目に映るのは side律
目の前で戦う優菜は綺麗だ。
舞うようにっていう言葉が相応しい動き。無駄がなくて精練された動作。
昔はこんな風に戦ってる所見せてくれなかったから初めて見る。基本的に血を僕たちに見せようとしなかった。それが魚の血であっても。……妙に過保護だったよね、優菜。
突然講師として現れた人は、綺麗な人だった。何処か現実離れした容姿の人。……それは別に良いんだけど……何と言うか、優菜に近い。今の優菜にとって僕らは初対面だから仕方ないけど、それでも優菜と親しげな彼を見ているとどろどろとした気持ちが込み上げてくる。所謂嫉妬ってものだよね、これ。……僕が縛る権利なんかないのに。醜い独占欲を持つ自分が嫌なりそうだ。今も昔も彼女は僕のものじゃないのに。
「ねえ、律」
隣にいた紫野が口を開く。今は優菜が放った回し蹴りを鈴鹿さんと呼ばれた人が軽くよけた所。
「私、あの人が羨ましいわ。……というか嫉妬してる」
優菜と鈴鹿さん?から目を逸らさずに言う。
「私たちはやっと控えめな笑顔が見れるようになったってのに、あの男は満面の笑みだよ!狡くない?」
「そうだね……」
僕は紫野も羨ましい。嫉妬をはっきりと口にできる紫野が。僕は怖いのに、紫野みたいに感情を出して拒否されたら?重いって思われたら?それがたまらなく怖い。だって優菜は覚えてないんだから……。
僕、女々しいな……。
ねえ優菜。今の君は僕が思いを伝えても笑ってくれるのかな……。
そんな色々考えてしまった試合は優菜の負けという形で終わりを告げた。綺麗な一本背負い、床に投げられた優菜は満足げな表情を浮かべていた。
その日の昼休み、僕は紫野から呼び出しを受けた。
「どうしたの?」
「決まったわよ」
そう言って差し出されたのは一つにまとめられた書類。
「うん、やっぱりこうなるよね」
「これから色々と大変よ」
にやりと笑った紫野。
「うん、そうだね」
この言葉に微笑を返す。
取りあえず今はあれこれ考えるのはやめよう。
今の僕たちにはまだたくさんの時間が残されているのだから。
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