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  紅一片 作者:散葉
噂の編入生 side紫野
「あぁ、もう!遅い!」
手に持っていた新学期予算だとか書かれた書類を机に叩き付ける。
「机は壊すなよ……」
斜めにいる蒼哉から呆れたような声が聞こえるけど、知らない!
「だって、優菜のこと教えてくれるって言ってたのに律来ないんだもん!」
「まだ連絡来てから五分経ってないし」
「早く聞きたいの!」
「それ、ただの我が侭だろう」
「む、しょうがないじゃない。優菜、噂になってるんだもん、気になるでしょ!」
「お前、本当に優菜好きだよな」
「当たり前!」
「黎より好きなんじゃねえの?」
「それとこれは別!」
別問題に決まってるじゃない!黎はその……恋愛対象として好きだけど、優菜は別次元。お母さんみたいで親友みたいで大切なかけがえのない存在。それは昔から変わらない、ずっと。
「やっと、やっと逢えた」
やっとだよ、優菜。貴女にまた逢えた。
小さく呟いた声は蒼哉には聞こえなかったみたいだけど、何となく理解したみたいで「仕方ないな」なんて言っている。

「失礼します」
「!律!」
「うわあ」
律の声が聞こえた瞬間、思わず駆け寄ったのはいいけれど勢い余って突進してしまった。なんとか耐えたみたい。
「紫野、びっく「遅い!」
律の言葉を遮る。私は優菜の事が聞きたいの!
「……まあ、いいんだけどね。紫野って優菜の事になると性格変わるよね」
分かってるわよ、そんなの。
「私はどうでもいいの。それより優菜は?」
「今は優紀とりりと一緒にいる」
「何処に?」
「食堂」
そっか、今昼休みだっけ。忘れてた。
「記憶は?」
「覚えてない。でも……」
律はそこで一度言葉を切ると、若干視線をそらししばらく考え込んだ後真っ直ぐにこちらを見た。

「必ず思い出す、と僕は思う」
迷いのない言葉だった。
「というのも、初めて優菜に逢った日に優菜気を失ったよね?その時に一瞬だけど懐かしそうな顔したんだ。後は気を失った優菜、少しだけど泣いてた」
それは、私を喜ばせるには十分だった。
「本当?」
「優菜の事で嘘はつかないよ」
「よかった……!」
やっぱり逢ってすぐ分かったように優菜は何も変わってなかった。話しかけた後に記憶がない事が分かってちょっとショックだった。けど短い会話の中に優菜だ、と思う仕草や話し方なんかが在って記憶がなくても優菜は優菜なんだって思えた。それでもあの頃の事を話せないのは残念だし、何より私はまだ優菜に伝えたい言葉がいっぱい在る。だから、思い出せるなら思い出してほしい。

「前世の記憶なんて持ってる方がおかしいけど、でも……私は思い出してほしいな」
「僕も同感。無理に思い出さなくていいけど、いつかはね」

おかしいのは、異質なのは分かってる。それでも、私はまたあの頃みたいになりたいよ、優菜。






「ああーーー!!」
「うわ!?どうしたの?」
「忘れてた!」
「何が?」
「優菜の噂!」
「ああ、それね」
優菜のことが今この学校で一番話題になってる。滅多にいない編入生でしかもあの難しい編入試験を全教科ほぼ満点で合格。この時点で結構噂になってて容姿とか家の事とか色々憶測が飛びかっていた。
で、今現在学園での優菜の評価は「女の子だけど紳士的でイケメンで優しい、そこら辺の男よりかっこいい!」または「ちょっと天然入ってる美人で、初々しいから狙い目!」前者が女子生徒、後者が男子生徒だ。まあ、優菜が高く評価されるのは嬉しいんだけど、生徒会での対処が大変。人気が上がって、生徒会に親衛隊とファンクラブの成立宣言が届いてるし、律がうまく隠してるけど盗撮写真が販売されてたり中等部の子が見に来たり、色々問題が起こってる。

「で、ここまでって、優菜何やったの?」
来ている書類を机に軽く当てながら聞くと、律は視線をさまよわせた。
「うーん、色々かな?」
「具体例!」
「えっと、きっかけは一悶着あって廊下で転けかけた女子生徒を優菜が助けた事かな……。助けたのはいいんだけど、その後に「大丈夫?怪我はない?」で頬を軽く撫でて「可愛い顔に怪我がなくてよかった」で笑顔」
「うわ、何処の王子だよそれ。素でやってたでしょ」
「うん。ためらいもなく」
「天然タラシが……」
「それでその女の子とか周りの女の子がカッコイイって、まあその後も天然発言してたけどね」
「優菜…………」
前世でも似たような事あったじゃん!それで恋人盗ったなって彼氏乗り込んでで来たじゃん!そこは面倒だから変わろうよ!確かに優菜の白に近い金髪に青灰色の瞳の見た目はThe王子!だけどさ。一応女の子だよね?女子口説くな!

「ちなみに男子は?」
「見た目に反して話しやすいのとふとした時の仕草が萌えるらしい。後は意外に家庭的なのも評価高いね、この前僕たちがもらったお菓子とかね」
「…………」
「優菜、最初から僕たちと食事してたからね。それで人目集めてたみたいだよ、あそこ人集まるからね」
「…………」
「そうそう、仕草だと分かんない時にこてんって首傾げるあの仕草とかギャップで萌えるって」
「…………」
「廊下とかで挨拶してくる子とかにも、笑顔で真面目に返すし。後は、」
「…………」
まだあるの?面倒だ、でも言った所で直るものじゃないし本人無自覚だし、
「はあ……」
しばらくしたら、多分ある程度は落ち着くだろう。だから、それまで

「律、頑張って」

律に天然の処理してもらおう!私はやらない!
紫野視点でした。

ここで再び人物紹介を
鴉宮あみや りつ
高校1年生。

狐村こむら 優紀ゆうき
同じく1年生。

日向ひゅうが りり
同じく1年生。


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