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ホントが知りたい 食の安全

非科学的な「怖がり」が生む風評被害
ホントが知りたい食の安全 有路昌彦

(2/2ページ)
2013/1/25 6:30
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 主観的なリスクに対して、科学的事実にのみ基づくリスクを客観的なリスクといいます。たとえば死亡率で計算して、1億人中1人がその理由でなくなるとすれば、1億分の1というようになるわけです。

 イメージしにくい数字かもしれないので、別の角度から説明してみましょう。35歳の男性は、1年間に100万人中820人が何らかの理由で亡くなります。その年のその性別の人のリスクの合計値というのは統計学的にはわかっています。これが、客観的なリスクです。もちろん科学的事実なので、その人の感覚は関係のない数字です。

 一方主観的なリスクはその人がそのことに対してどの程度怖がるか、によって決まります。怖ければ怖いほど主観的リスクは高まります。消費行動はこの「どれだけ怖いか」によって決まるのというのは、みなさんも感覚的に理解しやすいと思います。買い物に行って、「怖い」と思えば、自然とその食品を選ばなくなる、ということです。

 風評被害は、この「怖い」が大きくなることで発生します。

■生活できなくなるリスクに発展も

 別の角度から、風評被害の発生を考えてみましょう。

 まず、誰か怖がらせる人がいると怖くなります。また、信頼していたり、頼りにしていた人が信頼できなくなったら怖くなります

 このように、1.怖がらせる人によって発生する風評被害、2.対応のまずさによって発生する風評被害、の2つがあり、最終的にはこの2つが組み合わさって大きな被害になっていきます。

 BSEに関連して国内の産業は1兆円程度のダメージを受けました。このうちの大部分が風評被害ということができるでしょう。今では放射性物質に関連する風評被害も無視できないものです。

 風評被害の恐ろしいところは、消費者の間に根拠のない不安が広がった結果、何億円何兆円もの経済が失われ、雇用が失われるところにあります。怖がることで、結局もっと恐ろしい「生活ができなくなる」というリスクが大きくなっていくのです。

 次回はこの風評被害の防止方法をお話しします。

有路昌彦
 近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。

[ecomomサイト2012年4月3日掲載記事を基に再構成]

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