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英FTが伝えた「米国人半導体研究者、シンガポール『怪死』事件」(編集担当メモ)

2013.02.18

シンガポール政府の肝いりで設立された研究機関 Institute of Microelectronics(以下、IME)で、中国ファーウェイ(Huawei)との共同研究に携わっていた米国人の研究者が不可解な自殺を遂げたとする報道がFinancial Times(FT)に掲載され、一部で注目を集めているようだ。

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[The Verge]

FT Magazineのこの特集記事、ウェブでは15日付で公開されたものだが、現在(日本時間18日午前)FT.comサイトで「もっとも読まれた記事」ランキングの首位となっている。

内容のほうは、シェイン・トッド(Shane Todd)氏という米国人の研究者ーーカリフォルニア大学サンタバーバラ校で電子工学の博士号を取得後、2010年からIMEに勤務ーーが昨年6月下旬に同研究所を退職し、米国への帰国を目前にしながら自殺(首つり死)を遂げたが、同氏の家族から「Skype経由での事前のやり取りからは仕事に関わるストレスが高まっている気配は伝わってきたが、自殺の気配は感じられなかった」「シンガポール警察の説明に腑に落ちない点が多い」「遺体には明らかに人と争った跡がある」等々の異議申し立てがあり、現在米FBIも出動して実態の解明作業が続けられている、といったもの。

この研究者が率いるIMEのチームがファーウェイと進めていたのが、窒化ガリウム(GaN)をつかった半導体で動作する高性能な増幅器の開発研究で、この技術が商用だけでなく軍事目的にも使われる可能性があること、また本人の残したハードディスク(バックアップ用)のなかから「Huawei」と題したフォルダーや「Schedule 1 Huawei GaN Spec 01」という名前のファイルが見つかったことなどが、FT記事には記されている。

そのいっぽうで、トッド氏が米国の安全保障にも関わりかねない類の研究開発に従事していたとすれば、どうして仕事用のノートPCなどを職場から持ち出すことができたのか、あるいはシンガポール警察当局がトッド氏のノートPCや携帯電話は押収しながら、なぜ外付けハードディスク(手がかりとなるファイルが見つかったほぼ唯一の証拠)を見落としたのかなど、細かな部分については不明な点も複数みられる。

それでも、「すっかり嫌気がさしていた」というIMEの仕事を辞めたその当日から翌朝にかけてトッド氏が亡くなったこと、また同氏がすでに次の就職先を見つけていたーー米国防省やNASAと取引のある米企業ヌボトロニクス(Nuvotronics)から年俸10万5000ドルのオファーを受けた、とあるーーことなどから、同氏の死を当初「自殺」としていたシンガポール警察関係者の説明にはおかしな点も多い。同警察はFT報道を受けて「現在もこの件についての調査を続けており、死因に関して何らかの仮定(assumptions)を出したことはない」とする声明を発表したという)

なお、このFT記事でも触れられているが、米国では昨年秋に諜報委員会(U.S. House of Representatives' Intelligence Committee)でファーウェイとZTEが米国の安全保障を脅かす可能性があるとする報告が出され、これに両社や中国政府が抗議する、という出来事が生じていた。


【参照情報】
Death in Singapore - FT
Police defend probe into Singapore death - FT
Sudden death of American engineer in Singapore raises questions - The Verge
ファーウェイ、ZTEは「安全保障上の脅威」 - 米下院委員会が取引中止を勧告
中国政府、ファーウェイとZTEに関する米下院報告書に猛反発


三国大洋(スタッフライター)

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