うわさと社会:ドイツ・都市伝説の真相/3 地球外生命体に関する文書、連邦議会が公表拒否
毎日新聞 2013年02月20日 東京夕刊
◇UFOにも冷戦の影
世界の都市伝説にはUFO(未確認飛行物体)が付き物だ。ドイツではこのUFOを巡り、興味深い司法判断があった。11年12月1日のベルリン行政裁判所の判決だ。「ドイツ連邦議会(下院)は地球外生命体に関する文書を開示せよ」−−。
戦後、主要国は宇宙開発を進める過程で、宇宙人やUFOの研究に従事した。英国公文書館は昨年、公開した分析資料で「UFOが存在する確かな証拠はない」としながらも、国防省にUFO担当の分析官がいたことを明らかにした。フランス国立宇宙研究センターも07年にUFO目撃資料を公開し、科学的に説明できない事例が全体の約3割あることを認めた。日本は07年、政府が「存在を確認していない」との公式見解を出したが、当時の町村信孝官房長官が「個人的には絶対にいると思う」と述べ、話題になった。
ドイツでは、連邦議会に付属する学術調査局が「地球外生命体の探索」との文書を作成したのは知られていたが、議会側は「一般公開用ではない」として公表を拒否してきた。11年の「開示命令」判決に対しても控訴し、今も係争中だ。
この問題を調査しているジャーナリストのロベルト・フライシャー氏(34)の分析は現実的だ。「冷戦期、東西に分断されたドイツは軍事機密が飛び交う最前線だった。UFO情報はスパイ衛星などに関連することも多い。公開に消極的な背景には、今も公表しにくい機密の存在があるのでは」。政府機関のドイツ航空宇宙センターに聞くと「UFO研究については一切知らない」(アンドレアス・シュッツ広報官)との回答だ。
第二次大戦中、ナチスはロケットなど宇宙開発を進めた。昨年、日本でも公開された映画「アイアン・スカイ」(独、豪州など合作)は、月に住むナチスの子孫が宇宙船で地球を攻めてくる荒唐無稽(むけい)な物語。それにもかかわらず製作費に世界中のファンが寄付し、約1億円が集まった。06年の世論調査によると、ドイツ人の4割は地球外生命体の存在を信じているという。
UFO情報には冷戦期の「不都合な真実」が隠されているのか−−。ドイツではUFOのうわさにまで、複雑な現代史が影を落としている。【ベルリン篠田航一】=つづく