【欲望の迷宮】脱出後、スレイはすぐに探索者ギルドを訪れていた。
もしリリアが居れば、受付に顔を出して話をするのもいいかと思ったが、今は少しばかり忙しいので自重する事にする。
そのままスレイはギルド内の換金所へと入る。
まばらにアイテムの換金を終えた探索者達が金額を確かめたり、換金待ちの探索者達が並ぶ中、列の最後にスレイは並んだ。
ふと視線を感じる。
金額を確かめていた探索者達や列の前に並んでいる探索者達が、何時の間にかスレイに対し視線を向けて来ていた。
スレイは右肩のフルールと足下のディザスターを見て納得したように頷くと、そのまま前に向き直る。
『いや、主。主の考えているだろう事は間違いだからな?』
「うん、スレイはもっと自分を知るべきだね」
途端、ディザスターとフルールから一斉に突っ込みが入り、その事によって周囲からざわめきが上がる。
軽く眉を顰めるスレイ。
『まあ、今のであながち間違いでも無くなってしまったが……』
「でもまあ、それも思わず突っ込ませるスレイが悪いよ」
「だからそれはどういう意味だ」
軽く吐息しつつ尋ねるスレイ。
本気で気付いていないのか、と呆れたようにディザスターとフルールは頭を振り、淡々と述べる。
『そもそもだ、主は自分がもはや有名人だという自覚が無いのか?様々な実績に加え、ある意味公然の秘密として探索者ギルドの代表の1人として、大陸でも有力な国の首脳や大陸有数の実力者達が集う会議に出席したのだぞ?もはや、この都市においての主の知名度はその分かり易い格好と併せて鰻上りだ……先程の者達のような、自分達の探索を優先し、あまりそういうゴシップみたいな物に興味を示さないのは小数だと思っておいた方が良い。この程度宿の女主人から軽く聞けた事だが……』
「大体それ以前に、幾ら気配を完全に周囲と同化させてるとは言え、スレイの事を認識したらすぐに感じてしまうそんな異常な鬼気だか妖気だか分からない凄絶でそれでいて人を惹きこまずにはいられない艶然としたオーラを漂わせておいて、目立たないとかありえるわけないじゃないか」
ディザスターとフルールから次々と告げられた内容に、スレイは軽く思考を働かせ納得したように頷く。
「なるほどな、言われてみればその通りだ」
そして視線を正面に戻すと、特に気にした様子も無くそのまま順番を待ち続ける。
『主?』
「あれ?分かったんだよね?対策とか、しないの?」
ディザスターとフルールの本気で不思議そうな誰何に、スレイは軽く視線を向け、かったるそうに一言呟く。
「面倒臭い」
『いや……主?』
「面倒臭い、って……」
汗を流すような身体構造をしていれば、大きく冷汗を流していただろう、二匹の様子を見て、スレイは仕方無さそうに言葉を付け足す。
「有名になったというのなら、今更何をしようが有名なままだろう。なら何もする意味は無い。オーラについては実害は無い。ならば何もする必要は無い、というよりする意味すら無い」
どこまでも軽く、それだけに本気が伝わる口調のスレイの呟き。
さしもの超越者たる邪神と時空竜が唖然とした様子をする。
『大物……だな』
「大物過ぎる、ね」
口を合わせたかのような言い草に、ただ肩を竦めスレイは己が順番を待つ。
その間も室内の探索者達は、なまじスレイのそのオーラに気付いてしまったが為に当てられ、どこか顔色を蒼くしているが、スレイに気にする様子は皆無だ。
本気で呆れ果てるディザスターとフルール。
そんなスレイのオーラに当てられた効果もあるのだろう。
あっという間に順番待ちの列は消化され、金額を確かめていた探索者達はそそくさと立ち去り、入り口までやってきた換金希望だろう探索者達は踵を返し逃げていく。
そうしてスレイの順番が回ってくる頃には、換金所内は職員とスレイの2人とペット二匹のみになっていた。
換金所の職員、相変わらずふくよかな体格をし大らかそうな表情のメアリーがさすがに呆れた顔で告げる。
「おやまあ、これはまた何とも懐かしい顔だねぇ。しかしその物騒な気配、業務妨害だから止めてほしいんだがねぇ」
探索者では無い為そこまで感覚が鋭敏で無い為だろう。
スレイの凄艶なオーラを感じつつも、メアリーはそこまで強い影響は受けずにいた。
そんなメアリーの言葉にスレイは肩を竦める。
「物騒な気配も何も、これが今の俺の常態だからな」
「それはまあ、何と言うか。あれから何度か換金には来てたけど、前回から今回まででここまで変わるとは……そんな探索者あんたぐらいのもんだよ」
苦笑するメアリー。
「かもな」
あっさり返すスレイに、メアリーは今度は心配そうに尋ねてくる。
「ところであんた、お金は大丈夫だったのかい?噂で色々と聞く割に、全然お金を稼いでる様子が無いから心配だったんだが」
「まあ、俺の場合金がかかるのは女関係だけなんでな、何とかやりくりしてた」
「……まあ、そっちの噂も派手だしねぇ」
どこか今まで以上に呆れた顔をするメアリー。
気にする様子も無くスレイは魔法の袋から一つアイテムを取り出す。
「でだ、今回換金して欲しいのはこれなんだが」
それは非常に稀少な魔法金属でメアリーが見た事も無い様なモンスターを象った装飾品だった。
しかも、メアリーは長年この換金所に務めて来ただけあり、すぐにその装飾品が醸し出す特殊な気配に気付く。
「これは……神々の力が篭っているね?しかも素材の価値も芸術品としての価値もそれだけでありえないレベルだ……こいつはちょっと鑑定に時間が掛かるよ?」
「いや、捨て値でいいんで即換金してくれないか?」
「なんだって?」
驚いた声を上げるメアリーにスレイはあっさり言った。
「別にこの程度、その気になれば何時でも取ってこれるし、今は金より時間が貴重なんでな」
なんのてらいも無く述べられた言葉にその本気を悟り絶句するメアリー。
しかし何とか気を取り直すと告げる。
「本気でまあ、とんでもない子だね、あんたは。そうだね、これだけのものとなると捨て値でも……百万コメルは軽いね。いや、それでも全然本来の価値に比べたら低すぎるぐらいなんだが、今すぐの換金となると……」
「それで十分だ」
軽く言うスレイにメアリーは頭を左右に振る。
「本当にあんたって子は、一体こんなとんでもない物どこで手に入れたのかも謎だし、しかもその金銭への執着の無さ……まあ、いいさ。流石にそれだけの金額となると通貨で渡すのは手間だし、直接ギルドの銀行の方へ連絡しておくよ。5分くらいしたら探索者カードの方に反映されると思うから確認しておくれ」
「ああ、よろしく頼む」
頷くスレイに、今度はスレイの左手に目をやったメアリーは告げる。
「その腕輪……」
「ああ、悪いがこいつは換金する気は全く無いぞ?」
「そのくらい分かるさ。それはそういう代物じゃない。そもそも金銭的価値を付ける事だって不可能だろうね。ただ驚いていただけだよ、あんたって子は本当に……先刻からこの台詞を言わされてばかりだね」
どこか疲れたように愚痴るメアリーにスレイは笑って言った。
「まあ、そう言わないでくれ。これでもまだまだ俺は発展途上で、その上これからもここで世話になるつもりなんだから」
ニヤリと歪んだスレイの口元を見ながら、メアリーは諦めたように告げる。
「お手柔らかに頼むよ」
「了解した」
踵を返し出入り口に向かいながら軽く手を振りつつスレイは答える。
そんなスレイを見ながらメアリーは、本気で疲れたような溜息を吐いた。
ギルド内の換金所を出て、スレイはふと思う。
今回は金額の大きさ故にギルド内の銀行に行く必要も無くなった。
そしてまた、ギルド内の鍛冶工房に出向く事もめっきり無くなったな、とダンカンのむさ苦しい顔を思い出す。
何せ得物が得物だ。
アスラとマーナを見る。
使えば使う程斬れ味を増していくなどという常識外。
自らの意思すら持つ。
手入れの必要すら無い。
つまり鍛冶工房の世話になる理由が無い。
かと言って防具類。
大分前にフィーナに選んで貰った物をそのまま使っているが。
今までの激戦を考えればボロボロになって使い物にならなくなっても不思議では無いのだが……。
そもそもスレイの場合、無数の防御結界やオーラによる防御など様々な手段で衣類に届く前に攻撃を止め、精々通るのは内部への衝撃や反動程度。
大体それを言い出したらスレイの速さに付いて来れず服が千切れ飛ぶのが先だ、そういった一切をスレイ自身の力で防いでいるのだ。
衣類が傷み様が無い。
靴も同様だ。
スレイの力が無ければ最初の一歩を踏み出した時点で靴の底が完全に消え去っているだろう。
つまりスレイの力により全く磨り減っていない。
便利過ぎる力というのもある意味では考え物だな、と思う。
尤も、それ以前に、ある段階を超えてから全くアイテムショップで消耗品を購入しなくなった事自体、スレイは異常なのだが。
まあ、別に用意するのが自分の装備である必要は無い。
素材とアイディアを用意して、他の人間用の装備を用立てて貰うというのもアリだろうと思う。
何せそれなりに知人は増えたし、装備を整えてやりたい相手も居る。
その時にでも顔を出せばいい。
そう考えると、スレイはそのまま探索者ギルドを後にした。
探索者ギルドから出てふと考える。
先程【欲望の迷宮】で会ったホーク達“鷹の目団”一行。
超一流とまでは行かないが、その域に足を踏み入れかけてはいる探索者達だった。
特にオグマという男はなかなかのものだ。
探索者ギルド本部に行ってゲッシュに情報でも伝えておこうかと考え、いや、とすぐに思い直す。
他の探索者に対し興味を向けていないスレイよりも、よほどゲッシュ達の方が探索者の情報は詳しいだろう。
今更伝えるまでも無くあれだけの実力者達なら目を付けている筈だ。
それこそ要らぬ世話というものだろう。
そう考えると、これから行く場所は決まった。
職業神の神殿だ。
最後のクラスアップ、神々のシステムの最後の利用……。
いや、それは違うな、と思う。
“後期対邪神殲滅用兵器・特性:天才”超神の遺骸を利用して創られた自らの魂。
これもまた神々のシステムではあるが、最後まで利用はさせて貰う。
ただレベルアップシステム、その限界の超越、という神々の想定を超えた利用方法にするだけだ。
そう、これ以上レベルというシステムに頼る気は無い。
魂の力の吸収など邪道。
己が意志の力により魂とは無限に進化し得る物という確信をスレイは得ている。
“天才”の無限の成長力と人間の無限を超えた可能性により、魂を果て無き高みへと到らせる。
それがこれからのスレイの成長の方向性だ。
尤も、これを実現する為にはロドリゲーニから恐怖の感情を取り戻し、人間としての無限を超えた可能性を取り戻さなければならないが。
先程は詳しく確認できなかった己がステータスを見る。
スレイ
Lv:50
年齢:18
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、寸勁、寸勁(刀術)、浸透勁、浸透勁(刀術)、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、刀人一体、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:紅刀アスラ、蒼刀マーナ、鋼鉄のロングソード×2、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー、九尾の腕輪
経験値:4901 次のLvまで99
預金:1000562コメル
ふむ、とスレイは考え込む。
まず“閃き”や“無効化”などの特性欄に表記されない探索者システムの想定外の能力~スレイは仮に隠し特性と呼んでいるが~が増えた為、ステータスが当てにならない。
大体ステータスだけならスレイは未だS級相当と言う事になるが、今では軽くそれ以上のランクの敵を瞬殺できるようになってしまっている。
やはり神々の探索者システムは自分にはもう役に立たないようだと思う。
まあ、それは良い。
どの道神々の探索者システムの枠はこれから超えるつもりなのだから、そうなればこの探索者カードも金銭管理以外では無用の長物となるだろう。
それよりも装備欄の鋼鉄のロングソード×2。
予備の武器として保持していたが、双刀がある以上予備の武器など無用の長物ではなかろうか?
仮に一時的に双刀を敵に投げるなどして手元に武器が無くなっても、今のスレイならば魔力と闘気を融合しエーテルの刃を創る事も、概念操作による概念の刃を創る事も容易い。
本気でただのガラクタだ。
さて、どうしたものかと考える。
先程ギルドで一緒に二束三文で換金してしまえば良かったのだがもう遅い。
まあ今のスレイならばただの鋼鉄でも組成変換をし、色々と創れてしまうのだが、だからこそそういう事を軽々しくするのは躊躇われる。
暫し考え、スレイはそのまま魔法の袋から鋼鉄のロングソード二本を取り出すと、一瞬で消滅させた。
周囲に人は数多く居たが、軽くその全ての意識の間隙を縫って行ったので、誰にも見られてはいない。
これで良し、と軽く頷く。
もう一度カードを見る。
スレイ
Lv:50
年齢:18
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、寸勁、寸勁(刀術)、浸透勁、浸透勁(刀術)、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、刀人一体、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:紅刀アスラ、蒼刀マーナ、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー、九尾の腕輪
経験値:4901 次のLvまで99
預金:1000562コメル
無駄な物が無くなりスッキリした。
大体保持しているだけで装備可能な武器は装備扱いという辺り神々のシステムの手抜き具合が伺える。
防具はそんな事は無いのに。
効果が重複、というより高位の特性を習得しても下位の特性が消えない事もそうだ。
まあ、邪神対策にただひたすら戦力を整える為に急ぎで創り上げたシステムだから、実際の戦闘力向上以外の細かい所にこういう不備があるのも仕方ないのかも知れないが。
何より探索者システムの主要部分を創り上げたのはこの世界の神々でも最も軽侮すべき人格を持った空間神オルスだしな。
一瞬、スレイは顔を軽蔑に歪める。
ふと、死を纏う蛇を使役する黒き魔術師の姿を幻視するも、いやこれは不要な知識だろうと、無意識に“識”ろうとした意識を遮断する。
そして軽く頭を振ると、そのまま次の目的地である職業神の神殿へと歩を進めた。
職業神の神殿。
相変わらずの喧騒を見ながら、なんとなく果たしてこの中の何人が探索者として大成し、そして何人が死んでいくのかなどとぼんやりと考える。
これはこの都市だけの問題では無い。
確かに数ある探索者養成学園の全てが生徒を選ぶのは事実だ。
エルシア学園の様な生まれつきの特別素質ある者と貴族のみが通えるような名門校は元より、他の探索者養成学園とてせめて中流家庭の子供でなければ通うなどままならない。
ここに居る子供達。
この都市の貧しい家庭の子供や孤児達の殆どがこの職業神の神殿での最低限の教育で探索者を目指さなければならないのも必然だろう。
ゲッシュは良くやっている方だとは思うが、そもそもこの都市の繁栄が迷宮の存在にある以上、優れた探索者があってこそ始めてこの都市の経済は回り、それに関係する仕事が生まれる。
この迷宮都市アルデリアに限って言えば、そもそもの経済構造の改革などというものは不可能に近い。
だからここに居る子供達の境遇はこの都市の問題である事は間違い無い。
だがここに居る大人達。
その殆どは一攫千金を、探索者としての成功を夢見て大陸各地よりやってきた、戦闘のイロハも知らないような、探索についての知識も無いような者達だ。
元々戦闘経験などを持ち、その上で探索者としての成功を目指してこの都市にやって来た者ならすぐに探索者になる為ここには居ない。
モンスターの襲撃による命の危険に晒されてまで、生き残りこの都市に辿り着いた力も知識も無い大人達。
そうまでしてこの都市にやって来てこの神殿で教育を受けている理由は当然貧しいからだ。
貧しいからこそ命まで賭け万に一つの可能性に夢を見る。
最近知った事だが、ここにいる子供達にも大人達にも探索者ギルドの資金援助により最低限の衣食住の保障が期間限定でされているという。
探索者ギルドに出来るせめてもの政策だろう。
事、大陸各地の貧困などという者に関して探索者ギルドに出来る事は無い。
それはそれぞれの国の問題となる。
そして世界が完全な理想郷であった事など歴史上一度も無い。
だからと言ってそれが悪などという事は無い。
誰もが必死にその一生を生きる。
それが人というものであり、だからこそ人は……。
ふと、らしくも無く考え込んでいた自分に気付きスレイは苦笑する。
本当に自分も変えられた物だと思う。
頭を振り意識を切り替えるとそのままスレイは神殿の奥へと向かう。
クラスアップの為の受付を済ませ、待合室にディザスターとフルールを待たせるとそのまま奥へと進む。
ふと見ると、僅かに居る探索者達が驚いたようにディザスターとフルールを見詰めていた。
やはり彼らにとっても二匹の存在は驚きに値するようだと思いつつ、待っていた職員の案内に従い剣士職のクラスアップの部屋へと入る。
なんとなく予感はしていたが、そこに居た担当の職業神の巫女は今回もまたフィーナであった。
フィーナが驚いた様子も無く微笑みながら声を掛けてくる。
「ここでお会いするのは久しぶりですねスレイさん。と、言っても前回のクラスアップからの期間を考えると異常なまでの速さですが」
「ふむ、それよりもまたフィーナが担当か。ここまでくると何か作為的な物を感じるな?」
軽く肩を竦めてのスレイの言葉にフィーナは苦笑する。
「ええ、確かに。これもダンテス様の思し召しでしょうか?」
フィーナの言葉に、スレイはダンテスがこの世界の神々の中でも特に良識を持った神である事と、またも訪れた邪神に怯えた気配をここでは無い何処かから発していた事を思い出しつつ告げる。
「それは無いな」
「あら?どうしてですか?」
不思議そうなフィーナに、良い意味でも悪い意味でもそのまま理由を告げる訳にもいかないと思い、スレイなりの台詞でこの状況を飾りたててみた。
「何せ俺とフィーナは恋人同士だ、運命の必然、だとは思わないか?」
「あら?」
くすくすと笑うフィーナ。
「ふぅ……」
吐息し、どうやらお気に召したようで何よりだなどと考えていると、手痛いしっぺ返しが来る。
「それじゃあ私と同じくスレイさんの恋人のシズカさんのクラスアップを私が担当したのも、運命の必然でしょうか?」
「……」
フィーナは特に責めているような口調でも無いのだが、スレイは思わず沈黙してしまう。
ふと思う。
シズカと自分の関係がフィーナに知られているという事は、はたしてフィーナとシズカの2人は自分について何を話したのだろうか、と。
だがそんなスレイの疑問など気にもせず、そのままフィーナは言った。
「それではクラスアップの儀式を始めましょうか、ですがその前にこれは私の我侭なのですが、今のスレイさんのステータスを見せてもらっても構いませんでしょうか?」
「ん?今更フィーナに隠す必要も無いしな、構わないぞ」
軽く告げスレイは探索者カードを取り出しフィーナに向かって差し出す。
スレイ
Lv:50
年齢:18
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、寸勁、寸勁(刀術)、浸透勁、浸透勁(刀術)、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、刀人一体、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:紅刀アスラ、蒼刀マーナ、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー、九尾の腕輪
経験値:4901 次のLvまで99
預金:1000562コメル
「……これでも心構えはしていたのですが、あっさりとその上を行ってくれますね、スレイさんは」
一瞬絶句するも、何とか言葉を紡ぎ出すフィーナ。
「ふむ、とは言え探索者カードのステータス程度で驚かれてもな?」
「……え?」
スレイの台詞にまたも一瞬沈黙し、思わず聞き返すフィーナ。
「俺は今回のクラスアップを最後に神々の創り上げた探索者システムの利用を止め、それを超越するつもりだ。以前フィーナが言っていた人の持つ可能性、その真の意味をこの身で理解したのでな」
「っ!?」
驚愕の表情を浮かべるフィーナ。
「とは言え、その為には取り戻さなければいけない物が一つあるんだが……、まあ待ってろ、フィーナやダンテスが望んだ人の持つ可能性、その先を俺が見せてやるよ」
「……スレイ、さん?」
唖然とするフィーナにスレイは笑い掛ける。
「さて、そろそろクラスアップを始めてくれないか?」
「は、はい!!」
慌てて返事をするフィーナを見つつ、スレイは自然と魔法陣の中央に立つ。
3回目ともなればもう慣れたものだ。
「そ、それでは……。今回のクラスアップでは、今までの2回以上の激痛を感じる事になりますが……今更ですね。それでは始めます」
フィーナはどこか焦りながら機械装置を軽く操作しつつ注意しようとするも、途中で諦めたように言葉を切り祈る体勢を取る。
苦笑するスレイ。
そして魔法陣が光輝き始める。
同時、スレイの全身に激痛が走る。
確かに今までの比ではない。
まるで細胞一つ一つに痛覚が生まれ、細胞の一つ一つがすり潰され、新しく作り直されているような激痛。
だがスレイはその激痛すら愉しみ、味わってみせる。
口元に浮かぶ笑み。
激痛は数秒間続き、そして収まった。
儀式が終わり、祈りの姿勢を解いたフィーナが唖然として告げる。
「……微動だにしないどころか、微笑すら浮かべているなんて」
「まあ、肉体なんて物は既に完全に掌握した。今更痛みなんてものでどうこうなりはしないさ」
「……はぁ」
もはや溜息を吐くしな無いフィーナ。
「さて、それじゃあこのシステムにおける俺の最後の能力値の変化を見てみるとするか」
言って探索者カードを取り出しステータスを表示するスレイ。
フィーナも小走りに駆け寄り後ろから覗き込んで来る。
スレイ
Lv:50
年齢:18
筋力:SS
体力:SS
魔力:SS
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、寸勁、寸勁(刀術)、浸透勁、浸透勁(刀術)、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、刀人一体、高速詠唱、無詠唱、多重魔法、融合魔法、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣皇
装備:紅刀アスラ、蒼刀マーナ、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー、九尾の腕輪
経験値:4901 次のLvまで99
預金:1000562コメル
「こ……れは、遂にスレイさんもSS級相当探索者ですか。しかも魔法系の特性まで……」
「ランクなんてもんは、隠し特性がある俺にすればもう意味が無い物なんだがな、まあ多重魔法や融合魔法は色々と応用できそうだが」
驚きに固まるフィーナに、スレイはそう嘯く。
「隠し特性……ですか?」
「ああ、神々の創った探索者システムの枠内には収まらない特殊な能力の事を俺はそう呼んでる」
思わず疑問の声を上げるフィーナに軽く答えるスレイ。
「そんな物が……」
「まあ、あるんだ。少なくとも俺は複数持ってる」
軽く答えるスレイに、フィーナは頭を振りつつ言った。
「そう……ですか。スレイさんならあり得るのでしょうね。もう驚くのにも疲れました……ただ、スレイさんにとってランクが意味が無い物であっても、SS級相当探索者になった場合、探索者ギルド本部、ギルドマスターへの報告義務がありますので注意して下さい」
「ああ、分かった。まあSS級相当探索者となればもはや戦略級の兵器に等しい、探索者ギルドとしては管理の責任もあるだろうしな」
軽く頷くスレイ。
「それでは、3回目の最後のクラスアップお疲れ様でした。これからもスレイさんの活躍をお祈りしております」
「まあ、色々とやるつもりだから楽しみにしててくれ。それに、最後のクラスアップは終わっても、フィーナとは恋人同士だからな。近い内にデートにでも誘うさ」
「はい、楽しみにしてます」
笑顔で答えるフィーナ。
優しく笑ったスレイは、そのまま軽く手を振りつつ部屋を後にした。
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