体育の授業にて
「律、最近女の子からよく挨拶されるんだけど何でなのかな?」
朝の教室に行く途中、頬を染めながら挨拶してくる女の子たちに軽く手を振りながら律に聞くと何とも変な顔をされた。
「本気で言ってる?」
「ん?だって私が知らない子たちもいるし、クラスの子じゃないでしょう?」
「まあ、そうだね。……あの視線に気が付こうよ……」
「何?」
「ううん」
最後の方がよく聞こえなかったので聞き返すと、何でもないというように首を振られた。何故、そこで軽いため息を吐く?
「おはよう!優さん!」
「あ、おはよう」
クラスメイトとは中々良好な関係だと思う。基本的に私は優さんと呼ばれている。別に呼び捨てでいいと言ったら真っ赤な顔でダメです!と言われたのでそのままになっている。
「御言神、おはようー」
「ああ、おはよう」
男子生徒とも良好だな。クラスのムードメーカーみたいな子と話していたらいつの間にやら懐かれた。
「ホームルーム始めるぞー、席着けー」
チャイムが鳴ると同時に、黎が入ってくる。いつも同じ時間だよね、意外と几帳面なのか?
「……特に言う事ないな。あ、今日の合同体育だが二年と一緒だからな。まあ、問題起こさないようにしろよー。あとは手早く着替えて移動すること。以上」
その言葉が終わると同時に教室は賑やかになった。
「体育……めんどくさい……朝から」
「えー!なんで!いいじゃん、体育!」
「全然良くない」
ああだこうだ言いあってる優紀とりりは取り敢えず置いといて、律の方を向く。
「確か選択できるんだよね?武道か武芸」
「そうだよ、オレは武道だけど優菜はどうする?」
「ちなみに武芸選択した男子はいるけど武道選択した女子は紫野しかいないぞ」
「あ、黎だ」
ひょっこりと律の後ろから出てきたのは、黎。
「よ、もうお前らだけだぞ、残ってんの」
「あ、ほんとだ」
周りを見ると教室には私たち以外誰もいなかった。
「で、優菜はどうすんだ?」
「……武道かな」
「「やっぱり」」
「え、何?その反応」
「優菜はきっと武道だろうなって思ってたから」
「まあ、武道は男女平等で普通の奴にはきついけど優菜なら大丈夫だろ」
「ええええ!!ゆったん、武芸じゃないの!?」
「りりは武芸なんだね」
「うん!だって茶道の時はお菓子食べられるんだよ!」
「りりらしいなあ」
「ゆったんも行こう!武芸にしよう!」
私の手をぎゅっと握りしめながら言うりり、ちょっと痛い。力入れ過ぎだって。
「ダメ、優菜はこっち」
反対の方の手を握られたと思ったら優紀が居た。
「何でー!!」
「何でも」
君らは子供か、さてこの状況どうしようか。
「ほれ、やめろ。そろそろマジで時間くるからな」
そう言いながら強引に二人をはがしたのは黎、……教師なのに時間大丈夫なのかな?
「優菜は武道。はい、もう決定!りりは大人しく愛しの蒼哉の所に行ってこい!」
「なっ……!黎ちゃんの馬鹿ー!!」
真っ赤な顔になったりりはそのまま黎に一発入れると走り去った。
「もしかして、りりって」
「うん、蒼哉の事好きみたいだよ」
そうなんだ……。それにしても真っ赤なりり可愛かったなあ。
「広い……」
武道館に着いたのはいいけれどここも吃驚するくらい広い。四試合くらいなら軽く出来そう。今着ているのは新品の柔道着、堅いなあ。
「優菜ーー!!」
「うっ」
凄い勢いで抱きついてきた紫野を受け止める。
「やった!合同体育は一緒だ!」
「取り敢えず落ち着こうね、周りが驚いてるから」
特に二年生の人が。クラスの女の子たちが教えてくれたのだけど、紫野は冷静沈着でクールな現実主義者らしい。……え?別人じゃないの?って言いかけたね、あの時は。だって初対面で泣かれたしそれからも結構なハイテンションだったから全く想像着かないんだ。だけど、周りの人は冷静な紫野を知ってるから戸惑いを隠せないみたいだね。
「やだー。優菜充電する」
本当に紫野なんだろうか、その会長は……。
「おい、そこ!いつまでもいちゃついてないでこっち来い!」
「黎!邪魔すんな!」
「授業だっての!」
あ、武道担当って黎だったんだね。
「ほら、紫野。行こう」
「はーい」
声をかけると途端に態度が変わる。
「紫野……お前な……」
ややげんなりしたようにため息を吐く黎、お疲れさま。
「今年から武道の特別講師がつくからな、どうぞ」
生徒を全員集めた黎はそう言うと後ろの扉に声をかけた。ちなみに私と紫野、律は最前列にいる。
「若人はいいなあ、元気があって」
扉の向こうから入ってきたのは、鮮やかな艶のある赤髪を肩に流した麗人。切れ長の青の瞳を細めて、微笑んでいる。その見覚えのある姿に、考えるよりも先に声が出ていた。
「鈴鹿さん!」
「おぉ、誰かと思えば緋音ではないか」
嬉しそうに笑ったその人に、私は走りよった。
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