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  白銀の魔法騎士 作者:歌舞伎山 俊彦
だだっ広い訓練場で2つの閃光がぶつかる。
詩織と優が、模擬戦をして椿と秀一が観戦していた。
押されているのは優で、ぎこちない動作ながらも何とか詩織の斬撃を受け止めていた。攻勢に出ようにも、KAをまともに動かせなければ話しにならない。
何度目になるかは解らない押し合い。
優は、詩織を押し返せなくて段々とイライラしてきた。
「何でこんなにも動きづらいんだよ、このKAはっ! 兵器なら、兵器らしく人間の言うことを聞け!」
このポンコツが、と優は自身の九八式を罵った。
だが、状況は悪くなる一方だった。
刀を弾き飛ばされ宙を舞う。1メートル離れたところまで、くるくると回りながら地面に突き刺さった。
「そろそろ終わりですね」
詩織が剣を振り下ろした。
「うげっ」
これは終わった。そう確信する優だった。
「そこまで!」
椿の声が響いた。
剣は、優の目と鼻の先でピタッと止まっており心臓に悪い。
「もう少しで僕が2人になりそうだ」
「そうなっても、私には到底及びませんけど?」
「ですよね。なんだかんだで手加減してたみたいだし」
「貴方が弱すぎるんです」
「違いない。どうやら、まだこのKAには慣れてないらしい」
「慣れ? そんなの必要なんですか?」
優の言葉にきょとんとする詩織。
どうやら、自分の常識がズレていたらしい。
驚きに目を見張ったが、すぐに平静を取り戻す。
「どうかしました?」
「いや、何でも――」
ない、と続けようとして、後ろから飛んでくる何かに気づいた。
明らかに詩織を狙って撃った弾丸だ。当の本人は、まったく気づいていない。椿と秀一も気づいていない。
対処できるのは自分だけ。
そう思った優は、詩織を助けるため行動に出ることにした。
「避けろ!」
詩織を突き飛ばして弾丸をモロに喰らった。
一定のダメージを受けてKAの装着が解除される。
優にとってみれば、これ幸いと歓喜する。
だが、周りは何が起きたのか理解して撃った相手を睨みつける。
「あの鳳月椿が選んだ連中ですから、どれだけ凄いかと思えば、期待外れです」
撃った本人は倉橋エリカだった。
朝食の時間に変なことを口走った女、という優の認識だが、彼女は騎士科の主席でもあることを思い出したから認識を改めた方が良いかもしれない。
後ろにエリカが所属するチームが控えていた。
ただ彼女らの九八式は、個人用にチューニングされていて灰色じゃなかった。
「あれ、個人用にチューニングされると色が変わるのか?」
優が詩織に訊ねた。
詩織は、突き飛ばされたことに怒っていてぶっきらぼうに答える。
「近接タイプが赤、遠距離タイプが青、防御タイプが緑、万能タイプが黄色です。……優くん、先に謝ることはありませんか?」
「突き飛ばしてすみませんでした」
「こっちも助けてもらったことには、感謝します」
エリカのKAは赤だから、近接タイプということになっている。
「井上さん、自分たちの訓練はいいのかしら」
隣に来ていた優が、エリカより後ろにいる体つきが細身の魔法師を井上と呼んだ。井上春彦、魔法科一年の次席でエリカたちのチームの指揮官だ。
井上は、両手を広げて苦笑する。
「俺たちの予定していた訓練は優秀な奴が多いから、すぐに終わったんだよ。だから、暇つぶしに主席の鳳月さんのチームの訓練を見てみたら中々面白いものが見れたよ」
「でしょう。私のチームは精鋭なんだから」椿の答えに苦笑した井上。それを押しのけてエリカが叫んだ。
「鳳月さん、どうしてですか!? どうして私ではなく、そこの劣等生を選んだんですか!?」
「これは、約束なの。彼が私の騎士になることは」
平然と椿が答える。
「優、やっぱり椿さんと何か関係があるんじゃないか?」
優の隣にきた秀一が小声で訊いてきた。
「関係はないだろう。初対面なはずだよ」
「でも、彼女は君のひた隠しにしている秘密を知っているから、やっぱりどこかで会ってるはずだ」
「うーん……」
必死に考え込んで思いだそうとする。
(まさか――!)
ある1つの結論に達する。
それは、思い出したくない過去だった。
体を弄くり回され過酷な実験を受ける日々。逃げることを諦めてモノとして扱われることを受け入れていた。
何故逃げ出すことに成功したのか解らない。彼女があの過去を知っていることは明白だった。
彼女が何も言わなければ、優は特に何をするわけでもなくいつも通り秘密を隠すだけだ。
「知らねー。前世でいざこざがあったんだろう」
「アバウトな」
優が適当に言って秀一が答えたときだ。訓練場にエリカの絶叫が響き渡る。
「約束ですって? ふざけないで!」
エリカが、身の丈を超える大剣を背中から抜き、一気に椿へと突撃する。
激しい土煙が上がり、晴れると攻撃をガードされている赤いKAが映った。
「防御魔法ですか。さすが鳳月さんですね」
ガードされ、エリカは距離を取る。
「さすが学年主席ね。素晴らしい突進速度だったわ。……でも、彼には到底及ばないわ」
ゆっくりと大剣を構え直すエリカを見据えながら、秀一と詩織は椿の前に立つ。
「諦めなさい。貴方には、勝ち目がありません」
そう椿が告げる。エリカが舌打ちする。
一触即発の雰囲気になった。
(これは、面白い展開になってきた)
優は、自分は関係ないとタカをくくって他人事のように思う。
このままエリカは引き下がるだろう、と優だけでなく椿たちは思った。
だが、違った。
「なっ、後ろから!?」
秀一の背中に衝撃が走る。後方に回り込んだ井上チームの誰かが狙撃したのだ。
そこで、井上チームに囲まれていることに気づいた。
「あははは、既に包囲済みなんだよ!」
井上の笑い声が響き渡る。
状況は不利だった。非戦闘員が一名がいて指揮官がいる状況下で守りながら戦闘なんて、今の秀一と詩織には不可能だった。
これはヤバい、と感じている2人を優は励ます。
「心配しなくても良いよ。もうすぐ生徒会か風紀委員が来るから」
「なんで解るんだ?」
「主婦の勘だよ」
「結婚してないだろうが!」
「いや、その前に性別からして違うと思います」
「規則に今の一年生がチーム間で戦闘してはならないって書いてあるわ。だから、主婦の勘でも彼の勘でもないわ」
「ちょっとくらいは、褒めてくださいよ」
現実逃避したいが、無駄だろう。4人で円陣を組んで作戦会議する。
「ちょっとタイム!」
rest、と優は叫んだ。返ってきた答えは、
「それが許されるとでも思っているんですか!?」
エリカが突進してくることだった。
「みんな、散開! 優くんは逃げて、詩織さんは倉橋さんに相対、秀一さんはその他大勢で私は井上さんと相対するわ!」
椿の咄嗟の指示により動き出した。
優は、1人エリア外に抜けて呑気に観戦する。
「二桁の成績の貴方が私に勝てるとでも思ってるんですか?」
「ぐ……」
壮絶な斬り合いを繰り広げる詩織とエリカ。やはり実力差があるから、徐々に詩織が押され始める。
椿は、井上と睨み合いをしていた。
「うおおっ。アクセル止まんねー!」
秀一は、エリア内を疾走して攪乱していた。
何故叫んでいるのかは理解できないが、自分が何もしないでここに居るのは何となくだけど情けなかった。
その時だ。
ガキンッ。
離れた場所からでも聞こえた派手な打撃音。
詩織の腕が、エリカの大剣に打ち据えられたこてが確認できた。
詩織は、剣を落としてその場で悶絶した。
「私相手によく粘れましたね」
「うっ……」
「でも、増長は褒められませんよ」
「………………」
「これで私の勝ちです!」
大剣を振り下ろす。
(ヤバい――!)
脇の下に隠し持っている黒を基調とした金色のラインが特徴的な拳銃を取り出した。
「起動」
静かに唱えると、拳銃が優を包み込んで黒い鎧を形成する。
身体が鎧と一体化する感覚に心地よさを覚えるが、今は気にしている暇はない。
内部の装甲が金色に光るのを確認して、優は詩織を庇うため走りだした。
それは、音速となって戦闘機が飛ぶ音以上の轟音を轟かせ、エリカに衝突した。
「キャァァァ!」
エリカの悲鳴が聞こえる。
彼女のKAが自動的に解除され後方に吹っ飛ばされる。
「やべー」
体当たりが強かったらしい。現にエリカは気を失って宙を舞った。
「な、何が起こったのですか?」
呆然と痛む腕を押さえて立ち尽くす詩織。他も同様の反応を示した。
「桜庭さん、大丈夫ですか?」
「もしかして、優くん?」
「はい、そうです」
「そのKAは一体……」
詩織の唇に人差し指を当てる。
「乙女の秘密です」
「いや、貴方は男でしょう」
「とにかく、今は答えたくありません」
再び金色の内部装甲を光らせるが、すぐに止めた。
「全員、今すぐ戦闘を中止してください!」
突如として響き渡る女性の声。
「生徒会長と風紀委員長!?」
誰かが叫んだ。
風紀委員の腕章を着けた女性の腕には、エリカが抱き止められていた。
会長の腕章を着けた小柄な女性の魔装銃は、既に魔力が装填されていて何時でも撃てる状態となっていた。
「魔力は装填済みです。全員、武器を捨ててそこを動かないでください」
会長の言葉を聞いて、全員が武器を捨ててKAの装着を解除して特に何も行動せず硬直した。
「貴方たち、一年生ですね。訓練は許可されていても、チーム間の闘いは認められていないことを解らなかったんですか?」
会長が、エリカを介抱しながら言った。
誰もが音もなく硬直する中、1人だけKAを装着したまま前へ歩み出る者がいた。
優だった。彼は、KAを装着解除し素早く拳銃を仕舞う。
彼は、風紀委員長と生徒会長の前に立つと頭を下げた。
「すみません。どうやら、お遊びが過ぎました」
「お遊び、だと?」
風紀委員長――槙原小雪が、会長の火神紫乃が抱えているエリカに視線を送る。
彼女が言いたいのは、これがお遊びに見えるのか、と問いたいのだろう。
はぁ、とため息を吐いた。
「学年主席の素晴らしい腕前を見ていたら、つい手が出てしまいました」
「それで、コレか?」
「コレ、とは?」
「とぼけるな。この女子生徒を吹っ飛ばしたのはお前だろ?」
何がいけないのか解らなかった。
「何がいけないんですか? 走ったらぶつかった、ただそれだけです」
「それにしては、凄まじい勢いだったな。一歩間違えば、KAを装備していても死んでいたかもしれないんだぞ?」
どうやら、あのタックルは『殺人タックル』になっていたらしいことに漸く気づいた。
優は、白々しくなってきて余計な取り繕いはやめた。
「先に仕掛けたのは向こうです。こっちは被害者で骨折した人がいて、向こうは気絶者が一名いるから、双方痛み分けということで許してはくれませんか?」
「なるほど。それが本当の狙いか」
「知りませんよ。とにかく、ここは怪我人が双方にいるということで罰は下っています。校則違反した件については、見逃してはもらえないでしょうか?」
頭を深々と下げた。
これには、分が悪いと感じたのか、小雪はばつが悪くなった。
その様子に紫乃は苦笑いした。
「いいじゃないの。ここまで頭を下げたんだから、許してあげなさい」
「紫乃……?」
紫乃の説得に小雪は顎に手を当てて考え込んだ。
それもすぐのことで、小雪から形式的な審判が下される。
「会長もこうおっしゃられているので、今回の一件は不問に伏しましょう」
「ありがとうございます。……秀一、桜庭さんを保健室まで運ぶぞ」
「ああ、了解」
ただ逃げ惑っていただけで無傷だった秀一が頷く。
「そうだ。そこの君」
突如として後ろから声を掛けられる。小雪は、担架で紫乃と一緒にエリカを乗せる作業をしながら、優に対して問いかける。
「何でしょうか。こう見えても忙しいんですよ」
「名前は?」
「葛城優です」
「覚えておこう」
何故、と疑問を抱いたが詩織を保健室に連れて行くことを優先しなければならないから、特に気にはしなかった。











解説


KA(knight arms)

一定量のダメージを貰うと自動的に解除される。魔法師は扱えない。

魔装銃

魔力を弾丸として扱う銃。その他にも色々な魔法を扱う術式演算装置。




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