株式会社ネットコンシェルジェ

FEB
13

2013

AmazonのサービスでAmazonを超えてみせた食料品販売ECサイト「Instacart」

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当ブログでは、ECサイトが成功するためには、Amazonとの競争を避け、Amazonにないものを取り入れることが重要だと述べてきた。Amazonのウリの1つに「即日配達」がある。昨年、この「即日配達」を超える「注文後1時間以内配達」をウリとして生まれた食料品販売ECサイトがある。しかも創業者は、元Amazonのサプライチェーンエンジニアだ。

その名も「Instacart」。現在のサービス提供エリアは、米国カリフォルニア州のサンフランシスコ、マウンテンビュー、パロアルトの3エリア。

ユーザーは、WebサイトまたはiPhone/Androidアプリからほしいものを注文することができる。通常送料3.99ドル(1ドル92円のとき、約370円)で3時間以内配達、特別送料14.99ドル(同上、約1390円)で1時間以内配達となる。

このInstacart、創業後わずか3週間で数万点もの注文が入った。さらに、1度利用した人の90%がリピーターになるという数字も出ている。

誰もが必要な「食料品」にフォーカス

Instacartが生まれたのは、2012年6月。創業者は、元AmazonのサプライチェーンエンジニアであるApoorva Mehta(以下メータ)氏だ。

メータ氏は、約2年半Amazonで勤務していた。その間、彼にはどうしても問題だと感じることがあった。それは「オンラインでなんでも購入できる世の中なのに、なぜ食料品だけはわざわざスーパーへ足を運んで購入しなければならないのか」ということだ。

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なぜ食料品なのかということについて、メータ氏は次のように述べている。

「誰もが食料品の買出しに行かなければならないからです。たとえ料理をしないとしても、シリアル、洗剤、トイレットペーパーなど、生活必需品を買わなければなりません」

「戦略的な話をすれば、Amazonが書籍からスタートしたのと同じように、われわれは食料品からスタートしたのです。Amazonはその後取り扱い商品を増やしていきましたが、書籍のみを取り扱っていたとき、彼らは他のどのECサイトよりもうまくやっていました。われわれも、まずは食料品のみにフォーカスして、他のどのECサイトよりもうまくやりたいのです」

Instacartとは?

では、ここでInstacartのしくみをご紹介しよう。サービス提供時間は、10時から21時まで。21時に注文しても、遅くとも3時間以内配達で24時までには届く。

Webサイトのインターフェースはいたってシンプル。「果物・野菜」「朝食・シリアル」「飲み物」などのカテゴリーを選択すると、そのカテゴリーの商品がリストになって出てくる。商品名で検索することも可能だ。食料品だけでなく、スーパーで売っているような生活用品もそろっている。

商品ページには、商品概要や栄養分表示などもあり、実際にスーパーで買い物をするときと同じ情報が得られるようになっている。

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ユーザーは、「Safeway」と「Trader Joe's」の2つのスーパーの取り扱い商品のなかから、ほしいものを選んで注文することができる。

なぜスーパーが決まっているのか?それは、ユーザーからの注文を受けた後、Instacartの配達員が実際にこのスーパーへ行き、彼らがここで購入した注文商品を、その足でユーザーのもとへ配達するからである。

つまり、ECサイトではあるものの、実際には「買い物代行サービス」に近いというわけだ。若干アナログな印象を受けるが、在庫を持たないという意味では効率がよいのだろう。「食料品」という、鮮度が命の商品ならではのビジネスモデルである。

Instacartの配達員は厳しい訓練を受けており、専用のアプリを使って仕事をしている。このアプリがあれば、注文商品がスーパーのなかのどのエリアにあり、どの通路にあり、どの棚にあるかがすぐにわかるという。すべての注文商品を効率よく集めるための、スーパー内の最短ルートまで表示されるそうだ。

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Instacartは、顧客からの信頼を重要視している。もし約束した配達時間(1時間または3時間)を過ぎてしまったり、配達した商品が間違っていたりした場合は、全額返金を行っている。

サンフランシスコは、米国内でも屈指のビジネスシティだ。忙しいビジネスマンやビジネスウーマンにとって、Instacartの「食料品を1時間以内に配達する」というサービスはまさに「かゆいところに手が届く」ようなサービスだろう。

AmazonのサービスでAmazonを超える方法

現在は食料品のみを取り扱うInstacartだが、いずれは他のカテゴリーにも手を伸ばしたいと考えている。

「将来的には、取り扱い商品を拡大したいと思っています。しかし、Amazonで販売されているような大型TVを取り扱うことはないでしょう。なぜなら、そういったものは「1時間以内配達」が活きる商品ではないからです。われわれが価値を提供できるのは、急に必要となるもの、注文してすぐにほしいもの、現在オンラインではあまり販売されていないものなどです」(メータ氏)

2012年7月にTechCrunchに掲載された記事によると、AmazonのCFOであるTom Szkutak氏は、社内会議にてAmazonの即日配達サービスについて次のように述べている。

「経済的な目で見て、即日配達サービスを大規模に提供する方法は見つからない」

つまり、即日配達サービス自体は継続するものの、その規模は限定的なものになるだろうとのこと。すべてのAmazonユーザーが即日配達サービスを利用するのは不可能ということだ。

メータ氏は、Instacartならすべてのユーザーに「1時間以内配達」サービスを提供することができると自信を持っている。

元Amazonの社員がAmazonを超えることに、なぜそれほどまでに自信を持っているのか?

「逆転の競争戦略」(山田英雄著)では、リーダー企業の強みは弱みになりえることを論じているが、メータ氏の戦略はこれに当てはまるといってもいいだろう。

「Amazonはロジスティクス企業」と比喩されるほど、Amazonの配送システムは同社のビジネスの根幹となっており、日々改善されている。しかし、1時間以内の配達に最適化されているわけではない。巨大企業のAmazonにとっては「1時間以内配達」のような小さく特殊なサービスは、既存の重要なシステムに手をいれる程の投資メリットが出しにくい場合がある。元Amazonのサプライチェーンエンジニアの彼は、その弱みを間近で見て、この戦略に踏み切ったのかもしれない。

巨大企業の懐に飛び込み、差別化要因を引っこ抜いてくる。
これほど大胆で真似されにくい戦略も、なかなかないだろう。

著者プロフィール
尼口友厚 株式会社ネットコンシェルジェ 代表取締役社長
国内第一線のウェブコンサルティング会社(株)キノトロープで大手通販コスメ会社(現在は上場)のeコマース支援を行う。その後同社の支援を得てeコマース専門のプロデュース会社(株)ネットコンシェルジェを設立。2003年の設立以来、年商○00億円を超える超大手サイトから、スタートアップ企業のeコマース立ち上げまで、その実績は約8年間で125社に上る。

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