安倍晋三首相がTPP交渉に参加する意向を固めたことが分かった。2月下旬の日米首脳会談後、国内調整を経て正式に表明する方向だ。ほかの経済連携交渉を円滑に進めるためにも早期の農業改革が急務となる。
安倍晋三首相がTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加する意向を固めたことが本誌の取材で明らかになった。安倍首相に近い政府関係者などが「首相のハラは固まっている」と明言した。
2月下旬のバラク・オバマ米大統領との首脳会談で交渉参加への意欲を表明。自民党との調整や米国など関係国との事前協議を加速し、早期に正式に参加表明する方向で調整を進める。
TPP交渉に入るにはすべての交渉参加国による承認がいる。特に米国は、政府が議会の了承を得る必要があり、手続きに90日超かかる。
今年のTPP交渉は3、5、9月の開催が予定されている。仮に3月に参加表明しても正式に交渉の席に着くのは9月になると見られる。TPP交渉に参加する11カ国は年内の交渉妥結を目指しており、ギリギリのタイミングで交渉に滑り込む格好になりそうだ。
今夏の参院選を控え、自民内では農業団体などの反発を懸念し、交渉参加への反対論が渦巻く。
それでも安倍首相がTPP交渉参加へとアクセルを踏む背景には、米国などとの内々の調整を通じて関税撤廃の例外措置を確保できる余地があるとの認識が深まったことがある。
「聖域」確保に米国と共闘も
日本がTPP交渉参加に躊躇してきた大きな理由は、コメなど高い関税をかけている農産物が多いためだ。日本が結んできたFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の品目ベースの自由化率(10年以内に関税を撤廃する品目の割合)は84〜88%。各国とのFTAで軒並み96%以上の自由化率を実現した米国との差は歴然だ。
「米国主導で原則100%の自由化を求められるTPPに入れば日本農業は壊滅する」との農業界の声を踏まえ、自民は昨年の衆院選の公約で「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、交渉参加に反対する」と明記。「聖域」の確保が交渉参加の条件との相場観が広がっている。
この点に関し、外務省幹部は「米国の当局者も一定の例外措置を確保したいのが本音。交渉の中で堂々と日本の立場を主張すれば最低限の聖域は守れるはずだ」と語る。
例えば、米国はオーストラリアとのFTAで砂糖と一部の乳製品を関税撤廃の例外に設定。TPP交渉でも豪との間でこうした品目の関税を維持する考えを日本側に示唆している。農林水産省幹部も「砂糖や乳製品の扱いは日米で共闘できる」と期待する。
安倍首相はオバマ大統領との会談で、自由化の例外扱いに関する大統領の基本姿勢を確認する方針。今月12日の衆院予算委員会では「日米首脳会談で(例外があるとの)感触を得られた後、様々な影響を考え参加の最終的な判断をしたい」と強調した。
米国との事前協議が前進するメドが立ってきたことも大きい。焦点の1つの米国産牛肉問題は日本政府が今年2月1日から輸入対象の月齢を20カ月以下から30カ月以下に拡大し、歩み寄りを見せた。
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