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  シーカー 作者:安部飛翔
第8章
プロローグ
【???】???“???”???
 深淵の闇の中。
 闇などという下位の概念は容易く駆逐しその輪郭を露わにしている少女。
 酷く歪な笑みを浮かべた少女は楽しげに笑い声を響かせる。
「くくくくくっ、ふふっ、あーーっははははははっ、いやぁ、想像通りの展開だなぁ。うん、面白かった……最後のオチを除けばね」
 そう言って僅かに眉を歪める少女……享楽の邪神ロドリゲーニ。
 恐るべきその存在は、今まるでただの少女の様にむくれ、自らの腹部を見ている。
 その腹部の半分は抉れ消滅していた。
 しかし断面はノッペリと、まるで得体の知れない何かが覗くかのようで、それを人間が目にしていれば容易く狂気に堕ちていたであろう。
 ロドリゲーニはややつまらなそうに愚痴る。
「まったく、僕の存在を感知も出来ないのに、それに邪神としても特殊な僕の力には僕との繋がりなんて“存在する筈が無い”のに、その“存在しない”“繋がり”を強引に“創って”逆探知攻撃?本当に無茶苦茶だなぁ」
 でもまあ、と、ロドリゲーニは続ける。
「流石に逆探知、と言っても、本来“存在しない”“繋がり”を利用しての物だから攻撃を放つのがせいぜい、僕の居場所まではスレイが探知する事は無理だったと。見たい物は見れたんだし、痛み分けってところかなぁ?」
 そしてまた笑うロドリゲーニ。
「いやぁ、本当に、このスレイの力を最大限に抑制する世界であるヴェスタでよくぞ、と言ったところだけど、見事に極端に歪んだ価値観になってる事が確認出来たのは良かったね、うん」
 楽しげに手を後ろで組み、在りもしない足場でステップを踏むロドリゲーニ。
「極端なまでの人間の可能性賛美と、可能性を貶める物への徹底的な侮蔑。全くもう、例えば数多の世界でかつて在りこれから起こる魔女狩りしかり、戦時に於いての人間の意識の誘導しかり。人間の9割、いや下手をすると99%は我が身かわいさに容易く悪に身を染める存在だよ?周囲の環境など関わり無く己を、正しいと思う信念を貫く事が出来る人間なんて1割にも満たない聖人君子、あるいは超人などと言われる類の者達だけだ。スレイ、君はあまりに人間という存在に対し求め過ぎだね。だから僕の差し出した力の誘惑に乗った人間を塵と断じ、あっさりと処断した。クランドという人間の可能性の極限の輝きを見てしまった以上仕方の無い事かもしれないけど、それじゃあいずれ人間の中で孤立するのは間違い無い。人間とはそれほど強い存在じゃないんだよ?スレイ」
 今度は本当に困った様な顔になるロドリゲーニ。
「しかしそれは僕としては本意じゃないな、そうそれじゃああまりにもつまらない。確かに人間の中で孤立しようがどうしようがスレイなら1人でも僕達と戦い或いは容易く勝利してしまうかもしれない。でもそれじゃあ違う。そう僕が楽しくなくちゃあどうしようも無いじゃないか。ふむ……」
 暫し腕を組んで考え込むロドリゲーニ。
 そしてわざとらしく両手を開くと、さぞ名案を思いついたとばかりに芝居がかった台詞を告げる。
「それなら僕が舞台を整えてあげようじゃないか。イグナートもシェルノートもジャガーノートも当分動く様子は無い。トリニティも職業:勇者に固執して何やら色々と動いてるようだ、ならば僕がスレイの敵を用意してあげるとしよう。スレイの為にね?いやあ、僕って尽くす女だなぁ。さて、そうなるとスレイにはちょっとばかりスレイ自身の予定とは別の動きをしてもらう事になるかな?だけど問題ないよね、何せスレイが動いているのは僕達邪神の動きに少しでも対抗できる戦力を整える為、予定はあくまでその為の戦力が乏しいところから順番に回る、という事で立てているだけ。ならば、最終的に戦力が均衡して整うのであれば、順番が狂おうと、寧ろ僕の用意した敵に対抗するという方が目的に本題に当たるんだから、何ら問題は存在しない」
 そして最後にとびっきりに無邪気な笑みを浮かべる。
「だけどまあ、スレイの場合僕の予想を平気で裏切ってくれるから、今度はどんな予想外の事をやらかしてくれるのか?それもまた楽しみだよねぇ。本当に期待しているよスレイ」
 まるで恋焦がれる乙女の如く。
 熱の乗った言葉は虚空に紛れて消えた。


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