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ページ更新時間:2013年2月20日(水) 02時34分

震災特例を悪用、雇用助成6億円を不正受給

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 大阪市の人材派遣会社が東日本大震災の特例措置を悪用し、国の雇用助成金およそ6億円を不正に受給していました。その手口は一体どんなものなのか、実態に迫りました。

 2年前でした。その会社が主催する研修を受けたのがきっかけでした。田中さん(仮名)は「独自のセールス専門資格が取れる」と説明を受けました。

 「トレーナーの資格を取ればこの会社で働くことも可能だと話が(社員から)あった、一番最初に。ありがたい会社もあるものだなと」

 求人票にあったのは月給20〜30万円。失業中だった田中さんは3か月間、必死に研修を受けて資格を取得しました。そして、おととしの春、入社を決意したのですが、会社から提示されたのは…

 「最初10万円と聞いたとき、正直疑問を感じた。その次にじゃということで出てきた条件が15万円」

 田中さんが入社した人材派遣会社のビジービー。教育ソフトなどを使った人材育成の分野で急成長していると自信を見せます。ですが、実際はその事業は軌道に乗っていませんでした。このため、会社は雇用を維持する公的な制度を利用していたのです。雇用調整助成金制度。この制度は、社員を一時的に休ませることになった場合、賃金に相当する休業手当を国が8割支給する制度です。田中さんもこの制度の対象者となっていて、国からは月20万円ほどがこの会社に支払われていたといいます。さらに田中さんが会社に対し異変を感じたのは震災後のことでした。

 「あれよあれよという間に社員数が増えていって、ちょっと待てよという思いがあった」

 2008年には10か所だった会社の拠点が震災後1年足らずで45か所以上に急増。社員は5倍以上の400人に膨れ上がっていました。私たちが入手したビジービーの助成金対象者の一覧表。ほとんどの社員が月に20日以上休業しているのです。休業させる社員をなぜ採用し続けたのでしょうか?

 「実際は入社してすぐ休業。10万円では給料が少ないので、できたら奥さんも入りませんかと。実際、夫婦で入社している社員も多くいた」(元社員)

 ビジービーの場合、助成金は1人およそ月に20万円支払われます。ですが、社員の平均給与は10万円ほどだったといいます。社員を増やせば増やすほど国から支払われる助成金は増えます。なぜ震災後、社員が急増したのでしょうか?背景には助成金の震災特例措置がありました。被災地企業との取引が全体の3分の1以上を占めていれば支給条件が大幅に緩和されます。採用してすぐに助成金が支払われる仕組みです。そもそもビジービーは特例の条件を満たしていませんでした。このため、社員に被災地との架空の取引を作り出す作業をさせていたのだといいます。

 「行政に出す書類をごまかすための架空の請求。お仕事をしましたよとか、そういったことをやった。ただ、そのときは何をやっているのか全くわからなくて」(元社員)

 おととし10月、会社の決算書を見た田中さんは呆然としたといいます。

 「(収益の)9割以上が助成金。社員が増えることによって(助成金という)収益が上がっていく、そういう会社の仕組みになっていた」(元社員 田中さん(仮名))

 震災以降、被災地の雇用創出に貢献するかのように拠点を東北に増やしていたビジービー。採用された社員たちは取材に対し「仕事がない中、助かったのは事実」としたうえで、こう語りました。

 「(採用・事業の)決定は全て本社。現地での判断基準はなかった。『皆さんが教育助成金のリーダーという形になって、その教育する人を集めませんか』勧誘ですね」(東北の元社員)

 1人社員を集めると数万円の手当てが上乗せされたといいます。これは制度を悪用したビジネスではないのでしょうか。社長が取材に応じました。

 「間違った形で申請を出したということにおいては大変深く反省していますし、申し訳なく思っています」(中村真也社長)

 あっさり不正受給を認めました。また、社員を増やしたのは被災地のためだったと主張しました。

 「東北の方々、被災地の方々は仕事もないし雇用もない。そういう方々を広く受け入れて教育していく、それが震災特例を受けた会社としてやることが自分のミッション、使命かなと」(中村真也社長)

 専門家はビジービーの不正受給について…

 「実態がない事業に基づく(助成金の)申請をしたとなれば詐欺の可能性が高くなる。期間と規模からいくと、すごく突出している印象があるので、(大阪労働局は)どこかで気付けなかったのか」(村田浩治弁護士)

 労働局は取材に対し調査には限界があると述べました。

 「性善説、申請主義でこちらも頂戴している。帳簿まで操作されてしまえば、私どもとしてはわからない」(大阪労働局 雇用保険課長補佐)

 去年7月、労働局はビジービーの不正を認め、助成金の支給を止めました。ビジービーの不正受給額は、おととし8月から去年6月にかけて過去最高の6億円に上るということです。社長はその6億円を返すと主張しています。大阪労働局は返還がなければ刑事告発する方針です。(19日23:57)