あれから、多少壊れてしまった研究室も修復し、城は機能を取り戻した。
スレイも忙しい身ではあるのだが、城に1日は滞在する事になった。
何せアルファが懐いて離れない。
シャルロットも仕方無く吸血鬼族の中でも日光を浴びても問題の無い高位の者に連絡を取り、子供用の衣服など必要な物一式を届けてもらった。
尤もスレイのカッターシャツを気に入ってしまったアルファは酷くごね、結局はカッターシャツは寝巻き代わりにするという事で落ち着いたが。
ともかくその一晩は本当に親子の様な一時だった。
食事にも慣れないアルファを世話してやるスレイとシャルロット。
口を拭いてやったり、物の食べ方を教えてやったりなど、本当に何処の幼い子供を抱えた家庭かと言った風情だ。
アルファの場合、アルファ自身の能力が高いのと、スレイとの繋がりから本人達が許した為ディザスターやフルールに触れる事も許された。
尤もそこらの子供がペットに構うようにベタベタと触れてくるのには流石に二匹ともうんざりしていたが。
本当に親子とペットの一家団欒と言った風情である。
夜は巨大なベッドでスレイとシャルロットでアルファを挟んで川の字で眠る事になった。
本当にこんな家具まで用意してシャルロットは何をやっているんだ、とスレイは思ったがアルファが無邪気にはしゃいでいたので問題無いのだろう。
そして次の日。
朝食後。
「えー、パパ行っちゃうのー?ヤダヤダーっ!!」
「すまないな、これで色々とやる事があって忙しい上、何せこの国は闇の種族の国だ。特にこれからシャルは魔王の城に詰める事になるだろうから流石に俺も一緒という訳には行かないんだ」
「うぅ」
これから旅立つというスレイにアルファが子供特有の我侭を言うも、理を以って含めると、その聡さ故にすぐに理解し、哀しそうに呻く。
生まれが生まれとは言え、この聡さはこの幼い精神構造の子が持つには悲しいなとスレイは感じる。
思わず強く抱き締める。
「パパ?」
「何、会いたくなったら魔王の城へだってすぐに跳んで行くさ、文字通りにな。俺に行けない場所など存在しない」
「本気でお主の場合は出来るのが洒落にならんのう」
そこに、同じく支度を整えたシャルロットが口を出す。
彼女もまた、アルファを伴い魔王の城を訪問する予定なのだ。
なにせ国の宰相であるグルスが死んだのだ。
経過も経過だし、報告は必要な上、恐らくは現在その代役を出来るのもシャルロットぐらいだろう。
「まったく、他にも知者はおれど、あれで政治などの実務の能力を持っておったグルスは貴重な存在じゃったからのう。暫くは妾が代役をするしかあるまいて。折角久しぶりに研究に戻れると思ったのにのう。それと次の魔猿族の長も決めねばならんか。アルファの子守もあるし、暫くは忙しくなりそうじゃのう」
「すまんな、流石に今の俺に子育ては無理だ。これで18歳の若造な上、宿屋暮らし、しかも今は故あって諸国を巡る最中だ。だが本当にアルファには頻繁に会いに行くつもりだから、サイネリアには伝えておいてくれ」
「やれやれ、魔王の城もそなたにとっては形無しか。分かった、仕方あるまい」
肩を落とし項垂れるも承諾するシャルロット。
「それじゃあアルファ、出来る限り会いに行くから我慢して良い子にな」
「うん!!絶対だよ!!本当に会いに来てね、わたし待ってるから!!」
「ああ」
最後に再び強くアルファを抱き締めると、スレイは立ち上がり、僅かにシャルロットと視線を交わして……そして次の瞬間ディザスターとフルールと共にその場から消え去っていた。
【???】???“???”???
「さーってと、久しぶりに表に出てきた気分はどうだい、トリニティ?」
「うむ」
「感謝するぞ」
「例え」
「汝に」
「どのような」
「思惑があろうとな」
「うわ、表に出てくるとますますややこしいね、その喋り方。せめて誰か一人に統一して喋れないのかい?」
「仕方」
「なかろう」
「我等は」
「三柱にして」
「一柱」
「完全なる同体故」
「まあ、そうなんだろうけどさー。せめてもうちょっと……まあ、いいや。それで君達はまず“勇者”達に復讐するんだっけ?」
「勿論」
「その為にも」
「仕込みが必要」
「ふーん、君達も色々と動くって訳か。でも珍しいね。君達以外の邪神は僕も含めて“勇者”なんて無視して“天才”の方を気にしてるのに」
「我等に」
「してみれば」
「あのような化物を」
「完全に」
「覚醒させようとする」
「汝らの方が理解不能」
「わっかんないなー。絶対“天才”の方が遊んで楽しいじゃん。僕達邪神は皆好き勝手楽しむ為にこの壊れない世界へやって来たんだと思ってたんだけどなー」
「戯れも」
「楽しみ方も」
「色々あると言う事よ」
「実際」
「汝らとて」
「“天才”への関わり方」
「そのスタンスは」
「全くの」
「別物であろう?」
「まあ、そうかもね。それじゃあ、まあ君達は君達で頑張って場を引っ掻きまわしてよねー。僕はそれも利用させてもらうから」
「ふむ」
「流石は」
「享楽の」
「邪神と」
「言う事か」
「せいぜい」
「利用されないよう」
「気をつけると」
「しよう」
「まあ、せいぜい頑張って。さーて、それじゃあお次はどうしようかなー。嗚呼、君との再会が楽しみで仕方ないよスレイ」
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。