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  紅一片 作者:散葉
食堂にて
「優紀!!!」

優紀とぽつり、ぽつりと会話しながらゆっくりと食堂に向かっていると後ろから大声で呼び止められた。

振り返ると、優紀が放置した二人が立っていた。
「優紀ー、置いていくなんてひどーい!」
「優紀、行く前に声かけようよ」
なんて言いながら近づいてくる二人。ほほを膨らませた美少女はつり目でふわふわとした髪を肩まで伸ばした茶髪。
誰もが認める美少女だけど私の目を引いたのは、青年の方だった。

鴉の濡れ羽色をした髪に若干たれ目の銀の瞳。穏やかそうなその顔に、少し成長した同じ顔の青年が重なる。と、同時に頭の中に記憶が流れ込んできた。
私の知らない時代、知らない人、知らない場所………
「君は、誰?」
その言葉と共に私の意識は闇に落ちた。
薄れていく意識の中、「まだ、早い」そんな声が聞こえた気がした。


「ん、」
誰かが、頭を撫でてくれる感触がする。ゆっくりと、ずっと。
「だ、れ」
「あ、起こしちゃったかな。ごめんね」
そう言いながら顔を覗き込んでいるのは、優紀と一緒にいた青年だった。
「ここは?」
頭ががんがんとする。
「休憩室。倒れたんだけど、わかる?」
あ、そうか。彼の顔を見た後に、何かの記憶が流れて……何だった?あの時見た記憶は……。思い出そうとしても輪郭を失った朧げな色しか分からない。何か大切なものだった気がするのに……。
「大丈夫、すまない」
「いいよ、気にしないで」
「ありがとう、えっと」
「あ、僕は鴉宮 律。律でいいよ」
「私は御言神 優菜」
「うん、知ってるよ。優菜」
「?」
そう言った律は何処か私を通して遠くを見ているようだった。その声は愛おしそうにだけど何処か悲しいような響きを含んでいた。
「……改めてありがとう、律」
「どういたしまして。立てる?」
「ああ、おそらく」
「じゃあ、食堂行こう。優紀たちが待ってるから」
差し出された手を握ると、何とも言えない懐かしさに襲われた。



「優菜!!倒れたんだって!大丈夫?寝てなくていいの!?」
食堂に行くと何故か紫野がいた。しかも凄い慌てている。私の身体をぺたぺたと触っておかしな所がないのを確認して安心したのか、今度は笑顔で私を引っ張る。心配になって律を見ると穏やかな笑みを浮かべていた。
「ご飯食べよう!おすすめ教えたげる。律も早くしなさい」
「はいはい」
どうやら知り合いのようだ。少し安心した。

「何?これ」
「タッチパネルよ?これで注文してウェイターが持ってくるのを待つ!簡単でしょ」
レストランだよ、学食の域を出ているってそれ。
「で、この溝に学生証を通すんだけど、今日はあたしが奢るー!」
「え、いいの?」
「いいの!出会い記念!」
「ありがとう」
気遣いが嬉しくて思わず笑顔で言うと
「きゃあー!!優菜可愛いー!!」
抱きつかれました、何故?

「鍋焼きうどんのお客様」
「あ、私です」
速い……。まだ五分経ってないよ、多分。
「いただきます」

…………美味しい。紅のご飯もおいしいけど、これも美味しい。
「美味しい?優菜」
律に話しかけられたけれど一瞬反応が遅れた。
「え?、うん」
「今、噛み締めてたでしょ味」
紫野も自分の海鮮ドリアを食べながら、話しかけてくる。ちなみにここは食堂の窓側の端。向かいに律、隣に紫野。六人テーブルが全て埋まっている。蒼哉、優紀、先ほどの美少女はりりというらしいはまた別に盛り上がってるようだ。

「ぷ、あははは」
「?」
いきなり紫野が笑いはじめた。何があった?何か面白いものがあったかと思い、辺りを見回すけれど特にない。いや、やけに周りと視線が合う。もしかして、注目されている?何故?
「あ〜もう!可愛い!」
また抱きつかれた、私は紫野に何度抱きつかれればいいんだろう。
「注目浴びてるの、気になる?」
若干肩をふるわせた律が問いかけてくるので、頷いた。というか、何故分かったんだ、読心術でも使えるのか?
「顔に出てるから分かりやすいんだよ」
「本当に?」
「うん」
この無表情が?分かりやすい?知らないうちに顔が動いていたのだろうか。初めて言われたな、分かりやすいは。何考えているか分からなくて気味悪いなら言われた事あるんだが……。
「僕たちが注目浴びてるのは、紫野が生徒会長で蒼哉が生徒会役員だからと全員親衛隊かファンクラブがあるから」
…………。
そういうこと、皆美形だからなあ。まあ、あってもおかしくないね。
「解決した?」
「うん、納得」
「大丈夫よ!優菜ならすぐに親衛隊できるから!」
「いや、別にそんな心配してない……」
というか、親衛隊?私は女の子にモテると言う事なのか。嬉しいような嬉しくないような、うーん微妙だ。

それから色々な話しをした。結構盛り上がって食事が終わって暫くしてから別れた。


ベットに横になりながら、今日の事を思い出す。楽しかった、今まであんな風に接してくれる人なんていなかったし、やっぱり何処か懐かしいせいなのかな。……そういえば、紫野達の会ってから面倒だって言わなかったな。よく言ってたのに。
「なんか嬉しい」
自分が変わっていってる気がする。周りに対して無関心じゃなかったし、感情も芽生えた。
「皆のおかげ、かな」
このまま、一緒にいたら私は……どうなるのかな。
悪い事にはならないだろうな、きっと。
「明日、楽しみ」
そう呟いて、私は眠りに落ちた。


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