社説:G20金融会議 本質曇らせた円安論争

毎日新聞 2013年02月17日 02時32分

 不毛な論争に乗っ取られた−−。そんな印象が残るモスクワでの主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議だった。

 最大の焦点となったのは、安倍政権の経済対策である。昨年末以来、円が急テンポで値下がりし、海外から「円安狙いの金融緩和」「通貨戦争をもたらす近隣窮乏化策」などと非難の声が上がっていた。このため、日本の金融緩和はデフレ脱却という国内目的か、輸出競争力を高める円安目的か、との議論になった。

 まずG20に先立ち、先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁らが、通貨安狙いの金融緩和は問題だが国内の景気浮揚目的なら構わないといった不可解な声明を発表した。安倍政権への批判か支持かで解釈が分かれ、市場はかえって混乱した。

 結局G20は「通貨の切り下げ競争は控える」と“一致”を取り繕ったが、何ともむなしい決着だ。

 確かに、政府や与党の要人が具体的な相場水準にまで言及して円高是正を唱えていた点で日本は突出していた。だがこれを別とすれば、先進国はどこも極端な金融緩和を進めている。リーマン・ショック後、真っ先に前例のない量的緩和を導入したのは米国だった。日本の緩和を正面から批判できないのはこのためだ。

 本来、問われるべきは、先進国に広がった際限なき金融緩和策そのものであるはずだ。功罪の問題であり、政策が「国内目的」か「通貨安誘導目的」かと議論することに、あまり意味はない。

 極端な金融緩和は実体経済の外でゆがみを生む危険がある。物価は安定していても証券や不動産のバブルを招いたり、原油や穀物などの先物価格をつり上げたりする。また、金融緩和を積極推進すれば、結果的にその国の通貨は安くなろう。先安感のある通貨を安価で借り、高リターンが見込まれる新興国などで運用する投機を加速させる恐れもある。

 だが、ゆがみはいつか限界に達し、その衝撃は長期にわたって世界経済を痛めつける。まさにリーマン・ショックで露呈したことだ。

 構造改革や財政再建、貿易の自由化にこそ本腰を入れて、長続きする安定成長を目指すのが王道だ。それは後回しで、楽な金融緩和に依存し、市場への影響力が乏しい新興国に「不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきだ」(浜田宏一内閣官房参与)と主張することは先進国のあるべき姿だろうか。

 世界経済の安定があってこそ自国の繁栄を望めるグローバル化時代である。「主要国のお墨付きを得た」と解釈して金融緩和路線を突き進み、ゆがみを醸成することのないよう、安倍政権に念を押したい。

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