【欲望の迷宮】地下100階“門番の広間”
【欲望の迷宮】の最下層。
地下100階。
“門番の広間”へと繋がる門の手前。
これまでの道程以上に豪華な装飾が施され、あまりにも絢爛たるその門に呆気に取られるフェンリル。
流石にやり過ぎだろうと思う。
だからこそ“欲望”の“迷宮”なのだろうが。
門はただ華美に過ぎるだけではなく、どこか芸術性と力の感じられる意匠が施されている。
全てを取り囲む巨大なる円を描く蛇。
下顎を大地に着き、上顎は月よりも高きに達する狼。
何やら杖を持ち、純朴そうな青年を突き殺す邪貌の青年。
それらの意匠もまた豪華絢爛な素材により象られている。
ちなみにここから通じる先が“門番の広間”という情報はスレイからつい先刻聞いた物だ。
更に奥、即ちこの迷宮の最下層の最奥にはここに居るディザスターが封じられていたという“封印の間”があるらしい。
とは言え“封印の間”などと言っても形だけの物で、実際にディザスターが封じられていたのはヴェスタという世界が内包した強大な力故に生じたこの世界の歪そのもの。
他の邪神達もそれは同じ事。
その封印をより強くする為の措置として、歪の中のそれぞれの邪神達が在る座標とのクロスポイント。
世界と歪が重なる点にわざと“扉”を作る事で、神々は封印という“形”をより明確な物としたらしい。
封印の“扉”を造る事で、明確な封印の破る方向性が生まれたが、どの道たとえヴェスタという強大な世界の歪を使った封印だろうと“真の神”たる邪神達を永遠に封じておく事は不可能。
逆に明確な封印の綻びが生じる事で、その一点以外に“穴”を開けるのは至難の業となった。
その上で“扉”を幾重にも職業:勇者達の封術を重ね掛けし強く閉ざす。
そして“扉”という明確な“形”があるからこそ封印が弱まり始めても、その“扉”に再び封術を重ね掛けすれば封印の修復も可能。
それにより本来ならば半永久的な封印を保持する事が可能な筈だった。
神々の誤算は“真の神”たる邪神達の力を僅かに見誤っていた事、そして職業:勇者という存在の魂の劣化だろう。
超神の遺骸の一部を材料にした特性:天才の魂と違い、職業:勇者の魂は一から神々が創り上げた物。
それ故に確かに通常の人間の魂と違い輪廻の輪に解ける事は無かったが、それでも劣化は避けられなかった。
それは神々の予想外の出来事だった。
もし、神々がその事実を予想し、職業:勇者の魂に定期的なメンテナンスを行っていれば、少なくとも今代の職業:勇者も初代職業:勇者と同等の真の戦士足りえたであろう。
今頃は顕現出来ない身ながらも慌てて今の職業:勇者達の魂に干渉しようとしているところだろう。
スレイはそう言って笑っていた。
予期せず知った邪神達の封印のシステム。
そして今代の職業:勇者達の弱さの理由。
フェンリルとしては困惑するしか無かったが、そんな内容をおかしげに笑いながら告げるスレイは大概であろう。
いや、それもまたスレイという青年の自らの力に対する絶対的な確信が在っての事なのだともはやフェンリルにも容易く理解出来たが。
ちなみに現在スレイは魔法の袋から何やらやたらと長く太い紐を取り出していた。
先程までの戦闘で、敵を葬る度に、敵の身体だった破損したオリハルコン製の鎧や様々な武具を圧倒的なスピードで自動的に吸い込んで行っていた魔法の袋というシュールな光景を思い出してしまい、思わず苦笑いを浮かべるフェンリル。
超一流の探索者ともなれば換金アイテムを一々手作業で集めるなどという時間の掛かる事はしない。
大体凄まじいスピードで戦闘をこなして行く彼らにそのような暇は無い。
故に魔法を使い、魔法の袋に自動収集させる訳だが。
それにしても先程までの光景はフェンリルを以ってしてもあまりにも常軌を逸した光景だった。
夢に出てきそうなくらいだ。
果たしてあれほどの勢いで集められたオリハルコンがどれだけの金額になるのか。
オリハルコンの値崩れなどが起きない事を願うばかりだ。
そもそもオリハルコンをまともに扱える鍛冶師さえ希少価値が高いというのに、普通に換金所で換金して貰えるのであろうか。
流石にあそこまで行くと探索者ギルドと言えども処理能力を越えそうな気がする。
まあスレイの場合、そうなったらそうなったで、オリハルコンも研究素材として扱っていそうなカイト辺りの所に直接持って行って対処しそうな気がするが。
それはそれで大陸の戦力バランスが崩れそうで怖い物がある。
まあ、あのカイトという男ならば、敢えて大陸の戦力バランスを崩すような真似はしないと思うが。
あの男の本質は商人だ。
商人には商人のやり方がある。
皮肉な話だが、悪徳とも言える彼等の性質が、逆にフェンリルにとっての安心材料になっていた。
何時の間にか目の前に積み上がった紐にフェンリルは絶句していた。
紐。
そう紐だ。
幾ら太くとも紐の範疇を出ない。
多少不可思議な光沢を放っていたりするが、それはただ一本の紐として目の前に巨大な山を造り上げ積み上がっているという事実に何ら関係を持たない。
「これは……なんだ?」
思わず間を空けて訊ねる。
それほどに意表を突かれていた。
目の前の物が何なのか分からない。
それだけなら問題無い。
そして何故今これを出したのかも分からない。
それも先程から何をしているのかと疑問に思っていたのだから問題では無い。
しかし流石に目の前の光景ばかりは想定外だ。
そんなフェンリルにスレイはニィッと口端を吊り上げる。
「グレイプニル」
暫し沈黙が場を支配する。
フェンリルは当然説明があるのだろうと先を待っていたのだが、スレイがその一言で答えを完結させてしまった為だ。
そんな答えで何も分かる筈が無い。
「グレイプニルとは何だっ!?」
思わず怒鳴る様に再び訊ね、自らの失策を悟る。
スレイは相変わらず笑みを浮かべ続けていた。
いや、今のフェンリルの再度の問いで笑みを深めてさえいる。
そして彼の下僕であるディザスターとフルールは何やら呆れたような気配を醸し出していた。
やられた、と思う。
この迷宮の中、何度も使われた手だ。
いい加減フェンリルも学習する。
スレイに対する感情の好悪の激しい揺さぶり。
ひたすら大きい波。
スレイは常にわざとそれを相手に起こさせる。
こうやってからかうように遊び、相手を怒らせるなんていうのは序の口だ。
そしてそれを行う理由は単純明快。
心の壁を強引にぶち破る為。
普通の方法で人から好意を得るというのはどうしたって長い時間が掛かる物だ。
だがスレイはどうやらそれを面倒だと思っているらしい、とフェンリルはこの迷宮の中で共に過ごす内に理解した。
尤も、それをスレイ自身が理解しているのかまでは知らないが。
ともかくスレイは良くも悪くも強引に、方法を選ばず相手に自分の印象を強く刻み込む。
好悪どちらの感情だろうが強くその人間を心に思うという事は、心の壁の中にその人間を刻み込むという事だ。
そしてスレイはその両方への心の変化を、まるで超高温から超低温へ、そして超低温から超高温へと物質に変化を与えるように、何度も何度も繰り返し行って来る。
激しい温度の変化により物質が脆くなるように、激しい心の変化の繰り返しでスレイは何時の間にか心の壁を壊して来る。
そうしてから容易くスレイは人の心へと侵入してくる。
いやらしい手口だ。
だからこそ効果的だ。
それを自然と息をするように行うからこの男は性質が悪い。
だが他の男の恋人という例外はあるが、それでも全ての美女と美少女を己が物とするとまであのような場で堂々と宣言してみせた男だ。
このような性質が悪いが効果的な人身掌握術を身に付けたのは寧ろ必然なのだろう。
分かっていても防げないのがなお性質が悪い。
何せ理解などという理性的な物では抵抗できないまでの圧倒的なまでの人への影響力を持っているのだから。
フェンリルも、この階層に到るまでの途中にその事に気付いたが、結局は対処法など無い事に気付いた。
いや、一つだけ無い事も無い。
そもそもスレイと接触しなければいい。
だがそれもスレイという人間が会いたいと思ったなら、会えない人間など居ないのだろうから、無駄な仮定だろうが。
刹那の内に様々な思考が巡ったフェンリルに対し、その内心すら恐らくは理解しているだろうに気にした様子も無く、勿体ぶった調子でスレイはフェンリルの問いに答えた。
「まあ、グレイプニルってのは要はここに来た目的である番犬を捕らえる為に造られた足枷だよ……本来は」
「本来は?」
思わず問い返すフェンリル。
それに、どこか悪戯気な、得意気な笑みを浮かべてみせるスレイ。
フェンリルは警戒心を覚える。
スレイがこの様な顔をした時は絶対に常軌を逸した事をやらかす。
絶対だ。
短い付き合いだがフェンリルはもはや確信していた。
良い意味でも悪い意味でもこの男が常識などという物に縛られる事はありえない、と。
今度はいったい何をやらかすつもりか。
いや既にやらかしたのか。
心構えをしっかりしてから再び問い掛ける。
「本来は、とはいったいどういう意味だ?」
スレイはどこか邪悪にやはりニィっと口端を強く吊り上げて笑った。
「ふむ、その問いに答える前にだ。まずこの門の先に居る今回の目的である番犬、と言っても俺達が大陸北方の番犬にする為にそう呼んでるだけで実際は狼なんだが、そいつの事について説明しなくちゃな」
「……いや私“達”ではないだろう。そもそも私は番犬と聞かされていただけで、対象が狼だなどというのも始めて知ったぞ」
「細かい事は気にするな」
今度はからかうようにニヤリと笑ってみせるスレイ。
思わず呆れて溜息を吐く。
そんなフェンリルを無視してスレイは続ける。
「じゃあ、こいつも言っておくか。この門の先には異界の一神話体系のトリックスターとも言える神と、神格級の化物が二匹居る。ちなみに狼はその化物二匹の内の一匹で、ちなみにその化物共はその1柱の神の子でもあるな」
「なっ!?異界の神に、それに匹敵する化物が二匹もだとっ!?」
驚愕の声を上げるフェンリルにスレイは肩を竦めてみせる。
「おいおい、この迷宮は地下50階層にさえ異界の女神が居たんだぞ?最下層ならそのクラスが三体いようが全然不思議じゃないだろう。ちなみに地下50階層のババァとここの糞餓鬼共は異界の中でも同一の神話体系の神々になるな」
「いやっ、神クラスの敵が一体と三体とでは随分と差が有るだろうっ!!」
「だからこそ最下層なんだろう?と言っている」
やれやれと言わんばかりに呆れた声を出すスレイ。
思わず怒りが込み上げるフェンリルだが、無駄に感情を乱すのを嫌いすぐに制御し、冷静に問う。
「なるほど、分かった。何しろ未知迷宮の事だ、納得したくは無いが納得しかないだろうな。で、それはこの迷宮に封じられていたというディザスター殿から聞いた情報なのか?」
「ん?ああ、いや。今の俺は全ての未知迷宮について詳細な情報を“識”る事が出来るぞ?まあ、必要以上の情報を開示する気は無いが」
「なっ!?君はっ……いや、止めておこう」
相も変わらず常識外れの事を平然と告げるスレイに思わず詰め寄りそうになるも、また再びあっさりと自らを律し抑えるフェンリル。
未知迷宮全ての情報を知るというのは驚きだが、まあスレイに関してはもう驚くのも無駄と悟りつつある。
それよりも必要以上の情報を開示する気が無い、という言葉に、邪神が復活するなどという今の状況で必要じゃない情報などあるのか、と問い詰めたかったが、フェンリルの冷静さは、例え知ったとして、そんな情報を完全に有効に扱えるものなどスレイぐらいのものだと認めてしまった。
もし未知迷宮の情報を全ての者に与えれば貴重な戦力が減る可能性がある。
何しろ超一流の探索者というのは馬鹿では無いが無謀なところは存在する。
恐怖という感情を持たないが故に。
それでも本来なら冷静にリスクとリターンを推し量り、最善の行動を取れるのが超一流の探索者なのだが、リスクとリターンを推し量るにはそもそも情報から正確な計算をする必要がある。
だが未知迷宮の情報など与えられたところで、彼らをしてそもそも正確に把握する事など不可能だろう。
そして把握出来ないという事はそこに可能性が存在すると感じてしまう事も有り得る。
絶対に無駄、無意味、損しか無いと推し量れたならば無謀な事はしないであろう彼らも、僅かにでも可能性を感じてしまったなら実際はどうであれ無謀な賭けに出る事も有り得る。
そしてもう一つ、あのフレスベルド商業都市国家・議会・現議長、商王カイト・ギルスという男ならば、自らの身内の様な存在で、手持ちの最強の戦力だろう閃光ダリウスを利益の為に捨て駒にする可能性すら有るだろう。
今の状況で戦力が欠ける可能性を僅かにでも増やすなどそれこそ愚の骨頂だ。
結局、全員がスレイの掌の上で踊るしかない。
つまりはそういう事だ。
諦めたような表情を浮かべたフェンリルに、内心を察したスレイは僅かに不本意そうに眉を顰めるも、結局はそれについては何も言わない。
代わりに先程しようとしていた説明を続けようとし……思い直して説明の内容を変更する。
「さて、どうやら色々と不本意な形ではあるが納得してもらえたようだから、狼の説明の続きをしようかと思ったが、どうせここまで話したんだ、ついでだ、この門の先に居る奴ら全員の事を説明しちまうとしよう」
「ああ、そうだな。というか相手にせねばならん相手の情報だ、私の心構えの為にも、始めから全員の事を話すべきだと思うのだが?」
「いや、必要が無いな。説明するのは気紛れだ。何せ捕まえる番犬以外の他の二体は俺が瞬殺するからな」
「……」
フェンリルはただ沈黙を保つ。
言ってる内容は無茶苦茶なのだが、もはやそれに驚く事自体が無駄だと悟りつつあった。
さて、と。
スレイはようやく本格的な説明に入る。
「で、だ。まずは先刻言ったトリックスター、悪戯小僧みたいな稚気と糞爺みたいな狡猾さを持ち、それでいて馬鹿をやって酷い目にしょっちゅう遭う阿呆の癖に、その神話体系の神々の黄昏、つまりその神話体系に於ける世界の終末たるラグナロクが始まる引き金をいたずら半分で引いちまう運命を持った神、ロキの事を説明するか。とはいえ今ので殆ど説明しちまったようなもんか?それにこの世界に喚ばれたのは引き金を引く前の神格らしいしな。というよりその神話体系の場合、ラグナロク後の新たな世界から喚べる神は禄に居ない。言ってる意味が理解し難いかもしれんが、“真の神”は絶対なる“個”であり、この世界の神々もまた世界の特異さ故に“個”として完結しているが、数多の世界の各神話体系の神々は“個”で完結せず、幾つも遍在するんだよ。だからこの世界に喚ばれた神も元の世界にも普通に居るから元の世界に何ら影響は無い訳だ」
「……は?」
「ん?理解できなかったか?」
首を傾げてからかうような笑みを浮かべるスレイをフェンリルは思わず睨み付ける。
「そんな訳が無いだろう、私とてSS級相当探索者、時の呪縛からすら解放されし存在だ、如何な異端な理屈も理解出来る思考は持ち合わせている。ただ神々のその“個”としての強大な力と比べての存在の不確かさに驚かされただけだ……君の言う事が事実なら、だが」
「ん?疑うのか?」
「いや、今更それは無いな。君という存在はもう嫌でも理解できてしまっている。そんな嘘を君が言う事は無いだろう。ならばそれは真実なのだろうさ」
どこまでも嫌そうな顔をしながら頭を左右に振るフェンリルを見て、やはり楽しそうに笑いながらスレイは説明の続きを始める。
「蛇足だが、この神はやたらとアブノーマルな姦淫に励んでるからこの【欲望の迷宮】で人間の三大欲求の一つ性欲を象徴してるのかも知れないが、これに関してはこの世界の神々のこじつけ、つまり無理矢理当て嵌めただけだろうな。何せ数多ある世界の無数の神話体系に於いて姦淫に耽る神など珍しくもないし、大体がここの地下50階層に居る同一の神話体系に属する糞婆も大概色狂いな女神だしな。むしろ驚くべき事に邪神達やこの世界の神々は珍しい程にその方面では健全だ、欲望を司る邪神たるディザスターでさえな……理由は本人に聞いても分からんかったが。で、そのアブノーマルな行為の結果として生まれた一部がここに居る化け物二匹って訳で、とりあえずその内一匹は並の惑星なら軽く一周出来る体長を持った大蛇ミドガルズオルム或いはヨルムンガンドだな、名前を二つ言ったが複数の名を持つ存在など神話に於いては珍しくも無い。こいつは巨大なだけでなくその神話体系に於ける最強の戦神を負けはしても最後に吐いた毒で毒殺するぐらいに強力な毒も持っている。そしてこいつが象徴するのは睡眠欲だろう、これもこの大蛇が自らの尾を噛む蛇であり、終末に尾から口を離す、つまり終末になるまで尾から口を離さないという運命からのこじつけだろうがな」
「惑星を一周……だと?」
目を見開くフェンリル。
だがスレイは何を驚いてるんだこいつは、みたいな呆れた目でフェンリルを見詰める。
「おいおいどうした?あんたなら普通に惑星の大きさぐらい想像とかそんなチャチな話じゃなくその視覚で以って完全に実感出来るだろうが。あんた等は惑星の全てを“視”る事もそれどころか宇宙の全てを“視”る事も出来るんだからな。何せ探索者に改造された時に、光でもなければ時間を逆行するタキオンでも無い、時間に全く縛られず遍くあらゆる座標に遍在するエーテルを使って物を“視”る事が可能な“眼”を植えつけられ、SS級相当に到った時点でその“眼”に“開眼”してるんだから。実際あの世界の墓場で超巨星の姿だってリアルタイムで“視”てたじゃないか?とはいえ不確定な未来を“視”る事は出来ないし、脳の処理能力の問題で、そもそも“視”ようと意識した対象しか“視”れないという欠点もあるが。そんな未来を限定的に“視”れるのが“占術”であり“星詠”という訳だな。尤も俺クラスになれば望む未来を“視”て確定させる事も可能なんだが」
「望む未来を確定だとっ!?なっ、なんだそれはっ!?」
驚愕に眼を剥くフェンリルに、スレイは額に手を当てる。
「あー、大分話がズレたな。って脱線させたのは俺か。安心しろ、そもそも時系列を無視しての超光速の戦いじゃ意味の無い能力だし、同じ事が出来る存在同士ならどちらの意志力の方が上かがモノを言う、何よりそれを“出来る奴”はそんなつまらない事“絶対やらない”からな。それこそ存在の定義にまで刻まれてる。尤もそれが“出来る奴”同士での戦いなら話は別だが。だいたいその程度の能力俺達が持つ全知全能の力のごく欠片に過ぎない。俺達からすれば未来どころか過去も現在すらも不確定にし己が望むままに確定できる、そんな全知全能を互いに行使し、互いの全知全能無効化能力で相手の全知全能を打ち消す。意志と意志のぶつけ合い、支配力の競い合い、それを本来の戦いの片手間に軽い遊び程度にこなす。それが俺達クラスの存在だ」
「……その説明でどう安心すればいいのか分からないが、とにかく問題は無いという事でいいんだな?実際問題は起こってないんだろうし、起こってたのだとしても私にはそもそも分かる事すら無い話だ、納得するしかあるまい」
「あー、物分りが良くて助かる。ところでだ、脱線ついでに聞くとこの惑星、その“眼”を以ってしても“視”れない所が幾つもあっただろ?例えば別の大陸とか」
「もしかしなくても、君は何か知っているのかな」
もはや諦観の姿勢で大人しくフェンリルは問う。
「当然だろ?俺には“視”えるし、単純に認識阻害が掛けられてるから、その掛けた主よりも力の弱いあんた等じゃ“視”えないってだけだしな。軽く言うと、あんたも聞いてるだろう噂は結構当たっている、と思っていいぞ?実際他の大陸の一つは聖戦時にシェルノートが実験場にして、今は暴走状態、俺でも少しは楽しめそうなのがそこそこ居る。ただしシェルノートが張った結界があるから外に出てくる事が無いが、俺が居ない時代にもしそいつらが出てきてたら邪神が復活しなくても世界が終わってたかもな?あとこの世界の神々の支配を逃れた異界の神々が支配してる大陸もあるな、普通に人間を創造出来る神々も居るから、今じゃ独自の文明すら築いてるぞ?当然その異界の神々が張った結界があるからあんた達じゃ“視”えない訳だ。他にも幾つかあるがとりあえず割愛な」
軽くとんでもない事実を暴露しておきながら何て事もないように話を打ち切ってしまうスレイ。
フェンリルとしては思わず知ってしまったとんでもない事実の数々を消化しきれていない。
それでも尚、他にも何かあるらしい話の続きを打ち切られた事に未練を感じるも、今の本題とは全く関係無い事を思い出し、今は諦める事にする。
いずれ必ず聞き出してやろうと考えながら。
とりあえず、この男に身を任せるだけの感情があるかどうかは今はまだ分からないが、寝物語であれば、このスレイという男は何でも吐きそうだな、などと埒も無い考えが僅かに脳裏を過ぎった。
そんなフェンリルの様子に頓着する事なくスレイは仕切りなおすように、わざとらしく軽く咳払いしてみせる。
「さて、と。それじゃあいよいよここからが本命だな」
「……随分と遠回りしたものだな」
「すまないな、これで俺は人に物を語るのが好きな性分でね。話が回りくどい上に長いという自覚はある」
フェンリルにじと目を向けられるも、あっさりと自らの短所を肯定し流すスレイ。
その開き直りっぷりに、処置無しとばかりに溜息を吐くしかないフェンリル。
そして続きが語られる。
「で、最後に肝心の番犬、いや実際は狼なんだが。こいつはある意味あんたと因縁があるかもな?あんたの名の由来になったシチリア王国の絶対凍土に生息する魔狼フェンリル、その先祖となった存在で、フェンリルの名は本来はこいつという個体を示す名だ。まあ言ってしまえば絶対凍土に棲まう連中やあんたなんかはその名を借りてるような立場だな。こいつは凶悪な事に、先程話した神々の黄昏という事象に於いて、その神話体系の主神を喰らう運命を持ったまさに本当の意味での魔狼だな。ちなみにその主神も決して弱い訳じゃないぞ?一応は闘神としての側面も在り、尚且つ片目を代償に絶大な魔術の秘技を修めた知識の神でもあるくらいだ。だから単純にこの狼がヤバイだけだな。そしてこいつも先刻の蛇程じゃないがでかい。相当にでかい。何せその顎を開いたら下顎が地面に着き上顎は月に届く程だ。で、こいつが【欲望の迷宮】で象徴するのは食欲だろうな。これもまた、その神話体系においてこいつが喰らう事に対するエピソードが幾つかある事からのこじつけなんだろうが」
最後にどこか呆れたように肩を竦めてみせるスレイ。
いや実際に呆れているのだろう。
恐らくはそのかなり適当なこの世界の神々の所業に。
だがそんな事よりも、フェンリルはふと根本的な、無視できない疑問を思いついてしまった。
「待て」
「ん?なんだ?」
極めて厳しいフェンリルの声音。
それに軽く答えるスレイ。
フェンリルはどこか重々しく問いかける。
「そんな巨大な化物どもがいったいどうやって迷宮内に存在している?」
「なんだそんな事か」
「そんな事では無いだろうっ!!」
スレイは深刻そうなフェンリルの問いかけに、拍子抜けしたというような表情をしてみせる。
だがフェンリルにとっては冗談事では無い。
そもそもにして馬鹿げたスケールの話だ。
それでもこればかりは看過できない疑問だった。
「そんな物、迷宮を創り上げた神々の力で空間程度幾らでも拡張されてるに決まってるだろう?特に迷宮製作に関してはあの、この世界の神々の中で最も性質の悪い性格をしている空間神オルスが主導している。空間神の名の通り空間に関しては奴の専門分野だ。それこそ空間を無限に拡張する程度、たかが神風情でも軽くやってみせるだろうさ」
どこか馬鹿にしたような声色で飄々と告げるスレイ。
そのあまりの言葉の内容に凍り付くフェンリル。
しかし次の瞬間には我を取り戻し、次の質問を繰り出す。
「分かった。いや分かりたく無いが分かるしか無いのだろう。だからそれは良い。だが、この迷宮内では良いとして、そんな巨大で凶悪な化物を、どうやって大陸北方の番犬などにするつもりだ?」
しごく真っ当な質問である。
だが真っ当としか言い様の無い筈のその質問に、スレイはどこか不機嫌な表情になる。
やれやれと言わんばかりの態度で今度はどこか馬鹿にするような態度で肩を竦めてみせ、言い聞かせるように答えた。
「あのな?たかが神風情が良い様に使っている奴だぞ?そんなもの俺ならどうとでも出来るに決まってるだろうが」
「なっ?」
あまりにも傲慢なその台詞に驚愕を隠せないフェンリル。
スレイは気にせず続ける。
「ふん、まあ色々と不本意な形ではあるが、ようやく一番最初にあんたが質問した事柄に戻ってきた訳だ」
「なんだと?」
「そいつだよ、そいつ。グレイプニル、っというよりはその神話体系での逸話を元に俺が創った殆ど別物の強化版だな」
「これは、そいつを縛る足枷なのだろう?例えその行動を束縛出来るのだとしてもたかが足枷で何が出来る?」
そのフェンリルの問いに、待っていたと言わんばかりにスレイはニヤリと笑っていた。
「まあ確かに本来のグレイプニルならその通りだな。本来のグレイプニルってのはその神話体系の中に存在するドウェルグって種族、まあこの世界のドワーフと殆ど同じ種族だな。まあその属する世界などによって扱う技術体系の違いとか特徴は少しばかり変わってくるんだが、大体にしてドワーフってのは手先が器用で物造りが得意って所は共通してるな。で、そのドウェルグって呼ばれるドワーフは特に魔法の道具を創る事に長けた種族な訳だが……まあとは言ってもその魔法の道具に関してもその神話体系に於いての魔法なんだがな」
「待て……他の世界にもドワーフが居るのか?それにそもそも世界によって魔法が違ったりするのか?」
思わず口を挟むフェンリル。
だが無理も無い事だろう。
超一流の探索者というのはある意味超越者の領域に足を踏み入れている存在だ。
もし他の世界に居たならば一つの世界に囚われる事など無く、異世界の事すら簡単に知りえる存在だったであろう。
場合によってはそれなりに準備は必要だろうが世界間を渡る事すら出来るだけの力も持っている。
現に彼等よりも力が劣っている存在でも、他の世界の存在を知り、世界を渡るような者達が他の世界には存在している。
彼等、超一流の探索者がそれが出来ないのは、このヴェスタという世界があまりにも強大な力を秘めているが故だ。
世界が秘めた力はその世界を包む壁とも呼ぶべき境界。
つまり世界の輪郭をあまりにも強固にする。
現在の、スレイの傍に居る事で成長したフルールならば問題無く殆ど消費せずにこのヴェスタの世界の壁を通る事が出来る。
だがかつての真紀達と共にこの世界に渡って来た時のフルールは、折角完全に回復した力をヴェスタの壁を通るのに殆ど消費する事になり、スレイと出会った時はその本来の力を欠片も発揮できない状態であった。
汎次元竜にして時空竜。
時空という特定の分野に於いてはその分野に特化した神である時空神にすら勝り、その分野の能力だけに限定すれば下級邪神、即ち下級の“真の神”にすら匹敵する存在。
世界を渡る事が日常の存在でさえその様な事になるのだ。
このヴェスタという世界の壁を自分の力のみで越え世界で渡るには最低でも下級の“真の神”級の力が必要という事だ。
だからフェンリルが異世界の話を聞き困惑するのは当然。
恐らくは数多在る世界の中でもこの世界ほど他の世界に対する情報が広がっていない世界はないであろう。
他の世界には偶然の異世界転移という事が時折起こり、それにより噂のような形で異世界の情報が広まったりという事が在るのだから。
そんな事情を思い出し、スレイは仕方ないなと思いつつも質問に答え、ついでに幾らか補足を入れておく。
「そうだな、他の世界と一口に言っても幾つも在るからな、ドワーフが存在する世界も在れば、存在しない世界も在る。これは人間を含めた他の様々な種族、どころか動植物や虫から菌の類、物質やその他色々、まあありとあらゆるモノに当て嵌まるな。その上でだ、今回の話のドウェルグって連中は更に特殊な部類で……と言っても同じ様な類の存在はこれまた色々と居るんだが、ともかくこいつらはその神話が語られている世界には存在しないが神話上には存在するという特殊な存在の形だな。そもそも直接神が世界に干渉している世界とそうでない世界であって、今回のその神話が語られてる世界は後者でな。そしてそういう世界での神話上の存在というのは存在の仕方がまた特殊なんだ。とは言えこればかりは普通に言葉で説明するのは無理だし、また話がズレてるんで省略な。で、魔法と呼ばれる物に関してはそれこそ無限を越えて存在する世界、種類なんて幾らでもあるさ。そもそも魔法の定義が違ったりする場合もある、これに関してもそれこそ気にするだけ無駄だ。だから余計な話はこれで終りでいいだろう?」
肩を竦めてどこかおどけた様に言うスレイ。
だがそこには有無を言わせずフェンリルを黙らせる様な圧力があり、フェンリルは思わず反射的に頷いていた。
それに満足したように微笑むとスレイは続ける。
「さて、それじゃあ先刻の話の続きだ。その神話体系でのフェンリルっていうあんたの名前の元になった狼はずっと言ってるように化物でな、色々あってその神話体系の神々はこいつを拘束しようとした訳だが、どんな拘束具を使っても簡単に引きちぎられちまう、それで苦心惨憺してなんとか造られたグレイプニルでしかもかなりの代償を払って更に苦労してようやくフェンリルを拘束する事に成功する訳だが、そこまでしても哀れ、予言されし神々の黄昏においてはグレイプニルは消し飛ぶ運命な訳だ。そう、本来のグレイプニルとはその程度の代物でしかない。だからあんたの懸念通り、あんたが使うのが本来のグレイプニルだったならあんたじゃ決してあんたと同じ名前を持つあんたなんか比べ物にならない化物のフェンリルを捉える事は出来ないだろうな」
「くっ、言ってくれるな……」
「事実さ、実際あんた自身が示した懸念だ。自分と敵の戦力差を俺が与えた情報だけで正確に把握してみせたのは、寧ろ誇っていいと思うが?」
スレイの言葉に険しい顔をするフェンリル。
それにスレイは、これでも褒めているんだが、とばかりに笑って返す。
そんなスレイの表情を苦々しく見ながら、フェンリルは人間として当然の真理を口にする。
「事実だろうが何だろうが、自らの力不足を指摘されれば悔しいものさ」
「ふむ、そういう物か?そもそも力不足を嘆けるような、比較の対象になるような力の差ではないと思うんだがな」
どこか不思議そうな表情をするスレイ。
いや、実際は理屈としては理解出来ている。
だが実感が湧かないのだ。
「どれほどの化物だろうと、どれほど圧倒的な力の差だろうと、君自身が言った様に所詮は神風情と同じ領域の力なのだろう?我ら探索者は元々そんな神々なぞ比較する事すら馬鹿らしい化物である邪神達に対する戦力として用意された兵器だ。まして私は自らをその中でも超一流の領域にあると自負している。ならばそれこそ神風情と同じ領域に居るだけの化物相手に力不足というのは、十分悔しさを感じられる範囲の力の差さ」
「ほう、なるほどな」
一つ頷くスレイ。
「確かに言われてみれば、探索者とは元々そういう存在だったな。ならば神風情と同等の領域の化物相手じゃ力不足を嘆くのも当然か。すまないな、どうも俺にはそういう感覚に共感する事が出来ないんだ。確かに俺にも弱者たる時期はあったが、それは戦士たらんなどと欠片も考えていなかった時代だ。戦士たらんと決意したその瞬間から俺は強者であり勝利を約束された存在だった。だからそういう感情は理解は出来ても、実感する事が出来ないんだろうな」
『主よ、幾ら我でもそこまで行くと流石に引くぞ』
「いや……スレイ、ほんとにそれはちょっと」
スレイが人に対して物事を教授する。
その事を好んでいる事を知っているが為に今まで沈黙し口を挟まずにいたディザスターとフルールが、超越存在たる彼等を以ってしてもドン引きするようなあまりにも傲慢な台詞に思わず突っ込んでいた。
肝心のフェンリルはと言えば、もはや理解を超えたレベルの傲慢さに呆れるのすら通り越し、何と思えばいいのかと、全くの無反応だ。
「そんな変な事を言ったか?ただの厳然たる事実なんだがな?」
『本気というのがまた……』
「欠片のブレも無いよね……」
ディザスターとフルールも流石に処置無しと諦める。
「ふっ、ふふふ。あははははっ、くっ、くくくくくっ」
そんな中、全くの無反応状態から回帰したフェンリルが思わずと言った様に、笑い始める。
何とか抑えようとはしているようだが、抑えきれずに身体を震わせている。
特に腹も立たず、純粋な疑問で以ってスレイは尋ねる。
「いったい何がそこまでおかしいんだ?」
「いや、いやいやいや。君という存在がね」
「?なんだ、俺という存在そのものがおかしいと?」
良く分からずに眉を顰めるスレイ。
『主が人としておかしいのは間違いないな』
「むしろ、スレイが自分の事をおかしくないとか思ってるんだったら、思いっきり突っ込みどころだね」
そんなスレイに容赦無い言葉を浴びせるペット達。
スレイは軽く肩を竦める。
ようやく笑いを収めたフェンリルがスレイに告げる。
「ははっ、良い意味でも悪い意味でも君がおかしいのは確かだ。だがどちらかというと笑っていたのは私自身の事かな。君という存在を測ろうなどとした自分のあまりの馬鹿らしさに気付いてしまったのさ」
「……当然だな、俺を測ろうなどと例えどんな存在にとて不可能な事だ」
『……』
「……」
僅かに沈黙するも、スレイはフェンリルの言葉を良い様に取り、堂々と更に傲慢な宣言をしてのける。
沈黙は金なり、とばかりにただ静寂を保つディザスターとフルール。
だがフェンリルは今度は笑わない。
一瞬、柔らかい表情を見せたかと思うと、すぐに真顔になり言い放つ。
「本当に、その通りだと嫌でも実感させられたよ。この【欲望の迷宮】の道中、そして今ここで君が語る言葉、全てがその証明だ。ああ、認めよう、絶対の強者にして勝者と言う者が居るとしたら君だけだ。私はその事実を認め、先に進むとしよう」
「何だ、今更か」
『むぅ』
「えー?」
晴々しい顔のフェンリル。
スレイは何を当然の事をと無反応。
そしてディザスターとフルールは困惑と呆れの雰囲気を漂わせる。
そんな雰囲気は完璧に無視するスレイ。
「さて、俺という存在が別格だと理解でき、自らの力不足が納得出来たのなら話を進めようか。しかし先程からなんというか、話を中断してはまた再開する、の繰り返しの様な気がするな」
どこか不本意そうに口を尖らせるスレイ。
それにフェンリルはあっさりと突っ込む。
「それは君の所為だろう」
「むっ、話を遮る様な反応をしているのはあんただと思うが?」
「何を言う、例え未来を見てないとしても、私の反応すらも含めて、君にとっては十分予測の範囲だろう?その上で私が驚愕せざるを得ない様な内容をわざと何の予備知識も与えず叩きつけ、尚且つ挑発的な発言までしている。これが君の所為でなくて何だというんだ?」
「……ほう、随分とまあ理解が早くなった。いや、あんたの思考のレベルならその位の理解力は在って当然。本来の自分の性能を十全に発揮できる様になったと言うべきか」
「ああ、おかげさまでね。君という非常識との付き合い方は、この短い時間で十分学ばせて貰ったよ。だが、これもまた君の狙い通りだったりするのかな?何せ私の事を女として狙っているんだろう?」
「狙い通り、ではないな。思った以上に順応してるよあんたは」
スレイ相手に軽く応酬してみせるフェンリル。
その様子に僅かばかり計算違いだと言う様に眉間に皺を寄せるスレイ。
思わずディザスターとフルールはポカンとしてその様子を見ていた。
『ぬぅ、これはまた……』
「僕らにとっても予想外な状況だね~」
呆れた様な言葉が二匹から漏れ出る。
そのまま軽い応酬を暫し続けたスレイは溜息を吐き告げる。
「まあ予定外ではあるが、悪くは無い。というか、こういうやり取りの方がなおさら女としては魅力を感じるな」
「それは光栄だ」
軽く笑って返すフェンリル。
スレイも調子を取り戻し、一気に右の口端を強く吊り上げ笑みを浮かべてみせる。
「さてそれじゃあ今度こそ本当に本題だ。俺の創り上げたグレイプニル、使う対象が同じという以外はオリジナルのグレイプニルとは全く比較にならない程圧倒的に優れた性能を持った、今ここに在る、あんたでもその化物狼を簡単に捉える事が出来るこいつの説明をするとしよう」
どこまでも傲慢に、スレイは吊り上げた口端を更に強く吊り上げた。
「さてこの俺の創り上げたグレイプニル、捉える対象が対象なので便宜上グレイプニルと呼んでいるが、実質オリジナルのグレイプニルとは全くの別物だ」
「全くの別物?」
『つまり適当に名を借りているだけ、という事だな。主らしい……』
「要は面倒臭いから既存のそれっぽい名前を使ったって事だね?」
「そこっ、うるさいっ」
スレイの説明に不思議そうな表情を浮かべるフェンリル。
そこにディザスターとフルールが茶々を入れる。
幾ら主として慕っているとはいえ、いや慕っているからこそ、彼等にはスレイという人間の短所も明らかだ。
そしてそこに信頼があるからこそ、この様にそれをあっさりと指摘する事も出来る。
とはいえ幾らそこに信頼があるからとは言え、このように短所を指摘されるのは、特にそれが美女の前ならスレイとしても面白くは無い。
だから嗜める様にかるく叱責する。
『ふむ、“事実”を指摘されて反応するなど、先程主自身が述べた事と矛盾していないかな?』
「そうそう、大人気ないよー、スレイ」
「……ふぅ」
「ぷっ、くくくっ」
あっさりと正論で反論され、何も言い返せず思わず吐息するスレイ。
フェンリルはそんなスレイの様子におかしげに笑いを零す。
僅かに眉を顰めつつも黙殺し、そのままスレイは続ける。
「まず本来のグレイプニルとは素材が違う、というか本来のグレイプニルがやたらと色々と集めて造られたのに対し、俺の創ったこれは素材と呼べるものは無い。敢えて素材というのなら世界の全てを構成する元である第一原質プリマ・マテリアともう一つ世界の全ての結合要素たる結ぶモノたるエーテル、この二つが素材と言えるな、ただしそれも自前で創り出したが。つまりだ、言い方を変えるならこのグレイプニルは俺が零から創造したと言う事だ。そしてプリマ・マテリアとエーテルの二つが在ればその構成を様々な形で組み上げる事で実質あらゆる全てが創造可能だ」
「……待て、創造だと?それは」
『別に驚くべき事ではあるまい、たかが神々でさえ位階によっては創造の御業を持つ存在が居るのだ、ならば我ら邪神、即ち“真の神”の領域にまで既に到っている主にとってみれば、そんなものはただの戯れに過ぎん』
「そうだよ魔狼のおねーさん、まだまだスレイの事を常識の範疇で考えようとしてるよ?そもそもスレイは違うモノなんだってちゃんと認識しなきゃ」
「……ふむ、そうだなディザスター殿、フルール殿。感謝する、まだまだ私の理解が足りなかったようだ」
スレイの言葉に驚愕を露わにしかけるフェンリル。
だがそんなフェンリルにディザスターとフルールが待ったを掛ける。
二匹の言葉に賛意を示し、感謝の言葉を送るフェンリル。
「おいこら、お前ら」
思わずスレイは眉間に青筋を浮かべるも、すぐさま気を取り直し説明を続け始めた。
「まあいい、こんな事で一々反応するなど俺には似合わん。そんな事よりだ、俺が創り上げたこのグレイプニル、俺達の目的を達するのに十分な性能を有している」
「私達の目的?」
「そうだ、フェンリル、この場合はあんたの名の元になったその神話体系の化物のフェンリルな。そのフェンリルを捉え大陸北方の番犬とする、それが俺達の目的だ。その為に必要な条件は、まず大前提としてフェンリルを捉える事。次にフェンリルのサイズをそこらの巨狼よりやや大きい程度に縮める事、これは流石に馬鹿げた大きさのフェンリルをそのままシチリア王国の永久凍土に置いたら色々と問題が出てくるから当然だな。次にサイズを縮めてもその力はそのままに保持する事、力を当てにして番犬にするんだ、力を弱めてしまっては意味が無いからこれもまた当然だ。次にこの迷宮の呪縛からフェンリルを解き放つ事、この世界の神々の呪縛に囚われたままでは迷宮から連れ出す事もままならんからこれも当然の事だ。そして最後にフェンリルを支配する事、しかも誰か特定個人による支配では無く大陸の守護という使命を与え支配する事だな、こいつも実に分かり易い条件だろう?そのまま自由意志を持たせていては暴れるだけの化物だ、だからといって誰か特定個人や特定の国など、とにかく利権を求めてしまう性質のある者達にその手綱を預ければ何に使われるか分かったものじゃない。別にあんたやアイス王達を信頼してないという訳ではないが、こいつはそれこそ永劫を生きるからな、後の世代の存在がどう出るかなど……“識”ろうと思えば“識”れるが、“識”ろうとも思わんし、例えそいつらが自分達の為にこいつを使っても俺なら容易に鎮圧できるが、それじゃあそもそも捉える意味が無いからな。という訳でだ、今言った全てをただ持つだけであんたでもというより自動に発動する様な性能がこのグレイプニルには備わっている訳だ。だからあんたでも簡単に目標を捉える事が出来るという訳さ」
「ふむ、なるほど、納得し……。いや、待て?そもそも何故そいつを捉えるのが私でなければならないんだ?だいたいこんな道具など用意しなくとも、君ならば自力で今言った全てを容易く出来るんじゃないか?」
「ん?そりゃまあ可能だが」
「ならっ」
フェンリルの反応にスレイは思わず眉を顰める。
「おいおい、俺がなんの為にあんたをこの【欲望の迷宮】にわざわざ連れて来たと思ってるんだ?」
「私を口説く為だろう?」
『主の女にする為の布石ではないのか?』
「自分のいいところを見せたいんじゃなかったの?」
「……お前ら」
思わず一瞬眉間を震わせるも、すぐに気を取り直し、スレイは淡々と否定する。
「それだけな訳が無いだろう」
『つまりそれもある訳だな』
「だよねー」
ディザスターとフルールの茶々を無視して続ける。
「あんたはシチリア王国を統治する中の1人だ、シチリア王国にとって重要な事を俺にやらせっぱなしで何もしないというのはあんたにとってアリなのか?」
「っ!?それは……」
「安心しろ、俺はもう二体、ロキとミドガルズオルムと遊んでてやるよ。その間にあんたが本家本元のフェンリルを捉えろ。そのグレイプニルを使うだけの実に簡単な仕事だが、あんたがやるという事に意味がある。そういうものだろう?」
「確かに、な。……感謝しよう、どうやら君は思っていたよりも気遣いの出来る人間のようだ」
表情を緩めて告げられたフェンリルの言葉にスレイは思わず肩を竦める。
「感謝しているって割には随分な言い草だな」
しかしフェンリルは軽く笑うだけだ。
スレイは思わず溜息を吐く。
「まったく、これでも俺が相手するロキってのは、そこまで高い位階の神って訳じゃないが、結構ややこしい特異性を持ってるんだぞ?トリックスターって言っただろ?狡猾ではあるが他の者に出し抜かれない程に隙が無い訳ではない、邪悪ではあるが普通に神々と親交を築いたりもする、確かにその悪戯が酷い結果を生んだりもするが、決定的な事になるのは神々の黄昏ぐらいで、それ以外じゃ普通にとっちめられて罰を受けたりもする。だがそれでもだ、言葉を交わせばそれだけで惑う。別にロキの話術がどうこうじゃなく“そういう物だと決まっている”。それにロキって存在は関わるだけで碌な事にならない、これも“そう決まっている”訳だ。実に性質が悪いだろ?そいつの相手をしてやるってのに感謝が足りないんじゃないか?」
スレイの言葉にフェンリルはその怜悧ささえ感じさせる灰色の瞳を見開いた。
だがすぐさま平静を取り戻し、寧ろ呆れたような視線をスレイに向ける。
その反応に不満を感じるスレイ。
しかしフェンリルの次の言葉に思わず唸り声を上げる。
「それでもだ、その上でなお君にとってはその相手は気にするにも値しない神風情、に過ぎないんだろう?」
「む、ぅ……」
黙り込んだスレイにディザスターとフルールが追撃を掛ける。
『そもそもその程度の補正、全ての世界とその外に存在するどのような補正も容易く無効化できる主や我らにとっては何の意味すら持たない物であろう?』
「それに、瞬殺しちゃえばそれこそ本気で何の意味も無いよね」
「お前等……」
先程からフェンリルに味方するようにスレイに口撃を浴びせてくるペット達にすわ反抗期か、と額に手を当てるスレイ。
ディザスターとフルールとしては、フェンリル相手に狙いを絞っているのと、ディザスターとフルールを信頼していることから、二匹に対し隙を見せているスレイに思わずじゃれるようにその隙を突いているだけなのだが。
これも二匹からの親愛の情の表現の一種だ。
それが分かるだけに怒るに怒れないスレイ。
「ふむ、やはり君にとっては大した意味の無い、それこそ敵対してもなんら労力すら要さない程度の相手だったか。つまり私は君にする必要の無いレベルの感謝をする様に誘導されたという事だな」
「当然だろう、美女相手に恩が売る機会があるなら、徹底的に出来るだけ高く売らなくちゃ損だろうが」
「……ブレないな、君は」
フェンリルの言葉に、今度ばかりは何の欠片の躊躇いも無く即答したスレイに、思わず苦笑するフェンリル。
本当に根底にある物が良い意味でも悪い意味でもブレない。
まあここまで執着されるなら悪い気はしないし、それなりに好意を感じる様になった今なら笑い話で済むが。
「ともかくそのロキという神とミドガルズオルムだかヨルムンガンドだかいう信じ難い程に大きな蛇は君に任せて問題無いという事で相違ないね?」
「ああ、任せろ」
今度はあっさり一言で肯定するスレイ。
やはり苦笑してしまうフェンリル。
その時、ふとフェンリルは一つの問題に気付く。
目の前のそれを見上げながら、思わずという感じで尋ねるフェンリル。
「それで私は、この君の創り上げたというグレイプニルとやらをどうやって使えば、いやそれ以前にどうやって持てばいいのかな?」
そう、あまりに大量で巨大な山を作り上げているそのグレイプニルという紐。
一体これをどうやって使用するのか。
一番重要な事を聞いていない。
ただ持つだけで自動に発動すると言っていたが、そもそもこれを目前の門から中の広間へと運ばなければならないのだから、対象を捕縛する為に起動させる切っ掛けは何かしら必要な筈だ。
そしてこれを中の広間に運ぶという事。
いや、運べない訳ではない。
どれだけの重量があろうが直接手で持ち上げる自信はある。
それに魔法で運ぶというのも手だ。
門自体の大きさもこの山となったグレイプニルを問題無く中に通せるだけの巨大さを持っている。
しかしまあ、これをこのまま中へ運ぶというのは……。
思わずフェンリルはその光景を想像する。
想像したその光景はあまりにも間抜けな物だった。
いや、必要な事を行うのに格好に拘るのも何だが。
やはり流石にそれは御免被りたい。
だがスレイの答えは実にあっさりとした物だった。
それこそ悩んでいたのが馬鹿らしくなる程の簡単な内容だ。
「ああ、それなら何も問題ないぞ。そいつに触れればそいつはあんたの中に収納されるからな」
「は?」
「ちなみにサイズの問題、なんて馬鹿らしい事は聞くなよ?たかが魔法の道具でさえそんな物理的な法則など無視してるんだ、まして俺が創造した代物にそんな問題がある訳無いだろう?」
なんともまあ拍子抜けする答えに、早速フェンリルは山となったグレイプニルの一部に指先で触れる。
刹那。
圧倒的な力の奔流が自分の中に流れ込んで来るのを感じた。
体感時間ではどれほどだろう。
測る事すら出来なかった。
しかし純粋な時間という意味ではそれこそ刹那だったのだろう。
気付いた時には目の前に山となっていたグレイプニルは完全に消え去っていた。
だがフェンリルは感じていた。
自分の中に今まで感じた事が無い程巨大な力が内在しているのを。
フェンリルはその力に全能感さえ覚えるのを感じた。
通常ならばそんな感情に呑まれる事など在り得ない。
フェンリルは超一流の探索者、己が感情など完全に律している。
それが大前提の筈だった。
だがそれでも、その力はフェンリルの、即ちSS級相当探索者の完全な筈の精神制御さえも食い破り、力への愉悦すらも感じさせてくる。
そんなフェンリルの様子を見かねたようにスレイがどこか言葉に鋭さを宿らせ、叱責するように告げる。
「おい、そんなもんに呑まれるなよ?」
淡々とした声色。
だがその言葉に宿った力は本物で。
まるで鋭い刃が心を貫いたかのような背筋が凍る様な感覚と共に、フェンリルが感じていたまやかしの全能感は消え去って行く。
ふぅ、と思わず吐息するフェンリル。
一度冷静になれば容易く理解出来た。
今感じた全能感などただの下らない驕りに過ぎないと。
それでも、本来なら完璧な筈の精神制御さえも保てなくなるほどに、今フェンリルの中に入り込んで来た力は……。
まるでそんなフェンリルの心を読んだかの様に、スレイが冷徹にも聞こえる様な声で、淡々と続ける。
「なにかそのグレイプニルを取り込んだ事で巨大な力を手に入れた様に感じてる様だが、それは全くの勘違いだからな?そのグレイプニルには先刻説明しただけの能力しか存在しない、つまり幾ら巨大な力が内在するように感じていてもそれは錯覚だ、本当に意味が無い。目的の為にしか役に立たない以上あんたの力そのものは何一つ変わっちゃいない。かつそいつは一発使い捨てだぞ?いや、使い捨てというのは不正確か。そいつを対象に使ったならば、今度は捉えた対象と同化して永続的に先程述べた効果を発揮し続ける訳だから、ある意味そのグレイプニルは残り続ける、とも言えるからな」
「なんともそれはまあ……せめて触れる前に知りたかったね。本当に、どうやら私自身の力は変わっていないようだ。しかし君は本当にどこまでも人の心を読んでくる」
スレイの言葉にフェンリルは自らが発動出来る力を反射的に確認し、以前と全く変わっていないという事実を理解する。
そして思わずスレイの心を読んでいるとしか思えない発言に苦笑いする。
だがスレイは僅かに眉を顰めて言った。
「別に心を読むくらいそれこそ“真の神”クラスの連中相手でも無ければ簡単に出来るが、基本的に俺はそんな事しないぞ?」
「そうか、そうだな。すまない、失礼な事を言った」
「俺の場合、別に心なんぞ読まなくともそこに在る情報から推測するだけで100%確実に詳細まで当たるしな」
「おいっ!!」
スレイの発言にすまなそうに謝罪するフェンリル。
しかし続くスレイの言葉に思わず突っ込みを入れる。
それに不本意そうにスレイは続ける。
「なんだ、別に心を読むんじゃなくて推測する分には何も問題ないだろう?誰だって人の心は気になるし人の心だって様々な要素から推測したり予想したりしてるだろうが。俺の場合、優秀すぎてそれが確実に当たるってだけの話だ」
「だからと言って……いや、もういい。はぁー」
何かを諦めた様に溜息を吐くフェンリル。
ますます顔を顰めながらもスレイは話題を元に戻した。
「全く……。それじゃあそいつの力に振り回されて自分の力を勘違いしてポカをやらかす心配はもう無い様だし、次はもう一つの質問、そいつの使い方について説明しようか」
「ああ、そういえばそれが残ってたな……」
「おい、あんたが聞いた事だろう?」
どこか疲れた様な顔で、そういえばと思い出す様に告げるフェンリルに思わず突っ込むスレイ。
だがフェンリルは疲れた表情のまま無言で催促するように顎をしゃくる。
やや憮然としながらスレイは仕方無く続ける。
「……。ふぅ、と言ってもだ、使い方は実に簡単だ。というか使うなんて言うのもおこがましいかもしれんな。ただ対象を認識した上で、そいつの力を解き放つイメージをする。ただそれだけだ。それだけでそいつは発動し、必ず対象を捉え全ての効果を発揮する。そう、絶対にな」
「……それだけか?」
「ああ、それだけだ」
あまりにも簡単に過ぎる内容に流石にポカンと口を開き呆けるフェンリル。
スレイはそんな様子など構わず尊大に頷く。
絶対の自信を越えた確信。
スレイが見せるそれに、それが事実だとフェンリルも確信を得るに到る。
しかしなんというか……。
「やはり君は規格外に過ぎるな」
自然と苦笑が漏れる。
そんなフェンリルの様子にスレイはただ片眉を吊り上げ、どうでも良さそうに答える。
「そうかね?」
「ああ、間違い無く、ね」
「ふうん」
興味無さげな相槌。
苦笑したままのフェンリル。
スレイと言えば別に謙遜でも自分の力を過小評価してる訳でもなんでもない。
自分が特別で自分が最強である事を確信した上で、だからこそこの程度で何を言われようが気にもならない。
ただそれだけだ。
そもそも思考の次元が違う。
そこまでは気付かず、しかし準備は整ったと感じたフェンリルは門の前に進み出るとスレイに強い意志を込めて声を掛ける。
「では、行くとしようか」
「ああ、ちょっと待て」
フェンリルの意志は最初から挫かれた。
思わずよろけながら恨めしげに振り返るフェンリル。
そしてどこかおどろおどろしい声でスレイに問い掛ける。
「……いったい何だい?」
「いや、そんな眼で見られてもな?逸り過ぎだ」
軽く肩を竦めてあっさりといなすスレイ。
フェンリルの表情がやや苛立たしげで訝しげなものへと変化する。
「逸り過ぎ?準備は整った、長い、それこそ長過ぎるくらいに情報の説明も受けて私がすべき事も理解した。だから門の先へと進もうとしただけだというのに逸り過ぎとはどういう事だ?」
「いや、言葉通りなんだが?」
「だからっ」
やや声色を強めるフェンリル。
だがそこへ待ったを掛ける者達が居た。
謂わずと知れたディザスターとフルールだ。
『我も今回ばかりは主の言う通りだと思うぞ?』
「うん。いやまあスレイが勿体振り過ぎって面もあるけど、あのまま門の先に進んでたらおねーさん確実に即死んでたから、逸り過ぎ、って言い方でも間違いではないよね?間違いでは……」
簡素なディザスターの言葉とどこかスレイに対して含みを持たせたフルールの言葉。
フェンリルは冷静になると同時、僅かに危機感を強く持つ。
ディザスターとフルールは先程からどこかふざけた様なスレイに対し、突っ込みを入れたり、止め役になったりとしていた。
その二匹が言う以上、その言葉は真実だろう。
二匹はフェンリルなどよりも遥かに高みに在る存在だ。
ならばあのまま門の先に進んでいたならばフェンリルは紛れも無く死んでいた。
そう信じられる。
フェンリルは真剣な眼でスレイを見つめると重々しく尋ねる。
「どういう事だ?」
「そんな眼で見られてもな?別に俺がどうこうって話じゃないんだが。単純にあんたの神というモノに対する理解が足りてないだけだ」
『ふむ、だがその説明をしてないのは主の不手際だと思うが?』
「そうだよね。肝心のその説明をする前に散々煽って魔狼のおねーさんをやる気にさせたりして、わざとでしょ?」
「だからお前等は煩いと……」
またも顔を顰めてぶつぶつと文句を言うスレイ。
そんな様子を見て、フェンリルはそれが事実だと理解する。
つまりスレイの言うところの逸り過ぎたフェンリルの姿というのを、スレイ自身によって演出された訳だ。
「それで?」
自然と険悪になる声音。
そのフェンリルの様子に、しかしスレイは少しも慌てる事も無く、何事も無かったかの様に冷静に説明を始める。
「つまりだ、たかが神風情だろうとあんたらSS級相当探索者よりも遥かに格上の存在には違い無いって事さ。あんたらが相手に合わせて闘気や魔力による最高レベルまでの強化を無意識に自然とそれこそ相手に気付いてない状態でも自然と行う様に、奴ら神々ってのはそれと同じく無意識に自然と最上級の加速魔法を身体の機能の一部の如く発動させる、意識しての発動も同じく速やかな物だ。尤もその使われる魔法体系やどれだけ加速されるかは属する神話体系やその神の位階によって違うんだが、それでも最低レベルであんたらと同じ光速の数十倍の速度域には軽く到達できる。今回の連中もその程度だな、だから俺達はともかくあんたの場合門の中に入った刹那殺されてても不思議じゃなかった訳さ。だから門の中に入る前に自分に最上級の加速魔法を掛けておけ、それでようやく『準備が整った』と言える訳だな」
「むっ」
自らが先程言い放った言葉を使い皮肉を言われ、思わず唸るフェンリル。
だが構わずスレイはニヤリと笑って続ける。
「尤も、俺だったらその無意識にすら反応させずこちらだけが加速する事も、そもそも相手が決して付いて来れない速度域に加速する事も、更に速度という概念を超越する事も可能だがな。実際ここの地下50階層の婆は俺の加速に付いて来れなかったし……ん?」
どこまでも自らの力に対する圧倒的な確信に満ちて告げられる言葉。
しかしスレイは何やら思い出したように顔を不機嫌そうに顰める。
「そういえばあの牛、確か別系統の神話体系だったが相当高位の軍神だったな。光速の数百倍、或いは数千倍の速度域に到れた可能性があるな。幾ら迷宮に縛れているとはいえ同格の神の力に過ぎないしな。闘気と魔力が封じられる特殊な空間だったとは言え神気による最上級の加速魔法は問題無く使えた筈。……あの時の状況を考えると、俺と同じ速度域へは反射的に突入したが、油断してたから最上級の加速魔法を使う事すら無くあっさり死んだか。油断して力も出せずに死ぬのもそいつの実力ではあるが、例えあの時にあの牛が光速の数千倍の速度域に到ろうと、俺ならばすぐに“真化”しその程度軽く越えて倒してみせた物を。天狼が最上級の加速魔法を使って無かった事を思い付いた時にも感じたが、そうやって考えるとなんというかやたらとムカつくな?今度俺の方に制限を付けた縛りバトルであの牛を嬲り殺しに行くか?」
何やらやたらと剣呑な雰囲気で物騒な事を独りごつスレイ。
思わず感じた危機感に後ずさるフェンリル。
ディザスターやフルールですらそれぞれスレイの足下から距離を取り、スレイの右肩から飛び立ち、かなり離れてどこか身を守る様な姿勢をしている。
フェンリルは思わずスレイの言う“牛”とやらに同情する。
スレイの忠告通り最上級の加速魔法を使い光速の数十倍の速度域へと突入するフェンリル。
同時にヴェスタという世界の防衛本能が反応し、フェンリルという存在は世界から隔離される。
時系列すらも無視して光速の数十倍まではあらゆる方向に加速する事が可能な状態。
その特別な領域。
だがスレイやディザスターにフルールが、何ら特別な事をした様子も無く、ただ自然と自らと同じ領域に突入している事を確認しフェンリルは苦笑する。
いや、これよりも遥かに高い領域に容易く到れる彼等ならば当然の事なのだろうが、本気でここまで何の気配もさせずに自然とそれをこなされるともはや苦笑も出て来ない。
それだけでは無い、彼等が何の苦労も無く意識のチャンネルをフェンリルの認識する世界と合わせているのが分かる。
理解出来てしまう。
彼等はここからいつでもどこまでも加速出来るだけの余裕を持っている。
本気で格が違うと改めて感じて……。
「その認識は甘いな」
「なに?」
心を読んだ様なスレイの発言で、その考えすらも否定される。
スレイは淡々と続ける。
「もはや俺達は“速度”などという呪縛はとっくにぶち壊している。そんな物で表現する事の出来ない領域に到達しているんだ。つまりどれだけの速度域に加速しようとそれが“速度”なんてチンケな物で表現できる領域の内は、俺達はただ加減して“そこ”に“在る”というだけだ。それこそ光速の無限倍に到ろうが、“速度”などで表現出来る領域に囚われている内は、俺達の本気の一端すらも理解する事は不可能だな」
「……は?」
もはやフェンリルはただ呆けて絶句するしかなく。
しかしスレイはそんなフェンリルの心境など気にする様子も無くフェンリルの隣に並ぶ。
そしてフォローも何もせずただ一言告げる。
「じゃあ行くか」
そして巨大な門の中心へと手を当てるスレイ。
ただそれだけで、この隔離された世界の中ですら刹那に何の情緒も無く吹き飛ぶ門。
門を開く事すら無くただぶち破ったその乱暴さに文句を言おうとするフェンリルだが、そんな暇も与えられず背中を押され破壊された門の先、“門番の広間”の中へと足を踏み入れていた。
「いきなり何を……っ!?」
文句を言おうとしたフェンリルはまたも絶句する。
門の先、“門番の広間”の中。
普通の人間の目に映るだろう光景は高さも横幅もどれだけ続くのか果ての見えない毒々しい色合いと独特の文様を描く壁の前、中央の玉座に座する少年の稚気と老人の狡猾を備えた絶世の美貌の青年という、見ただけで何か怖気をそそる存在、そしてやはりその直径も高さも何も光を介した視界では決して果てが見えないだろう下に歪な土台の様なより巨大な何かが突き出した、眩いばかりの銀のやたらと太い何かが無数に生えた柱の様な物だろう。
玉座に座する青年は、自らが超一流の探索者で精神の完全な制御が出来ていなければ、ただ見るだけでも凄まじい精神汚染を受けていただろうと分かる。
だがそれ以上に、スレイに先程指摘された超一流の探索者としてのフェンリルのエーテルを介した“眼”は、それ以上にとんでもない荒唐無稽な光景をフェンリルに“視”せていた。
まずこの広間は、そのフェンリルの“眼”を以ってしてもあらゆる方向に果てが見えない。
つまりは宇宙よりも広い、単純にそういう事だ。
そして恐るべきは玉座に座る青年の背後にある壁は巨大な蛇であった。
スレイの言った通りまさに惑星を一周するに足る体長だろう。
そしてその直径もその体長に相応しくとんでもない。
だから普通の視覚で見れば壁にしか見える事はあるまい。
フェンリルには分かる。
その恐ろしく巨大な蛇が酷く細長く歪な楕円を描いて丸まっていると。
フェンリルの左側にはやはりなにやら巨大な壁のような物があったが、“眼”で“視”てみればそれは蛇の尻尾の先だ。
そして更に恐ろしい事にフェンリルの右側から回り込んで来ている蛇の頭は、信じられない程の巨大さを持ちながら、それでも普通の視覚では捉えられないであろう程遥か上空、フェンリルの真上でその巨大な舌を伸ばしフェンリルに視線を向けていた。
恐怖が麻痺したフェンリルと言えど危機感を覚える。
更には奇妙な形の銀色の柱の様な何かは、今回のターゲット、巨大なる魔狼の前脚の一本であった。
そして土台に見えた部分は地面を踏みしめる足である。
“眼”によって“視”えてしまうその足に生えた巨大で鋭い凶悪な爪はこれまたその危険さをフェンリルの戦闘本能に訴えかける。
更に言うならば、巨大な魔狼のもう一本の前脚は大蛇の身体を跨いだ向こう側に、そして後ろ脚は通常の視覚では捉えられない程の遥か果てに存在していた。
身体もしなやかでありながら信じられない程の強靭さを感じさせ巨大な物だが、決して通常の視覚で見える事は無い程の上空に在る。
更にはその身体の先にある魔狼の頭部はまさにその下顎が地面に着き、その上顎は月にすら届くというに相応しく、閉じられた顎のその裂け目はすさまじい程の深さであった。そしてまた、その金色の瞳がフェンリルをねめつける様に見ているのを“視”てしまい、フェンリルは危機感を尚深める。
だが、ポンと肩に誰かの手の温もりを感じた瞬間、全ての危機感が霧散した。
手の持ち主、スレイはフェンリルに対し味気無く告げる。
「何を固まってる。あんたのやる事は決まってるだろう。それこそ誰でも出来るような簡単な仕事だ。他の2体は俺がどうにかするから、あんたは自分のするべき事をやれ」
「ふっ、本当に君は……」
フェンリルの口元に柔らかな笑みが浮かぶ。
ただの一言でフェンリルの中には“やれる”という強い確信が浮かんでいた。
ふとそんな自分の様子を癇に障るニヤけた笑みで悠然と見ていたどこか醜悪な雰囲気を漂わせる美貌の青年。
恐らくは彼がロキなのだろう。
そのロキの視線がスレイの足下へと移り、笑みが引き攣った物になるのをフェンリルは目撃した。
移った視線の先に居るのはディザスターだ。
そういえば此処はディザスターの封印を守る為の最後の砦だったな、などと考えるフェンリル。
ロキは何かを言おうとした。
そう、“した”のだ。
だが次の刹那、光速の数十倍の速度域に突入し、時系列すらも無視した存在となった筈のフェンリルの視線の先に移った光景は全くの別物へと変化していた。
瞬きすらしていない。
“眼”とて逸らしていない。
だが今眼前にある光景はあまりにも唐突で。
幻想的な光の様な物が降り注いでいた。
淡い淡い光る欠片。
そして玉座に座するロキの背後に在った巨大な壁が、つまりその一部ですら果ての見えない壁に見えた巨大な蛇、ミドガルズオルム或いはヨルムンガンドという大蛇が、完全に消滅しているのをフェンリルの“眼”は“視”てとる。
更には玉座に座するロキの左胸、一般的には心臓に当たる位置を何時の間にかフェンリルの傍から消えてそこに在るスレイの右手のアスラの真紅の刀身が貫き、左手のマーナの深蒼の刀身がロキの喉を貫いている。
フェンリルは先程までよりも遥かにその妖しくも美しい凄絶なオーラを見て明らかに分かる程に強める双刀を見て瞠目した。
ロキの瞳もまた驚愕に見開かれ、遥か上空、強化された探索者視力を以ってしても肉眼では捉えられず、“眼”による視界でようやく“視”る事が出来る魔狼の巨大な双眸もまた驚きに満ちているのを“視”て、彼等もまた何が起きたのか分からないでいるのを理解した。
例外はディザスターとフルールだけだろう。
フェンリルの近くで地に寝そべったディザスターと、その上に乗っかりダレているフルールのみは全く動揺していない。
スレイはロキとフェンリルの内心の疑問に答えるように語り始める。
「悪いがお前に喋らせるつもりは欠片も無くてね、お前の言葉はただ聞くだけで人どころかある程度の位階までなら神々の運命すら狂わせる。当然俺には何ら効果は無いが、そこにいる女には悪影響なのでな。だからミドガルズオルムを、その構成要素をそれこそ素粒子一つ一つ丁寧に斬り刻んで、神の呪縛すら全て斬り裂き、素粒子の欠片まで完全に消滅させてもらった。一々そこまで丁寧に斬り刻んでやったのはアスラとマーナの餌として中々上等だったからだな。ついでにだ今お前の左胸をアスラで刺しているのも同じ理由だ。神々というのは別に肉体の構造に縛られはしないが、それでも一種の理として心臓は間違い無くより血の力を宿すし、脳はより精神の力を宿す。だからマーナで本当は頭を貫きたかったんだが、本当の意味での最期を迎える前にせめてその事を教えてやろうと思ってな。喉をマーナで刺したのは、精神を喰らうマーナで喉を刺せば言葉も念話も発する事を防げるから、あの女に影響を与える心配が無いからだな」
「……ッ!?……ッ!!」
何かを言おうとして何も言えないロキ。
そんなロキにスレイは冷徹な口調で告げる。
「さて、とっくに気付いてると思うが、お前をこの地に縛り付けていたこの世界の神の呪縛は先のミドガルズオルムと同様に完全に斬り裂き消滅させた。つまりここで死ねばそれがお前の本当の意味での消滅だ。ついでに言えば、お前の持つトリックスターとしての、終末の引き金を引く者としての補正。神々の黄昏が始まるまでは決して死ぬ事は無い、という補正も俺には通じない、軽く消させてもらったぞ?有体に言って俺の相手としては役者不足だったな。俺の相手をするのなら、例え神であってもせめて最低で単一世界全能くらいの能力は持たねば、遊びの玩具にもならん。だから……これで終いだ」
喉から、頭頂へと向けて振りぬかれるマーナ。
一閃。
それだけでロキに満ちていた力があらかた喪われるのをフェンリルは感じる。
刹那。
フェンリルには何が起きたのか全く捉える事は出来なかった。
しかし眼前ではロキが消滅し、先のミドガルズオルム或いはヨルムンガンドと同様の淡い光る欠片がそこには舞い散り、スレイは双刀を既に納刀していた。
フェンリルには何が起きたかは全く分からない。
だが予想は出来る。
恐らくはロキもまたその素粒子の一つ一つを斬り裂いて、素粒子の欠片まで完全に消滅させたのだろう。
理解を超えた光景に呆然とするフェンリル。
そこにスレイが鋭い声を浴びせ掛ける。
「おいっ、何をしているっ!!とっととやれっ!!」
「っ!?」
何を、とは問わなかった。
愚問だ。
フェンリルのやるべき事など一つしか無い。
対象である巨大な魔狼もあまりの事に呆然としていたものの、スレイの怒声と同時動き始めている。
速い。
恐らくは戦っていればどうしようも無かったであろう。
だが戦う必要は無いのだ。
もう既に準備は終わっている。
そう、フェンリルはその対象を既に認識している。
あとは解き放つだけ。
ただそのイメージだけで事足りる。
そして引き金が引かれた。
またもそれを“視”る事は出来なかった。
フェンリルが理解したのは体内に満ちていたグレイプニルの巨大な力が刹那に喪われると同時、対象、巨大なる魔狼である本家本元のフェンリルが消え去った事のみ。
いや、消えたというのは錯覚だった。
気付けば僅か離れた場所に体長10メートル程の、神々しい銀色の美しい体毛と、黄金色の鋭い眼光を放つ狼が居た。
フェンリルは理解した。
これが先程まであれほどの巨大さを誇っていた凶悪なまでの化物である魔狼なのだと。
何故ならサイズが小さくなってもその力は欠片も喪われていない。
フェンリルなどでは相手にならないような、先程までと同等の力の圧力をその身から感じられる。
そして同時に、その内からは、先程まで自らの内に感じていたグレイプニルの巨大な力の波動をも感じ取れた。
理解する。
今かの魔狼はスレイが創り上げたグレイプニルと完全に同化したのだと。
その証拠に、その眼光は鋭くとも、敵意も狂気も何も感じない。
実に穏やかなものだ。
スレイの言う通りならば、今かの魔狼の内にあるのは大陸を守護するという本能だけなのだろう。
先程まで漂っていた狂気の治まったその魔狼の姿は、先程までよりも遥かに神秘的で美しく見えた。
呆然と見惚れるフェンリルを無視し、スレイが魔狼の元へと歩み寄る。
恭順を示す様に頭を垂れる魔狼。
スレイはただその頭に軽く触れる。
次の瞬間、魔狼はその姿を消していた。
「なっ!?」
「騒ぐな、ただあいつを本来の目的地であるシチリア王国の永久凍土に送っただけだ。まああいつの遠い子孫である同じ名を持つ狼共を纏めて、当初の目論見通り大陸北方の守護を固めてくれるだろうさ。これで目的は達成だ」
突然の事に驚きの声を上げたフェンリルを嗜める様に説明するスレイ。
そして周囲の無駄に広大な、フェンリルには果ての“視”えない広大な空間を見渡す。
「これで、この広間にはボスと呼べる奴は一体も居なくなった訳か。こんな広い空間は無駄だな」
言うと同時フェンリルが違和感を感じ眩暈を覚えた次の瞬間、“門番の広間”は姿を変え、この迷宮の地下50階層の広間と同じくらいの大きさで、中心にロキの残骸とも言える玉座が残り、その後方に更なる扉が存在する広間へと変化していた。
驚きに固まるフェンリルの様子は気にせずスレイはディザスターに尋ねる。
「“封印の間”はあるだけ害悪だからな、消すけど問題無いか?」
『ああ、特に興味も無いな』
「そうか、あとこの悪趣味な玉座も要らないな」
ディザスターの本気で興味の無さそうな答えに頷くと、スレイは独りごち、次の瞬間には玉座と扉が完全に消え去っていた。
本気で何をしているのかフェンリルには想像すら出来ない。
「さて、と。まあ、まずここまで来れる探索者は居ないだろうから問題無いとは思うんだが、もし来た場合に何も無しというのは流石に可哀想だしな」
呟くと同時、腰の魔法の袋からここに来るまでに倒したリビングウェポンからの戦利品であるオリハルコン製のロングソードを三本程取り出すスレイ。
そしてスレイの手の中で、それらは一瞬で混ざり合い球体になったかと思うと、次の瞬間には圧倒的な力を感じさせる美麗な装飾の施された巨大な大剣へと姿を変えていた。
それを広間の中央に突き刺すスレイ。
「さて、そこらのシークレットウェポン並の力を持ったオリハルコン製の大剣をここまで辿り着いたご褒美として用意したし、これで問題無いだろう」
満足気に両手をはたき頷いていたスレイだが次の瞬間眉を顰める。
「これはっ!?ほう、そう来たか。面白いっ!!おい、あんた、すぐに王城に戻るぞっ!!」
「はっ、お、王城?」
ポカンと口を空けて呆けるフェンリル。
フェンリルの様に呆けてはいないがディザスターやフルールもどこか訝しげな様子だ。
だがスレイは構わない。
「説明は後だ。時間が無いからとっとと跳ぶぞ?ディザスター、フルール、付いて来いっ!!」
言うと同時、フェンリルを抱きしめ転移するスレイ。
同時にディザスターとフルールも転移している。
そしてもはや神無き、ただ一本の大剣が突き立つ無人の広間に静寂が流れた。
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