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  白銀の魔法騎士 作者:歌舞伎山 俊彦
人数設定を変えました。
1(12月18日改稿)
のどかな春の午後。
桜が舞い散る様を彼――葛城優は何となく見つめる。
今は、入学式が終了して新入生は帰宅することとなっている。

――国立魔法科大学付属関東高校。

それが彼の通っている高校だ。
魔法師とそれを守護し倒す騎士を育成する国策機関だ。
優は騎士となるべく騎士科に所属した新入生だ。
成績は、騎士科240名中240位だった。
そんな彼を自分の騎士にしよう、と思っている魔法師は居ないだろう。
だから、彼はこうしてのんびりと佇んでいた。
「おーい、優。そこで何をしてるんだよ」
そんな彼に話し掛けてきた男がいた。
優は、その男に笑顔を向けた。
「何か用か? 三上」
三上と呼ばれた彼は、優の前まで来た。
「やっと見つけた。これから、魔法科の生徒が騎士の勧誘するから、騎士科は校門前に集合しろだって」
「もう帰ってよかったんじゃなかったっけ?」
「やっぱり話しを聞いてなかったか。入学式の後に魔法科の新入生が騎士を選ぶって日程に言ってただろ?」
「うーん……」
顎に手を当てて思い返した。
三上に言われても思い出せない。コイツ、嘘ついてるだろう。
「おい、嘘ついてるだろう」
「バカやろう」
三上は優の頭をチョップした。
「いでっ。何するんだよ」
「とにかく行くぞ、万年最下位」
「これからの未来を暗示するようなことを平然と言ったな」
耳を引っ張られながら連行された。
「行くから! だから耳を引っ張るな」
「はいはい」
耳から手を離した。
優は痛む耳を押さえながら、三上の後をついて行くことにした。
「まったく、ヤらしい決まりだよ」
ぼやいた。
魔法科に所属する生徒は、騎士科から自分を守護してくれる生徒を最大1人か5人まで選ぶ。
6月まで決めればいいから、別に今決める必要がない。
そう思っているから、優はこうして呑気に桜を眺めていたのだ。
校門前に着くと、一年生の魔法科100人の生徒と騎士科の生徒でごった返していた。
「見ろよ、三上。まるで人がゴミのようだ!」指を指して優がイタい発言をする。
「止めろ。恥ずかしいから」「イタい子を 舐めたらいけない 中二病」
「マジで恥ずかしいから!」
お願いだから止めてくれ、と懇願する三上。
無視していると、優は宙を舞った。
「ぐはぁぁぁ!」
女生徒が彼の顎に掌低を叩き込んだのだ。
コンクリートの地面に後頭部をぶつけるも何とか立ち上がった。
彼は、目の前にいる女生徒を睨みつけた。
「何しやがるんですか、この娘は!」
殴った彼女は「フンッ」と鼻を鳴らす。
「公衆の面前でイタい発言だけは止めてくれないか?」
「キツッ」
「キツッ」
2人して同じ感想だった。
初対面の人間に対してなんと無礼な人間だ。
そう思ったが、短く切り揃えられた髪に目つきが鋭く明らかに鍛えてる肉体を持つ少女に抗議するのは気が引けた。要するに彼はヘタレだった。
「誰、キミ」
「私は、アリシア・アルジェントだ。そっちは、三上秀一と葛城優だろ?」
「何故に名前知ってんの」
「私が知っているのは、最下位と次席と主席の名前くらいだ」
半ば感心するが、最下位の俺はイイ意味で覚えられていないだろう。
三上が優の肩に手を置いて、耳打ちした。
「あの子、騎士科で学年三位のヤツだぜ」
「マジで? どうりでな」
「なにが?」
「鍛え方が違う。おまえと大違いだ」
「お前もな!」
「一体何を話してるんだ?」
「うーん、君の身体について」
ちょっと言葉を間違えた。間違ってはいないかもしれないが、彼女が自分の身体を抱く仕草をしたところを見るに間違えたのだろう。
「まったく女子をそんな色物的な目で見ていると、誰も寄りつかないぞ」
「いやー、鍛えられてるよな……とか言ってただけなんだが」
「解るのか?」
「察するに、剣を使うために鍛練してるね」
「良く分かったな」
当たっちゃったよ。当てずっぽうで答えただけなのに。
「それにしても、次席と最下位が仲良く来るなんて、どういう関係なんだ?」
「小学校高学年からの付き合いなんだ」
秀一が答える。
「いわゆる幼なじみか」
「俺としては、女の子の幼なじみが欲しかったよ」
「まったくだよ。なんでこんなヤツと幼なじみでいなきゃならないんだよ」
「幼なじみというより腐れ縁だな」
アリシアが納得する。
優は、秀一とアリシアが仲良く談笑し始めたのを好機として、現場からの撤退を試みた。
静かに誰にも悟られないように音もなく消えるのは、ある意味で簡単な作業だった。
2人から距離を取ると、少し名残惜しいが帰ることにした。
と、その時だ。
「あら、どこに行くのかしら?」
背後から声を掛けられ振り返った。
黒い髪に雪のように白く瑞々しい肌。切れ長の瞳で大和撫子を体現したかのような少女は、彼にニコッと微笑んだ。
優は、昔どこかで見たことがあるようなきがするけど、それがどこか解らず怪訝な顔をした。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないです」
「覚えててくれなかったんですね」
「はい?」
「何でもないですよ」
そう言った彼女の表情は、どこか悲しそうだった。
何となくだけど、彼女は俺の何かを知っている。
その何かは不明だが、今の内に処理しておくことに問題はない。
多少なり危機感を感じた彼は、何気ない動作でポケットに隠し持っている銃のセーフティーを外した。
排除は一瞬だ。銃口を額に向けて引き金を引けばいい。その一瞬の動作が、さっきから集まっていたが注目している他の生徒にバレるか否かだ。
静かに殺気をたぎらせる。
「いいのかしら?」
しまった。悟られてしまったか。
「一瞬で殺れたとしても、状況から考えれば貴方が疑われることは明白よ」
「何のことやら解りかねます」
「気をつけた方がいいわ。ここにいる一年生にはバレてないでしょうけど、生徒会にはバレてるわ」
視線だけ伺うと、斜め後方で生徒会に属しているだろう女性が魔装銃に手を掛けていた。
魔装銃とは、魔力を弾丸として撃ち出す魔法師の武器のひとつだ。
間違いなく、現時点で銃を取り出したら撃たれるだろう。
「クソッ」
舌打ちして、優はセーフティーをかけ銃を離した。
それと同じくして後方の生徒会も銃に手を掛けるのをやめた。
「ご忠告どうも」
「取引しますか?」
「はい?」
突拍子もない提案に目を丸くした。
「私が貴方の秘密をバラさないようにするためにも、貴方は私を監視する必要があるんじゃないかしら?」
「何が望みなんですか?」
「簡単なことです」
一拍おいて彼女は優を指差して告げた。

「葛城優くん、君を私の騎士に希望します!」

「へ……」
監視するなら、この提案は願ってもないことだけど、周囲の『有り得ない』や『冗談だろ』という反応から察するに有り得ない提案だった。
だが、これは好機だ。
もしバラそうとすれば、その頭を撃ち抜けばいい。それだけの事だ。
そう結論づけて、優は――
「いいですよ」
受け入れるのだった。


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