首都圏ネットワーク

2月18日放送
プロジェクト2030(9)
老朽化インフラ 存続の危機に

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首都圏放送センター 三宅 大作
首都圏放送センター
三宅 大作 プロジェクト2030

シリーズでお伝えしている「プロジェクト2030」。
今回は、私たちの身近にあるインフラや公共施設の老朽化についてです。
高度経済成長の時代などに各地で整備されてきた道路や橋といったインフラ、そして学校や公民館などの公共施設。
これらは構造などによって違いますが、専門家の間では一般的に建設してから50年を超えると、大規模な修繕工事や建て替えなどが必要だといわれています。

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全国に先駆けて整備が進んできた首都圏では、17年後の2030年に半数以上の公共施設が築50年を超えることになります。
いま、インフラや公共施設が存続の岐路に立たされています。

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東京・府中市を走るのは道路の状態を調べる車です。
路面にレーザーを当てて反射させることで、道路のへこみ具合や亀裂の有無を調べています。
担当者は「くぼみのカーブのラインが出てますので、この辺が深い」などとデータの画面を説明していました。

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道路の劣化は見えないところにも表れています。
地中の大きな空洞。
老朽化した水道管から水が漏れて土が削られてしまったのです。
橋では、コンクリートがはがれ始めています。
調査の担当者は「逆側の方は車道になりますので、もし車道に落ちてしまうと、車に当たってしまいます」と危険性を指摘していました。

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高度経済成長の時代にベッドタウンとして、町の整備が急ピッチで進んだ府中市。
それから40年以上がたち、今、道路や下水道といったインフラに、老朽化の波が一気に押し寄せています。
市の試算では、維持管理の費用は今後も伸び続け、このままでは年間26億円の財源不足になるとしています。

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市がこれまでに行ってきたインフラ工事のファイルです。
昭和56年からの記録しか保管されていません。
それ以前は作ることに専念しすぎて、将来の維持管理を十分に考えてこなかったことが老朽化への対応を難しくしてしまったのです。

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府中市都市整備部管理課の高橋潤課長は「インフラが朽ち果てていくっていう概念はあまりなかったと思うんですね。造ったもの、道路は永久だと思っていた。これまではどんどん施設を造って造ってという、造る時代でしたけど、もうその時代は終わりを告げていると思うんです。今あるものをいかに管理していくのかという管理の時代になっていますので」と話しています。

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老朽化が市民生活にまで影響を及ぼしている自治体もあります。
千葉県習志野市です。
築48年のこの市役所。
老朽化に震災が追い打ちをかけて、去年行われた耐震診断で、危険な状態だと判定されました。
分厚いコンクリートの壁には、至る所に大きなひびや穴ができています。

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市の職員は「今後、また大きい地震、震度6強と同等の地震が起こってしまった場合、この建物は倒壊、崩壊する可能性があります」と指摘しています。
通行が多い玄関の床は沈み込み、その下の階では落下しないように、天井を支える応急処置を取っています。
このままでは市民の安全が確保できないとして、去年の秋、仮庁舎に引っ越しました。

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習志野市では、築30年以上の公共施設が全体のおよそ8割。
老朽化が目立ってきて、補修費用がかさみ始めています。
すべての施設を維持していくには費用が足りず、このままでは半分も建て替えられないとみられています。
専門家は今後、公共施設のあり方を早急に見直す必要があると指摘します。

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東洋大学経済学部の根本祐二教授は次のように指摘しています。
「今あるものすら守れていない、守れない状況のなかで、新しいことをやっている余裕はないでしょう。老朽化は確実に来ます。何もしなければ壊れる。これは自明のことだと思うんです。対策の着手を早くして徹底的にやる必要があるので、まさに今がその時だということです」。

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習志野市は、今、公共施設の機能を集約して数を減らしていく計画作りを急いでいます。
計画では、駅周辺にある学校や公民館、図書館などの機能を学校に集約して、施設を減らそうというのです。
維持管理の費用は抑えることができますが、それぞれのスペースが狭くなってしまいます。

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この計画で廃止される可能性がある築31年の谷津公民館です。
現在、地元の80団体の活動の場として、年間のべ8万6千人が利用し、地域コミュニティーの要となっています。

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童謡サークルは、お年寄りを中心におよそ30人が週に1回、童謡を歌う活動をしています。
ふだんあまり外に出かけない1人暮らしのお年寄りにとって、サークル活動が大切な集いの場になっているといいます。
参加している女性たちは「もう、これが楽しくて。生きがいですよね。白杖ついてもここに来させていただいているの」とか「ここに来ると皆に会える。うちではね、1人ぼっちでしょ」と話しています。

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1月27日、公民館で市の方針を説明する集会が開かれました。
担当の職員は「谷津公民館については廃止を検討したいと思います」と話し、別の公民館の利用などを提案しましたが、出席者からは距離が遠くなるだけでなく、利用者で混み合い、これまでどおりの活動ができないのではないかと懸念する声が聞かれました。
出席した住民からは「これからの人生は公共施設で学んで頑張ってみようという思いがあると思うが、廃止となると、がくんとトーンが下がるわけですね」とか「地域で自分たちを学び仲間を増やし、後世にいいものを残していきたい」という意見が出ていました。

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今後、さらに高齢化が進み、地域のコミュニティがますます重要となるなか、自治体は難しい選択を迫られています。
習志野市資産管理室の吉川清志室長は「地域のことを大切に考えて活動してきた人たちですから、やっぱり無くなるということに対しては、思いがあると思いますので、我々としても、そこのところは十分に踏まえながら、次の新しい展開を見通せるような計画を作っていきたい」と話しています。

取材にあたった首都圏放送センターの三宅大作記者は次のように話しています。
「インフラや公共施設の老朽化は全国的な問題になっていて、特に首都圏では深刻な問題になっています。
先月には、具体的な老朽化対策についてアドバイスする国の研修会が東京で開かれました。
府中市と習志野市も参加していて対策を始めていますが、こうした自治体はまだ少なく、対策がほとんど進んでいないのが現状です。
高度経済成長の時代などに造ってきたインフラや公共施設を、少子高齢化が急速に進み、財源不足がより懸念されるこれからの時代に自治体がすべて維持していくのは難しいと考えるのは理解できます。
習志野市の取り組みはひとつの対策といえます。
しかし、今後、高齢化が進むなかで、地域のコミュニティーの充実や高齢者の生きがい作りは、よりいっそう重要になる時代に入ります。
効率化ばかりを急いで、市民を置き去りにしないように意識しなければなりません。
一方、私たち市民も公共施設についての意識を変える必要があります。
例えば、公民館でいえば、民間のホテルなどを使って、自治体が料金を補助すれば活動は可能です。
私たちの生活に身近な問題だけに市民ひとりひとりが考えていかなければいけないと思います」

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