そこが聞きたい:原発と民主主義 黒川清氏
毎日新聞 2013年02月18日 東京朝刊
東京電力福島第1原発事故の調査は、多くの疑問を積み残したまま昨年7月に一段落した。間もなく東日本大震災から2年。国会事故調査委員会の委員長を務めた黒川清・元日本学術会議会長に、調査の意義と課題を改めて語ってもらった。【聞き手・伊藤智永、写真・西本勝】
◇第2の国会事故調作れ−−黒川清氏(76)
−−東京電力が事故調の現地調査を、ウソの理由で断っていたことが露見しました。
◆国民やメディアの皆さんはやっぱり、と思ったんじゃないですか。エンジニア出身の委員だった田中三彦氏は、自分で4号機の原子炉圧力容器を設計していたこともあり、どうしても確かめたいことがあった。我々は「放射線量が高いぞ」と心配したが、田中氏は「自分の身を守るのは自分の責任でするから」と、東電に掛け合った。ところが、中に入れないのは放射線のためじゃなく「暗くて何も見えないからだ」と断られた。それがウソだというのだから。
−−東電不信は、かなり抜きがたいようですね。
◆東電の勝俣恒久前会長は、誰もが立派な人だというけど、参考人として話を聞いた時、「それは社長の仕事です」と繰り返し発言した。調査を通じて、東電に限らず日本の大企業や役所、組織では、責任あるポストにいる人たちが、ポストに見合った責任をとる覚悟がどこまであるのか非常に疑わしいと感じた。今度のウソだって東電は「担当部長の思い込み、勘違い」と言い逃れてるんでしょ。我々は原発事故を3・11以前の「人災」と結論づけたが、最大の原因は、そういう組織や責任者のあり方だったんじゃないですか。
−−調査委員会と報告書は四つもあるので、素人はどれを信じればいいのか戸惑います。
◆四つは全然性格が違います。東電と政府の調査は、事故を起こした当事者自身なので信頼性に限界がつきまとう。民間事故調は立派な試みだったし、他にも多くの調査、報告書が出たが、これらは法的根拠がない。国会事故調だけが、立法に裏付けられ、民間人中心に構成され、徹底した情報公開で運営された委員会だったのです。お上頼みが強い日本で、国家的課題について、完全に行政府から独立した調査委員会が立法府に設置されたのは、長い憲政史上で初めてだった。民主主義のあるべき形の一つが実践された画期的な経験でしたが、その意義があまり理解されていないのは残念です。