか見たって仕方ないだろ?」

おいおい……と言おうとした唇に、斎藤の指先が触れてくる。

「綺麗なのは、貴方のほうですよ……サファイア様。」

斎藤の手のひらが、サファイアの頬を優しく包み込む。そして親指の腹で、優しく唇をなぞられると

サファイアの鼓動が一気に高鳴った。

「……崇也さん、どうして、ここに来たんだ?」

「そんなこと、……もうお分かりになられているのでしょう?」

「たか………………」

斎藤の唇が、サファイアのそれを塞ぐように重ねられた。しばらくの間、柔らかな唇の感触を楽しむように角度を変えて、何度も啄ばまれる。

「この美しい唇に……いつも私は……見惚れて……いたのですよ……サファイア様……」

「そんな……わけ……ない……だろ……」

俺を“粗悪品”と呼んだくせに。

ガラクタ、くすんだガラス玉だと言ったじゃないか。

サファイアの瞳に、なぜか涙が滲んでくる。嬉しいのか、悔しいのかさえ、分からない。

「貴方は美しい宝石です、サファイア様。だから私は貴方を“サファイア様”と呼んでいるのですよ」

「恥ずかしい……ことを……言うなッ……!」

斎藤のような美しい男性に見惚れられるほど、自分が綺麗な容姿であるわけがないと、サファイアは首を振る。その動きを止めさせるように、斎藤はサファイアの頭を抱きしめた。

「私は貴方が好きです。……貴方の事が好きなんです。」

「……俺はッ……アンタに好きになって貰えるほどの、価値がない。……からかうのはやめてくれ!」

サファイアは腕を突っ張って、斎藤の抱擁を拒んだ。

「なんて愚かな、ご自分の価値も分からないのですか?」

「……崇也さんが好きだ。……けど、ダメなんだ。……今の俺じゃ、アンタとつり合わない。」

こんな助けられてばかりで、情けない自分じゃ、この人と肩を並べて生きて行けない。

情けなくて、涙が後から後からあふれ出てきて、止められない。

「こんな……愚かで可愛い貴方を放っておけるほど、私は寛容ではございません。貴方のその泣き顔さえも、私を誘惑する一因にしかならないのですよ。」

斎藤はサファイアの華奢な身体を抱きしめる。抱き込んだ頭を愛おしそうに撫でて、頭の先にに口づけを落とす。そうされながらサファイアは、斎藤の心臓の鼓動を聴いていた。

崇也さんの心臓もすごくドキドキしてるんだ……。

ドクンドクンと早いリズムで聴こえる心音は、自分のそれさえも、より早くして行くように感じる。

「崇也さん…………」

呼ばれた斎藤がサファイアの顔を上げさせて、瞳を覗きこんでくる。そのまま鼻先に唇で触れて、サファイアの目じりに残る涙を清潔なハンカチで拭き取った。

少しだけ距離をとって、顔全体をみつめられながら

「貴方はとても綺麗だ。……私の言葉が信じられませんか?」

と尋ねられると、サファイアの頬が痛いくらいに熱くなってくる。その赤らんだ頬に、斎藤が小さなキスをくれる。

「崇也さん…………」

潤んだ瞳で見上げると、斎藤が優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

「もう一度、私が好きだと聴かせて下さいませんか?」

「…………俺、崇也さんが好きだ」

「私も貴方が好きです。サファイア様」

斎藤がサファイアの細い顎先を持ち上げ、微笑んだ形のまま唇を押しあててくる。しっとりと触れるキスを何度も繰り返されるのに焦れ、サファイアは薄く口を開き、紅い舌先で彼の唇を舐めた。

キスをしたまま斎藤がクスリと笑う。

「誘い方がお上手なんですね」

身構える間もなく舌を絡められ、そのまま斎藤の口腔内にサファイアの舌が引きずり込まれる。

「んッ……んん……」

いきなり濃厚になった口づけに動揺しながらも、サファイアの膚は次第に敏感になって行くようだった。

「私の眼鏡を外して下さいませんか?」

吐息と共に斎藤の低い美声が直に耳元に吹き込まれる。ゾクゾクする首筋を斎藤の指先が這うように触れると、サファイアの身体の中に微弱な電流が走る。

サファイアは頭の芯が痺れて行くような感覚に身を震わせながら、斎藤のチタンフレームの眼鏡をそっと外してローテーブルの上に置いた。

眼鏡を外した斎藤の貌は、誰もが思わず見惚れるくらい整っていて美しい。しかし、完璧に整っていることが、彼の感情を隠してしまい“冷たい”と揶揄される要因になっているようだ。

しかし今は、みつめる斎藤の瞳が雄の匂いを漂わせ、サファイアを酔わせていく。

「キス……して、崇也さん……」

艶めく唇が、誘うような色香を滲ませていることに、サファイアは気付かない。

「悪いお口ですね、サファイア様……!」

どこか痛むように眉間にシワが寄り、身体を離してしまう斎藤。サファイアが不安げにみつめると、獰猛な獣のような瞳で見つめ返される。斎藤は素早い動きでスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めて引き抜くと、サファイアの身体を軽々と肩に担ぎ上げて、寝室まで運んで行った。

「…………」

ただ、されるがままに大人しくしているサファイア。厚いマットレスの上に敷かれた寝具の上に、乱暴に組み敷かれる。

「今日はもう、途中で止めてあげられませんよ。分かっているのでしょうね?」

「……いいぜ。……崇也さんを全部、俺にくれよ」

「サファイア様……!」

噛みつくようなキスで唇を塞がれる。呼吸を合わせる余裕も無く舌を吸い上げられて、サファイアの鼓動は苦しいくらいに早鐘を打った。

普段のスマートな彼からは想像できないくらいに、斎藤は冷静さを失っているようだ。やや乱暴な手付きでサファイアの着ているシャツのボタンを開け、まさぐるように白い膚に触れて来る。

「……崇也……さ……んッ……ん、ん、ん、……は……ぁんッ」

真上から捻じ込まれる舌に口腔内を蹂躙される。苦しいはずなのに気持ちが好くて、甘い声が鼻から抜けて行く。自らの発する嬌声に動揺しつつも、官能が高まって行く。

「その貴方の……甘い声が……私を狂わせる……」

耳を舐められたかと思ったら、斎藤の右手の二本指がサファイアの口腔に刺し込まれ、口蓋を執拗に撫でてくる。そうしながら、サファイアのベルトを片手で器用に外して、ボトムの前を開けてしまう。

「んんっ……う……んんぅ、……ううっ、……んんっ……!」

「それに、この……白い首すじと……白い胸元が……私を堕落させるのです……」

首筋に歯を立てられて、思い切り膚を吸われると、サファイアの腰に鈍い疼きが走った。

「やぁ……っ、はぁ…んんんっ……ん、んん、んんッ……!」

斎藤の指先で舌を玩ばれ、口の端から垂れる唾液を彼が舐めとる。斎藤の左手がサファイアの白い膚をなぞると、甘い嬌声が響いた。

「やっ……はぁ…ん、……やぁ……ん、……んん……」

「いけない人ですね……こんなに感じて、……私を昂奮させて、……実に、可愛らしい」

斎藤は、サファイアの口から引き抜いた濡れる指先に唇を押しあてると、サファイアの右の乳首を指先で摘むように刺激を与える。

「ああっ……!」

ビクンっと反りかえるように反応した身体を抱きしめて、その嬌声を呑み込むように口づける。

無言のまま脚からボトムを下着ごと引き抜かれてしまうと、膝を割り拡げられて、その間に斎藤の腰を挟まされる。折り曲げたサファイアの内膝を紅い舌で舐めながらも、視線は外さない。

「サファイア様、手が御留守のようですよ? 私の服も脱がせて頂けませんか?」

「……崇也…さん、……無理、……言わな…いで。……俺、今日、……男とするの、初めてで……余裕な…い……んんッ……あっ……!」

ビクビク身体を震わせながら、たどたどしく言葉を紡ぐサファイアを愛おしそうに眺めると、

「仕方ありませんね……。では、私が服を脱いでる間は、ご自分で胸を愛撫なさい」

「えっ……何?」

斎藤は意地悪く微笑んで、サファイアの手を強制的に胸の上に移動させる。

「早くしなさい」

「……や……イヤだ。……絶対に無理だ!」

そんな恥ずかしい事が出来るかと、真っ赤な顔で斎藤を睨みつけるサファイア。

斎藤はその様子が可笑しくて、クスクスと笑う。

「では、私が服を脱ぐのを手伝って下さい。」

斎藤はドレスシャツのボタンを外しながら、サファイアの身体を引き寄せる。サファイアは言われるがまま彼のベルトを外して、スラックスの留め具を外した。斎藤がドレスシャツを脱ぐと、サファイアの目の前に引き締まった見事な体躯が現れる。

「…………」

すごい、と息を飲んで、思わず手で触れる。厚い胸板の下の六等分に割れた腹筋も完璧だった。

綺麗な身体だな……、俺は痩せててみっともない。

急に自分の体形が恥ずかしくなって、斎藤の脱いだドレスシャツを羽織って前を合わせた。

「サファイア様、どうされました? 身体が冷えたのですか?」

「そうじゃない……けど……、恥ずかしいから。」

「何が、恥ずかしいのですか?」

「俺……痩せてるし、崇也さんみたいに綺麗な身体じゃないから、見せたくない」

「今さらですか? ……もう1カ月も私が入浴をお手伝いして、貴方の身体などとっくに見飽きておりますよ」

「見飽きてるって、なんだよ! もう、馬鹿馬鹿しい。気分が萎えたからやめようぜ」

斎藤が背後からサファイアを抱きしめる。

「言葉が過ぎました。……見飽きてるというのは嘘でございます。貴方の入浴をお手伝いしている間、私はまともにサファイア様の身体を見ることが出来ませんでした。」

「なんでだよ」

「綺麗だと言ったではありませんか。……貴方の白い膚や華奢な身体に触れるたびに、私はいつも欲望を抑えるのに必死だったのですよ。……どうかお赦しください、サファイア様。」

斎藤の兆しているものが、サファイアの腰に触れて来る。その熱や堅さに驚き思わず振り返ると、まともに視線がぶつかった。

斎藤に真剣にみつめられて、目を離すことが出来ない。

「俺が好き? ……俺なんかの、どこが好きなんだよ?」

「全部です。貴方の可愛くないところ、愚かしいところ、声も、身体も、全てを愛しております。」

愛していると真剣な眼差しで告げられて、サファイアは胸の内が熱くなった。

「アンタは……馬鹿だっ!」

サファイアは細い腕を伸ばして斎藤の首に抱きついた。すると口づけがすぐに与えられて、サファイアはうっとりと瞼を閉じる。

「馬鹿で……結構で…ございます。……こんなに可愛い貴方を……こうして腕に抱いて居られるのなら」

甘い囁きがサファイアの頑なな心を溶かして行く。

サファイアは肩に掛けたドレスシャツを静かに滑らせて落とした。温かい膚同士が触れ合うと、再び心臓が鼓動を早めてゆく。

どちらとも言葉もなくただ、身体を擦り合わせ、膚を密着させて、口づけを繰り返す。

斎藤の温かい手がサファイアの兆している雄蕊を包み込んだ。優しい力加減で擦られると、その心地良さにサファイアの腰が揺らいだ。

「……や、……あっ……そこ、……気持ち……好い……」

「ここ……でございますか?……それとも、こちらがお好きでしょうか?」

滲み出た粘液を先に塗り付けるように動く右手と、幹の部分を絶妙な力加減で擦り上げる左手。

「あっ!……はぁ、はぁ、……はぁ、……どっちも……好き、ぃ……イイ……」

自然と斎藤の雄芯に手を伸ばして、同じように動きを模写するサファイア。

「サファイア様……こちらに」

四つん這いにさせたサファイアの身体の下に、斎藤の身体が入って来た。そしてサファイアの雄蕊を口に含んで愛撫し始めた。

「ああぁっ!……だ……め、……崇也……さ……ん!」

あまりの快楽に思わず腰が揺れて、蜜があふれ出そうになる。サファイアは目の前で揺れている斎藤の雄芯を手で包んで、先の部分に唇と舌先で愛撫を施した。

「サファイア様……すごくお上手です!……気持ち好い……」

大きくて口に含むのは大変だけど、斎藤を気持ち好くしてあげたいと、気持ちを込めて舐めしゃぶる。

「崇也さん……こう? ……これで、いい?」

お互いに荒い息を吐き出しながら、行為に没頭し、快楽を高め合う。けれど与えられる快感が強すぎて、サファイアはもう斎藤の雄芯を口に含んでいられなくなって来た。

「やぁ!……出る……出ちゃ……う!」

「出しなさい、サファイア様」

彼の唇が雄蕊の括れを絞めつけて、舌先が複雑に蠢く。そのうえ、絶妙な力加減で擦り上げられて、サファイアは身悶えながら絶頂を迎えた。

「あ、ん、……あ、ぁあっ、やっ、……達くッ!」

ビクビク震えて斎藤の口の中に白濁した蜜を放つと、サファイアの身体がクタリと倒れた。

身体を抱えあげられて、うつ伏せに寝かされ、尻を高く持ち上げられる。斎藤はサファイアの放った蜜を手に付けると、それをまだ硬い蕾に塗り付けた。

「ここに触れられるのは、初めてですか?」

「当たり前だろ……ッ、そんなとこ、人に見せるのも……恥ずかしい」

腿の間に斎藤の熱い雄芯が当たってくる。サファイアはそれに触れて、その大きな物が自分のそこに入るのか不安になった。斎藤の右手の中指がすこしづつ孔に入ってくる。

「息を吐いて、……大丈夫ですよ。痛くしませんから、どうか力を抜いて下さい」

言われた通りに、斎藤の指に合わせて呼吸を調整する。なるべく意識を集中させないように努めるけれど、初めて孔を触れられる違和感に、背中が総毛立つ心地がした。

「……っ、はぁ、……っ、はぁ、……っ、はぁ、……っ、はぁ、……っ、はぁ」

規則的に息を吐き出して、斎藤の指を締め付けないように腰の力を抜こうと意識する。痛くも無いのに額から汗が噴き出してくる。

「サファイア様、痛みますか? ……ダメな時は我慢せずに仰って下さい。」

斎藤が心配そうに伺い、荒い息をしているサファイアの頭を撫でた。

「だい……じょぶ、だからッ……やめなくて……いいから……ッ」

何故だろう……、全身の感覚が研ぎ澄まされて、膚に触れられるだけで声を上げそうになる。

それを見抜いた斎藤が、覆いかぶさるように身体を折り曲げて、サファイアの背中を舐めた。

「ああッ!……やっ、……ぁぁあッ……やぁっ、……崇也……さんッ……!」

斎藤の指が2本に増えて、中を撹拌するように動かしてくる。

「貴方の中の襞が、私の指を溶かそうと吸いついて来ますよ。意識してこんな……いやらしい動きをなさっているとしたら、……貴方はとんでもない淫乱だ」

「……な訳ないだろ!……そ……いうこと、……言うな!……馬鹿!」

「フフ……文句を言う割に、もうこんなに堅くなっていらっしゃるじゃないですか」

さっき出したばかりでしょう? と耳に吹き込まれて、サファイアは恥ずかしくて、今すぐ逃げ出したい気持ちになった。しかし斎藤は彼を逃がさない。

サファイアの身体を裏返して仰向けにすると、自分とサファイアの雄蕊を一緒に擦り上げる。

「やぁッ! ああぁ……っ、やだッ……これ、……や……だぁ……ッ!」

「イヤじゃないでしょう?……すごく気持ち好さそうですよ? サファイア様、とても綺麗だ……」

「こんな……やらしい……のッ、……やだッ……だ…めッ……ああん……やぁ!」

実際気持ちいいから、言葉でどんなに否定しても、身体が反応して仕方がない。サファイアの雄蕊の先から蜜が零れてくる。

「ほら、こんなに濡らして……正直に気持ちいいとおっしゃいなさい、それとも…やめましょうか?」

「……・……やめ…ないで、…崇也さん」

「ああ~…もう! 貴方という人は! こんな時に限って可愛いなんて、反則ですよ!」

反抗的で男らしい話し方をしたかと思えば、途端にウブな少女のように恥じらう。当たる光によって色を変えるアレキサンドライトのように。

「気持ち……いい、崇也さん……いい……いいッ」

いつもは仄白いサファイアの肢体が桜色に染まっている。斎藤を見上げる瞳は愉悦に潤み、サラサラの髪も汗で濡れ、額や頬に張り付いている。

「サファイア様、……私のここを、貴方のお口で愛して下さいませんか?」

「……ん、……ぅん、……んん…はぅ……」

言われるがままに斎藤の逞しくそそり立つ雄蕊を口に含んで、夢中で舌を巻きつける。斎藤はサファイアの頭を固定させて、手を添えた雄蕊で彼の口腔内を犯す。

「サファイア様は、こちらも天才的でいらっしゃる。ほら、ここ、お好きでしょう?」

上顎の裏を斎藤の雄蕊の先で擦られると、たまらなくなってサファイアは自らの腰を揺らめかせる。

口の中いっぱいに、斎藤の先走りの蜜の味が拡がると、更に夢中になって舐めしゃぶった。

「ぅんん……ん、……ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、……これ、……好き」

「ええ、とてもお上手でいらっしゃいます。……ですが、もうそろそろ貴方に入らせて頂きます」

サファイアの口腔から引き抜いた雄蕊が糸を引いて離れていく。物欲しげにみつめるサファイアの頬に斎藤は口づけると、身体の向きを反転させた。

「崇也さん、俺……怖い」

「大丈夫ですよ……さぁ、先ほどしたように息を吐いて、力を抜いて下さい」

斎藤はサファイアの双丘を左右に拡げながら、狭い蕾に熱い漲りを圧し込んで行く。

「ひっ……!……はぁ、はぁ、……っ、はぁ、はぁ、……っ、はぁ、ふ……太い、……堅い……はぁ、……っ、はぁ、……やッ……!」

押し入ってくる昂ぶりを、背中を震わせながら必死に小さな孔で呑み込もうとしている。

「……くッ……なかなか、きつい孔ですね………」

「崇也さん……はぁ、……っ、はぁ、崇也さんッ……はぁ、はぁ、ああッ……はぁ、はぁ、」

サファイアの呼吸が苦しそうに乱れて、荒い呼吸を繰り返している。

「苦しいですか?……でも、苦しいだけでは無いでしょう?」

「ぅん……崇也さんの……熱い……ああッ……はぁ、はぁ、はぁ、」

斎藤は少しづつ抽送を深めて、サファイアの内襞に自分の形を覚えさせる。一旦奥まで圧し込んだ後、括れで襞を捲るように擦り上げるとサファイアの口から嬌声が上がった。

「やぁん……ああッ……ああッ……なんか……すごく………好い……なんで……気持ち…好いの?」

「私のコレを……嵌められるのが……お好きなんですよ。……こんなに喰い締めて……いけない人だ」

「もっと、崇也さん……もっと、……いっぱい……入れて……俺、……達きそう!」

腰を突き出すようにねだられて、斎藤はサファイアの薄い尻肉にパンパンと腰を打ちつける。

「サファイア様!……出しますよ!」

達く寸前で孔から引き出して、あふれる白濁をサファイアの白い膚に散らした。サファイアもまた、雄蕊に触れられることなく達していた。

 

次の日の朝、サファイアが目を覚ますと、すでに斎藤の姿はそこになかった。

「崇也さん、東京に帰ったんだ……」

胸の中に拡がる淋しささえも、サファイアは愛おしいと思えるようになっていた。枕元に置かれたミネラルウォーターのペットボトルは、斎藤が用意してくれたものだろう。

あれから気を失うように眠りに堕ちたサファイアの身体は、きれいに清められていて寝間着まで着せてくれてあった。それが愛ではなくて何なのだろうか。

近くに、いつでも一緒に居られたらと思うけれど、今はこれで充分だ。

 

 

もうしばらく眠ってから目が醒め、起きようとするとサファイアの身体が軋むように痛む。

それでも何とかリビングまで歩いて行くと、ローテーブルに大きな箱が置かれている。

紺色の包装紙に銀色のリボンがかけられたそれは、どう見ても斎藤からの“再就職祝い”だろう。

「こんなこと、してくれなくていいのに……」

どこまで自分を甘やかす気なのだろう?

斎藤が俺のことを、とても大切に思ってくれてる……。

サファイアの鼻先がツンと痛んで瞳が潤む。洟をすすりながら、その贈り物を開けると中には小さなメッセージカードが添えられていた。

『 光り輝く貴方のために 』

いつか、その言葉に相応しい人間にならなくては。

彼の愛をしっかり受け入れられる自分になっていたいと、サファイアは心に誓いを立てた。

贈り物の中身は、細身のサファイアにジャストサイズに仕立てられたポール・スミスのグレーのスーツと、プラチナ製のブレスレットだった。ブレスレットの内側には、小さなダイアモンドとサファイアが嵌めこまれており、“T to Kと彫られている。 

崇也から紘輝へ 定番の言葉だが、サファイアにとっては、何より胸を熱くする言葉となった。

 

 

 

 

               End
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