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トップページ > 丘騎士の書庫 > 某所版【世界を渡る転生物語】 Ver.蒼焔 刃 > 旧版【型月編】 > 型月88 【蒼焔祭】
ー共 鳴 魔 導ー
ついに【世界】を超え……ここに戻ってきた。
懐かしき緑の匂い……風の音。
そして、月明かりに照らされ……かつて最終決戦において俺と同化し、城を支えるまでに成長した……【世界樹】。
俺と一緒に【世界】を渡った家族達が、この壮大な景色に意識と視線を奪われ、濃い【自然力】・【大源】の匂いに酔いしれるかのように息を飲む。
俺は【世界樹】と同調して【魔力】を纏って輝きながら、しばしの間心を通わせ続ける。
互いの状態を確認し、こちらに滞在する分程度ならこの世界に影響がでない事を確認した俺は、俺以外の全員が世界を渡った際に影響を受けていないかを確認するため、家族達に【解析】を走らせる。
体調に関しては大気の【大源】が濃い事に驚いてはいたものの、自身の【小源】から発動させるはもちろん【大源】を使用する【宝具】・【魔術】ともに使用可能であった。
むしろ濃い【大源】のおかげで調子がいいほどだったのである。
しかし─
「……ふむ、さすがに世界が違えばこんなもんかのう」
「そ~ねえ。ま、普通の魔術でいくっきゃないんじゃない?」
【魔法使い】の二人、ゼル爺と青姉が自らの扱う【魔法】に使用制限がついていたのである。
【世界】そのものが違う為、【並行世界】干渉や、【時間逆行】が出来なくなっていたのだ。
通常の魔術に関しては問題なく扱える事を確認しているのではあるが、自分の力を存分に振るってこの世界の者達と戦おうと思っていた二人にとっては予想はしていたものの、がっかりする事であり……心なしか表情が暗かった。
「……帰って、きたのですね」
「─ああ。やはり……この世界は魔力が濃いな。実に久しぶりな感覚だ─」
「そうですね。あの時追放されて以来ですから……6年ぶりですか。……一体何が変わったのか……その差異を埋めるのも悪くないですね」
ティタが感慨深く言葉を発し、朱皇がそれに同意する。
あの時は顕現していなかったヤイバが、懐かしき世界の【解析】結果を楽しみにしているようだった。
「さあ、まずは一枚といこうじゃないか。並んで並んで!」
さっそく一眼レフを構え、【世界樹】とその上に聳える王城を撮影した後、それをバックに一枚撮ろうと俺達を並ばせ始める。
そんな切嗣さんに全員で呆れ、苦笑しつつも……これも思い出だよ、と言われて頷き、みんなで並び、位置を確認した切嗣さんがリモコン操作でフラッシュをたき、写真を撮り終える。
「いや~……しかし雄大だね! 刃君の作ってくれた【世界樹】はまさに子供みたいなものなんだねぇ」
「そうね~。いい景色。……あ、あなた? 私ちゃんと撮れてるかしら?」
「大丈夫ですアイリ。アイリは実に映えますからね」
「そういう舞弥も綺麗だよ。自信を持っていい。こんな旅行、刃にしか出来ないからねえ。まさか異世界旅行だなんて。イリヤ~? ママと一緒に映らないかい?」
「映るーーーー! セラ、リズ、いくわよ~!」
「はい、イリヤ様」
「わかった、イリヤ」
「……いやすでに観光気分?! いや、まあ……いいんだけどさあ……」
一枚撮り終えた後、早速とばかりにビデオカメラに持ち替え、撮影を続ける切嗣さん達。
まるで旅番組のようにアイリさんと舞弥さんが【世界樹】の根元を歩く中、切嗣さんがイリヤ姉に声をかけ、イリヤ姉がそれに答えてセラやリズを伴って駆け出していく。
「……ぶれないな、親父は……」
「はぁ……まあ、これでこそ衛宮家よね。いい加減なれたわ……」
「ここが……刃君が幼少時を過ごした世界なんですね~。すごい景色……」
そんな姿に呆れながらも感心する士郎兄と額を押さえる凛さん。
そして月や星空に照らされる幻想的な緑多き景色に感動する桜。
「……ん~~~~~~! 気持ちいいわね、ここの空気は」
「…………」
「ん、そうね。折角だし楽しみましょう? いろいろとね」
ヤイバの肩から飛び降り、猫姿から少女の姿になって大きく深呼吸をしながら伸びをするレン達。
……余談ではあるが、出かけるとなった段階で、二人ともメディアさんにつかまってフリルがついた服に着替えさせられていたのは……まあいいか。
「……やはりあちらの世界の【世界樹】はこの世界のものを元としているのだな。【因果線】が繋がっているのだろう、構成が似ている。しかし……信じられないほどの【大源】の放出量だ……」
魔術師としての血が騒いだのか、【世界樹】を調べ始めている橙姉。
まあ、あまり無茶な事をしなければ【世界樹】も俺の眷属のようなものだと理解しているので、手を出す事もないはずだ。
「ここがご主人様の故郷……さあ、気合を入れて関係各所のご挨拶に出向かないと! ご主人様の……妻として♪ きゃ~! いっちゃった☆」
「おい、何をいっておる玉藻! 奏者は! 刃は余の夫ぞ? その役目はまさしく余の為にあるッ!」
「お二人とも、少々騒がしいですよ? 折角刃様が故郷の空気に浸っておいでなのです。ここは刃様のご気分を考えてください」
ー『う、す、すいません(すまん)』ー
相変わらず自重と言う言葉がない玉藻の発言に激昂するネロではあったが、その二人をたしなめるようにシェリードが戒める。
……徐々に二人の手綱をとるのがうまくなっているシェリードである。
「…………みなさん、相変わらずですね……クー=フーリン、城下のこの場所で騒いで問題ないものでしょうか?」
「はっ! んなわきゃねえだろ? ……そろそろ来るぜ……濃密な【大源】を纏った兵がな」
「……確かに、なにやら厳重な警備が成されているようだな……」
「つまり、私達は不審者、という事になるのか」
「ふっ……何、刀を交えれば分かるものよ。それが……武人というものであろう?」
「く~! 守りを突破するってのも燃えるねえ! 派手にいくかい?」
「いややめろよ?! 俺が出れば話し会いで済むから!」
バゼットさんが周囲を警戒し、クー=フーリンにそう話かけると、鼻で笑うようにそう答える。
ディルも周囲を険しい顔で探り、ランスロットは思慮深げに顎に手を当てている。
そして小次郎が非常に好戦的な意見を発し、それに同調したフランがその両手に銃を取り出していた。
実に考えが物騒な事に思わずつっこんで自重するように願った瞬間─
ー凛 然 顕 化ー
「──よもや、この【蒼髪の女神】を祭る【蒼焔祭】のこの警備を潜り抜け……城下たる【世界樹】の元へとたどり着く不届きものがいようとはな。我等が不覚か。しかも先ほどの発光、このご時勢で【神力魔導】を使い、【世界樹】を利用しようとするとは……【魔導士】につらなるものか? まあいい。……せめて最後に名乗るがいい、貴公等の墓に名を刻んでやろう! 抜剣許可!」
『不法侵入罪・及び【世界樹】騒乱の疑惑』
『審判……有罪!』
ー『同意』ー
『全力抜刀・聖騎剣の使用を許可する』
─そこには懐かしき別れを告げた気配。
その両肩には肩当のように存在する人造魔導師【秩序法典】が、俺達の罪状を詠い─
鞘から抜き放たれた圧倒的存在感を放つ聖騎剣がその手に輝く。
その体には聖騎士特有の白を基調とした鎧を身に纏い、6年前は首元から背中にややかかるぐらいだった金髪を腰まで伸ばしていた。
しかし……その凛々しい佇まいは相変わらずであり、その体から発せられる威圧感は、その力が未だ顕在であることを示していた。
そう、この国を守護するジュリアネス聖騎士フォルスティース=ロー。
彼女が俺達が侵入したことを察し、場を収めるために【秩序法典】を伴ってやってきたのだ。
彼女の剣気に怖さよりも懐かしさが先行し、俺は微笑みを浮かべて声を─
「あ、フォル─」
「─まってくれ刃。ここは……ゆずってもらおう」
「え? ランスロット?」
かけようとした俺を遮り、ゆっくりと歩を進めながら、その身に漆黒の鎧を身に纏っていくランスロット。
あえて冑は被らず、顔をさらし、その長髪を靡かせながら、その手に【無毀なる湖光】を顕現させる。
【無毀なる湖光】は周囲の【大源】に反応し、その刀身を淡く輝かせていた。
「──ほう、賊にしてはいい面構えだ。気が変わった、あえて私から名乗ろう。私はジュリアネス聖騎士・フォルスティース=ロー」
「─ランスロット」
互いが名乗りを上げた瞬間、周りの空気が張り詰め、緊張感があたりを漂う。
ゆっくりと互いの剣が持ち上がっていき、両者ともに八双の構えをとって─
「──己が命を賭けて─」
「いざ、尋常に!」
ー『勝負!』ー
ー剛 剣 激 突ー
一瞬で互いの間合いを詰める両者。
その八双の構えから互いに袈裟斬の一撃が轟音を持ってぶつかり合う。
この世界と、型月世界で伝説に残るような名剣同士がその【魔力】を放出し、火花を散らし、衝撃波が球状に周囲に弾け飛ぶ。
ギリギリというつばぜり合いの音と共に、両者の長い髪が【魔力】の余波に靡く。
「はっ!」
「ふっ!」
ー剣 閃 連 奔ー
右薙・左斬上・唐竹・刺突。
大剣でありながら、片手剣のような速度の斬撃が両者の間に応酬され、剣戟が響き、剣に纏われる【魔力】が火花を散らし余波を撒き散らし、互いの剣技が冴えを見せ、まるで空間を切り裂くかのような斬撃が空を舞う。
ー強 撃 離 距ー
再び両者の剣戟がぶつかり合い、その余波が互いの間合いを開ける。
その刹那─
❛【剣風刃】❜
ー斬 空 一 閃ー
後方に飛ばされ、着地した瞬間、右薙に放たれる気を伴った大斬撃。
「!! ぬぅぁ!」
ー一 刀 両 断ー
それを見て、大上段に構えたランスロットが裂帛の気合をもって唐竹から【無毀なる湖光】を振り下ろす。
【無毀なる湖光】は見事に【剣風刃】を斬り散らすが─
「ハッ!」
「ぐっ!」
ー剛 剣 一 刀ー
【剣風刃】を追いかけて右薙をした回転力を利用し、袈裟回転斬の剛剣がランスロットを断たんと振り下ろされ、咄嗟にランスロットが振り下ろした剣を振り上げ、防御し受け止めるが……体勢不十分のために押し負け、膝をつく。
「う……おおおおお!」
「っ!」
徐々に押し負けていく剣の力を利用し、ランスロットは剣を滑らせるようにフォルスさんの手元を狙いながら前転し、どうにか窮地を脱し、振り向き様に渾身の力を込めた左薙をフォルスさんに放ち、それを聖騎剣で防いだフォルスさんとの間に再び【魔力】の余波と剣戟の音が響きあう。
「──見事だ。どれほどの研鑽を積んだものなのか……。貴公、何のためにここに侵入した? 貴公ほどの腕前の人間が早々盗人のような真似をするとは思えないが」
「ふふ、やはり互いに武人というところか。何、私自身は腕試しといった所だ。まあ、ここに居る理由は……彼の【因果線】の関係上、たまたまここに出てしまっただけだ。我等に他意はない」
「───な、に?」
ー剣 戟 離 距ー
鍔迫り合いで会話を交わした後、剣を振りぬいて間合いを放す二人。
そうして言葉の意味を考え、訝しげな表情でランスロットを見つめるフォルスさん。
「─聞いたとおりやはり強いな。願わくば全力での手合わせを願いたいところだが……今はジンの用件が先決か」
「─?! ジン、ジンだと?! 貴公、今ジンと、そういったのか?!」
そしてランスロットの言葉を聴いたフォルスさんの顔が呆然としたものとなり、月夜で薄暗く、先ほどから侵入者としてしか見ていなかった俺達を油断なく視線を走らせ、観察し─
「あ……」
『─この【魔力】の質・【神力魔導】の波動』
『間違いなく本人だと断定できると思われる』
ー『そう思う』ー
「あはは、ひさしぶり、【秩序法典】。そして……久しぶり、フォルスさん」
「……ジン、なの……か? 本当にジン?」
「うん」
【秩序法典】の断定と、俺から声をかけられたことにより、呆然としていたフォルスさんの視線が俺に固定される。
(やっぱ、大きくなったから分かりにくかったかな? まあ、ここにいたのは10歳までだしね~)
ゆっくりと俺を見つめながら近づいてくるフォルスさんに苦笑を浮かべながら、俺がそう思っていると─
ー柔 軟 抱 締ー
「……ああ、この抱き心地のよさ……この髪の手触り……間違いない、ジンだな!」
「判断する基準そこなの?!」
ー『確かに基準の一つだよね』ー
「なんで納得しちゃうの?!」
突然俺を抱き締めるフォルスさんから、そんな言葉が飛び出したのに驚いた瞬間に響くみんなの同意。
思わずつっこんでしまうのも仕方ないだろう。
「……いや、いいねこの……感動シーンっていうのは。いつ撮ってもぐっと胸に迫るものがあるよ」
「ええ、本当ね。家に帰ったら早速鑑賞会ね切嗣!」
「切嗣、バッテリーは十分ですか? SDカードの容量は? そんな数で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない。一番いいのを選んできたからね!」
ー『切嗣さん(パパ)GJ!』ー
「いや何やってんのそこぉおおおお?!」
そんな俺とフォルスさんのやり取りを、涙を流しながらビデオカメラで撮影する切嗣さんと、ハンカチで目元を押さえながらこちらを見つめるアイリさん。
そしてどこぞで聞いたような言葉を切嗣さんにかける舞弥さん。
「いつのまにか……私よりも大きくなっていたのだな。ふふ……やはり子供というのは成長が早いものだ。 ……失礼。察するに……『向こうの世界』のジンのご家族と見受けられましたが……」
「……ええ、私は向こうで養父をさせていただいております、衛宮 切嗣といいます」
「養母をしています、アイリスフィール=E=衛宮です」
「同じく養母をしている衛宮 舞弥です」
涙ぐんだ目元を拭い、切嗣さん達に視線を移したフォルスさん。
誰何する声に答え、切嗣さん達が自己紹介をし、フォルスさんが納得したように頷き─
「私は、この【世界樹】のある広場、【女神の旅立ち】の警護を仰せつかっている、ジュリアネス聖騎士・フォルスティース=ローと申します。しかし……なるほど。……ガウ殿のように重婚されているのですね。この時間、ここでの立ち話というのもなんですし……私と一緒に王宮へと参りませんか?」
「……え、あれ? とんとん拍子で話進んでいるけど、何その【女神の旅立ち】って?! ガウが重婚?! そういえば聞き忘れていたけど【蒼焔祭】って何!」
自分も名乗りをあげた後、警備上の不都合があると王宮へと案内するフォルスさん。
俺はその際、聞き捨てならない言葉に耳を疑い、その意味を尋ねたのだが─
「ふふ、相変わらずだなジン。私としてもお前ともう少し話したいのは山々なのだがな……私だけがお前を独占したとなると……リルベルト様がどう思うか……知らないお前ではあるまい?」
「! ……ああ……そっか」
「そう言うことだ。皆さんにも是非お話を伺いたいが……今は先に移動を。こちらです」
俺に楽しそうに笑いかけながら、フォルスさんは俺達の家族達へと視線を走らせ、背を向けて先導していく。
俺もまたその後を付き従いながら─
「ったく、抜け駆けとはやるじゃねえかランスロット! 俺も狙ってたってのによお」
「まったくだ。しかし……お互い本気ではないが、よもやランスロット殿を押し返すとはな」
「うむ。まったく……見た目は可憐だが、その実獅子もかくやという気迫であったな。くくっ、刃と出会ってからこの方、自分の腕がまだまだだと悟らされる事ばかりよ。さて……この世界では我が秘剣、通じるか?」
「……真正面からでは不利ですね。やはり【暗殺者】らしく動くべきでしょうか」
「ふん、面白いじゃないか。アタシとやりあうなら派手にやってもらいたいもんだねえ」
「……お願いだから王宮内ではそういう事やめてね?! 頼むから!」
フォルスさんの背中を眺めながら、やたらと物騒な言葉を口にするクー=フーリン達に戦慄しつつ、自重するように呼びかける。
(まあ……時間があれば手合わせの機会ぐらいは作るけどさあ……)
強いものを求める武人の在り方は自分も分かるので、後々交渉してみようと考えていると─
「ふむ、やはり美しい! この世界も良いものだな! ……って、何をしておる、玉藻」
「く~! あの女ゆるせねえです! ああも真正面からしっかりと抱き締めやがって! 私だって早々してもらったことがないんですよ?!」
「……おぬし、意外に小さいな。世界一つ離れ、会えないと思っておったもの同士が出うあの美しさ! 愛でる事こそあれ、それを妬むなど……刃に愛想をつかされるぞ?」
「な?! そ、そんな事なんてあ、あ、ある訳ないですよね? ご主人様! ご主人様は私を大好きですし、私も大好き! ほら、両思いじゃないですか! ね~ご主人様♪」
「……お願いだから王宮内では静かにしてね、マジで」
我が家の自重無し・暴走当たり前なネロと玉藻の二人の発言に、思わず厳重注意してしまう俺だった。
やがてフォルスさんが同じ騎士と思われるフルプレートの人物へと警護を任せ、俺達は【世界樹】上に真っ直ぐ伸びる階段を上っていく。
「聖騎士フォルスティース=ローである! 開門!」
フォルスさんが城門に立ち止まって声をあげると、その声に答えて巨大な城の門が音を立てながら開き、再びその歩みを進める一行。
やがて─
「ん? フォルスではないか。一体どうしたのだ?」
「お父様、ふふ、この国でもっとも重要なお方が戻られたのです。リルベルト様はいずこへ?」
「今なら会議室で書類と決算の最中だが……む?」
白髪と髭を蓄えた老練たるその気配。
フォルスさんと同じ白い鎧を身にまとう聖騎士にして、フォルスさんの父親である……聖騎士グラド=ディー。
「あはは……お久しぶりです、グラドさん」
「ぉぉ……おおおお……じ、ジン殿ですか?! しかしお二人? いや、貴方がジン殿ですな! またお美しくなられて! くうう~! このグラド、生きているうちには二度とお目にかかれないと思っておりました! フォルス! 早速会議室へ! 私はこの王城に残っておるものへ声をかけてくる!」
「あ、あはは……美しくなったって……それ褒め言葉になるのかな……」
俺を見て漢泣きした後、グラドさんがフォルスさんにそう告げて猛烈な勢いで走り去っていく。
そんなグラドさんを苦笑で見送ったフォルスさんが、すれ違う王宮関係者達に軽く挨拶をしながら進んでいくのについていきつつ……かつて通った懐かしき王宮の廊下を歩く感触を確かめていた。
そんな中─
「……士郎、ちょっと硬くなりすぎじゃないかい? もう少し自然に振舞って欲しいんだけど。桜君もほら、リラックスリラックス!」
「だ、だって……お、お城ですよ?! 警備の人が鎧つけてるような! 侍女や使用人がいるような! アインツベルン城よりも大きいし、なんか光ってるし!」
「ば、馬鹿だな親父、俺がこの、この程度で動揺するだなんてありえないだろ」
「どもりすぎよ士郎。……ともあれ……金ぴか、いや……宝石の輝きね、この城は」
そわそわとしたぎこちない動きで俺達についてくる桜と士郎兄を撮影していた切嗣さんが、落ち着くようにと促して苦笑し、凛さんの目が$になっているのを見て相変わらずだな~と微笑みを浮かべる。
「へ~……さすが刃ね! こっちの王族と知り合いだなんて。ほんと、家より大きいわ~。実家よりも大きいかしら? セラ?」
「そうですね……大きいかと思います、イリヤ様」
「うん、大きい」
イリヤ姉は自分の住んでいた場所との比較をしながらセラ・リズを付き従えて歩いている。
【英霊】勢は皆なれているのか余裕の表情で歩いているし─
「ふむ、なかなかじゃのう。姫の城よりも立派かもしれんな」
「ひっろいわね~。掃除大変そう」
「……着眼点はそこか! ふぅ……まあ貴様等【魔法使い】ならそんなものか。……この城も、この世界の【世界樹】も凄まじいほどの【|大源《マナ》】を有しているというのに……」
顎を撫でつけながら余裕の表情で後ろからついてくるゼル爺と、きょろきょろしながらひどく庶民的な一言を発する青姉、そんな二人を見て額を押さえながらも、この世界の魔導を見て興味深げな橙姉。
「クー=フーリン、くれぐれも軽率な行動は控えてくださいね?」
「あ~……わ~ったわ~った。たく、心配性だなお前は」
クー=フーリンの横で溜息をつきながら、監視をするように付き従うバゼットさん。
そして、一際大きい扉が俺の目の前に飛び込んでくる。
白い扉に金の縁取り。
かつて円卓を囲って会議を行ったあの大広間。
「失礼します、フォルスティース=ローです。今、お時間を頂いてもよろしいですか?」
『? フォルスですか。かまいませんよ、入りなさい』
フォルスさんが名乗り、それに答える懐かしき声。
大きな門がその言葉に応じて開け広げられていき─
「貴方が警備を離れるだなんて……珍しいですわね。一体─」
その広い会議場の中、円卓の上座より一つずれた位置に腰をかけ、書類を前にしてカップを傾ける優雅な人影がフォルスさんに視線を移す。
白い滑らかドレスを身に纏い、美しきプラチナの髪を輝かせるその煌びやかな佇まい。
慈愛を浮かべるその表情、そして変わりない柔らかな微笑み。
『告』
『聖王国アシュリアーナ王女 リルベルト=ル=ビジューである』
『場、礼をわきまえ御声に耳をかたむけよ』
フォルスさんがその横に立ち、【秩序法典】が俺達にそう告げる。
俺達はその声に従い、膝をついてじっと声がかかるのを待っていたのだが─
唐突にテーブルの上にあった紅茶のカップが倒れる音と共に、椅子から立ち上がるリルベルト様。
「……まさか、フォルス?」
「……ええ」
「面をあげなさい。いえ、あげてください。よく、その顔を見せて」
「はっ」
ひどく動揺した声で、フォルスさんに確認をし、微笑みながらそれに頷くの見たリルベルト様が、まるで懇願するように俺に真っ直ぐ言葉を投げかける。
俺はその言葉に返事を返しながら、素直に顔をあげ─
「─お久しぶりです、リルベルト様」
「あ、ああ……ぁぁ……ああ! そ、そんな……ジン、ジン! ジン!!! ジンなのですね?!」
ー柔 軟 抱 擁ー
俺が顔をあげて僅かに微笑むと、俺の顔をじっと見つめていたリルベルト様の目に涙が溢れ、俺の前で座り込むと俺の胸へと体を預けて泣きじゃくる。
「ああ……間違いないのですね。確かに……ここに貴方がいる! ずっと……ずっとこの時を待っていたのです! ……おかえり、なさい、ジン」
「──! ただいま、です。リルベルト様」
一度顔をあげて俺の顔をじっと見つめた後、再び俺の胸へ顔を預け、泣き出すリルベルト様。
俺はそんなリルベルト様の背中をそっと抱き締めて─
(ちょ?! いや切嗣さん?! 何泣きながら撮ってんの?! アイリさん! 舞弥さん止めてよってあんたたちそっち側か~?!)
そんな視線の端に移る……少し俺達と距離を置き、邪魔にならないところからビデオを撮る切嗣さんと、その傍で再びハンカチ装備なアイリさんと舞弥さん。
そしてそんな切嗣さんに親指を立てて褒めるヤイバと、その両肩でうんうんと頷くレン達。
そんな俺達を柔らかい微笑みで見つめるティタと朱皇。
(……ああ、帰って、来たんだな)
ふと感じる懐かしき光景に、かつて自分がいた時の光景が重なる。
「─フォルスティース殿、城内の者のみ招集という事……いかな用件でありましょうか」
そして、再び懐かしき声。
黒く艶やかな長い髪を揺らし、この会議場へとやってきたのは─
【魔導士】最強と名高いギネビィア=ハフェ=シェル。
「フフ、ギネビィア殿」
「? …………ッ~~!!!!」
呼び出されたとの事でフォルスさんに視線を送っていたギネビィアさんが、フォルスさんが微笑んで円卓向こうに視線を送るのを見て視線を追い、そこに見える蒼髪に息を飲む。
「お久しぶりです、ギネビィアさん」
「──ジン、……ジン!」
ー柔 軟 抱 擁ー
「ふぎゃ?!」
あ、ありのままに今起こったことを話すぜ!
俺を見たギネビィアさんがこちらに一歩踏み出したかと思ったらリルベルト様ごと抱き締められていた!
【神移】や【神力魔導】ですらありえない速度に戦慄を味わい、妙な思考になってしまう俺。
……しばしの間、リルベルト様とギネビィア様が泣き止むまで、この姿を切嗣さんのビデオで撮られ続けるという恥ずかしい体験をするはめになっていたのだが─
「──おい、フォルス。一体どうしたってんだ? 折角寝る所だったってのに、家の可愛いお姫様が起きちまったぞ?」
「ああ、ごめんなさいあなた。でも……今日だけは許してほしいわね。我等の英雄様のご帰還なのだから」
「…………俺達にとって、それはたった一人、唯一人だけを指す言葉だと知っていてその言葉を出すんだな? フォルス」
「もちろんよ。ほら……」
「……ああ……ははっ、相変わらず……神出鬼没なやつだな」
フォルスさんに少し愚痴を零しながらやってきたのは……長身に黒髪、褐色の肌に左頬から首元にかけて伸びる【刀傷】。
そう、クルダ最強闘士してクルダ最強の英雄。
【真修練闘士】ヴァイ=ローその人だった。
「よぉ! なんだ、相変わらずもててるのにも関わらず女子同士のじゃれあいにしか見えないなぁ? 我が弟弟子よ! しっかし、また綺麗になっちまって……お前、本当に男なのか?」
「相変わらずのひどいいわれよう?! きっちり弟弟子っていって分かってるくせに! ふふ……ただいま、ヴァイさん」
「……ああ、おかえり、ジン」
俺を見て軽い調子で挨拶を交わしながら、見つめるその瞳の優しさを感じつつ……俺の肩をぽんぽんと叩いてくるヴァイさん。
「んん! さてと……リルベルト様、ギネビィア殿? 公式の場でそれはどうかと思われるのですが……そろそろジンのご家族の方もしびれを切らすころですよ?」
「……ッ! す、すいませんフォルス」
「わ、私としたことが……大きくなりましたねジン。……もう膝の上に乗せてあの抱き心地を感じることができないのが残念ですが……」
ようやく一心地ついたのか、フォルスさんに促されて円卓につく二人。
そして家族達に席に座るように促し─
「? リルベルト様? 上座にお座りにならないんですか?」
「ふふ、その席だけは、座るものが決まっている特別な席なのですよ。そこにある議席名を開いていただけますか? ジン」
「?? はい。……ぁ……」
伏せられたネームをカタンという音を立てて起こしてみると、そこに刻まれた文面は─
『議長 【聖国の剣】ジン=ソウエン』と書いてあったのだ。
「もう、こういうのはいらないっていったじゃないですか、リルベルト様!」
「ふふ、相変わらずですねジンは。でも……それはできませんよジン。これは四国の代表が満場一致で決めた事なのですから」
困惑する俺に席を勧めるリルベルト様。
そうしてようやく場が収まり、俺が連れて来た家族達の自己紹介となった。
リルベルト様を含める影技勢と、切嗣さんをはじめとした型月勢が円卓に腰をかけ、一同に介する中、侍女の方々がお茶をもってくると、ごく自然に体が動いたのか、その手伝いをしようとするセラとリズに侍女の人が慌てたりと賑やかな様子で一部を除き、会話が進んでいく。
ヤイバの説明に至った際には非常に驚いた顔をしていたし、一心同体だったという言葉を聴いた瞬間、なにやら絶対零度の雰囲気にはなったものの……どうにか話は続いていく。
「……そういえば、【蒼焔祭】ってなんですか?」
「あら? ふふ、明日は何の日か知っている?」
「? いえ……もうすぐ9月ですよね?」
俺はこちらに赴く前の暦を思い出し、楽しげに日にちを聞いてくるリルベルト様にそう返すと─
「え? ……そう、世界間の移動で時間がずれてしまったのね。実は、明日はこの世界では6月1日。丁度貴方の誕生日なのよ。……【世界樹】が時間をわざとずらしたのかもしれないわね? ふふ」
「…………え? ああ、そうなんですか。って……うん、ん? ……ブルーフレイ……ソウエン……あ、ああ~!? な、なんで祭りになってるんですか?!」
「相変わらずねジンは。ふふっ。あれほどの事を成しえ、この世界から追放された貴方を忘れないためですよ。これもあの日から満場一致、国総出で祝われる祭りとなって6度目。……貴方があの日旅立った誕生日会場となった【世界樹】前広場……【女神の旅立ち】 で毎年行われているの。 この祭りの最大のイベントは、貴方と同じ蒼い髪の子が祭りで舞い……剣舞を踊ることなのよ。蒼髪の子に踊ってもらい、貴方を偲ぼうという祭りでもあった訳だけど─」
そう言葉を切ると、ふとリルベルト様が悪戯を思いついたような、珍しい表情になる。
「ねえジン? それなら明日は─」
「……は? はぁあああ?! ほ、本当にやるんですか……?」
「ええ、本当です♪」
……リルベルト様の思いつきで、思いがけない展開を迎える事になったのは内緒だ……。
そして、こちらの世界の過去話や、型月世界での話題など、尽きることなく会話は進み……夜は深まっていった。
……リルベルト様やギネビィアさんが俺と一緒に寝るという話が持ち上がり、家族達との対立で一時騒然となったのは内緒である。
ー【蒼焔祭】当日ー
6度目となるジン=ソウエンの誕生を、英雄の旅立ちを偲ぶこの祭りは、午前の部で式典、ジンを祝う言葉を述べる儀、そして蒼髪の剣舞というプログラムであり、お昼からは無礼講で飲んで騒ぐという立食会になる。
(……う~……い、いつもだけど緊張するなあ……)
【蒼焔祭】開幕を告げる、リルベルト様の声と共に、盛大な拍手と声援があがる。
あの有名な【蒼髪の女神】と同じ髪色であり、多少剣が得意だったことから蒼髪の巫女として選ばれて以来、この祭りのために必死に剣舞を練習してきた少女は、いつもの如く祭りで舞うための極度の緊張の中にあった。
かの英雄と同じように両腰に赤と青の剣を腰に挿し、二刀を持って剣舞を舞う。
それがリルベルト様に見初められた彼女に課せられた役目であり、これにより彼女の貧しかった村は一点、リルベルト様の梃入れで食べ物に困らない村となった。
それに、彼女はかつて……【蒼髪の女神】によって不治の病を救ってもらった事があった。
聖地ジュリアネスでしか治せないという病であり、それには莫大な費用がかかる。
とてもそのような大金を望めなかった彼女の村で、彼女を愛する母は絶望の淵にあった。
そんな中、クルダで【女神の癒し】という、【呪符魔術士】の開いた医者があるのを聞いたのだ。
それを耳にした母親は、苦しむ彼女を背負い藁にもすがる思いで村を出て、やせ衰えた体に鞭をうち、必死にクルダを目指した。
国境も背負った少女を見て事情を察した兵士が即座に【蒼髪の女神】の元へ、と案内してくれ、たどり着いた【女神の癒し】。
そしてそこで出会ったのは─
「どうしまし……なるほど、娘さんですね? こちらに」
少女よりも少し上の、自分と同じような髪の色をした少女だった。
「……ぁ……ぇ……」
「……ん、無理に話さなくてもいいよ。……大丈夫。必ず助けてあげるからね」
彼女はそう少女に約束し、まさに女神のような微笑を向けてくれた。
少女は安心するとその意識をなくし─
次に目覚めた時には、清潔な白いシーツの敷かれたベッドの上で母と二人、眠っていたのだ。
あれほど苦しかった呼吸も、常に熱っぽくてぼーっとしていた頭も、かすむ視界も何一つ問題なかった。
自分を救うために必死に駆けずり回ってくれた、やせこけて血色が悪かった母も、瑞々しい肌に、柔らかな母性が見えるほどに回復していたのだ。
「……ん? 起きた? ちょっと見せてね~」
ー光 糸 流 入ー
そういうや否や、彼女の手から光の糸が少女と母へと染み入るように入り込んでいく。
「…………うん、もう大丈夫だね。お腹すいてない? 俺、おかゆ作ってきたんだけど……食べれるかな?」
柔らかい笑顔で少女に笑いかけながら、湯気をあげる木の器に盛られたおかゆ。
その匂いと、少女の声で母が起き、彼女に恐縮し、何度もお礼を言う中……彼女は大丈夫、とだけいって母にもおかゆとスープを手渡してくれたのだ。
その後、まだ動かない体を起こしてもらい、母に食べさせてもらったおかゆは……涙が出るほどおいしかった。
母と二人、泣きながら残さないで食べたのを少女は今でも覚えている。
そして、もう十分に動けるようになった日。
今までお世話になった礼をいいながらも、この治療代を満足に払う当てがない事を母と一緒に頭を下げて謝った。
食事までさせてもらったのに、ろくにそれに対する対価も返せないのだから。
しかし─
「気にしなくていいよ。代価や対価が欲しくてここをやってるわけじゃない。助けたいからやってるだけだしね。だから、またなんかあったらおいでね? お礼っていうなら元気になってくれるだけでいいからさ」
そういって微笑みかけたその慈愛に溢れた笑顔。
思わずぼ~っとして見蕩れてしまった。
そして、その時、【蒼髪の女神】の意味を理解したのだ。
それ故、自分の蒼髪がリルベルト様に見初められ、彼女……後に彼だとわかったが……【蒼髪の女神】を演じられることに彼女は誇りを感じていたのだ。
だから彼女は舞う。
『さあ、お待ちかね! 【蒼焔祭】の主役! 【蒼髪の剣舞】の始まりです!』
顔を隠すベールを纏い、青と赤の剣を抜き放ち、その身で感謝を示すために。
そして─
その日、少女は奇跡に出会う。
縁もたけなわといった所で、コロッセオのように作られたこの広場を覆う見物席からは歓声があがり、毎年この【蒼髪の剣舞】を舞う青髪の少女、サフィ=レシアが広場中央まで歩を進める。
やがて、伴奏が始まるとともに、彼女の二刀をもった手が振るわれ、剣舞が始まり、年々洗練されていく流れるようなその剣舞を、観客達は暖かく、そして過去の追憶をもって見守る。
「……今年もまた、始まりましたね」
そしてその広場、王城につながる階段に作られた上座にはジュリアネス・アシュリアーナ王女・リルベルト。
「はっ。しかし……いい動きですな」
クルダ国王 白髪に口ひげを蓄えた、鋭い視線を持つ【鷹の目】と呼ばれる【修練闘士】でもある老人、イバ=ストラ。
「にゃっはは。本当ですね。でも……やはりジンには及ばない、か」
リキトア代表 半獣人【牙】族の筆頭 少し大人びた顔を見せるようになったカイラ=ル=ルカ。
「……彼女には彼女のよさがあろう。あの剣筋には誇りと覚悟がある。……見事なものだ」
キシュラナ代表 【キシュラナ流剛剣|士】師範 貫禄を見せるように堂々とした態度で帯剣するサイ=オー。
「そ~だよね~。ジンは特別だから。彼女は彼女でよくやってるよ~?」
「ええ、そうねリナ。……あの青い髪を見るたび、やっぱりジンを思い出すわね……」
フェルシア代表 その場に着飾った少女、リナティスを従える優しい瞳をした女性、【フェルシア流封印法士】統括 ギアン=ティース。
「……今ごろ、兄弟子は何をなさっておいでなだろうか」
【呪符魔術士】協会統括 こちらも貫禄がついてはいるものの、忙しすぎるのかやや疲れた表情のジリー=ラルカンス。
「きっと、他の世界でも人助けをなさっているんではないでしょうか……あの方はやはり……【蒼髪の女神】ですから」
「わあ~い! きれいだね! おか~さん!」
その傍に控える、子供をつれ、すっかり母親になっているフィリサイス=ラルカンス。
「ふふ、そうじゃのう。まあ、ワシは名前が一緒だからという理由でからかわれるのが難なんじゃが」
【獣魔捕人】協会長 クルダ王と瓜二つの外見のジン=ストラ。
「あっはっは! まあそこはしょうがないな爺さん。ま、ジンの有名税だ。諦めてくれや」
【真修練闘士】・英雄【刀傷】ヴァイ=ロー。
「もう、ヴァイ? すいませんジン殿」
ジュリアネス聖騎士 フォルスティース=ロー。
「まったくじゃ。お主のお父さんは相変わらずだの~?」
「そうだね~、おじいちゃん!」
同じくその二人の娘である、孫をつれ、すっかりおじいちゃんの顔のグラド=ディー。
「ふふっ……子供っていいわね」
【魔導士】 ギネヴィア=ハフェ=シェル。
「……また、この季節がやってきたのだな……」
同じく、【魔導士】・【銀の剣】にして【修練闘士】・【紅】カイ=シンク。
「ええ、カイ。しかし……年々彼女の舞いはすばらしくなっていきますね」
同じく、相変わらず柔らかく優しい雰囲気のワークス=F=ポレロ。
「そうねあなた。……懐かしいわね。彼女はジンが救った子の一人でもあるのだしね」
「ふにゅ~……」
そして、その横で母性を浮かべ、我が子を抱く黒髪の女性、今では【治癒の呪符】と呼ばれるようになったフォウリンクマイヤー=W=ブラズマタイザー。
「ははっ……この子はどちらに似たのかな? この会場の騒がしさの中でも寝ていられるだなんてね」
そんな二人を暖かく見守り、フォウリィーの抱く子供を優しく撫でる……オキト=クリンス。
「ふん……まあ、見れるようにはなったか」
第58代【修練闘士】・【G】……その狂気とも言うべき性質を昇華させ、その戦闘スタイルを確立させた男、カイン=ファランクス。
「相変わらずだなカイン。しかし……本当にいい動きになったね」
第60代【修練闘士】・【黒い翼】……相変わらず一流のブーメランさばきを見せるディアス=ラグ。
「ええ、彼女も責任を全うするために、絶えず修練してるみたいですからね」
第62代【|修練闘士《セヴァール》】・【白き閃光】……ついに今年の大会において、ガウを破り、【修練闘士】になったスクリーブ=ローエングリン。
「うん。でも……本当にジンを思い出すよね……」
第61代【|修練闘士《セヴァール》】・【黒い咆哮】 ……二児の父親になった、少年から大人になったガウ=バン。
「大丈夫だってガウ! あいつが……ジンが負けるはずはねえからな!」
第59代【修練闘士】・【影技】……髪の三つ編みをやめ、髪を伸ばし始め女らしくなったエレ=バン。
「ほら、エレ! 強く抱き締めちゃだめです! 子供はもっと大事にしてあげてください!」
「わ、わりいキュオ」
【獣魔捕人】兼【闘士】となった、子供を抱き締めるエレをたしなめ、母親の顔になっているキュオ=バン。
「……ふむ、よき舞いだな」
一線を引いた【キシュラナ流剛剣|士】元師範、ザル=ザキューレ。
あの戦争において名をあげた早々たるメンバーが一同に介し、音楽に合わせて舞い踊る彼女を見つめていた。
そして、その横では─
「いや~すごいね! これは大興奮だ! さすがに向こうじゃこんな派手な演出はできないしね~!」
相変わらずビデオ片手に祭りの熱狂を撮り続ける切嗣。
「ええ、そうね! いいわ~」
楽しそうに祭りを見つめるアイリ。
「……しかも、この後は無礼講で……ジンが広めたというスィーツ屋が出てくるらしいですよ……!」
むしろ祭りが終わった後を夢想し、眼を輝かせる舞弥。
「え、ほんと? 舞弥ママ!」
その舞弥の言葉に反応し、同じく眼を輝かせるイリヤ。
「……こちらの世界のスィーツも食べてみたいですね……」
「うん、食べたい」
それに同意するセラとリズ。
「……ケーキあるかしら」
「……!……!」
「ま、後でいってみれば分かるわよ。マスターにお願いしましょ?」
白と黒の対照的な服を着た双子ともいえるレン達が、リズの横で聞き耳をたて、スイーツの話に胸躍らせる。
「こっちの世界……刃の世界の技を、闘いを生で見られるだなんてな……後で親父にコピーしてもらって、慎二と一緒に研究しないと」
「ちょっと士郎? 興奮しすぎよまったく……男ってば本当に……」
「まあまあ姉さん! もうすぐですよ。橙子さんは行かなくてよかったんですか?」
興奮した様子で、視覚まで強化して広場に首っ丈の士郎と、それをむすっとした顔で面白くなさそうに見ている凛。
そしてそれをたしなめる桜が、同じくその場に残っていた橙子に声をかけるが─
「私は人形師だぞ? 刃と同じような動きができるという……この世界の戦士達に対し、何が出来るというんだ。英霊にも勝てない人の身であの場にいくなど……自殺行為でしかないぞ」
そう、【型月世界】の家族達が、その人数だけ特等席を貰い、祭りを眺めていたのだ。
残りの元【英霊】や魔法使いの姿はなく─
やがてそんな疑問が解決される事がないまま、会場に鳴り響く音楽が激しくなりフィナーレを目指して終息していく。
青と赤が入り乱れ、回転する中─
音楽の終わりと共にサフィが頭をたれ、両手を広げて翼のように広げながら停止する。
ー拍 手 喝 采ー
割れんばかりの歓声と、拍手が巻き起こり……サフィがベールに隠れた表情にやり遂げた笑みを浮かべ、喝采を送ってくれる四方のお客様方に丁寧に礼をしている最中。
ふと、サフィの目に赤い槍を持った青く体にフィットした服を着込み、要所に鎧をつけた男性が、ごく自然体でこちらに歩いてくるのが見えた。
なんだろう、と思った瞬間─
「よお、見事な舞いだったぜ? ……さてと、ちゃんと受けろよ? おらぁ!」
「キャっ?!」
ー赤 槍 刺 突ー
そう一言かけた後、その男性が一足飛びに踏み込み、その赤い槍眼前に迫ったのだ。
咄嗟に自分のもった双剣で防ぐものの……その腕の差は歴然。
彼女の持っていた双剣は弾かれ、空中に舞う。
この祭りに乱入した暴漢として、この会場警備の各国の精鋭たちが抑えようと動きだすが─
ー結 界 展 開ー
「な、馬鹿な! 結界だと?! 呪符も無しでか!」
「リルベルト様ッ!」
広場を覆うように強固な結界が張られ、外との接触の一切を遮断した。
緊張はらむ雰囲気があたりを包み、祭りを見守っていた上座に座る闘士達もまた、闘気を纏って立ち上がる。
「へっ、嬢ちゃん、俺の一撃を防ぐなんざいい腕だ! 嬢ちゃんならもっと上にいけるかもなあ」
「へっ?」
赤い槍を一回転させた男性が、その赤い槍を振り下ろすのと同時に褒める言葉をかけ─
ー弾 槍 一 閃ー
「っと!」
「やりすぎだってば。……怖がらせて悪かったね。それにしても……いい剣舞だったよ。こんな風に動けるまで元気になってくれたんだね。嬉しいよサフィちゃん」
「…………え?」
その赤い槍の一撃を弾き飛ばす朱色の一閃。
太陽の輝きがその刃に落ちて輝き、その刀自体が太陽のように揺らめいていた。
そして、サフィと同じようにベールを頭に目深に被る姿。
そのベールの隙間から覗く、緑色の美しい瞳と、優しい声。
何より……あの日見た笑顔よりも更に美しく、見守るようなその笑顔と……蒼く日の光を受けて炎のように揺らめく髪。
「ぁ……ああ! まさか、貴方は……貴方様は……!」
「あはは、実はこれもリルベルト様の意向でね。ちょっと派手になるから……広場の端に退避していてほしいんだ。いいかな?」
「は、はい!」
その優しい笑顔に顔を真っ赤にしながらも、飛び散らされてしまった赤と青の剣を拾い、退避していくサフィ。
騒然とする雰囲気の中、朱と蒼の刀を持ったベールを被った人物と、槍を構えた人物の闘気がぶつかり合う。
「はっ……いいねえ、この雰囲気! 精々派手にいかせてもらおうか! いくぜえええ!」
「ふっ!」
ー連 槍 刺 突ー
閃光のような赤い槍の刺突が、ベールを被った人物へと、まるで機関砲のように連続して突き出される。
それを朱と蒼の二刀が逸らし、いなし、一撃も体に通す事なく弾き返していく。
「っち、やっぱり手前はすげえな。ええ? 刃!」
「っと!」
ー外 套 貫 通ー
連続して放っていた一撃を一端溜めて、力強い一撃で刀を押し戻し、それが顔を掠めるようにしてベールを貫く。
槍を振ってベールを落とす男性と─
「……蒼い髪、朱と蒼の刀……!」
「あの美貌……!」
「ま、間違いない! あの、あの方は……!」
ー『【蒼髪の女神】! ジン=ソウエン!』ー
ー『ジン!!』ー
「もう、みんなの前で派手に顔見世するだけだから軽く演舞するだけだっていったのに……まあ、いいか。懐かしい顔も見えるし……俺の今を伝えるにはこれが一番、だしな!」
上座にいた、この世界の仲間や家族達が驚愕の表情でこちらを見るのを視界に捉えて微笑みつつ、蒼い髪を靡かせてベールが脱げた後の髪を振って整えると、その手の【陽紅】と【蒼月】を構える刃。
「おい刃、この結界は?」
「入れるのは俺達に近いクラスの実力者のみ。だから……あの上座にいる人達は間違いなく対象内だよ、クー=フーリン」
「そうか……へへ!」
そういうと、【刺し穿つ死棘の槍】を肩に担ぎ、上座を見上げる刃に並び立つクー=フーリン。
そして─
「─さて、この世界の英雄達との対決とは……腕がなる……!」
クー=フーリンと同じ方向、控え室入り口に隠れていた家族達が、喧騒溢れる会場を悠々とこちらに歩いてくる。
そして、俺の傍で二槍を構え、不適に笑うディル。
「……さあ、昨日の続きと参りましょう、フォルスティース殿!」
【無毀なる湖光】を抜いて地面に刺し、まっすぐフォルスさんに気迫をぶつけながら構えるランスロット。
「異世界の英雄と手合わせできるなど……なんと僥倖な事か。この世界の【剣技】、見せていただく!」
上座の一同を見てその顔に笑みを浮かべながら悠然と構える小次郎。
「守る影……我が名の由来をお見せする時!」
ダークをその両手に構え、忍者装束のシェリード。
「ははっ! さあて、派手にいこうじゃないか!」
くるくるとその手に二丁拳銃を構えるフラン。
「ふん、余の奏者の仲間ともなれば、余と打ち合えるぐらいでなくてはな!」
赤いドレスを身に纏い、歪な剣を一閃するネロ。
「ふっふっふ~! ここで活躍してご主人様との添い寝権をゲットするんです! そっして~……朝までくんずほぐれず……キャー☆」
……相変わらずなノリの玉藻。
「相手にとって不足なし! 赤枝の騎士に撤退はない!」
グローブをはめ、拳を握るバゼットさん。
「ふむ、まあ力だけを引き出すならなんとかなるかのう?」
ゴキゴキと肩を鳴らし、ニヤリと笑うゼル爺。
「ま、アタシは元々風属性があるからね~。十分十分」
ん~と伸びをしながらやる気を見せる青姉。
そして─
ー『?! 馬鹿な?! 【蒼髪の女神】がもう一人?!』ー
ー『?!』ー
「ふふ、初めまして。刃の片割れとも言うべきもの。ヤイバ=ソウエンと申します。以後お見知りおきを」
俺と同じ容姿の存在が現れたことで、一気に混乱に陥る会場を見て楽しそうに微笑みながら、その手に【蒼嵐】を顕現させるヤイバ。
「ああ……久しぶりですね、リナ、ギアン」
ー『ティタ!』ー
「─ふふ、なんとも久しいことだな皆─」
ー『朱皇?!』ー
そして、ヤイバの後を追って登場するティタと朱皇の二人が、刃とヤイバの両サイドに並び立ち、上座の家族達は信じられないものを見るように呆然としていた。
既に知っている……昨日であった数人を除いて。
「さて……顔見世は済んだ。後は……みんなの希望を叶えると……しよっか!」
ー闘 気 噴 出ー
型月世界の家族達が戦闘準備万端になったのを横目で確かめつつ……俺は双刀を構え、上座に向き直り、闘気をぶつける。
ー『……ッ!』ー
俺の闘気に再び驚愕した表情を見せた後、上座の全員がリルベルト様へと顔を向けると……静かに微笑みながら頷いてみせる。
「なるほどねえ……リルベルト様の悪戯の内容はジンの家族と、ジンのド派手な顔見世って訳だ。それなら……おい、みんな。互いに相手を決めて一対一、ジンはまあ……最後の〆って事で依存ないな?」
ー『応!!』ー
ヴァイさんがそう一言宣言すると、口をそろえて闘士達が返事を返す。
そうして、まずは誰がいくかという話になり─
「一番手、譲ってもらうぞ」
そういって腰の剣を抜き放ち、広場に飛び降りるのは─
「貴公……名のある【左武頼】とお見受けする。我が名は【キシュラナ流剛剣|士】師範、サイ=オー!」
「ほう! お主が刃の剣の師匠の……相手にとって不足なし! 我が名は佐々木 小次郎! 我流ゆえ名乗る流派は存在せぬが……」
俺に視線を送り、一瞬優しげな眼差しで目礼をした後、小次郎に向き直って殺気を放つサイさん。
それを受けて目を細め、楽しそうな雰囲気の小次郎。
「構わぬ。今は─」
ゆっくりと上段に剣を構えるサイさんと─
「うむ、言葉は要らぬな。─いざ」
悠然と刀を自然体で構える小次郎。
「尋常に!」
ー『勝負!』ー
両者の闘気と殺気がぶつかり合い、掛け声と共にその姿がブレる。
ー剛 柔 相 対ー
サイさんの剛剣が、小次郎を一刀両断せんと唐竹から真っ直ぐに振り下ろされ、それを刀で受け流して勢いを殺し受け止め、少し間合いを広げた後で自らの刀の長さを利用した間合いの広さで、左薙、返しの右薙、左斬上と剣閃を走らせる小次郎。
「ッ! 見事!」
サイがその刀の長さでその返しの早さという腕前に感嘆の声を上げながらそれを受け止め、弾き飛ばす。
「……なんと早き剛の剣か。刃との手合わせがなければ一合で切り捨てられておったであろうな」
小次郎もまた、感嘆の声を上げつつ間合いを放し……その額に冷や汗を浮かべながらも、心踊る闘いに微笑む。
そしてその小次郎の着物の袖は初太刀を受け止めた際に切り落とされており、反応が遅ければまさに一太刀で腕を持っていかれ、勝負が決まっていたのだろう。
「……なるほど、ジンと。……ならば……遠慮は無用!」
刃と手合わせをしていたと聞いて、その強さに納得したように頷いた後……すっと剣を持つ手を天に伸ばすサイさん。
そして場を満たすのは……圧倒的な殺気。
❛【殺】の一文字を心に懐け❜
それは、【キシュラナ流剛剣|士】術における……【殺気】を形どる為の言葉。
❛さすれば、その一文字は─❜
【気力】が剣へと集約され、【気力】に込められた殺気と殺意は……剛剣によって形を成す。
❛牙となる❜
「【殺】文字──【剛剣|士】」
ー【剛剣|士見参!!】ー
「─【刃・輪廻】」
八双に構えた剣が、巨大な人影となり、丸鋸のように回転する刃をもった【剛剣|士】となる。
「…………! 殺気を、形となすのか……話には聞いておったが……凄まじい技よな。……ならば、こちらも礼を尽くさねばなるまい」
【剛剣|士】を見て驚愕を露にする小次郎ではあったが、次の一撃が勝負の分かれ目になるというのを直感で悟ると、無形の位を構えとする小次郎が、唯一構えを取る必殺の構えをとる。
「……参る!」
「──秘剣」
ー剛 |士 輪 斬ー
サイさんが押し殺すような低い声で一言を発した瞬間、踏み込みと共に【剛剣|士】の刃が、小次郎を切り刻まんと迫る。
それに対し、迎え撃つように必殺の構えから繰り出される、小次郎が生涯をかけて編み出した魔剣・魔技。
❛【燕返し】❜
ー次 屈 折 斬ー
寸分のズレもなく、まったく同時に打ち込まれる……【多重次元屈折現象】の三閃。
その敵を囲い込む必殺の斬撃が【剛剣|士】の迫り来る刃の根元を迎撃し、打ち払い、切り落とす。
そして【剛剣|士】はその形を失っていくが─
ー真 刃 一 刀ー
「─【剛剣|士】を破るか……見事な剣術であった」
「……ふっ……未だ、至らず……か……」
ー倒 伏 人 影ー
そう、サイが声をかけるのと同時に、無念そうに……しかしながら満足したように目を閉じて倒れる小次郎。
そう、【剛剣|士】は退けたものの……その後にある【キシュラナ流剛剣|士】の奥義ともいえる【真の一刀】。
瞬速で逆袈裟に叩き込まれた峰打ちの後がくっきりと小次郎の体に残っていたのだ。
「ありがとうございます、サイさん。峰打ちをしてくれて」
「……気にするな。ジンの家族なのであろう? 腕を競うことこそあれ……斃すものではあるまい」
サイさんは俺に再び微笑みそういって小次郎を肩に担いで【女神の癒し】と銘打たれた救護所へと運んでいく。
そして、次に上座から舞い降りたのは─
「お~い、ジンを見て不審な気配を出すそこの狐耳。ちっと面貸すにゃ」
「なっ?! ふっふ~ん、なんです? 嫉妬ですか? そりゃ~貴女は数あるネコミミの中の一人でしかないですからねえ。ど~ですこのふっさふさの尻尾は! 貴女にはない魅力でしょう? ご主人様はこれをもふもふするのが大好きなんですから~♪」
俺が始めてこの世界で出会った……カイラだった。
どうも先ほど玉藻が言い放った言葉を聴いておねえちゃんとして我慢がならなかったらしい。
「……ふふ、【牙】族なめんなよ? この雌狐風情が!」
「それはこっちの台詞です! この猫娘風情が~! ギッタンギッタンのぼっこぼこで三味線にしてやりますよ!」
互いに視線を交わし……両者の目が怒りに染まる。
そして─
「フルぼっこニャぁ!」
「彫像になりやがれです!」
❛【土拳】❜
❝呪相・氷天❞
地面から盛り上がる土の拳が玉藻を粉砕せんとばかりに無数に舞い踊る中、それを一歩下がって避けながら呪符を投げつけ、それが【土拳】を凍らせる。
「なるほどニャ~。【呪符魔術士】か。典型的な術者かにゃっと!」
「面白い術を使いますね~……で・も~呪術的なもんならウチも負けね~ですよ! ─炎天よ、奔れ!」
❛【岩砕】❜
❝呪相・炎天❞
凍らされた地面を避け、移動しながら再び大地に【魔力】を通し、巨大な土の拳を玉藻に打ち出すカイラと、それを迎撃するために炎系の呪符でそれを焼き尽くす玉藻。
「──やるニャあ……でもね? その程度じゃアタシも止めらんないんだよ!」
「それはこちらの台詞で~す~! とっととくたばってください! ちゃちゃっと終わらせてご主人様にベタ甘な時間を作ってもらうんですから!」
「んっふっふ~、残念! アタシのほうが先約なんだよニャ~♪」
「んな?! ご、ご主人様?! 嘘ですよね?! いや、嘘でも本当でも……貴女を消せば無問題! きっちりかっちりすっきり解決! という訳で……死にやがれです……!」
❛【野王武】❜
❝呪相・密天❞
そういって放たれた呪符より雷撃が舞い散るが……それはカイラの【野王武】達を直撃し、カイラには届かず─
「うわ~?! ちょ?! い、一対一じゃなかったんですか~?!」
❝呪相・木天❞
地面に呪符を投げつけ、そこから生える植物の根が【野王武】達を縛り上げる。
「へ~? アンタも自然を扱う術を持ってんのかい。それなら……丁度いいや。アンタが【木門】の条件を出してくれたし……アタシのとっておきを見せてやるニャ~♪ ジン! 見てなよ~!」
「ちょ?! ご主人様に色目なんかつかっちゃって……! 許すマジ猫娘! 後悔してくださいね!」
❛【秘門】・【絶威】❜
❝呪層界・怨天祝奉❞
カイラが、木の根に縛られた【野王武】達に【魔力】を走らせる。
すると【野王武】達が土に戻りながら一点に集まりだし─
玉藻は周囲に呪符をばら撒き、自分の力を強化する術式を構成する。
呪符によって構成された鳥居が辺りにその姿を現す。
「何するのかは知らないが……一気にいくよ!」
「ふふん、それはこっちの……せり……ふ?」
❛【武陽猛守】❜
ー咆 哮 巨 獣ー
地面から巨大な影が盛り上がると……木で作られた角を持ち、土の体躯を纏った巨獣がその姿を形どる。
本物の獣のような唸り声をあげて玉藻を見下ろす【武陽猛守】とカイラ。
「き、キャーーーーー?! な、な、何なんですかこれは?! ちょ、聞いてねーです! コラー!」
「あっはっは! それじゃあ……プチっとニャ~♪」
「や、やられてなるもんですか! 私にはご主人様との明るい夫婦生活がまってるんですからあ! 五行相克! 陰陽に散れ!」
❝呪相・陽天陰地❞
ー呪 場 破 界─
その両手に複数の呪符を持ち、それらを鳥居の前へと配置すると、鳥居が門を開くかのようにそこから力の奔流が湧き出す。
それは先ほど作り上げた界……呪層界・怨天祝奉を崩壊させながらも膨大な破壊力を持って【武陽猛守】を破壊するが─
「お~すごいすごい」
「え?! い、いつのまに?!」
【武陽猛守】から降りていたカイラが、その壊されていく【武陽猛守】を玉藻の横で見ながら拍手をしているという顛末。
そして─
「ほいっと」
「ぐっふ……」
ー腹 部 強 打ー
慌てた玉藻をおいて、そのまま腰の入ったいいフックを玉藻のみぞおちに叩き込むカイラ。
呪術師である玉藻が障壁を張っていたものの……その一撃はあっさりとそれを破り深々と突き刺さる。
その一撃に耐えられるはずもなく……口から呼気を吐き出しながら沈んでいく玉藻。
「にゃっはは~♪ 悪いにゃ~。アタシは術者じゃなく、闘士なんだよ。拳を交えて何ぼなんだ。だから……ゆっくり眠るといいにゃ♪」
「……の…………の……呪ってやる……うう!」
……非常に不吉な言葉を発しながら気絶する玉藻。
やれやれと笑いながら、刃にウィンクを送って、【女神の癒し】の一団へと運んでいくカイラ。
これがリルベルト様による演出であり、刃……【|蒼髪の女神《ブルー・ディーヴァ》】の帰還を高らかに歌い上げる祭りであると気がついたるこの【女神の旅立ち】・【蒼焔祭】会場は、未だかつてない歓声と声援、盛り上がりを見せていた。
そんな歓声や拍手が巻き起こる中、次に会場に降り立ったのは─
「──ランスロット殿、昨日の夜の決着をつけるとしましょうか」
「無論、望むところ!」
「ほら、ママが戦うぞ~応援だディーファ!」
「ママー! がんばれ~!」
二人が相対した後、ヴァイさんが自分の子供と思われる……褐色の肌に金髪の……まるで褐色のフォルスさん子供バージョンといった感じ女の子を肩車し、フォルスさんを応援する。
(わお……フォルスさん、ヴァイさん……うん、子供できたんだね~……)
何気に上座の人々を眺めて、所々子供を抱いて幸せそうにしている姿を目にし、過ぎ去った時を体感してしまう刃だった。
「もう……ヴァイったら……」
そんなヴァイさんの行動に頬を染めつつ、互いに視線を交えて剣を構える二人。
「─本来ならば時を忘れて剣を交えたい所ではあるが」
「ええ、そちらの時間は有限なようですね。ならば─」
ー魔 力 集 中ー
そう穏やかな顔で語り合っていた二人が、その【魔力】を互いの獲物へと集約しはじめる。
「ちょ?! 【宝具】……え? あれ? フォルスさん、まさか……」
一瞬だけ俺に視線を走らせ、聖騎士剣を振りかぶるフォルスさん。
剣を横にし、半身を引く……横薙ぎに全力を振るう構え。
対して【無毀なる湖光】を大上段に構え、一刀両断せんとするランスロット。
「私の今の最高の一撃……受け切れるか!? フォルスティース殿!」
「我が奥義にて答えよう、ランスロット!」
ー魔 力 轟 放ー
互いの獲物に漲る【魔力】が集約したと思った瞬間─
❛ジュリアネス聖騎剣術・奥義❜
❝【無毀なる】❞
互いの持つ技と力が─
❛【(神淵|深円))】❜
❝【湖光】❞
ー魔 波 斬 激ー
ぶつかりあった。
【(神淵|深円))】の波状斬撃と、【無毀なる湖光】の直線に進む斬撃がぶつかり……両者譲らず、【魔力】か切り裂かれ、砕け、散りながらも押し負けんとする。
「はぁああああ!」
「うぉぉおおお!」
あらん限りの【魔力】を注ぎ、突き抜けんとするランスロットとフォルスさんではあったが─
「ぐっ……う、おおお! あああ!」
ー魔 波 斬 包ー
やがて……波状斬撃は直線に伸びるランスロットの【無毀なる湖光】を押し返し、切り裂き、飲み込んでいく。
そしてついに……吹き飛んだランスロットが空中に舞い……やがて地面へと落下する。
「ごふっ……ふっ……何が【完璧なる騎士】か。やはり……世界は広い……な」
「見事だったぞランスロット。貴公の勇士……胸に刻もう」
地面に倒れ、天を見上げるランスロットと、剣を一振りし、眼前で構えるフォルスさん。
唯の一刀をもってつけられた決着も……その実、己が全力を持ってぶつかり合う意思のぶつかり合いでもあった。
「はいはい~、ちょっとごめんよ~」
と、お茶らけた感じでいつのまにかランスロットに近づいたヴァイさんが、ランスロットを担いで【女神の癒し】へと持っていく。
それに驚く俺達の家族と、苦笑しながら見送る俺とフォルスさん。
続いては─
「玉藻も勇敢に戦ったのだ。余とて奏者の……刃の【英霊】としてこの力を示さねばまさに示しがつくまい! 誰か! 余と見えようという猛者はおらぬか!」
その顔に好戦的な笑みを浮かべ、上座を挑発してみせるのは……その手に歪んだ剣を構えるネロ。
相変わらず露出の高い真っ赤なドレスを身に纏い、周囲の注目を集めるものの……まったく意に介さぬその威風堂堂とした佇まいは、まさに元皇帝を思わせる。
「ふむ……ジンの渡った世界の王族の方とお見受けする。ならば……同じ王が戦うのも道理」
ー『お、王?!』ー
そういって他の【修練闘士】達を制し、ネロの前に立つのは…………クルダ国王にして【修練闘士】たる、【鷹の目】イバ=ストラ。
「我はネロ=クラウディアス! かつて神聖ローマ帝国の皇帝であり、今は奏者……刃の良人をしておるものだ!」
「ちょ?! ネロォォォオオ?!」
ー『な、何いい?!』ー
ー『ちょっと待ったあああああ!』ー
胸をはり、得意げにそう宣言するネロの爆弾発現に会場が一瞬しんとなり……それに抗議する声と驚愕の声で場が騒然とする。
「ふむ……ジンは相変わらずの人気ぶりで男女問わずに虜にしとるようだな。 ……ハーレムか。いやいや、若いっていいのう~! うらやましいぞジン!」
「やかましいわこのはっちゃけじいさん! なんでそこまで変わってないのさ?! ハーレムなんてつくっとらんわあ!」
「そう! そうなのだ! それ故不安も多くてな……あっちで人助けをすれば連れ帰り、こっちで人助けをしては連れ帰りで……その心をつなぎとめるには多少強引な手を使わないと無理なのだ!」
「ふむふむ。……否定しとるのはジンだけらしいのう? いやはや、我等が【蒼髪の女神】も英雄。色を好む年頃になったんじゃのう……しかも美人に磨きがかかっとるから、ハーレムなのに見目麗しい乙女の園にしか見えるという……ふうむ、ハーレム、じゃよな? ……まあよい、悩む若人の剣を受け止めるのも先達の務めじゃろう。さあ、ネロ殿! その思いを込めて打ち込んでこい!」
「望む所よ! 奏者よ、この剣と勝利を汝に捧げよう!」
真面目な顔で語りかけるそぶりを見せつつ、その実口元がひくひくと笑うのをこらえている姿が目にとまり……ひっかきまわす気満々のクルダ王。
その顔を見て、あのはっちゃけじじい……と苦虫を噛み潰したような表情になる刃の眼前で、ネロが刃に視線を一瞬移した後、剣を構え─
「ゆくぞ!」
「参られよ」
ー剣 戟 響 渡ー
ネロとイバ=ストラの剣戟が会場に鳴り響く。
まるで孫娘に指導するかのように静かな瞳でネロの剣戟を見抜き、見切り、受け流し、受け止めるイバ=ストラと、その卓越した技術に驚きながらも打ちこみ、打ち合い、あわよくばその技術を盗もうとしている素振りのネロ。
互いに冴え渡る剣閃が、剣戟がぶつかり、火花が散る。
「……しかし、その……なんじゃな。貴公……その服装はもちっとどうにかならんのか? お爺ちゃんちょっと目のやり場に困るんじゃが」
「なっ?! この服の良さが分からんとは! 動きやすさと見た目の麗しさを両立させたすばらしい出来ではないか!」
やや苦笑気味に苦言するイバ=ストラと、それに激昂するネロではあったが……この世界で服屋を営んでいるヴァイさんに目を移すと、大きく手で×を作り、それはね~わと首を振る始末。
……うん、やっぱり……ね。
「ふん! まあよいわ。所詮この身は奏者の為だけにある! つまり、その他大勢に見せるのはもののついで。その実、奏者の視線を釘付けにできればよいのだからな!」
「ほう! ……これまた……愛されとるのう? さすがは【蒼髪の女神】じゃな!」
「それ関係ないよね?!」
ー剣 戟 交 錯ー
時折刃に話題を振るような余裕を見せて会話をしつつも、ネロとイバ=ストラの剣戟は鳴り止まず─
「天幕よ、落ちよ!」
❛【花散る天幕】❜
ー剛 剣 一 閃ー
ネロが進展しない剣戟に焦れ、半ば強引にその剣を持つ手に力を込め、切り捨てんと袈裟斬に振り下ろす。
「若いな。焦りは禁物。その焦りは隙を生み─」
【字名】通りに【鷹の目】のような鋭い目つきを細め、その大振りな一撃を滑るように避けるイバ=ストラ。
「はぁ!!」
❛【喝采は剣戟の如く】❜
自らの一撃を避けられたことにさらに焦りが募ったのか、かなり強引に体を捻りながら力を乗せた剣戟をイバ=ストラの退避方向へと向けるネロ。
「─それは命取りになる」
❛【火断亡】❜
「?! がっ!!」
ー手 刀 突 閃ー
しかし、そんな無理な動きは当然隙だらけであり……その大きな隙を突いて剣を片手でもっていたストラ王の手が閃き、【クルダ流交殺法】【表門】【死殺技】【火断亡】がネロの腹部を捕らえる。
その速さ、その威力でアッパー気味に食らってしまったネロが口元から血を吐き出しつつ、体を俯かせながらくの字に空中を舞い─
「さすがに女子を地面に叩きつけるのは忍びないのう。ジンの家族だという話だしな」
落ち行くネロを空中で受け止め、救護所へと連れて行くイバ=ストラ。
「ありがとうございます、王」
「何、礼など要らんよ。丁度刺激が欲しかったところでな。見よ、我が国の力たちもまた滾っておるぞ?」
刃がイバ=ストラに対し、ネロを相手にしてくれたことに礼を述べると、ニヤリと笑いながら上座に視線を移す。
そして、そこには歓喜を持って俺を見つめる暖かく……そして闘気に満ちたこの世界の仲間達の視線があった。
「へへ、さっすが刃の仲間なだけはある。元とはいえ、【英霊】がこうも簡単に敗れるとはなあ」
「まあ、最近じゃ【Balue Flamme】に付きっ切りで、本気の鍛錬をみんなに出来てなかったのも大きいし……襲ってきたやつらも雑魚ばっかりだったしね。こっち方式で鍛えれば、みんな【修練闘士】になれるほどの実力者になると思うよ」
「まあ、稼がなきゃ暮らしていけねえしなあ。やれやれ、俺等もずいぶん所帯じみたもんだ」
クー=フーリンがやや愚痴っぽくそう漏らしつつも、その表情はひどく穏やかな色合いで……まんざらでもないという意思を示していた。
「──まあ、今は─」
「ただ、目の前の敵を打ち倒すのみ」
「応よ!」
クー=フーリンの闘気に答えるように、地面に舞い降りたのは……【G】。
以前のような獣じみた雰囲気が洗練された闘気になっている。
俺に一瞬視線を向けるも、クー=フーリンの猛禽な笑みを受けて、同じような笑みを返す。
「俺の名はカイン=ファランクス。【修練闘士】、【G】の【字名】を持つものだ」
「俺の名は……赤枝の騎士、クー=フーリン。ちなみに俺の獲物はこの槍だが……あんた等なら問題はねえよな?」
「当たり前だ。我等クルダの闘士はこの身一つで最強を名乗るもの。相手が武器を使おうとこの拳で、この脚で打ち倒す。そして……【修練闘士】とはその頂点に立つものだ。貴公等も腕が立つようだが……まだ足りん」
「へっ…………いってくれるじゃねえかよ……いくぜええ!」
ー連 槍 閃 突ー
クー=フーリンがその言葉に激昂し、最速を持って槍を突き出す。
ギアをあげて隙間がないほどに打ち込まれる槍を、その先を避けるかのように柄の部分を弾いて防いでいくカイン。
「ちっ、言うだけの事はあるな! まるで刃を相手にしてるみてえだ!」
「フッ……そうか。ならば……俺らしさを見せてやろう……!」
舌打ちして槍の刺突の速度をあげていくクー=フーリンではあったが、相変わらずそれが防がれ、そして─
ー朱 槍 掌 握ー
「ッ?! んだとぉ?!」
「さて……貴公は、何撃持つ?」
その槍がカインによって掴まれる。
カインが凄惨な笑みを口元に浮かべ─
❛壱❜
ー全 力 一 撃ー
「やべっ……ごぁ?!」
その踏み込みと同時に、既にクー=フーリンの体に叩き込まれていた右拳の一撃。
打ち込まれる前に放された槍の柄で咄嗟に受けるものの、受けた槍ごと叩き込まれた拳で体が弾け飛ばされる。
❛弐❜
「ごぉっ!!」
さらに、追い討ちをかけるかのように、弾け飛ばされる先に踏み込んで現れるカインが、その全力の拳を振るい、逆風からのアッパーカットがクー=フーリンの体を捉え、打ち上げる。
❛参❜
そして、空中に浮かんだクー=フーリンに対して跳躍し、周り込んで全力の踵落としを叩きこみ、その体が地面へとたたきつけられ、槍と別々に地面に転がっていくクー=フーリン。
「ぐふぅ……」
「……参撃か。なるほど、【真闘士】クラスではあるな」
「……てか、カインさん?! ぶち込んで本人で確認するのやめようよ?!」
「何をいっている……あの程度でくたばっていてはお前に付き合えまい?」
「俺どんな化け物なのさ?!」
思案顔でクー=フーリンを見届けるカインさんに抗議しつつ、刃がクー=フーリンに駆け寄ろうとしたところを……バゼットさんが押し留める。
その顔に決意と信頼を感じた視線の先─
「っ……ははっ、たくよお、この世界の戦士ってのは……本当におもしれえ程の強さをしてやがる。ゴホッ……これなら刃のあの強さも納得だわ。あ~……腕は逝っちまった、か」
「フッ……やはり立った、か。面白い!」
その顔に笑みを浮かべ、再び腰を落として臨戦態勢にはいるカイン。
ぼろぼろになって、腕があらぬ方向へ曲がってしまっているクー=フーリンではあったが、未だその闘志は消えず─
「……俺の一撃……受けきれるか?」
「ほう! その体でよく吼えた!面白い、受けて立とう!」
折れた両手を垂らし、後方にバックジャンプするクー=フーリン。
そして、その体制から─
ー全 力 疾 走ー
地面に倒れるんじゃないかという姿勢で、その圧倒的速度で駆け出すクー=フーリン。
その視線の先には、地面に横たわる愛槍。
その加速度で槍の石突をふみこむと、槍が持ち上がり─
それを左足の甲と脛、腿で挟み込んで固定し、右足の踏み込みで溜めた勢いを開放して跳躍する。
❝【突き穿つ】❞
自分の限界を超えるような速度と跳躍をもってカインを眼下に収めたクー=フーリンが、その体を回転させながら─
❝【死翔の槍】❞
その脚に挟み込んだ朱槍を蹴り放つ。
ー流 星 槍 突ー
朱の流星と化し、音の壁を破りながら真っ直ぐにカイン目掛けて飛んでいく【突き穿つ死翔の槍】。
そして、その槍を見てカインは─
❛我が闘法は─❜
両足をしっかりと地面につけ、その体全体の筋力を集約させる。
カインの持ち味は……【クルダ流交殺法】を修めるために鍛え上げた一撃一撃を必殺の域まで高めたその一撃。
その身体能力から繰り出される一撃を、【武技言語】で強化し、カインは迫り来る【突き穿つ死翔の槍】に向かって─
❛鬼神也❜
ー極 全 力 撃ー
体の力全てを込め、体を捻り、その拳に力を伝えた最強の一撃を繰り出す。
ー全 激 突 力ー
「ぬう……うあああああああああ!」
刹那、爆発音を伴って衝撃が駆け抜ける。
何をも貫かんとする【突き穿つ死翔の槍】と、何をも打ち倒さんとするカインの拳。
「おあああああああああああ! らああ!」
ー迎 撃 地 落ー
そして、その時間が続いた後……カインは拳を振りぬき、槍を地面に叩きつける。
叩きつけられた槍は、その内に潜めていた【魔力】を開放し、地面を抉って爆発する。
閃光に飲み込まれ、砂煙が舞う中─
「ははっ……マジかよ……」
そんなクー=フーリンの声が聞こえ─
「今の貴公の一撃……見事だったぞ」
クレーターが出来た地面に、爆発を受けて服をぼろぼろにしたカインの姿。
そして、【突き穿つ死翔の槍】を撃ち落した事によって血が垂れ流しになっている右手。
左手を天に翳し、拳を握って勝利宣言を告げると─
ー喝 采 歓 喜ー
固唾を飲んで見守っていた会場から割れんばかりの歓声が溢れる。
「……変わったね、カインさん。答えを……見つけたのかな?」
「ふん、貴様もな。また一段と強くなったな? ……後で相手をしてもらうぞ?」
刃に声をかけられ、そう答えつつ、地面に横たわっているクー=フーリンの襟首を掴み、救護所に運んでいくカイン。
「お、俺は……猫じゃ、ねえ……」
ずるずると引きずられながらも抗議してみるクー=フーリンではあったが……それはあっさりと無視されるのだった。
「あ~もう! ずっけえぞ【G】!」
「早いもの勝ちだ【影技】」
「ちぇ~……面白そうだったのに」
そういって愚痴を言いながら現れたのは─
「久しぶりエレ。……随分女の子らしく、綺麗になったなあ」
「ちょ?! え、えっと……ま、まあな! 流石にあたしも……その、一児の母親になった訳だしよう」
あはは~と頬をかきながら照れるエレ。
以前に比べると、大分体つきが女性らしく柔らかみを帯びている。
そんなエレが俺を見て唐突に溜息を吐き─
「……まあ、それを上いく美人になっているジンだけには言われたくない台詞ではあるんだけどなあ……」
「いや、だから美人ってなんだよ!」
ー『なるほど、納得』ー
「だから何に?!」
エレの声にうんうんと頷く仲間・家族達。
その一体感に得体の知れない悔しさを感じつつ─
「あっはっは、さすがこっちの世界のジンの仲間だねえ、話が分かるじゃないか。あたしはフランシス=ドレイク。どうだい? あたしといっちょ、派手にやらないかい?」
「へえ……おもしれぇ! 子供が出来て以来、キュオとガウに散々とめられてたからなあ。あたいは第59代【修練闘士】・【影技】エレ=バン。あたいの錆び落とし……付き合ってくれるかい?」
「ああ、いいとも! ただし……アタシと勝負し終わったあんたは─」
そういって二丁拳銃を構え、エレに照準を合わせるフランと、重心を低くし、腰を落として戦闘体制に入るエレ。
「──穴だらけになってるかもしれないけどねぇ!」
「ソレが当たればの話だけどな!」
ー銃 弾 雨 林ー
そう言葉が交わされた瞬間、マシンガンの如く掃射されるフランの二丁拳銃。
【魔力】を弾丸として打ち出すマスケット銃は段数制限などなく、無数の弾丸を吐き出して弾幕を作り上げる。
それを一瞬で横に避け、間合いを詰めようとするエレに対し─
「甘いよ! 何もあたしだけが撃つわけじゃないんでねえ!」
「なっ?! お前それずりいぞ?!」
フランの周囲に浮かび上がる銃の数々が、そのエレを捉えんと掃射を始め、エレが慌ててそれを回避する。
「まだまだ! あたしのターンは終わらないよ? 砲撃よーーーーい!」
ー戦 砲 列 挙ー
そう言うと空間が開き、4門の砲台が顔を出す。
「こ、攻城兵器?! う、うっそだろ~?!」
キャー! と涙眼になるエレに対し─
「あっはっは! あんたがこれぐらいでやられるタマじゃない事は聞いてるんだ。遠慮なんて言葉はあたしにはないんだよ! 藻屑と消えなあ!」
ー連 砲 射 撃ー
そういって打ち出される、カルバリン砲の連射がエレのいる場所へと降り注ぎ─
「……ったく、まるで戦争みたいな錆び落としになっちまったなあ。ま……あたしらしいか」
その迫る砲弾の数々に不適に笑うエレ。
ー爆 発 爆 煙ー
そして……着弾と爆発で視界が遮られる。
顔の傷が目の前の爆発で照らされ、その髪が靡いて後ろに流れる中、フランは油断なくエレがいたであろう場所を見続ける。
(手応えはあったんだけどねえ……イヤな感じがまったく消えないよ)
内心の不安を押し殺し、フランは警戒の色を強める。
❛我は無敵也❜
その刹那、燃えさかる爆炎の向こうから響くエレの声。
「ッ?! やっぱりかい!」
ー銃 弾 雨 林ー
大きくしたうちをすると、再びマスケット銃を、見えないながらも爆炎の向こうへと掃射するフラン。
❛我が影技に適う者無し❜
やがて掃射により徐々に煙が晴れ、視界が取れるようになる中─
❛我が一撃は─❜
その向こうから姿を現したエレは、服をぼろぼろにしながらも、その肉体は無駄なく鍛え上げられた鋼のように傷一つなく……その口から紡がれる【武技言語】で全身がはちきれんばかりになっていた。
「!! 効いてないっていうのかい! 第二射─」
フランは驚愕し、顔を恐怖で歪めながらも、空間から第二射目を掃射しようとした瞬間─
❛無敵也❜
エレが……力が弾けるようにフランとの間合いを詰めた。
銃を構えたまま、体が反応できず……視線だけが目の前にきたエレを捉え、理解できないものを見るかのようにその目を見開くフラン。
❛【重爪】❜
「ッうあああ?!」
そして、エレの【重爪】が下から抉りこむように弾け、フランの体を上空へと蹴り上げる。
両手のマスケット銃が砕け散り、体をひしゃげさせながら舞い上がるフラン。
「【クルダ流交殺法】【影技】……【重爪】」
静かに手を上げるエレに、かつての【影技】の姿を見た観客達が一斉に歓声をあげる。
俺は慌ててフランの着地地点へと向かい、受け止める。
「ゴホッ……あ、ああ。悪いね刃。あ~あ、負けちまったかい。ざまあないねえ」
「いや、あのエレによくあそこまで攻められたと思うよ。それに……外見は問題なくても─」
「ああ、久しぶりだったもんだから結構中には来ちまってる。ジンの家族もやるもんだな」
腹をさすりながら苦笑を浮かべ俺の元へとやってきてきたエレ。
ニカっと笑い昔のように俺の頭をぽんぽんと叩くと、フランを受け取り救護所へと連れて行く。
「見事でしたね……私も、負けていられません。せめて一矢報いないと……」
「……ラックは持ってきてないよね?」
「無論です。刃の家族ともなれば……私にも仲間といえる。私の武器では手合わせ向きではないでしょう」
(……確かに。決め技にあわせて発動すれば相手にとっては必殺になりかねないしなあ)
バゼットの正しい判断にそっと胸をなでおろす刃。
「それに……あわよくばここの【クルダ流交殺法】というものを学んでいきたい。ラックだけに頼るわけにもいきませんから」
「あれ? そうだったの?!」
(あ~、ここにも鍛錬不足の弊害が……)
やっぱり一度向こうでもみんなの意思を確認する必要があるなと思いつつ、上座を見上げる。
「いいぜジン。実戦での手ほどきになるけど……構わないんだよな」
「ロウさん! 久しぶり。頼める?」
「ああ、任せろって。……他の人に頼むと……ああなっちまうからなあ……」
「……ああ、うん」
そういって視線を送った先には……治療を受けながらもぐったりとしている家族の姿が!
まあ、主に家族のストレス発散が目的だったからな~……即死しなければ(魂が残っていれば)助けられる訳だし……絶対こっちの世界の人々には話せない内容だったりするけれど。
主に鍛練的な意味で。
「じゃ、悪いけど頼むよロウさん」
「おう! 任せろって!」
ー手 合 鳴 音ー
パチンとハイタッチで刃と挨拶を交わすと、バゼットと向き合うロウ。
「ありがとうございます。私は……バゼット=フラガ=マクレミッツと申します」
「……硬いね~……まあいいか。俺はスクリーヴ=ローエングリン。ロウって呼ばれている。よろしくな」
「ええ、よろしくお願いします」
「あ~……別に粉かけてる訳じゃないからな? あんた……さっきの朱の槍の……クー=フーリンって人が好きなんだろ?」
「………………な、な、なななななななななにを言ってるんですか貴方は?! あ、あんなだらしない人のどこが好きだというのです! 別に私はそのような─」
「あ~、わかったわかった。悪かったよ。 彼の意思を尊重して見守る覚悟とか見ていたら誰にでも丸分かりだとは思うんだけどな……」
(ですよね~……)
あわあわと真っ赤な顔で慌てるバゼットに、まさかここまでとは思っていなかったロウが謝る。
何気にロウの発言に皆頷いたりしていたが。
「と、とにかく! 一手ご教授願います!」
「あ~、なんかごめんな?」
「謝らないでください! ハッ!」
ー剛 打 直 拳ー
ついにごまかしが効かず羞恥に耐えかねてルーン強化された拳が繰り出される。
「──いい拳だ。なんだ、基礎は十分じゃないか」
感心したような声で拳を軽々と避けるロウ。
「くっ! シッ!」
「ん、中々……ま、レッスン1って所か。拳ってのはこう─」
❛【滅刺】❜
ー剛 拳 殴 打ー
再び打ち出された拳に対し、ロウがあわせるようにさらに早い拳を打ち出す。
「ッ!」
自分の拳を弾き飛ばし、目の前に迫るロウの拳を咄嗟に首を捻って避けるバゼット。
後から遅れてやってくる拳風に頬が捩れる。
「そのグローブに何か仕込んでるのか? まあいいけど。 俺達クルダの闘士……特に【クルダ流交殺法】を使う人間は己の肉体を武器にする過程から、自分の肉体を死ぬほど鍛えるところから始めるんだ。それが自然に技の威力の向上にも繋がるしな」
【滅刺】を出した拳を戻し、語り聞かせるようにロウが話しかけ、バゼットは持ち前の生真面目さでその話に聞き入る。
「まあ、俺達【修練闘士】クラスになれば、大岩を片手で持ち上げたり、人の目に映らないレベルでの移動なんてのも可能になるし、そういう技もあるしな。そしてそんな技に耐えうるような肉体を作ることこそが、【修練闘士】に必要な事なんだよ」
軽い拳の応酬を交わしながらそいうロウさん。
一方のバゼットはロウの軽い一撃一撃がかなり危険なものだと悟っているので、避けたり受けたりするのに必死なわけだが……。
「そして、その肉体を作り上げると、拳速で風を切り裂き、鎌鼬を起こす事ができるようになる。これが【クルダ流交殺法】【表技】の基本とも呼ばれる─」
❛【刃拳】❜
ー風 刃 飛 斬ー
そういって放たれた【刃拳】が、バゼットの顔の真横を通りすぎ、その髪を数本切り落として空気中に散らせていく。
「─【刃拳】だ」
「う、ああ……く! ハァァアア!」
ー連 拳 連 打ー
「ん、いい連打だ。もうちょっと威力が欲しいところだけど……【闘士】クラスなら仕方ないか。後は、こういう連打に対応する技として、拳の弾幕を張る技がある。それが─」
「ッ!」
❛【死流怒】❜
「ぁああっ!」
まるでショットガンのような拳の散弾に打ち負け、後ろに吹き飛ばされるバゼット。
「っと、悪い! やりすぎだったか?」
すぐに受身を取って構えなおすバゼットの表情には驚愕が浮かんでおり、【魔力】を使わずしてこれほどの技を刃が軽々と扱っていた事に対して尊敬の念を強める。
「すいません、態々見せていただいて」
「ん? 気にするなって。ジンも……そんなに長くはいられないんだろ? ま、今晩ジンはみんなに絡まれまくるだろうからな。明後日に余裕があればまた手合わせ出来るとおもうぜ。なんぜ、リルベルト様はジンのためなら手段は問わないだろうしな」
覚悟を決めた表情でファイティングポーズをとるバゼットに気にするな、と手を振るロウ。
その顔がリルベルトの名が出た瞬間苦笑に変わるが─
「─見たところ、あんたカウンタータイプだよな? それなら、あんたに相応しい技がある。思いっきり打ち込んで来い……その体にこの技、刻み込んでやる!」
「─感謝します。行きます! はぁあ!」
軽くステップを踏んだ後、踏み込みと同時に体を捻り、十分に体重の乗ったルーン強化の拳が、ロウ目掛けて放たれる。
それをロウは─
❛【((|怖鎖|フェンサー))】❜
「?! ぐっ……!? はぁ……」
その腕を取り、巻き込むように体を回転させ、逆の手の肘をバゼットの腹部へと当てるロウ。
腕をとられているため、逃れることも出来ず肘打ちがバゼットに突き刺さる。
体が弾けぶように吹き飛ばされようとするが、腕を持っているために吹き飛べずにロウの背中に寄りかかるように落下するバゼット。
「……刻んだか? これが【クルダ流交殺法】【表技】【((|怖鎖|フェンサー))】だ。俺達の英雄たる【刀傷】の得意技だって話だぜ?」
「─たし、かに……あり、が……」
そのまま意識を無くすバゼットを背負い、又後でな、と手を上げて運んでいくロウ。
そして、救護所で治療を受け、起きていたクー=フーリンの横へと寝かせ、悪いなと声をかけるクー=フーリンに手を上げながら上座へと帰っていく。
「……バゼットさん、お見事です。……しかし、こちらの技は本当に興味深いですね。刃様、もしよろしければ向こうに戻った際、一手ご指南をいただけませんか?」
俺の傍で影のように付き従うのは……シェリード。
目の前で行われていたバゼットの奮闘に触発されたのか、彼女にしては珍しくテンションが高めだった。
「ん~、折角この世界に来たんだから、こっちんで少し習っていこうか、な? ガウ?」
「うん、僕でよければ。……久しぶりだね刃。 僕も……【修練闘士】になれたよ」
そういって俺達の目の前に舞い降りる、黒い影。
以前よりも立ち振る舞いの洗練されたその姿。
そして─右腕に刻まれた【修練闘士】の【印】。
「……そっか、いずれ至るとは思っていたけど……さすがガウだな」
「ありがと。ま、後の話は祭りの後かな」
「うん、じゃあ……シェリードを頼むよ」
「うん、任せて!」
「よろしくお願いします!」
すっかり【修練闘士】としての貫禄のついたガウが、泰然自若といった構えでシェリードと相対する。
先ほどまでの優しい雰囲気がなりを潜め、唐突に戦士の風貌が現れたガウに警戒を露にしつつ……シェリードは影のように疾走し、影に潜むように揺らめいてガウの背後をとり、その両手のダークの一撃で首を取ろうと─
「……え?」
したのが、唐突にガウの姿が消える。
「昔の僕の動きにそっくりだ。そうだな……昔に戻るのも悪くないか」
「くっ?!」
背後を取ったはずなのに背後を取られたという驚愕の事実に狼狽しつつ、ならば真正面からとその手のダークを振るう。
それを硬質化させた腕で受け、あるいはダークを持つ手に拳を当てて防ぐガウ。
時折フェイントを混ぜて視界から外れようと試みるシェリードではあったが、気配遮断も戦闘体制に入ってしまっては効き目が薄い。
「くっ!」
ー短 投 散 剣ー
焦るかのように後方へと下がると、懐からダークを複数取り出し、ガウへと投げるシェリード。
しかし─
「甘いよ。いつまでも敵がそこにいるとは思わない事」
「え?!」
唐突に背後から聞こえる声に驚愕し、咄嗟に回避行動をとるシェリードだったが─
「うん、いい動きだけど……その動きだと【真闘士】でも捉えられるよ」
「?!?!」
絶えず後ろから聞こえるガウの声。
それは姿が見えず、まるで音だけが迫ってくる、黒い影がべったりと張り付いているようで─
「はっ!」
焦ったように背後へと霊体化させてあった腕を振るうも、それをあっさりと交わされ、そして……何かが唸るような音と共に再びガウの姿が消えていく。
「ば、馬鹿な?! 元とはいえ【英霊】だった私が捉えきれないだなんて?!」
「──これが僕の【字名】。その名を─」
❛【黒い咆哮】❜
「ガッ」
音を引きつれ、黒い影がシェリードの後頭部を打ちつける。
その衝撃に脳を揺らされ、昏倒してしまうシェリード。
「っとと、サンキューなガウ。向こうでは最近忙しすぎて、こういうのの相手が出来なかったんだよ」
「ん、いいよ気にしなくても。っと、運び方は慎重にしないと……キュオに怒られる……」
「あっはは、ガウも奥さんには勝てないか」
「ッ……うう、そうなんだよ~ジン~」
「その辺の話も、祭りが終わったら聞かせてもらうぞ?」
「うん、又後でね!」
キュオの話が出た途端、暗い表情になるガウに苦笑を漏らしつつ……ガウが背負ってシェリードを救護所まで運んでいくのを見届ける。
「あれがこの世界での刃の親友……見事なものだ……さて、私の相手をしてくれる猛者は何処か?」
それを同じく見送りながら、その手の二槍を構え、上座を見据えるディル。
これまでの激戦を見て高ぶっているのか、その顔には好戦的な笑みが浮かぶ。
「しかしディル、純粋な武力でのぶつかり合いを考えると……ディルの【宝具】はあんまり意味がないけど─」
「確かに……しかし……それでこそ、挑む価値もあろうというもの」
俺の言葉にディルが真剣な表情で頷くものの、今まで闘いで既に火がついているのか、引くそぶりは見せない。
そして、そんな俺達の前に現れたのは─
「──なるほど。相変わらずジンの周りには、気持ちのいい人たちが集まるね」
「!! ……まいったな、まさかカイさんが出てくるとは……」
「何、最近回りの国の農政指導しか行っていなくてね。ちょっと運動不足なんだ。今日は……【紅】・カイ=シンクとしてお相手させてもらうよ」
長い髪を纏め上げ、ポニーテールを作り上げるカイ。
その手にバタフライナイフのような短刀を手にし、ゆっくりとディルの前に立つ。
「……気をつけろよディル。あの人は……【刀傷】と同レベルの実力者だぞ?」
「なっ……! なるほど、そうでしたか。失礼しました、私はディルムッド=オディナ。この二槍にてお相手させていただきます」
俺の言葉に驚愕を浮かべた後、その顔を引き締めてカイと対峙するディル。
俺が離れていくのと同時に─
「はっ!」
ー連 槍 交 差ー
紅と黄の槍が交互に、連続でカイを貫かんと襲いかかる。
カイはそれをあのナイフで華麗に切っ先を逸らすことで受け流し、また間合いを詰めて切り裂くような斬撃を放ってくる。
それを石突で受け止め、槍を回転させながら突き上げるものの、それはあっさりと避けられて間合いを犯されていくディル。
二槍で渡り合うのは不利と、紅槍一本に絞り黄槍を地面に放りなげ、再び刺突を繰り出すディル。
先ほどよりも力の篭った刺突を見て、笑みを深くするカイ。
「せい!」
ー全 力 刺 突ー
起死回生を狙うかのように、渾身の刺突がカイを狙うが、それを右手一本で捌き、間合いを放すカイが─
「いくぞ、ディルムッド殿!」
❛【青龍】❜
ー直 列 連 剣ー
【クルダ流交殺法】【剣技】の【青龍】を、ディルに放ってみせる。
闘気で分裂したカイの短剣が最初の短剣の後ろに隠されるように一列にならび、ディルへと迫り─
「くっ!? 何?!」
最初の一撃を弾いた瞬間、目の前に迫る次の短剣。
槍を回転させて次々と迫る短剣を払うディルではあったが─
「くぁ?! くっ!」
紅槍が弾かれ、空中に舞い……ディルは咄嗟に追撃を避けるために地面に転がって軸をずらす。
しかし─
❛【鳳凰】❜
ー散 弾 連 剣ー
そのディルに追い討ちをかけるように、カイが短剣の弾幕たる【鳳凰】をディルに解き放つ。
「う、うおおおおお!」
目の前の迫る短剣の弾幕に、腰に刺してあった双剣……【大いなる激情】と【小なる激情】を抜き放つディル。
「はぁ!」
双剣が閃き、短剣の弾幕を叩き落とし、捌くディルではったが……あまりの数に体を掠り、傷だらけになっていく。
しかし─
(……おかしい、カイさんなら【クルダ流交殺法】を使って一気に勝負を決めることも可能なはずなのに……わざわざ【剣技】だけで戦っている? 一体─)
そう、ディルが弱い訳ではなく、カイさんが強すぎるだけなのではあるが……仮にではあるがカイさんが本気で【クルダ流交殺法】を使えば、ディルはカイさんの【字名】の由来通り、【紅】に染まるだろう、彼自身の血で。
しかし、まるで何かを待つように、またディルのストレス発散に付き合うかのように闘い続けてくれているのだ。
当然、ディルはこの不利な状況下でも、自らの力を推し量る闘いとして笑みを浮かべ、短剣の波を受け続けている訳だが。
「──双剣も扱えるだなんて芸達者だね。さぞや激戦の中を通り抜けてきたのだろうな……」
「何、カイ殿ほどではありませんよ。これほどの御技を扱い、それでも尚顔色一つ変えないとは……本当に恐れ入る」
ふと短剣を構える手を下ろし、素直にディルを賞賛するカイさんと、その言葉にまんざらでもない表情をしつつもカイさんに敬意を払うディル。
「……ふふ、やっぱり来たね。さて、ディルムッド殿。そろそろ決着といこうか」
「承知! 我が友、刃よ! 我が闘い……ご照覧あれ!」
そういうと【小なる激情】を腰に戻し、足元に落ちていた【破魔の紅薔薇】を脚で持ち上げ、手で掴む。
【破魔の紅薔薇】と【大いなる激情】を構えるという……刃的にも初めて見る、槍と剣の二刀流。
「……なるほど、闘いの間合いを制するために、槍の間合いと剣の間合いで中・近を埋めるという変則型なんだね。面白い……!」
「参る! はぁああ!」
ー槍 剣 乱 舞ー
カイへと裂帛の気合を込めて【破魔の紅薔薇】を繰り出し、カイがそれを短剣で受けると、さらに一歩踏み込んで【大いなる激情】を振り下ろす。
どちらも業物という事で、先ほどから一撃も食らわず短剣で受け流し続けるカイ。
その武器の発する波動に目を細めながらも、その間合いを調節しながら自分の間合いへと移っていく。
「──【紅】の名の由来……見せるとしよう……!」
「!!」
そう宣告すると、ディルの両手が跳ね上がり、武器が空中に飛ばされる。
驚愕するディルの目の前で、カイの構える短剣が舞い踊るようにカイの周りを周回する。
❛【クルダ流交殺法】【剣技】❜
まさに剣の嵐とも呼べるようなその短剣の舞いの中へと、ディルが巻き込まれ─
❛【羅刹の章】【死殺技】❜
「ぐ、おおおおおおお?!」
唐突にその短剣の嵐が広がり、ディルを包み込むと同時に……カイさんの姿が消え─
❛【紅朱雀】❜
「───っ」
カイさんが短剣を構え、ディルを置いてすれ違うようにその背後へと立つ。
ディルが二歩、散歩と歩を進めた瞬間─
ー血 霧 散 噴ー
その瞬間、ディルの体中から噴出す血が、ディルを赤く染め上げていく。
「うおおおおおい?! カイさん! やりすぎいいいいい!」
「あはは、大丈夫だよジン。実際は皮一枚で、彼が昏倒したのは私の拳の一撃だから」
「いや、子供いるからね?! あまりにも残酷なのはアウトでしょ!!」
「いやあ、そっちはさすがに彼に隠してもらっているから大丈夫だよ」
「─彼?」
そういって倒れるディルを支え、肩に担ぐカイさんの前で─
「──まったく、思慮深い貴方らしくないですね? カイ」
「本当だよ。いずれこの子達も【闘士】になるだろうけど、今はまだ見せるのが早いよ?」
唐突に姿を現したのは─
「……【闇】、【月影】!」
「久しぶりですね、我が友」
「久しぶり、帰ってくるって信じていたよ、僕の友達」
この世界にあって人外、そして神と称された二人。
俺にその恐怖と力を持って、更なる道を示した二人が姿を現したのだ。
彼等が闇と時間制御を使い、子供たちの目をくらませ、今のシーンを見せないようにしてくれていたらしい。
ほっと一安心しつつ、二人との再開を素直に喜ぶ刃。
そんな二人に目礼をしながら救護所へとディルを運んでいくカイを見送りながら、二人に向かって挨拶と礼をいう刃。
そして会場が今まで消えていた二人が現れたことにより再び騒然となる。
「あえて嬉しいけど……こういう見世物みたいな場に君たちが現れるだなんて珍しいね?」
「ええ。我々も後で貴方に会いにいく事だけを考えていたのですが……」
「うん、でも……僕達と同種の気配を感じてね。ちょっと顔を見たかったんだよ。ね?」
そういって二人が顔を向けるのは─
「ほう……世界を平然と渡るか。面白いのう?」
「ねえ、小さな君は……私と同じなのかしら?」
そういって二人が顔を向けた先にいたのは……【魔法使い】ゼル爺と青姉の二人だった。
おらわくわくしてきたぞ的な猛禽な顔で笑うゼルレッチにゆっくりと対峙する、盲目の剣士【闇】。
「ええ、御老体。貴方も人外のようですが─」
一瞬【月影】に顔を向けた後、宝石剣を構えるゼルレッチにゆっくりと仕込み杖を引きぬく【闇】が─
「貴方は、感じた事がありますか? 本物の─」
❛恐怖というものを❜
ー暗 黒 招 来ー
その言葉を口にする。
そして─漆黒が、闇が、原初の恐怖が舞い降りる。
金の髪は漆黒へと染まり、空間が闇に飲み込まれる。
「ぬう……?!」
あのゼル爺が額に冷や汗を浮かべるほどの……圧倒的恐怖が、威圧感が、場を席巻する。
「ちょ、ちょっと……貴方のお友達もちょっちしゃれになってないわね?!」
「あはは、だから僕達が周囲の時を止めたんじゃないか。彼は普通の人間が直視するには……少々強すぎる」
かつての魔導機神としての姿ではなく、小さな忍者のような格好で現れた【月影】は、悪戯っぽく青子に笑いかける。
そして世界は灰色の世界となり、刃とヤイバ、【闇】とゼルレッチ、【月影】と青子、そしてリルベルトとカイ以外の人々がその灰色に飲みこまれていた。
「【遅延】と【加速】、【停止】は出来るけど……【逆行】と【跳躍】は君自身の世界じゃないから無理そうだね。まあ……それは抜きで楽しもうよ♪」
「ッ……簡単に言ってくれるわね……!」
こうして……人外と呼ばれる存在と、【魔法使い】と呼ばれる存在の一戦が……幕をあける。
「ぬうあ!」
「ほう……動けますか。流石ですね」
一瞬で間合いをつめ、仕込み杖が閃くものの、それを避けてその拳を振るうゼルレッチ。
忘れがちではあるが、ゼルレッチ自身が死徒であり、その怪力は凡庸な戦士たちと一線を画す。
半ば強引に【闇】との間合いを離すと─
「お主達が転移してくれたおかげで少しだけ【孔】をあけることができたわい。そら……これがワシの攻撃じゃよ!」
ー宝 剣 斬 撃ー
「…………なるほど、面白い力ですね」
❛【剣風刃】❜
【闇】と【月影】が転移してきた綻びから、力を引っ張ることに成功したゼルレッチが宝石剣をふるって大斬撃を放ち、【闇】がそれに感心したように言葉を漏らしながら【剣風刃】で迎撃する。
力と力のぶつかり合いが余波を含んでぶつかり合い、相殺する中……ゼルレッチは今まで見せたことのなかった格闘戦と宝石剣を織り交ぜた動きを見せる。
「ふはははは! これもまた面白いもんじゃのう。永人の動きを見ていてよかったわい!」
「ふふふ、お互い久しぶりの格闘戦ですね? 存分に闘りあうとしましょう」
拳を振るい、蹴りを放ち、斬撃が飛び交う。
それを仕込み杖で受け、流し、斬撃を切り捨てる。
互いに人外、遠慮なし。
怒涛の乱戦が展開されていた。
対する【闇】もまた、過去に【修練闘士】や俺とやり合って以来、この世界から姿を消していた事もあって、懐かしさを滲ませるような表情でこの闘いを楽しんでいた。
【黒眼】でゼルレッチの動きを的確に捉えながらも、その豪腕と速さでごり押ししてくるその動きに感嘆しつつ─
「ぬうん!」
「はっ!」
❝【宝石剣】❞
❛【闇刃閃刀】❜
宝石剣が煌き、仕込み杖が闇をまとって黒色の剣閃を放つ。
黒き剣閃が宝石剣の一撃とぶつかりあうと弾け、それが無数の闇の剣となってゼルレッチに包み込むように襲い掛る。
「なんの!」
「やりますね」
それを球状に展開した宝石剣の一撃で切り捨てると、一端間合いを開ける二人。
「ふうむ、これぐらいにしておくかのお? やりすぎると刃に何を言われるかわかったもんじゃないわい」
「ふふ、確かに。では─」
ー闇 潜 変 化ー
そう言い放ち、自らの姿を元へと戻す【闇】。
「どうです? 向こうでのお話を一献やりながら聞かせてもらうというのは」
「ほう! お主もいける口かのお? はっはっはっは! 孫自慢なら腐るほどあるぞ!」
「うぉぉぉおおおい、何話す気だよ!」
唐突に楽しげな雰囲気をかもし出す二人に思わず突っ込みをいれながらも─
「へえ、ジンが飛んでいった世界の人も中々すごいもんなんだね」
「あ~、もう! すばしっこいったら!」
ー青 光 連 閃ー
青子から放たれる砲撃の青い閃光が走り、【月影】を捉えようとするももの……それを緩急をつけて余裕を持って避け続ける【月影】。
事、時間干渉系の能力者同士の戦いというのは、その時間制御の奪い合いである。
互いの能力を知るが故に相手の次の手が分かり、【加速】には【遅延】を、【停止】には【停止】をぶつけ相殺するのだ。
この制御を誤ったほうが時間制御の手綱を一方的に握ることが出来るようになるのだ。
それ故、ただの攻防に見えてもその実、裏側では凄まじい術式の攻防が発生していたのだ。
型月世界であれば、さらに魔術式の大攻防が発生するのではあろうが……さすがにこちらではこれが限界なのだろう。
【月影】に翻弄され、珍しく無駄弾が多い青子が焦れたように魔術を走らせる。
「なめるんじゃないわよ……! 一発を大きいのを─」
「へえ、楽しみだ。当てられるかな?」
【魔力】を集約させる青子と、それを見て楽しそうに微笑む【月影】。そして今まさにぶつかろうとした瞬間─
「ストップ! ストーーーーップ! 広場ぼっこぼこになってるから!」
さすがに刃がその攻防を止める。
【月影】が避け、着弾した部分が抉れ、広場がぼろぼろになっていたからだ。
ー『あっ……』ー
「あ、じゃないよまったく!」
自分が旅立ち、みんなが【女神の旅立ち】と名付けてくれたこの場がボロボロになるのは避けたい為、どうにか修復術式をかけて地面をならしていく。
「あ~、ごめんね~刃」
「あはは、やりすぎちゃったね。ジンがいるからついついはりきっちゃったよ」
修復が終わった所で【停止】を解き、再び色彩と喝采の響くようになる広場。
ゼルレッチと【闇】、青子と【月影】が離脱する中─
「───!!」
ー黒 蒼 飛 撃ー
唐突に飛来した黒い翼を迎撃する蒼の翼。
「──ふふ、よかった。ある程度は使いこなしているようだね」
「ええ、貴方のおかげですよディアス=ラグ。改めまして始めまして、ヤイバ=ソウエンと申します。ジンの……影とでも言えばいいのでしょうか。まあ後で説明しますが」
真正面から激突し、互いの手に戻る翼。
それは、【黒い翼】と【蒼嵐】。
影技世界において屈指の武器職人でもある、ディアス本人が己が魂をかけて作りあげた最高傑作、二対の翼である。
兄弟武器として、世界を渡る際にディアスから託されたその翼は、再びこの世界で風を受け、風を切り裂き空を舞う。
「どうだい? 一つ……同じ翼を持つもの同士」
「ええ、そうですね。先輩たる貴方に一手ご指導いただきましょうか」
あまり戦えていないのか、珍しくディアスさんが好戦的なまま、挨拶もそこそこに臨戦態勢に入り、俺が止める間もなく─
一歩を踏み出したと思った瞬間、二人の姿が唐突に消える。
そして─
ー瞬 撃 交 差ー
大地で、空中で、一瞬の交差の中……黒と蒼が火花を散らす。
交差し、大地に立ったディアスとヤイバ。
背を見せ合う形になった二人が─
「─やるね、久しぶりに……全力で飛ばせそうだ」
「受けましょう。私が出来ることは刃にも出来ることです。私の動きで……刃を推し量るのもいいでしょう」
「……ふふ、そうか。刃も蒼い翼を……使っていてくれたんだね」
背を向け合う二人の顔が緩み、微笑みを浮かべる。
一瞬の静寂。
そして─
❛【八葉】❜
振り向き様に二人の両手が交差し、蒼と黒の翼が二枚、四枚、八枚とその数を増す。
手から羽ばたく翼が弧を描いて空中を舞う中─
「はっ!」
「やあ!」
その舞い散る翼を手に取り、翼同士激突する。
まるで二人を包囲するように、そして互いを模倣するように動くその翼は、その翼がぶつかるたびに持ち主の下へと帰っていく。
そして、持ち主に戻った瞬間に投擲され、再び舞い上がる翼。
やがて、翼同士がぶつかり合い、地面に突き刺さり─
「……さすがジンと同等と言うだけの事はある」
「そちらこそ。流石は【黒い翼】。見事なものです」
最後の一枚をもって互いの喉元に当てる二人。
ゆっくりと互いの翼を集め、一枚の翼へと戻すと、刃の元へと歩き出す二人。
互いの力量を試したようなそんな二人の戦いは、ひどく幻想的でもあった。
「久しぶり、ディアスさん。いきなりでびっくりしたよ?」
「はは、すまないなジン。俺の託した翼を持っていると思ったら……いてもたってもいられなくなってね」
そういって少し恥ずかしそうに笑うディアス。
そんな珍しいディアスさんの新しい面を見て微笑んだ瞬間─
ー剛 拳 殴 打ー
「…………英雄なんですからもうちょっと落ち着きましょうよ……娘さんにダメなお父さんって思われますよ?」
「な?! い、痛いところつくな弟弟子よ! 大丈夫! 我が愛しい娘はそんな事言わないから!」
後ろから後頭部を貫こうとする拳の一撃を顔を逸らして避け、右手で受け止める刃。
「まあ、いっちょやろうやジン? こちとら……お前に技を伝授しただけでやりあった事はないからな。……成長したお前の力……俺に、【刀傷】に……見せてみろ! 【|蒼髪の女神《ブルー・ディーヴァ》】!」
「…………分かっててその名で呼ぶなやーーーー!」
「おっとぉ?!」
ー剛 拳 交 差ー
きりっとした顔を作り、俺に挑戦する言葉を投げかけるヴァイではあったが……最後の最後でニヤリと口元を歪ませてそういった瞬間、ブチンという音と共にジンが振り向き様に拳を繰り出す。
「あっはっはー! 否定してくれなかったからこんな祭りになるまでひろまったったじゃないか! どうしてくれるんだこんちくしょー!」
「ちょ、あれ?! ジン、落ち着けって! まじ? まじなの?!」
「あ、そっか。うんうん……ヴァイさんならマジでやっても……大丈夫だよネ?」
「え゛?」
にっこりと笑った顔で【気力】を全開にする刃。
❝我が心に刃在り❞
ー闘 気 放 出ー
その圧倒的な【気力】が結界を震わせ、会場にいる人々が息を飲んで見守る中─
「あっはっは~! いっくぞ~ヴァイさん~!」
「お、おいおいィィィイイ?! な、何それ?! すでに結界ぶっ飛びそうなんだけど?! ぎゃああああ!」
……そして……青子以上の破壊力を持って暴れまわった刃と、応戦やむなしで戦ったヴァイのせいで広場はクレーターまみれになり……リルベルトの一喝で止められるという結果に終わる事となり……刃とヴァイがリルベルトにお説教されるという事に……。
しかしながら、暴走した結果ではあったもののあの英雄【刀傷】と互角を張り合うだなんてさすがは【蒼髪の女神】だとその名がますます上がる事になり─
「さあ! 今日は……我等が英雄【蒼髪の女神】が! あの日……この世界から別れを告げた【聖国の剣】ジン=ソウエンが帰還した記念すべき日、そして彼の誕生日! 今宵は国庫を開放し、盛大に! 存分に英気を養い! 彼の帰還を共に祝いましょう! これはあの日以来続くジンとの約束。その思いが結ぶ日なのですから!」
ー歓 喜 歓 声ー
顔見世は終わったとの事でリルベルト様が挨拶に立ち、その言葉に会場全域の気勢が上がり、地面が轟き空気が震えるほどの大歓声が沸き起こる。
グラスを次々と手渡され、リルベルト様が一歩下がって刃に前を譲る。
驚く刃ではあったが、微笑むリルベルト様とギネビィアに進められ、上座中央へと脚を向ける。
「あ~、えっと……」
前に出た刃が語りだすと同時にしんと静まりかえる会場。
この会場の様子がひどくあの日旅立ったときとひどく重なり、刃の心に去来する思い。
顔を俯かせ、ぐっと唇を噛む刃を見つめ……目を伏せる仲間や家族達。
「……一時的な帰還で、また向こうに帰らないといけないんだけど……また皆に合えたことが嬉しい。みんな─」
自分の思いを言葉に乗せ、胸を張り堂々と顔をあげる。
グラスを掲げ、その顔には微笑みを。
「─ただいま。そして、祝ってくれて……ありがとう。乾杯!」
ー『ッ…………乾杯!!!』ー
その微笑に見とれ、一泊おいて乾杯を復唱する会場。
ー拍 手 喝 采ー
再び会場が割れんばかりの拍手と共に盛り上がりを見せる。
いよいよをもって立食会へと突入する会場は、例年よりもはるかに盛り上がり、国庫を開放するといった偽りなしで酒が樽で運ばれ、料理がテーブルを彩る。
早速とばかりに、俺が作っていたスイーツを模したというテーブルへと群がる女性陣。
味を見て、おいしければ盗もうとする士郎兄と、腹いっぱい食べたいと食事に向かう男性陣。
そんな会場で、刃は自分に祝いの言葉をかけてくれる人々に笑顔で答え、魅了し、卒倒させながらも上座から─
「……おかえり、ジン」
「……ただいま、フォウリィーさん」
ー柔 軟 抱 擁ー
昔は胸に顔をうずめていた自分ではあったが、今では逆に胸を貸せる状態になった事を誇らしく思いつつも、フォウリィーさんとの抱擁を交わす。
「また……その、なんですか……随分と美しくなりましたね? ジン君」
「そうだね……本当に【蒼髪の女神】だよ」
「うん……きれーなおねーちゃん……」
「ぐふう……」
そんな俺に笑いかけながら、見事にトドメまでを突き刺すオキト家の皆さん。
そんな中、先ほどまで寝ていた……フォウリィーさんとポレロさんの愛の結晶たる……見た目がポレロさんで髪が黒髪のほんわりとした雰囲気の男の子に対し、ジンは自己紹介をする。
「初めまして、だね。俺はジン=ソウエン。君のお名前は?」
「えっと、ラウド=W=ブラズマダイザー、です!」
「お、ちゃんと自己紹介できたね。偉いぞ?」
頭をそっと撫でてあげると、ん~といった感じで目を細めるラウド君。
「あ~、ラウドずる~い!」
「おれも~おれも~!」
「あたしも~!」
「ぼくも~!」
そんな仲間の再開を祝っている間にも、ジンに飛びついてくる子供達。
「ん、元気いいね。すごいいい事だよ。俺はジン=ソウエン。みんなのお名前は?」
「えと、えっと、はじめまして! フィニー=ラルカンスです!」
「おれはディーファ=ロー。よろしくね! ジンねーちゃん!」
「あたしはリキナ=ガウ!」
「ぼくはレゾア=ガウ!」
水色の髪をアップにした、おでこが見える女の子。
すいません、ジン殿と苦笑を浮かべて謝ってくるジリーとフィリスの子供、フィニーちゃん。
前にも書いたが、褐色の元気のいい金髪の女の子で、ヴァイさんとフォルスさんの子供であるディーファちゃん。
黒髪にメッシュで金とオレンジの混じった髪の、褐色で勝気な顔をした女の子リキナちゃん。
少し大人しめの男の子で、褐色の肌に茶色と黒の髪を持つレゾア君。
「あ~、悪いな、うちのお姫様が迷惑かけて」
「すまないジン」
「も~、おれはお父さんとお母さんみたいな闘士になるんだから、お姫様なんかじゃないぞ!」
ヴァイさんとフォルスさんが娘さんを迎えに着ながらも、一般の人々の干渉を極力なくそうと俺の両サイドに立ちつつ、ディーファちゃんの頭を撫でる。
「あはは、あたしが育てるとどうにも……あたしの性格が移っちまってな……この子があたしとガウの子供……リキナだ」
「こっちが私とガウ君の子供のレゾアです」
子5人とその親たちが集まり、和気藹々とした雰囲気が流れる中。
「あ~っとそうだ。なあジン、悪いんだけどさ、お前……【祝福】って出来るか?」
「ん? それはどういうの?」
「えっとな。お前が去ってからこの国ではリルベルト様が蒼髪の子供のおでこにキスをして祝福を授けるっていう事をやってるんだが。俺達の子供は蒼髪じゃないしな。そこで……【蒼髪の女神】と呼ばれるお前の祝福なら後利益ありそだなっておもってな」
「……あのねえ。俺はあくまで人なんだけど……しかもまた女神って! ……まあ減るものでもないからいいけどさあ……」
ひどく微妙な顔になりながらも、まあ、子供達のためと思えばと頷くと、それなら早速とばかりにヴァイが子供達に声をかける。
「おーし、ガキ共! 一列にならべ~!」
ー『はーい!』ー
元気よく笑顔で並ぶ子供達に嬉しくなり、俺は心から……この子達が壮健に育つようにと願いをかけて─
ー『ふあ~……』ー
次々と額にキスを落としていった。
真っ赤になって目を回す子供達に苦笑しながらも、ヴァイ達がお礼を言って自分の子供を抱きかかえる。
「……また、大胆な事をしましたねジン……。貴方の加護とか……どれだけ強力なものだと思っているのですか?」
「ん? 何いってるんだよヤイバ。人の加護なんてたかが知れてるだろ? まあ、元気に育ってくれればそれでいいさ」
「……わかってない。この人ぜんっぜんわかってませんよ……」
ー『うんうん』ー
「だから何が?!」
やれやれと肩をすくめ、ジンのした行動に苦笑するヤイバが、溜息と共にわかってないと口にし、なぜか両世界の仲間達が同意の意を示す。
……まったくの余談ではあるが……この祝福によってかどうかは分からないものの……蒼髪の巫女と呼ばれるサフィもまた加護を強請り、頑張ったからという理由でこの額への口付けを貰い……この6人がこの世界をひっぱっていく代表になる事となる。
やがて、刃を肴にしたこの酒宴は夕方近くまで続き─
「皆さん、今夜は王宮に泊まっていってください」
というリルベルト様の言葉によって、大部屋が開放されることになった。
酔いつぶれた人々を介抱する係員達が後片付けをする中、俺達は酔いつぶれてしまった家族達を運びながら王宮へと向かい、大人組みは飲みなおしとこちらと向こうの魔導・魔術理論を語り明かす酒宴へ。
士郎兄なんかもガウやロウさんと技について語り合ったり、【英霊】勢もまた戦った相手との健闘をたたえあったり、技の教えを受けたりしていた。
……その際、刃が技を教えていなかった事に対して不思議がられていたりしたが……まあ、刃自身が忙しかったという事と、秘伝を早々教えていいものか迷っていたという事もあったと口にすると─
ー『俺(私)達が認めたジンが、認めたものなら構わない(いません)』ー
と、ひどく信頼された言葉をかけられ、不覚にも涙を流してしまったのはきっちりHG録画されていたという落ちがついていた。
実に切嗣はいい仕事をしているといえる。
こうして打ち解けた両世界の仲間達は、先ほどの影技勢の言葉に多いに関心を示したことによって型月勢からも技術が掲示され、それを元に新しい呪符や技術が構築されていく事となった。
そんな中でも─
「ティタ~♪ 久しぶりだね~!」
「ええ、本当に……本当に久しぶりですね、リナ、ギアン」
「ええ。……それにしても見違えたわねティタ。魔導回路がまるで見えないとか……これもジンの技術?」
「はいギアン。 おかげで……こうして肌をさらす事に抵抗がなくなりました」
「……後でジンに習わないと……」
リナのために、と決意を新たにするギアンと─
「─まあ、そのなんだ……そろそろいいかとは思うのだが─」
「まあ……いえ、確かにそうね。そろそろ食べごろといえるかもしれないわ。ねえ? ギネビィア」
「ええ、そうですね……ふふ、そうですね! この機会が二度あるかはわかりませんし……」
「─まあ、刃の場合は……存在そのものが大きくなりすぎたからな。そのおかげで向こうの世界では少々肩身の狭い思いをしているようだ─」
「まあ! ……そんな世界死ねばいいのに……」
「黒?! 黒すぎです、リルベルト様! お気を確かに?!」
「あ、あらまあ! ごめんなさいね? オホホホ」
朱皇がリルベルト様・ギネビィアと酒を飲み交わしながら、なにやら如何わしい会話を続けている中……まさかの発言に思わずギネビィアさんがキャラ崩壊のつっこみをいれるという事態に。
話す話題は尽きないものの、時間はゆっくりと過ぎていって─
「それならば、向こうの世界での刃の活躍をダイジェストでお見せしましょう」
ー『おおーーー?!』ー
「ちょ?! ま、またかヤイバァアアア!」
「はいキャッチ。逃さないにゃよ~ジン♪」
「マスターの膝の上ゲット!」
「?!」
「んもう! ご主人様?! 玉藻は今日ひっじょ~うに頑張りましたよね?! だから~あ、ご褒美がほしいな~、なんちゃって☆」
「うむ、奏者よ! 勝てはしなかったが奏者はもっと余を褒めてもいいと思うのだ! 故に存分に愛でてくれ!」
ー『そうだそうだ~!』ー
「な、何ごとおお?!」
そんな家族とカイラの暴走によって、映像の阻止も出来ず……赤裸々に明かされる俺の型月世界での映像。
涙あり、笑いあり、戦いありのムービーが流れる中─
ー『……やっぱりジンだな』ー
ー『ですよね~』ー
「だから何が?!」
という結論に至っていた。
やがて、子供が眠りについた家族連れ達が部屋を用意してもらい、眠りにつく為に挨拶を交わして去っていく。
そして、明日もあるのだからという話になり、切嗣達、士郎・凛が部屋を貰って眠る際─
「イリヤ、グッドラック!」
「きっちりキメルのよ? セラ、リズもね!」
「わかっているな? チャンスは生かすものだ!」
きりりとしたいい顔でイリヤに親指を立てる切嗣と、うお~とらしからぬ気合を入れさせるアイリ。
イリヤの両肩を掴んで諭して聞かせる舞弥。
「……いい? 桜。ここは異世界なの。わかる? 今こそ開放された気分ですべてをさらけ出すべきなのよ!」
「おい凛! い、一体何を?!」
「士郎はだまってて! ……決めて見せなさい、桜!」
「ね、姉さん……はい!」
「…………何それ怖い……」
切嗣や凛さんの会話を聞いてドン引きの刃。
警鐘を鳴らす自分の感を信じ、男達が引き上げだーといって部屋に戻ろうとするのについていこうとすると─
「…………許せ、ジン! 俺はまだ……死ねん!」
「悪いジン! そこらへんに屍をさらされたくないんだ!」
「は~っはっは! 刃よ、甲斐性の見せ時じゃぞ? ……ひ孫、楽しみにしとるからのう!」
「若い……若いのう! いや、ゼルレッチ殿、今宵は飲み明かしましょうぞ!」
「うむうむ、あとは若いものたちに任せるのがよいでしょうな!」
「同じ名前ながら……ここまでいくと不憫でしかならん。 生きろ、ジンよ!」
そんなカインやロウの言葉で拒絶され、いい笑顔で手を振るお爺ちゃん連中によって扉を閉められ─
「にゅっふっふ~♪ さて……リルベルト様のご意向でこの部屋は女子部屋~という事になっている訳だけど……ねえ? ジン。カイラお姉ちゃんとの10年前の約束覚えてるかにゃ~?」
「え?! あれマジだったの?!」
にやにやしたカイラが、手をわきわきさせながら目を怪しく輝かせる。
「ほう……カイラ殿、その約束とは一体?」
「にゅっふっふ~、聞きたい? 聞きたい?」
ー『聞きたいです!』ー
「まてええええええ?!」
いつのまには女性陣の中に一人取り残されていた刃。
逃走しようにも、扉を見ると……なんと施錠の上に【静穏】の結界着き。
こうなったら全力全壊で逃げるっきゃね~と計画した瞬間─
「ふっふっふ、私がいるのに……逃げられるわけ、ありませんよね?」
「は、謀ったなヤイバああああ?!」
妖艶な微笑みで能力を封じ、体を掴むヤイバ。
「にゅふ~、まあ出会った頃から食べちゃいたいくらい可愛かったジンだけど……さすがに当時6歳でとてもじゃないけど手を出す気にはなれなくてにゃ~。食べごろに成長したら……いただくって約束をしたんだにゃ♪」
ー『キャー♪』ー
「な、なんてうらやまけしからん! この猫娘あなどれね~です!」
「くっ……やるなカイラ殿!」
戦慄する玉藻と、なぜかダメージを受けているネロ。
「は、はわ、はわわ!」
「サクラ? 女は度胸よ!」
「え、えっとイリヤ様、さすがにこの人数では……」
「大丈夫。刃ならできる」
真っ赤になる桜と、なぜか威風堂々としているイリヤ。
ひどく遠慮がちに、それなのにちらちらと刃を見るセラと、なにやらわけのわからない信頼をおいているリズ。
「あっはっはっは! すごいじゃないか刃! まさかチェリー卒業がこんな人数だなんてねえ! さあ……楽しませておくれよ? マスター♪」
「……僭越ながら……お相手させていただきます!」
何気にやる気満々のフラン・シェリード。
……特にシェリードはストッパーになってくれると思っていただけに戦慄を禁じえない刃。
「あらあら、無理矢理はいけませんよ♪」
「大丈夫ですよリルベルト様。ジンならみんなを愛してくれます」
「─ふふ、男冥利につきるな? ジンよ─」
「……すいません、刃! わ、私もチャンスを逃すわけにはいかないんです!」
「うわあ、うわあ……大人の世界だね~ティタ!」
何気にまざっている最高権力者のリルベルト様とギネビィア、そしていい笑顔を浮かべる朱皇と、もうし訳なさそうにしながらも真っ赤な顔のティタとリナ。
「……わあお、さすがの状況にお姉さんびっくりだわ」
「……そのわりにはきちんと参加しているのだな?」
呆れ顔でありながら、部屋を出て行こうとしない青子と、そんな青子を見ながらも同じく部屋を出る気がない橙子。
「う、うう~! は、初めては二人きりで、いい雰囲気の中でってきめてたのにい」
ー『…………何この子可愛い……』ー
もはや涙目の刃。
肉食獣の雌の中に投げ入れられた一頭の雄……まあ見た目には全員雌にしか見えないわけだが……。
その中でも一番美しい花にしか見えない刃に、女性陣は身もだえをする。
「ふっふっふ~、心配ないにゃ~♪ さすがに刃もこの人数を一気になんてのは無理だと思ってたから……きっちり個室を用意してあるにゃよ。……リルベルト様が」
「王女あんた何やってんのおおお?!」
「あら……昨今の少子化対策ですわ! あと欲望」
「だだ漏れです、リルベルト様」
「あら? いけないわ。酔っているせいね」
にっこにこした顔で非常に危険な言葉を放つリルベルト様。
「でわでわ……トップバッター、カイラ=ル=ルカ! いっきま~す!」
「い、いやあああああああああああああああああ?!」
ー扉 閉 個 室ー
動けないまま肩に担がれ、個室へとインしていくカイラと刃。
『でわでわ……いただきます♪』
『ちょ!? ま! あ、アーーーーーー!』
……ここから先はご想像にお任せしよう。
ただ……約束は果たされた、とだけお伝えしておく。
こうして朝を向かえ……服を着せられて部屋の隅でさめざめと泣く刃を男性陣が慰め……ある条件によって動けない女性陣が昨日の出来事について語り合う中─
「まあ、そのなんだ……昨日はお楽しみ──」
「しくしくしくしくしくしく」
「──いや、俺が悪かった、マジで悪かった。だから泣くなって、な?」
さすがのヴァイですら、慰めるしか方法がなかったのだ。
それなら気分転換にと、全員で久しぶりに街を巡ってあるく事となり─
始めて訪れるリキトア森林と、森をそのまま街にしたような町並みを歩いて堪能し、学術都市として成り立っているフェルシアでは図書館やギアンに挨拶をし、またリナの事を謝られたり……。
そしてキシュラナではザキューレの屋敷に脚を運び、門下生やサイの奥さんに会い、少し【剣技】の手ほどきをしたりと、徐々に調子を取り戻してきた刃を、切嗣が撮影し続ける。
そして─
「ここが……【蒼髪の女神】発祥の地……」
「発祥の地とかいわない?!」
以前よりも大きくなっていたかつての我が家、診療所【女神の癒し】。
今はここを家として使っているフォウリィーさんとポレロさんに招かれて中を案内してもらい、見習いの【呪符魔術士】達に【呪符】の手ほどきをしたりと、過去を懐かしみながら街中を探索する。
王城の地下では炉に火が入っている鍛冶場を懐かしく見学したり、城の兵や傭兵達の相手をしたりと、ゆったりとした時間を過ごしていく。
街のおばちゃんやおっちゃんたちが、あいも変わらず声をかけてくれ、おまけとして野菜や果物をくれたり、【神縫】の師匠、おばあちゃんが未だに顕在であり、ヴァイさんから聞いていたのかネロのためのドレスを作ってくれたりしてくれていた。
一通り巡ったところで再びジュリアネスの王城に戻ると、全員に振舞うための料理を作り、相変わらず絶品ですと褒めちぎってくれる家族や仲間達と笑いあい、腹ごなしが済んだ所で、影技世界のみんなのとの手合わせに入る。
皆、過去よりも圧倒的に強くなっており、【英霊】のみんなが負けたのも頷けるほどではあったが……その結果はヴァイを除いて勝利するという凄まじさだった。
自前の結界を張って全力で戦う刃に、改めて【聖国の剣】はお前しかいないと認識された刃。
その後、怪我を治して【英霊】勢や士郎兄達と一緒に修行に入る。
魔術師勢もまた、【呪符魔術士】や【魔導士】に興味津々であり、特に【魔導士】などは速攻封印指定よね~などといった物騒な話すら出ていた。
まあ、この世界で魔術回路が存在しないのは……この世界では【魔力】が濃いため、回路として残さずに炉として体内で作られるという環境の差が生み出したようだった。
極めて似ているのがティタやリナの魔導回路だろうか。
様々な理論や議論が出て、新しい術式の開発に勤しむみんなの傍ら─
❝|ώογεία《ロギア》❞
刃は、この影技世界に置いても自身の道しるべとなるものを配置するべく、術式を走らせていた。
非常に協力的なこの世界の雰囲気の中、発光する【|世界樹《ユグドラシル》】。
そして─
「たーーーー!」
ー『たーーーーー!』ー
この世界の【|世界樹《ユグドラシル》】と【因果線】をつないだ、100体のミニジン達。
ー『か……かわいいいいいーーー!』ー
ー『むあ~?!』ー
神速で抱き締めるリルベルト様とギネビィアに再び戦慄を覚えつつ、彼等はそれぞれ刃との係わり合いのあった場所へと派遣されることとなり……即座に国のマスコットになったのだった。
そして……再び夜がやってくる。
刃に対して、様々な贈り物や素材などを渡し、別れを惜しむ影技勢。
ミニジンを解して通信は出来るからと告げ、俺達は再び【次元界転移門】を開く。
その際─
「フウハハハハハハハハハハハハ! 大・量! 爆・釣! 実に有意義な二日間だったぞ契約者よ!」
あちこち傷だらけの痛々しく、野性味溢れるスタイルで帰って来たのは……ネロ=カオス改めフォワブロ=ロワイン。
……なぜ、彼が現界しているかというと……当初の目的どおり、初日の夜に彼の【魔晶石】をいじり、彼の人格だけを切り離して実体を与えたからだ。
早速とばかりに王宮に仕えていた【獣魔導士】を一人彼のお供につけてもらい、あらゆる場所に対して【研究者】であるという肩書きを与えて出入りを自由にさせてもらったのだ。
まあ、ダイジェストでいうと─
「ぎゃー! 【暴猪】ですよー?!」
「ふむ! なんと巨大な猪か! よろしい、まずは解剖だ!」
「ぐ、【灰狼】ですー?!」
「君、中々いい牙をもっているな! どうかね? 少し私に協力しないかね。……具体的には解剖で!」
「ぎゃ、ぎゃあああああああ?! つ、【月の王】ーーーーー?!」
「ふうむ、狼と馬と死徒のブレンドかね? すばらしい! まずは解剖、そして解剖、さらに解剖! また解剖! 君の再生能力の許す限り、我が知識を満たさせてもらおう! フウハハハハハハハハ! さあ……覚悟ハイイカ!」
「こ、この人壊れてやがるですーーーーー?!」
という事だったらしい。
……御付の方に、頑張ったでしょうとしてスペシャルスイーツを作ってあげたら……泣いて喜んでいた。
ごめんね、本当に……。
そして全員がそろい、別れの挨拶を交わして型月世界の人々が再び【次元界転移門】を潜り抜ける。
「また……会えますよね?」
「ええ、また」
そうして背を向け、いつかのようにみんなに見送られながら刃達は再び世界を渡る。
今を生きる世界、【型月世界】へと。
懐かしさと、いい意見交換や戦闘経験と……すごく大事な何かを失いながら。
(52,514文字)
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