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  紅一片 作者:散葉
噂の元
そんな紫野と律の会話から時はさかのぼり、三日ほど前。


(えーと、確かこっちだっけ)
昼休み、私は珍しく一人でいた。普段は一緒に食事する律、優紀、りりの三人は教師から頼まれ事や生徒会からの呼び出しやその他諸事情によりいなかった。食堂ではなく、たまには購買で何かを買って外で食べようと思い立った私は周りの景色を眺めながら廊下を歩いている。

(いい天気だなー、中庭にしようかな)
「ちょっと、そこの貴女」
(購買ってどうなってるのかな?ここなら普通とは違うんだろうな)
「ちょっと!貴女よ!金髪の!」
「はい?私ですか?」
「そうよ!」
誰か探しているのだなーと思っていたらどうやら私に用があったらしい。
振り返るとくるくるの髪のつり目の女の子が何人かの女の子を連れていた。何か睨まれてる気がする……。
わたくしを無視なさるなんて、いい度胸ですわ」
「えっと?」
私この人の事知らないよね……?何かやったっけ、いや初対面だし……。
「貴女、御言神 優菜さんですわね?」
「え?あ、はい。そうですよ」
上から下まで品定めするように、見られる。何でしょうか?そんな視線向けられると落ち着かないんだけどな。
「確かに、お顔は綺麗ですわね……。あの方々に見劣りしませんわ。成績も鴉宮様の上をいくほど……」
何やら考え込んだ女の子。……もう行ってもいいかなあ、私まだお昼食べてないんだけどな。聞いてみるかな。
「もう行ってもいいですか?」
「されど、家柄が分かりませんわ……。それさえなければ完璧なのかしら?いえいえ、けれど」
返事なし。うん。
「では、失礼しますね」

そう言ってぶつぶつと独り言を言っているその子に背を向けた時
「お待ちなさい!まだ話しは終わってなくてよ!」
甲高い声に呼び止められた。

「私、お昼食べたいのですが」
「私は貴女を生徒会役員だなんて認めませんわ!」
「はい?」
きっと強い視線で睨まれる。それにしても
「いや、私別に生徒会役員ではないんですけど」
「貴女、編入した方だから知らないのでしょう。教えて差し上げるからよく聞きなさい」
「いや、別にいいで「黙ってお聞きなさい」
「……はい」
この子、人の話聞かないなあ。
「この白陽学園には皆の憧れであるそれはそれは気品に溢れる方々がいらっしゃるの」
「はぁ……」
「美貌、教養、知識だけではなく、家柄まで。全てをかね揃えたもう神に愛されたとしか言いようのない方々……!」
昼休み中に終わるかな……。
「初等部から大学部までそれそれ全ての者が憧れる存在!それ故に、全役員が埋まらない事も多々ある!」
楽しそうだなあ、彼女。何かキラキラしてる。
「それが生徒会役員ですのよ!特に高等部生徒会は別格。最も全生徒が憧れる場所ですのよ!」
天を仰ぎながら、両手を一杯に広げて熱弁をふるうその子に後ろに控えていた女の子たちが頷いている。
「その方々には親衛隊またはファンクラブが存在し、名を呼ぶのも話しかけるのも恐れ多い。常に皆が見守り影から支えるべき存在。……それなのに、貴女は!」
勢い良く指を指してくる女の子。ちょっと行儀悪いよ。人を指差しちゃダメだって。
「ぽっと現れて、鴉宮様や狐村様だけではなく氷ノ影会長まで取り込んで!あの方々と比べると貴女は粗末すぎるのですわ!近づいていくなんて、私許せませんわ!」
後ろの女の子たちもうんうんと頷く。
「そう言われても、私も何でああなってるのか、理解できてないんですけど」
そう、気が付けば近くに律たちは居る。同じクラスの律や優紀、りりは分かるけど、紫野や蒼哉凄いときは何故か黎まで私の傍に集まっている。それこそ、文字通り朝から晩まで。
「では、貴女が離れればいいでしょう!いえ!離れなさい!!」

「……それは、無理ですね。泣かれるっていうのもありますけど、何より私があの人たちの傍が心地良いって思ってますから」
一度真樹叔父に呼ばれて、朝早くに寮を出た事があった。携帯なんか持ってないから律たちには何も言わなかった。その時は教室では優紀に「何でいなかったの?」りりは「ゆったん!寂しかったよ〜」律は無言だったけれど若干寂しそうだった。あの後は紫野も来て「優菜〜〜!!」って若干涙目になっていた……大変だった。携帯を買うべきだって本気で思った瞬間だったなあ……。
まあ、そんなことがあったのもあるけれど、一番の理由は私があの人たちを自分の狭い世界の中に入れてしまったから。今まで、家族とその他の特例以外私の懐に入ってきた人は居なかった。それをあの人たちは僅かな時間で中に入ってきた。入ったら私の感情が必ず向くのを私は知っている。まだ彼らのあの過剰なまでの信頼や親愛の情には戸惑う事もあるけど、それでも傍にいたいと思った。それに私はまだ彼らを思い出してない。彼らのいう「優菜」が私なのか違う人なのかは分からないけれどそれを突き止めるまでは少なくとも私から離れるつもりはない。
「だから、無理ですよ。出来ません」
はっきりと有無を言わせない笑みを浮かべて、私は言った。

若干呆然としている彼女たちを置いて、私は購買に行こうと歩き出した。うん、自分の決意も出来たし満足満足。そして何よりお腹すいた。
「お、お待ちなさい!……きゃっ」
後ろから聞こえた悲鳴に振り返ると女の子が何も無い所で躓いて倒れている所だった。
咄嗟に彼女に走りよって
「危ない!」



「あ、れ……?」
躓いた私は、来るであろう痛みに堅く目をつぶっていた。けれど、いつまでたっても予想した痛みは来ない。
恐る恐る目を開けると
「危なかったね」
私の身体は抱きとめられていた。じんわりと温かい腕の感触がする、そして、
「大丈夫?」
その声に顔を上げると思ったよりも近くに顔があった。
「……!!」
かぁと自分の顔が熱くなるのを感じる。か、顔が近い……!!
さらさらとした透き通るような金髪からは爽やかな香りがするし、白い陶器のような肌はなめらかで、青灰色の瞳には長い睫毛が影を作っていて……う、美しいですわ。
「ん?あれ、顔赤いけれどどうしました?何処か痛む所でもあるんですか?」
背も高いですし、まるで童話から抜け出した王子様のようですわ。
「本当に大丈夫?保健室連れて行こうか?」
「はっ、い、いえ、大丈夫ですわ!何ともありません」
慌ててそう答えれば、壊れ物を扱うように立たせてくれる彼女。
「そう?あ、ちょっと動かないでね」
「へ?」
ゆっくりと近づいてくる顔に思わず目を閉じると
「はい、とれた。いいよ」
頬に柔らかな手の感触。どうやら汚れをとってくれたらしい。
「良かったね、怪我なくて。せっかく可愛いのに怪我なんかしたら大変だ」
そういってゆったりと頭を撫でながら、優しく微笑んでいる。
「じゃあ、気をつけてね。また転けないようにね」
ばいばいと、手を振っていなくなった彼女に何の反応も返せないままその後ろ姿を見送った。

「はぁ、かっこ良かったですわ〜」
そんな声が聞こえてはっとする。
「美夜様、ずるいですぅー」
「あの最後の微笑み、最高に美しかったですわー!!」
「お静かに!」
その一言で静かになる。
「私たちは誤解していましたわ。あの方は生徒会に相応しいですわ。私が言った言葉に対してお怒りになって拒絶してもおかしくありませんでしたのに、助けてくださった優しい心。そして、あの紳士的な態度。……皆さん、御言神様の親衛隊を設立しますわよ!この情報を回してくださいませ」
「「「はい!!」」」
そうして優菜の事は巨大な情報網によって広く伝えられた。


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