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  白銀の魔法騎士 作者:歌舞伎山 俊彦
10
その日、優は嫌いな担任教師のいる保健室で正座していた。
「さて、言い訳を聞こうか」
足を組んで額に青筋を浮かべた優子が眉間に皺を寄せていた。
実は、彼女が優の刀を作っていた張本人だ。
言い訳を言おうとしても、折れるところまで見ていた優子に何を言えばいいんだろう。
だが、言わなければ罪の減刑は望めない。
考えに考え抜いた結果、発想を転換することにした。
「優子さんが悪いんだ!」
作った本人に責任転嫁した。
「そうか」
顎に手を当てて黙考する。
保健室を沈黙が支配して、優は冷や汗が止まらなかったが、座して待つしかなかった。
「算盤責めと水責めと股裂きと駿河問い、どれを望む?」
「どれも拷問じゃないか!」
「拷問じゃない。お仕置きだ、これは」
「どっちも同じだよ」
「選ばなければ…………」
どんな罰を与えるか、優子は再び考えた。
「全裸で校内一周なんてどうだ?」
「なんだ。楽勝じゃな――」
「今すぐ」
「……くない」
午前中だから、どのクラスも授業中だけど、校内は広いから昼まで掛かってしまう。その場合、変質者か露出魔のレッテルを貼られてしまう。
だから、最初の四つの中から、比較的易しい拷問を選ぶことにしよう。
「算盤責めにしてください!」
「なら、早速石の調達だな」
魔装銃を構えると、優子は彼の腿のあたりを撃った。
着弾した瞬間、優の下半身に形容しがたい重みが伝わる。
下半身全体に重みが伝わるように石が加重されているから、耐えている優は相当の苦痛を受けている。
何かあるとすぐ拷問するから、優は彼女を嫌う理由だ。しかも、人が苦悶の表情を浮かべていると、何故か恍惚としているから不思議だ。
だが、もっと不思議なのは、これが長時間に及ぶと「ご褒美を貰っている」ような錯覚に陥ってことだ。
いけない、と思っても下半身は石の加重によって動かせない。
既に加重されて1時間が経過した。
「そろそろ、加重を増やすぞ」
「………神は死んだ」
「安心しろ。神なんて元々、この世に存在しない」
更に加重が増やされた。
算盤責めは、石を抱くという江戸時代の拷問方法だ。
普通に石を抱かせる拷問方法だが、石は無いから魔法で石と同じ重みを加重させている。
初めは、髪を振り乱して苦悶の表情となるが、後から茫然と周りをキョロキョロと見回したりする。その時は、既に下半身は蒼白となって1人では動けなくなってしまう。すぐには回復できない。
「刀の話しなんだが」
「なに?」
「修理には時間が掛かる。だから、趣味で作った『紅桜』があるだが、使ってみるか?」
「ああ?」
拷問が長続きしたからだろうか、痛みに気を取られていて何を言われたか解らなかった。
「紅桜って刀を作ったから、使ってみないか、って聞いたんだ」
「使えば、いいん、でしょ、どうせ」
所々区切って言ってしまう。
下半身は、既に蒼白になりかけた。
その様子に、優子は嘆息する。
「情けない。あと二枚分、持ちこたえてみせろ」
「無茶な」
「お母さんは大変残念に思っています」
「戸籍上はな!」
軽く息を吐いて、優の下半身に対する加重は止めた。
彼の母親は、優子となっている(戸籍上)。本当の母親は、優は知らない。優子が固く口を閉ざしているから、知りたくても知ることは出来なかった。父親ですら。
自由になったが、自力で立ち上がることは不可能だった。
「help」
「はいはい」
本来なら、治療魔法を使えば一時的に治るが、優には魔法が効かないから自然に回復するのを待つしかない。
優子に担がれベッドまで運んで貰って、やっとのことで一息吐いた。
「もう歩けない。これは、後の授業を休むしかなさそうです」
「水責めとか別な拷問にすれば、良かったんじゃないか?」
「どれも最後は休むしかないよ!」
「つまらん」
本気で残念がる優子に、優は彼女に恐怖してビクビクと震えた。
怖くて仕方ないが、それよりも聞きたいことがあった。
「例の注射器の中身って、やっぱり魔法力増強液ですか?」
「さすが服用した事があるだけに解ったか」
「当たり前です。誰が使わせたと思ってるんですか!?」
優に液剤を使わせるように強要されたのは、他でもない優子だった。
「あれは凄かったわね。4年前のアレは本当に凄かった」
「佐渡島防衛戦のことですか……」
もぞもぞと布団の中に入り込む。思い出したくない忌々しい過去。
突如として、中華連邦(中国を中心とした東アジア共同体)と思しき武装勢力が侵攻して守備隊との間で激しい戦いが起きた。中華連邦は、武装勢力との関係性を否定している。
その結果、佐渡島は焼け野原となって人が住めない無人島となった。
「今は関係ないでしょう」
「そうだな。……お前が知りたいのは、もっと別のことだからな」
「そうです。眠ってしまう前に早く言ってください」
まばたきを繰り返す優の頭を撫でる。
たちまち不機嫌になるのは、仕方ないだろう。
「クラスタって反魔法騎士国際政治団体を知ってるか?」
「ああ、魔法師と騎士の待遇改善を求める団体でしょう。知っとるがな!」
いつまでも撫でているのに嫌気がさして、優は暴れまわった。上半身で暴れて下はまったく動かしていない。当然だけど。
「さすが、近衛軍の兵士なだけあるな。
どれ、今日の昼はカツ丼でも奢って上げよう」
「マジで?」
「お前の金でな」
「奢ってないよ!」
「そして私の分も済ませる」
「悪魔! 鬼!」
「ハッハッハ」
いくら罵っても、この女に何を言っても無駄だと悟りそっぽを向いた。
「冗談はやめて、話を戻そうか」
「クラスタって魔法師と騎士の待遇改善を求めて活動してるんでしょ? 良い組織じゃないですか」
「阿呆か」
魔装銃のグリップで頭を叩かれた。
「ふぎゃっ」
「そんな組織が増強液を売るわけがないだろうが」
「そもそも、待遇改善する必要ってあった?」
「ないだろう」
優子は、即否定した。
「待遇改善を求める団体がこんな劇薬を売るワケないだろう」
「劇薬って……」
「そいつ等は、待遇改善を求めて色々なことをしてるんだ」
「何を?」
詳しい知らないから問い返すと、優子は「はぁぁぁぁ」と大きく溜め息を吐いた。
「なんで知らないんだ?」
「こういうのは、軍か警察がやる仕事だよ。近衛まで情報が回らなくて」
「情報くらい回せよ」
「そんなご無体な……」
「いや、当たり前だろ」
なぜ渋る、とツッコミする。
近衛軍は、通常の軍と違って所属と扱いが違う。
天皇陛下直属で、一人一人が軍での階級だと大尉クラスになっている。47都道府県に100人が常駐しているから、合計4700人以上はいる。そのどれもが精鋭の集まりだ。
だから、軍と警察は敬遠気味だった。
「敬遠気味なのに、情報をくれるワケないでしょう」
「情けない」
「ヒドッ」
「近衛なら、自分で調べようって気概はないのか!」
「ないよ!」
決して大声で言う台詞じゃない。
「とにかく、この液剤は広まる可能性が高いから、用心しろ」
「言われなくても解っとるがな!」
そう言って、優は目を閉じて睡眠モードに入った。




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