病気じゃないのに「即手術」を決断、トマトジュースを血と間違える、患者にセクハラ発言を連発する、思うように手術ができず途中でメスを放り投げる……本当に、こんな医者たちがいるんです。
死亡診断書に「綾瀬はるか」
医者というのは、どんなときも冷静な判断で医療を施してくれるもの—そう思っている人は多いのではないだろうか。
神奈川県在住の主婦・松根聡子さん(32歳・仮名)も、医者のことをそう信じて疑わない一人だった。が、あるときこんな経験をする。風邪の症状でダウンした3歳の娘を連れて、近所の小児科を受診したときのこと。この病院では、親は待合室で待つシステムのため、松根さんは待機していた。すると、なんだか診察室が騒がしい。そこに看護師が現れて、こう怒鳴られた。
「こんなになるまで子どもを我慢させないで、吐血する前に連れてきてください! 今、入院の手続きをとっていますから!」
そんな大変な事態になっていたことに頭が真っ白になったが、次の瞬間、待てよ、と思い直す。「吐血」の言葉がひっかかったのだ。「もしかして……」と松根さんは看護師にこう告げた。
「あの、娘の頬についてたのは血じゃなくてトマトジュースかもしれません」
トマトジュースを飲ませたあとに、娘が吐いたので病院へ駆けつけたからだ。
「すると看護師さんは『エッ?』という顔をして、『センセ~、それトマトジュースかもしれません!!』と叫びながら走っていきました。そして診察室から『えええ~っ!』という先生の声が聞こえた。結局、先生が『ただの風邪でした』と謝りにきましたけど、医者って血とトマトジュースの区別もつかないものなんでしょうか」(松根さん)
医者は常に真摯に患者と向き合ってくれるもの—そんな印象も強いだろう。が、それもどうやら大きな間違いのようだ。とある総合病院に勤務する看護師が、こんなエピソードを打ち明けてくれた。
「うちの病院では、先生や看護師が入院患者に内緒であだ名をつけているんですが、『綾瀬さん』という苗字の患者さんには必ず『はるかちゃん』というあだ名で呼ぶ習慣があるんです(笑)。あるとき入院していたおばあちゃんの"はるかちゃん"がお亡くなりになったときに、先生が死亡診断書に『綾瀬はるか』と書き込み、遺族に渡してしまった。ただただ平謝りするしかなかったのですが……」
信頼していた医師のイメージとかけ離れて失望するかもしれないが、これも現実。このようなケースであれば、まだ笑えるかもしれないが、命に関わる深刻なケースも存在する。取材を進めると、"モンスター・ドクター"の被害に遭った患者たちが続々と現れてきた。今回、その性質によって分類したダメダメな医者たちを紹介していこう。
あなたは人殺しか!
1_切りたがり
都内に住む大学院生の加藤洋輔さん(23歳・仮名)には苦い思い出がある。小学4年生のとき、健康な盲腸を切り取られたのだ。
「宿題をするのを忘れたので、母親に『お腹が痛い』とウソをついて、ズル休みを決めこんだんです。心配した母に連れられて近所の診療所に行ったのですが、医師も診断がつかない。その医師の紹介状を持って総合病院に行くことになりました。私も『実はウソでした』とは言えないから、黙って従った。そうしたら総合病院で、『急性盲腸炎です。すぐ入院の手続きをしてください』と言われたんです。『そんなバカな!』とパニックになりましたが、手術室に運ばれ、麻酔をかけられ……とベルトコンベアに乗せられたように治療が進められ、逃れられなかった。後から知ったのですが、この病院は切らなくてもいい手術をするので有名な病院でした」
定塚メンタルクリニック院長の定塚甫医師も、医師でありながらとんでもない経験をしたという。
氏の娘が1歳3ヵ月ごろ滑り台から落ちて頭を強く打った。付き添っていた祖母が救急車を呼び、娘は救急病院に搬送された。
「すぐに開頭手術をしないと命に関わります。水頭症です。頭の中に水が溜まって脳の発達が阻害されてしまう」
担当医が言った。定塚医師の娘は、生まれつき頭の大きい「おにぎり頭」をしている。ただし、何度も検査をしており、水頭症でないことは確認済みだった。
「祖母がびっくりして私の勤務先に電話してきたんです。『お祖母さんの署名でもいいから、手術の承諾書にサインしてくれと、ものすごくせかされているの。とにかくすぐに来て!』と言う。あわてて駆けつけたら、娘は手術室で精神安定剤を注射されて眠っており、担当医はすでに手術室に入っていました。『担当医に会わせてくれ』と看護師に頼み込み、ようやくその医師と面会できました」
その医師は定塚医師の顔を見るなり、
「娘さんは水頭症なんですよ。早く手術しないと知的な障害が残るんです。今まで放っておくなんて、親としての責任はどうなっているんですか!」
と、定塚医師の言葉をさえぎってまくしたてた。
「私の話を一切聞こうとしないので、『あなたは人殺しか!』と一喝しました。それから、娘が生まれつきおにぎり頭であることや、精密検査もしていることを告げたのですが、『そんな態度だと、どこの病院でも診てもらえなくなりますよ』と恫喝してきたんです。そこで仕方なく、私も医師だと告げました。とたんに、彼の態度が一変した。明らかに狼狽の色を浮かべ、言い訳を始めました。ところがその言い訳が、またひどかった。『いやいや、お祖母ちゃんがあんまり慌てて、早くなんとかしてくれと頼むものだから』と」
その医師は責任をすべて祖母に押しつけ、「手術は中止だ」とスタッフに言い残すと、そそくさと立ち去ったというのである。
2_カネに目がない
切りたがるのは外科医の性質かもしれないが、「カネのため」という医師も少なくない。埼玉にある総合病院の看護師が打ち明ける。
「院長は、月末になると、今月はいくら足りないとか言い出すんです。先生には、患者一人の入院・手術につき200万円というざっくりした計算があるので、『今月は400万足りない。あと二人だな』とか平気で口にする。それで、90歳を過ぎた早期大腸がん患者の手術もした。普通、90歳なら手術なんてしませんよ。手術が身体に負担となってしまう。実際、そのおばあちゃんは半年で亡くなりました。『手術をしなかったら2年は生きられたね』と、内々では話していたんです」
病院の儲けのために、やらなくてもいい手術をし、挙げ句、死期を早めてしまう。どんなにカネを積んでも、亡くなった患者の命を取り戻すことはできない。
神奈川県在住の相田洋司さん(65歳・仮名)は5年前、胃がんの手術を受けた。手術はうまくいったが、その後の抗がん剤治療の副作用に苦しむ。そんなとき、がんの再発を予防するというサプリメントの存在を知り、それを開発した医師の病院を受診した。
「そうしたらいきなり入院です。私は『2週間で退院させてください。処方してもらった薬を持って帰りますから』とお願いしたのですが、『このままでは死ぬぞ。生きたいなら4ヵ月は入院だ』と怒られました」
でも、入院してやることといえば、そのサプリを飲むことだけ。2週間後に強引に退院したが、その費用に驚いた。入院費60万円。サプリは1ヵ月分約30万円はかかるため、1ヵ月入院したら100万円は軽く超える計算だ。
「会計窓口はすごかったですよ。『何でこんなに高いんだ!』と苦情を訴える患者や家族がいつも詰め寄っていましたから」(相田さん)
3_診断できない
冒頭のトマトジュース事件同様に、「医者が間違うことはない」というイメージも誤解である。田沢祐太朗さん(享年54・仮名)のケースは深刻だ。家族が語る。
「ひどい腰痛が3ヵ月も続いて、病院へ行ったんです。診断は腸閉塞。『食事と飲水を中止し、胃腸を休めて十分な補液を行えば治ります』ということで、入院治療を受けていたのですが、3週間後、なぜか両足が動かなくなった。不安になって、地域で一番大きな病院に転院させたところ、『末期の肝臓がんで、余命2ヵ月です』と宣告されました。がんが転移し、下半身を動かす神経まで冒していたのです。どちらにせよ手の施しようがなかったのかもしれませんが、数ヵ月の余命のうち、3週間以上も無駄な入院に使ってしまったことが悔しくてなりません。本人は、モルヒネで意識が朦朧とする中、がんとは知らずに亡くなりました」
なぜこんなことが起きてしまうのか。そこにはゾッとする理由があった。医療コンサルタントの吉川佳秀氏が解説する。
「全国には29万5000人の医師がいますが、CTやMRIなどの画像をきちんと読める医者は15%程度。残りは、放射線医師による画像診断をもとに患者に病状を説明しているだけで、自分自身では詳しい診断はできないのです」
なぜ外科医は短気なのか
4_逆ギレする
自らの病院の「恥部」について声を潜めて語るのは、某大学病院外科准教授の手術に立ち会ったという病院関係者だ。
「准教授として赴任してきた日に、勝手に手術室に入ってきて執刀医からメスを取り上げ、自分で手術を始めたんです。ところがこの人は、腕も人柄も評判の悪い医者だった。案の定、うまく腫瘍が摘出できないことにイラつき、途中でメスを患者さんの腫瘍に突き刺したまま、ぷいと出ていってしまった。患者さんは術中に息を引き取りました」
これほど酷い人はまれだが、前出の定塚医師は、「短気で逆ギレする外科医はけっこういます。『手術の途中でメスを放り投げた』という話はよく聞きます」という。手術室に入った患者は俎板の鯉だ。こんな医師と出くわさないことを祈るよりほかはない。
5_毒舌を吐く
愛敬のある毒舌なら許せる場合もあるが、病気で弱っている患者に追い打ちをかける毒舌はたまらない。
潰瘍性大腸炎の金子瑞恵さん(31歳・仮名)は、医師の処方薬を飲んでいたが、いつまでも腹痛が治まらなかった。そのため週1回の頻度で地元の総合病院に通院し、医師に相談していたのだが、邪慳な扱いが続き、とうとうこう言い放たれた。
「薬を1ヵ月分出しているのに、毎週来られたらたまらないよ。僕はあなたのような太った女性は好きじゃない。それでも我慢して診ているのに、いい加減にしてくれ!」
こんな医者に診てもらったのでは、身体だけでなく心まで弱ってしまうが、このように患者に暴言を吐く医師はまだまだ多い。
「末期のがん患者さんを前に、『もう助からない』と、平然と言う医師もいます。治療について聞いてきた患者に『私のことが信用できないなら他の病院へ行け!』と怒鳴りつけた医師もいる。モンスター・ドクターと呼ばれても仕方がないような医者がいるのも、事実なんですよね」(あざみ野ヘルスクリニック院長・弘田明成医師)
がんを切除したら脂肪だった
フリーアナウンサーの梶原しげる氏も、医師の言葉に傷ついたことがある患者の一人だ。
「信号無視の乗用車に追突されてバイクで転倒し、救急車で運ばれたことがあるんです。夜だったので当直医が診てくれたのですが、激痛を我慢している私に『どうしたの?』『折れてるの?』などと聞いてくる。こっちこそ自分の身体がどうなってるか教えてほしいところですよ。『内出血しているようです』と私が言うと、ようやくパンパンに腫れた私の足を診察して、『ああ、随分腫れてるな』。それ、私が最初から説明していたことですから! と言いたいのをぐっとこらえましたが、次の言葉がさらに衝撃的でした。『こういう場合、足を切り落とさなくてはならないこともあるから』と。そのあまりに無神経な言動に愕然となりました」
著名人でも、ダメな医者の被害に遭った人は数多い。現在、重度の糖尿病で透析を受けているお笑いタレントのグレート義太夫氏は、無責任な治療のせいで一命を落としかけたという。
「まだ自分が重度の糖尿病だと知る前です。あんまりだるいので夏バテだと思い、病院に行った。栄養剤の点滴を2本打たれ、その日は土曜日で検査ができないので、月曜にもう一度来ることになった。月曜に検査を受けたら、看護師が真っ青な顔で『即入院です』と言うんです。健康な人は空腹時の血糖値が100mg/dℓくらいだけれど、僕は630mg/dℓもあって、昏睡状態になってもおかしくない数値だと。はたと気づいたのは土曜の点滴です。
あれで血糖値がぐっと上がったのではと思い、看護師にも医師にも聞いたのですが、みんな言葉を濁して逃げていく。僕の数値はこの病院では歴代2位の数値で、1位の方は亡くなっているので、僕がディフェンディングチャンピオンです(笑)」
点滴によって症状を悪化させたことを医師や看護師も気づいていたが、義太夫氏には言えなかったのだろう。有楽橋クリニック院長の林泰医師によると、きちんと診断できていれば、このような高血糖にはならなかったかもしれないという。
「食欲不振や脱水症などのときに行う点滴はいくつかの種類がありますが、5%ブドウ糖を点滴する方法もあります。ですが、インスリン分泌のできない1型糖尿病の場合は、ブドウ糖が含まれた点滴をすると血糖値が上がってしまう。きちんと症状を聞いて検査をするべきだったでしょう」
診断ミスで、受けなくても良い手術を受けてしまったというのは、評論家の樋口恵子氏。
「ある日、乳房に大豆くらいの大きさのしこりがあることに気づいて検査を受けたところ、診断は『グレーゾーン』と言われたんです。そこで、大学病院と総合病院にも行ってみると、3番目に行った病院で、はっきり乳がんだという診断を受けました。その病院で手術を受けたのですが、術後の検査で、切除したしこりは、ただの脂肪の塊だったことが判明したんです。
もう15年ほども前のことで、時効だからこうして笑ってお話しできますが、当時は驚き、怒りましたね。乳房を切り取るのではなく、温存できる方法で手術してもらったのは幸いでした。まぁ、66歳という年齢でしたし、訴訟しても負けると言われたのでそのままです。ただ、それからはあまり医者には行かなくなりましたけれど」
樋口氏はこう言うが、健康な乳房にメスを入れられて傷つかない女性はいないだろう。
「診断できない医者のおかげで、ひどい目に遭ったことがあります」
と話すのは、漫画家のやくみつる氏だ。
「あるとき、経験したことのない腹痛に襲われたんです。僕は痛風持ちでもあるのですが、痛風より50倍くらい痛い。近所のクリニックでは『盲腸かなぁ』と言われて診断がつかず、家に帰されました。でも痛みが酷いので、深夜に自力で国立病院に行ったら尿管結石だと判明。僕は医療のことは詳しくないけど、尿管結石と盲腸の痛みって、まったく別のものじゃないんですかねぇ?」
放っておくと、まれに重篤な感染症に罹患する可能性もあったため、やく氏は自身の判断で命拾いしたと言えるかもしれない。
6_患者にセクハラ
最後に、誤診やカネ勘定ばかりのダメ医者と違い、自らの欲望を満たすために犯罪スレスレの行為に手を染める医者のエピソードを紹介しよう。笠井恵子さん(30歳・仮名)が明かす。
「生理不順で産婦人科に行ったところ、男の院長に子宮頸がんの疑いがあると言われ、触診と視診をされたんです。でも、それ以外の検査はなし。『様子を診るために来週も来なさい』と言われて行ったら、やはり触診と視診だけ。3週目も同じで、見てあそこを触るだけなんです。これはヘンだと思い、別の大学病院へ行ったら、一発でがんの疑いは全くないと言われました。あの医者、何を検査してたんでしょうか」
夫婦の性生活を根掘り葉掘り聞こうとするセクハラモンスターもいる。妊婦の金井遙香さん(28歳・仮名)が怒りの体験談を語る。
「妊娠の検査をするためにクリニックに行ったんです。先生に『いつ結婚したの?』と聞かれたので、『最近です』と答えました。すると、『じゃあ新婚だな。すぐ赤ちゃんがほしいと思ってたの? 思ってないでしょ。でも新婚だからヤリまくったらできちゃったんだ?』と。それから、セックスした日にちを詳しく聞いてきて、『ご主人にも確認して、ヤッた日を調べてきてね。こっちで妊娠した日を決めてもいいけど、ヤッてない日だったらダンナさんに怪しまれちゃうでしょ』とにやけながら言うんです。気持ち悪い」
被害に遭わない方法
これまで、さまざまなモンスター・ドクターのエピソードを見てきたが、本来患者を救うことが使命であるはずの医師が、なぜこのようなトラブルを起こしてしまうのだろうか。前出の定塚医師が言う。
「風邪薬を飲ませるために胃薬を飲ませる、高血圧の原因を解決しようともせず、大量の降圧剤を出し続けてかえって治癒から遠ざけるなど、患者を薬漬けにしてそれが医療だと思っている医師が数多くいるのです。子どもの発熱を訴える母親を、『こっちは忙しいんだから!』と突き放し、『薬を出しておくから飲ませなさい』と言って追い出した医師もいる。彼らに共通しているのは、悪い結果の責任はすべて患者側にあり、自分にはないという思い込みです。もとより最近の医師は、患者を見ない、触れない、訴えを聴かない。一方で、機械の下す診断には従っていますから、医師として責任を感じることはなく、結果はすべて患者のせい、ということになるのでしょう」
同じ医師として、前出の弘田医師は「もちろん、正当な理由で医師が怒ることもありますし、怒りたくなるようなケースがあることも理解はできます。ですが、医者というものは、病気を治すだけでなく、患者さんに安心感を与えるべきだと思うんです。もっと親身に、心に余裕を持って患者さんと接する必要があるでしょうね」と話す。
もちろん、モンスター・ドクターと呼びたくなる医者はごく一握りだ。だが、こんな医者の被害に遭わないために、心がけておくべきことがあるだろう。(1)自分の病状について、正確に医師に伝えること、(2)理解できないことは、遠慮せずに医師に説明を求めること、(3)その中で、あまりに失礼な対応をする医師には抗議すること。これによってあなたが"モンスター・ペイシェント"になっては元も子もないが、医者も人間。患者の意見があってこそ、医者も医療もより進歩を遂げるのではないだろうか。
「週刊現代」2013年2月9日号より