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  明日への導 作者:散葉
01 檻の中からこんにちは
“理不尽”という言葉を知っているでしょうか?
辞書で調べると道理を尽くさない事、道理に合わない事。
そんな意味だと思うのです。

何故、そんなことを言っているかというとですね……。






私が今檻の中にいるからなのです。

あ、ちなみに私はちゃんと人間なのですよ。

こんな状況を理不尽と言わないで何というのでしょう。

私の入っている檻には。大きな布がかかっていて隙間から光が漏れています。がやがやとした話し声が聞こえるので、競売はもう始まったのでしょう。

ああ、私はいったい誰に買われるのでしょうか。

「さて!いよいよ本日の目玉です!」

近くで男の人の大きな声が聞こえたと思ったら、勢い良く布が取られました。思わず眩しさに閉じた目を開くと、周りにたくさんの人!

じっと値踏みするように見てきます。

怖いのです……。

「愛らしい容姿にかわいらしい声!華奢な体に白い肌!愛玩用にするもよしメイドにするもよし!」

愛玩用はちょっといやなのです。
それに若干褒め過ぎだと思うのです、私そんなに可愛くないですよ?

「ほら、なんか話せ」
ぼそっと男の人がいってきます。

「あ、の、えっと、よろしくお願いしますなのです……?」

目線で脅された少女が戸惑いながらも声を漏らすと周りは色めき立った。
それくらいに少女の容姿は整っていたのだ。
少し癖のある色素の薄い茶色の髪に長いまつげに縁取られた大きな深い青の瞳、透けるように白い肌に華奢な少女らしい身体。
鈴を転がしたような可愛らしい声、名工が作った人形のような少女に誰もが見とれていた。

「それでは、五千万ベルからスタートです!」

六千万、七千万、八千万、八千五百……。
自分に値段が付けられていくというのはなんだか複雑なのです……。

そんな時でした。
「ーーー……一億だ」
よく響く声がしたのです。

その声がする方を見ると、美形さんがいっぱいでした。

そのうちの一人、あ、この美人さん着物着てるのです!が大きな箱のようなものを
床に置くと開きました。
その中にはびっしりとお金が詰まってたのですよ!
私は初めて見たのです!こんな大金。

「一億!それ以上はありますか?……ありませんね。では、商談成立!」
そういうと、檻ごと私は美形さん集団にわたされました。

そのうちの一人の一番若いお兄さんが檻を開けてくれました。

「大丈夫か?」
「はい、大丈夫なのですよ」
「そうか、よっと」

そういうとお兄さんは私を横抱きにしたのです。

「きゃう!」
突然の事にお兄さんにしがみついてしまいました。
「そーやって捕まってろよ」
そのまま歩き始めるお兄さん。

速い……!!
速いです!
人を抱えてると思えない速度で進んでいくお兄さん。
さっきの美形さんも普通に付いてきている……。
皆さん速いんですね……。
妙な所で感心しているうちに、船に乗っていたのです。

はて……?
いつの間に?

「はい」
そういうと私を降ろしてくれるお兄さん。
「あ、ありがとうございます」

今気づきました!
このお兄さん、美人さんなのです!
声を聞かなかったら、絶対お姉さんだと思ってたのです!
「……悪かったな女顔で」
「あれ……何で分かったのですか?私の思った事」
「全部口に出してたぞ、あんた」
「ほええええ!?ごめんなさいなのです!」
「いや、別に良いけど」

「ううう~~~」
私はなんと失礼な事を言ってしまったのでしょう……。
申し訳ないのです……。
「おい、おーい!」
どうしたら良いのでしょう!
せっかく優しそうな方々に買われたのに、また売られてしまったら……。
そんなのは嫌なのです~!
「おい!」
「ひゃうう!?」
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫なのです」
「そうか、なんて名前なんだ?」
「あ、紫苑というのです」
「オレはユウヤ、でこの船は海賊船だ」
人差し指を下に向けて、言うユウヤさん。
「……皆さんは海賊さんなのですか?」
「ああ、そうだな」
「海賊さんって品がいいのですね」
「は」
目の前のユウヤさんは、海賊に見えないほど品がいいのです。
着ている服も清潔でさっぱりとしていて爽やかな美人さんなのです。
さっきの美人さんも綺麗だったのです。
うんうん、と一人で納得していると

「はははははっ、面白い嬢ちゃんだな」
その言葉と一緒に頭をぐしゃと撫でられたのです。
う~~目がまわるのです~。
「はい、そこまで。その子目まわしてるから」
「ん?ああ、すまん」
「う~~」
ぐるぐるとする頭を押さえながら上を向くと

美人さんとイケメンさんがいました!
美人さんはさっきお金を渡してた人なのです。黒髪に深い海みたいな青の瞳の美人さんです。
髪を横で一つに結ってよもぎ色の着物を着たその人は
「大丈夫かな?ごめんね、乱暴者で」
と言いながら優しく頭を撫でてくれたのです。
「しょうがねえだろ、思ったよりも力入っちまったんだよ」
そう言うのは、焦げ茶色の髪と瞳のかっこいいイケメンさんなのです。
かっこいいのですが、どこかなんと言うのでしょうか?

軽薄そうな雰囲気が漂っているのです、お兄ちゃんに言われた近づいてはいけないタイプの人なのです!
「うん、よくわかったね。リュウが女関係だらしない人種だって」
「ふえ?」
「あんた、また声に出てたぞ。まあ事実だから別に良いけど」
「え!?またなのですか」
どうしたのでしょうか、さっきからこころの声が漏れているのです……。
「おめぇら、さっきからオレの扱い酷くねえか」
「別に」
「いや、まったく」
皆さん、仲が良いのですね。
いいなあ。
なんてぽや~としていると、目の前に美人さんの顔があったのです。
「きゃ」
「あ、ごめんね。自己紹介しようかと思って、私は結木 要。この船では船医をやってるんだ」
「オレはリュウ=クォーク。船長だ」
「船長さんなのですか?」
どうしましょう、さっき失礼なことを言ってしまったのです……。
「気にしなくていいよ、リュウだし」
「……もしかして私また?」
「うん、声に出てたよ」
「うぅ~~」
「うん、やっぱり可愛いなあ。君はなんて名前なの?」
「え、かわ、えっと紫苑というのです」
「紫苑ちゃんか、うん、名前も可愛いね」
褒めてくれるのはいつもお兄ちゃんだったので照れるのです。
「///ありがとうございますなのです……」

「でたな、天然タラシ」
「ですね」
なんて何処か呆れたように呟く船長さんとユウヤさんの声は私には聞こえてなかったのでした。



「そういえば、私は何をしたら良いのですか?」
あの後、腹減った!と叫んだ船長さんに連れられて、食堂に来ているのです。
あ、このパンケーキ美味しいですね。蜂蜜がたっぷりかかっていて、甘いのです。
「そーだな、……特にねえな」
「へ?では何で私を買ったのですか?」
「それはだな………気まぐれだな」
「?」
ちらりと、ユウヤさんを見た船長さんはそういったのです。ユウヤさんが関係あるんでしょうか?
うーん、わからないのです。
「まあ、取り敢えずユウヤと一緒にいろ。こいつに手出そうとする奴はそうそういねえから」
「あ、はい。了解したのです」
びしっと敬礼付きで返事をすると、船長さんはくしゃっと頭を撫でてくれました。
さっきよりずっと優しい手つきで。お兄ちゃんに似ているのです。元気にしているのでしょうか?
「次陸に上がったら紫苑ちゃんの服買おうか」
要さんが私の服を見ながら言います。
「そうだな、ずっとそれってわけにもいかねえしな」
私が今着ているのは白いシンプルなワンピースで、膝より少し長いくらいの丈のウエストをリボンで結ぶものなのです。
これも人身売買の為に着ていなければ凄く可愛いのです。
「まずは、風呂行ってこい。結構入れてねえだろ」
軽くなら入ったのですよ。競売の前に。
でも、ゆっくり洗えるなら嬉しいのでお言葉に甘えるのです。
「オレのとこでいいよな。人来ねえし」
「じゃ、私は紫苑ちゃんが着れそうな服探してくるよ」
「ああ、ユウヤ」
「はい、よっと」
「ふえ?」
また横抱きにされたのです。
「ユウヤさん!?」
「人がばたばたしてて危ないからな、それと
ユウヤさんて呼ぶな、呼び捨てで良い」
「え、でも」
「何か慣れない」
「じゃあ、ゆー君ではダメですか?」
やっぱり呼び捨ては慣れないので、恥ずかしいのです……。
ちらっとユウヤさんを見ると、若干目を丸くした後小声で「いいよ、それで」と言ってくれたのです。
それを見た船長さんはニヤニヤと笑っていましたが何でなのでしょう?


結局ゆー君に抱えられたまま船長さんの部屋に着いた私は、ただいまお風呂に入っているのです。
少し小さめのお部屋にシャワーと湯船が付いていました。きちんと石けんなども用意してあって綺麗に掃除されていて全然海賊船には見えないのです。
取り敢えず髪を洗うです。私の髪は長いので髪を洗うだけでも一苦労なのです。
何度やっても髪を速く洗えないのです……。
ようやく髪を洗い終わり、次に身体を洗うとそのまま湯船に入ります。
何故かは知らないのですが、お風呂にお湯が入っていたのでありがたく使わせていただくのです。

そこで、ほっと一息。私が買われたここは想像と違っていい人達ばかりだったのです。海賊さんはもっと荒いイメージがあったのですがゆー君も要さんも何処か品があるのです。あ、でも周りの船員さんたちは海賊さんっぽい雰囲気でしたね。うーん、でも甲板で挨拶している時皆さん優しかったのです。やっぱりこの海賊団は変わった海賊さんなんでしょうか。

「紫苑ちゃん、着替えここに置いておくね」

あ、要さんの声なのです。
「分かりましたです」
では、そろそろ上がりましょうか。

用意してくださったのは、白いシャツに黒いズボンでした。
やっぱり少し質のいいものが多いのです。
着たのはいいのですが、やっぱり男の人用なのか大きいのです。
シャツで膝くらいまで隠れてしまいますし、袖も手が見えないのです。
取り敢えず袖を肘くらいまでおって、ズボンのウエストは限界まで締めてなんとか着れたのです。

「終わりましたですよ」
そう言ってドアを開けるとゆー君、要さん、船長さんがこちらを向いたのですが。
?、何で皆さんかたまっているのでしょう。
「紫苑ちゃん、その髪」
驚いた顔をした要さんが呟きます。
へ?髪ですか?
「?何か変なのですか?」
「おまえ、その色」
「色?」
ふと自分の髪を見るといつも通りの淡い紫色なのです。
何か変なのでしょうか……あ、
「あ!」
思い出したのです。そうでした。私は妖精だったのです!
妖精だとばれると厄介だからとお兄ちゃんが売られる直前に染めてくれたのでした。あう、やってしまったのです。
お兄ちゃんごめんなさい、バレてしまったのですよ。
ショックのあまり床にぺたんと座ってしまいました。
うう、どうしましょう。
「紫苑ちゃん?」
戸惑ったような要さんの声にはっとしました。

そうです!、お兄ちゃんは妖精だと取引の値段が凄く高くなるって言ってたのです。
そうしたら、私はまた売られてしまうのでしょうか。せっかくこんなに優しい人たちに出会えたのに。
「あの、私のこと売るですか?」
ちょっと泣きそうになりながらも、そう問うとゆー君がこちらに歩いてきました。
「売らない、もう紫苑は仲間だからな」
優しくあやすように、頭を撫でながら言ってくれます。
「仲間、ですか?」
「そう、ただ単純に紫苑にこの船にいてほしいなって思ったからあそこから紫苑を連れ出した」
買った、ではなくて連れ出した。
ああ、やっぱりこの人たちは優しいのです。私をちゃんと人として扱ってくれる、そんなのお兄ちゃん以外に初めてなのです。
「本当に……?」
「ああ、本当。ね、要さん、船長」
「まあな」
「そうだよ」
「うれしい、のです。……う」
ぽろぽろと涙が溢れて止まらない私をゆー君はそっと抱きしめてくれました。
そのまま背中を一定のリズムで撫で続けてくれる手に、安心しながらもずっと私は泣いていました。

初めて、手に入れた仲間という存在。
そのとき私はこれからとても大切なかけがえのないものになる、そんな予感がしたのですよ。

これから、よろしくお願いするのです!皆さん。


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