POINT OF VIEW ポイントオブビュー

ラック サイバーセキュリティ研究所所長

伊東 寛氏

日本のインテリジェンス①

日本版NSC(国家安全保障会議)の創設が話題となっている。これは外交と安全保障に関する官邸の司令塔機能を強化したいという安倍総理の考えに基づくもので、2006年の第1次安倍内閣の際に創設が提唱されていたが、その後、流れていたものだ。日本版と呼ばれていることから、米国のそれをかなり意識しているのは明らかで、そこには日本のインテリジェンス能力が米国のそれに比べて極めて弱いとの危機感が垣間見えるようでもある。
日本はインテリジェンス能力が足りないといわれ続けてきた。もちろん日本にインテリジェンス担当組織がまったくないというわけではない。内閣情報調査室があるし、外務省や防衛省、警察庁などにもそれぞれ情報担当部署がある。が、それぞれ規模も小さく、連携も取れていない。
一方で、米国にはCIA(中央情報局)をはじめNSA(国家安全保障局)やDIA(国防情報局)など数多くのインテリジェンス機関があり、それぞれの人員・予算規模は日本とは比較にならないぐらい大きい。そしてこれらを国家情報官が束ねて、いわゆるインテリジェンスコミュニティを形成している。
さて、インテリジェンスは主に情報の収集と分析、そして配布からなる。このうち、情報の収集については、これまで公刊情報の分析からとヒューミント(人間が取ってくるもの。スパイ活動など)により行われていたが、最近は、サイバー技術を利用した情報収集活動が注目されている。
このサイバー情報収集活動における世界最大の組織は先述した米国のNSAだ。NSAの歴史は古く、太平洋戦争の頃まで遡ると言われている。当時、日米は太平洋で激しい戦闘を続けていたが、その裏側で、いわゆる情報戦も繰り広げていた。相手の通信を傍受することや通信量の変化などの分析から敵の作戦を予測する組織があったのだ。この米国側の組織は終戦後、新たな敵として台頭しつつあった共産主義国家群の通信傍受を行うようになった。その後、衛星通信の傍受も行うようになったことから次いでインターネット上の通信傍受まで行うようになり、それが現在のNSAに至っているとのことである。このように米国には強力なインテリジェンス機関がある。
そこで、日本であるが、米国のような強力なインテリジェンス機関があるとはいえず、これはこれで大変なことである。しかしほかにも心配なことがある。インテリジェンスは収集だけでなく、敵が行う情報収集活動から自分の情報を防護することも忘れてはならないのだ。そのための機関としては公安調査庁や公安警察があるが、現状は予算も少なく人員も削減されていると聞く。ましてサイバー防諜活動に力を入れているという話も聞かない。これでサイバー時代を乗り切っていけるか。
資源が乏しく経済活動で生きていくしかない日本にとって情報の収集と分析そして防護は国益増進の基盤である。それにも関わらず、この分野が手つかずとすればゆゆしき問題である。
以上のような観点で考えても日本版NSCの創設は大切な一歩となるのではないか。NSC創設により、適切な情報統制が図られるとともに、広く国民の間にインテリジェンスに関する意識が高まると期待したい。
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