体罰問題は豊川工陸上部だけの問題ではない。また、部活動だけの問題ではない。
だが、なぜ豊川工陸上部の体罰が見過ごされてきたのかを考えることは重要だ。
かつての部員の父親は「息子の将来を考えると、当時は胸にしまっておくしかなかった」と説明する。
「教諭の指導力は高く、大学へのパイプもあった。体罰や暴言について口をつぐむしかなかった」
高校、大学を通じて長距離は野球と並んで人気スポーツ。箱根駅伝の強豪大学に特待生で入学できると、学校によっては授業料だけでなく、寮費や遠征費なども免除されるという。
特待生と、単なる推薦入学では4年間の負担差額は場合によっては1000万円を超す。往路、復路ともに視聴率30%に迫る箱根駅伝は、大学にとっても魅力的なコンテンツ。優勝すれば受験料収入が億単位でアップするという声も聞く。
こうした状況を背景に、大学のスカウトは早めに動く。2年生の段階でほぼ半分の枠を埋める学校もあるという。そうなると、選手たちは早い時期になんとしても結果を出さなければならない。
豊川工の教諭(50)は当初、純粋な競技力の向上を願って指導を始めた。だが、教諭の思惑を越えて、大学のスポーツビジネスは高校の長距離界に触手を伸ばした。
教諭も部員も保護者も、このなかで、本来の部活動の枠を踏み出してしまった側面もありそうだ。
体罰問題は1つの学校や高校長距離界だけの問題だけではない。そこには少子化を背景に生き残りを駆け、脇目もふらずにひた走る、大学経営陣の必死の思いがある。
さらに、その先には実業団が有望な大学生、高校選手を待ち受ける。そして、それらを支えるのは、TV画面を通じて声援を送るわれわれ駅伝ファンだ。
豊川工の体罰問題を考えるとき、駅伝を見て興奮し熱く感動する、われわれ自身の心の底を探ることを忘れてはいけない。
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