なぜデパートのグルメアーケードには同じようなロクでもない飲食店しか入っていないのか? 実はこれは近代200年の問題であり、根本を突き詰めれば、キリスト教2000年の問題である。キーワードは「価値の混乱」だ!
B層が行列をつくる店
今や最大の消費者はB層です。
こうした状況の中、隆盛を極めているのがB層グルメです。
B層がこよなく愛し、行列をつくる店がB層グルメです。
いわゆるB級グルメが「安くて旨いもの」であるのに対し、B層グルメは必ずしも安いわけでも旨いわけでもない。
しかし、B層は誘蛾灯に群がる蛾のように引き寄せられていきます。
なぜならB層グルメは、行動心理学から動物学まで最新の知見を駆使し、B層の趣味嗜好・行動パターンを分析した上でつくられているからです。
店の立地、席の配置、照明の角度をマーケティングにより決定し、さらに「産地直送」「期間限定」「有機栽培」「長期熟成」「秘伝」「匠の技」といったB層の琴線に触れるキーワードを組み合わせていく。こうして、日本全国、駅前からデパートのグルメアーケードまで、同じようなチェーン店が立ち並ぶようになってしまいました。
先日、JR池袋駅近くのビルのグルメアーケードに、チェーンの串揚げ屋が出店しました。制限時間九〇分の食べ放題制で、冷蔵ケースには三〇種類の串ネタが入っている。
客はセルフサービスで串を選び、各テーブルの中央に設置されたフライヤーを使って自分で揚げる。ソースは甘口、辛口、ポン酢など八種類を揃えているという。
もちろん、そんな店には入りませんでしたが、池袋の一等地に出店したということは、かなりの客数が想定されます。
この話を知人にすると「なかなか楽しそうな店だね」との反応。一方私は、そこに近代大衆社会の最終的な姿を見いだし、暗澹(あんたん)たる気分になりました。
揚げ物には高度な技術が要求されます。プロの料理人と素人では仕上がりに歴然たる違いが生じる。当然です。だからこそわれわれは、家庭では再現できない職人の技術にカネを払うのです。
橋下首相待望論が沸き起こる中、現代日本で起こっているさまざまな「くだらない」現象を読み解くキーワードが「B層」である。著者はすでに「ゲーテの警告」「ニーチェの警鐘」の二冊の+α新書で、偉大なる哲学者、教養人の言葉を引きながら、近代大衆社会の末路が現在であり、それを象徴しているのが「B層」の横行であることを指摘し、多くの支持を得ている。「B層」=比較的IQの低い、騙されやすい人間たち、の特徴を細かく解説しながら、多くのB層に支持された民主党がかくも無様に崩壊した理由、そしてまた懲りもせず橋下徹こそ日本国首相にもっともふさわしいという今日の世論調査の結果に現れるB層の「勘違い」の害毒を、あらゆるジャンルで分析しながら、あぶりだしていく。
「自分で揚げろ」というのはプロの仕事の放棄です。
「串揚げなんて所詮駄菓子なんだから目くじらを立てる必要はない」
たしかにそうかもしれません。しかし、一事が万事ということがあります。ちょうどアリの穴から堤が崩れるように、串揚げ一本から国家が崩壊することもあるのではないか。
素人が玄人の仕事に口を出す。それどころか、参加してはならない場所に侵入する。これは近代が内包する問題です。
氾濫するB層鮨屋
現在、鮨屋のB層グルメ化が進んでいます。
すでに述べたようにB層は収入の多寡(たか)による区分けではありません。よって、「金持ちB層」と「貧乏B層」が存在します。
「貧乏B層」向けの鮨屋の典型はMでしょう。
某デパートのレストラン街が改装されて、寿司田系列の「桂」がなくなってしまい、Mがプロデュースする回転鮨ができたのですが、いつも行列ができています。下手をすると、おばさんが五〇人ぐらい並んでいる。
それで一応視察に行ったのですが、予想通り論外でした。
鮨はもちろん、お茶もダメ、生姜もダメ。
つまり、こうした店の場合、人気と鮨の完成度は関係ないということです。
重要なのは、マーケティングにより、B層の琴線に触れるような見せ方をすること。
こうした店の生姜は恐ろしい味がします。ベトつくような嫌な甘みがいつまでも口の中に残り、うがいをしてもなかなか消えない。
Tという大手鮨チェーンがあります。
そこの鮨に入っているのは、調味料(アミノ酸)、着色料(クチナシ、カラメル)、甘味料(サッカリンNa)、保存料(ソルビン酸K)、増粘剤(加工でん粉、キサンタンガム)、酸化防止剤、リン酸塩、ソルビット、pH調整剤……。
醤油には、果糖、ぶどう糖、液糖、かつお節エキス、発酵調味料、昆布エキス、酵母エキス、アルコール、調味料(アミノ酸等)……。
「化学調味料を使っているなんてけしからん」などと、某グルメ漫画みたいなことを言いたいわけではありません。B層の味覚にあわせて、なんでもいいからぶち込んでいくという姿勢が、今の時代を象徴しているのです。
B層は即物的な快楽に流されます。
B層向けの飲食ビジネスは、動物としてのヒトのエサをつくることであり、食文化とは関係がない。それで、酢飯に無闇に砂糖やサッカリンをぶちこむのです。
これは鮨屋に限ったことではありません。
知人の弁当屋によると、惣菜に砂糖をぶちこむと売り上げが伸びるそうです。だから、焼き肉にもハンバーグにも玉子焼きにもたくさん砂糖を入れる。逆に味を洗練させると売れなくなってしまう。
知人のラーメン屋は、スープにどっさり砂糖を入れます。チャンポンをつくるときも、たまねぎとキャベツから甘さを引き出すのに手間と時間がかかるので、砂糖を入れる。
これはB層文化一般に言えることです。
小説でも映画でも音楽でも、化学調味料と甘味料をぶち込んで、ひたすら甘くする。動物としてのB層に訴えかけるわけです。
一方、「金持ちB層」を狙った鮨屋もロクなものではありません。
B層は技能としての鮨ではなくて、愛想を求めてやってきます。そこでは鮨の技術を磨くことより、常連客の顔と名前を覚えることのほうが重要になります。生ビールや吟醸酒、シャンパン、ワインなどを居酒屋並みに揃えることも大切です。
友人の鮨職人によると、「こうした客は、わさびを醤油に溶いてしまうので、どんなにいいわさびを使っても同じ」とのこと。
夜七時と夜九時の二部構成にして、予約客が揃ったところで「ヨーイ、スタート!」で始めるようなブロイラー系高級鮨屋も増えました。完全コース制にすることにより、仕入れの無駄を省き、コストパフォーマンスを高めるわけです。
順番に握っていくので、滞りがあるとツバメの雛状態ですが、コスパが大好きなB層は文句を言うことはありません。
地元住民が集まる鮨屋が居酒屋化することは、ある意味必然であり、なんの問題もありません。銀座の同伴系の鮨屋がB層サロン化しようが知ったことではありません。
しかし、問題はきちんとした鮨屋をB層が侵食していることです。
橋下首相待望論が沸き起こる中、現代日本で起こっているさまざまな「くだらない」現象を読み解くキーワードが「B層」である。著者はすでに「ゲーテの警 告」「ニーチェの警鐘」の二冊の+α新書で、偉大なる哲学者、教養人の言葉を引きながら、近代大衆社会の末路が現在であり、それを象徴しているのが「B 層」の横行であることを指摘し、多くの支持を得ている。「B層」=比較的IQの低い、騙されやすい人間たち、の特徴を細かく解説しながら、多くのB層に支 持された民主党がかくも無様に崩壊した理由、そしてまた懲りもせず橋下徹こそ日本国首相にもっともふさわしいという今日の世論調査の結果に現れるB層の 「勘違い」の害毒を、あらゆるジャンルで分析しながら、あぶりだしていく。