天界レム地区・・・ ある女性が書物を書いていた。とはいっても内容は彼女の日記のようなものである。 遠い遠いルナ地区での、繰り返される悪夢。そしてそれを倒したシオンという天使と悪魔のハーフの青年。 「よかったわね。よくここまで育ったものだわ」 彼女は自らの遠い過去、最初の悪夢について思い返していた・・・ 登場人物: エンカーブレイス(25)・史上最年少で天使第8階級になった女天使。強く、美しく、優しく、賢く、次元移動も可能である。今天界ルナ地区で人気No.1 フィリシーン(24)・天使第6階級の女天使。エンカーブレイスと親友。 グレイス(36)・天使第6階級の女天使。エンカーブレイスと親友。 レガント(58)・天使第8階級の男天使。グレイスとは恋人関係。 天界・・・ 一人の女天使が走っていた。まだ幼い女天使だ。 「エンカーブレイスさま〜っ!」 その少女の視線の先に居た女性が立ち止まり、ゆっくりと振り返った。 「あら。こんにちは。一人でおでかけ?」 その女性は少女の姿を見ると、ニッコリと微笑んだ。 少女は嬉しくなって満面の笑みを浮かべながら話し始めた。 「うん。今日は図書館に本を借りに行くの。あのね、下界には見たことも無い生き物がいっぱいいるんだよ。エンカーブレイスさまは見たことある?」 「そうね。海や草原、山・・・ここには居ない生き物がいっぱいいるものね。下界は大好きよ」 「あ、あのね。今度おうちに遊びに来てくださいってパパとママが」 「そう。わかったわ。近い内に必ず」 優雅に微笑むその女性の名はエンカーブレイス。 皆が憧れとするその女性は、スタイル抜群、顔立ちも良く、親しみやすく、知性的であり、まさに完璧な存在だった。 少女は一通り話し終わった。 「じゃあ私行くね。ありがとうエンカーブレイスさま」 「ええ。気をつけてね」 少女はエンカーブレイスに手を振り、去っていった。 そこに同じ年頃の女性がやってきた。この女性もスタイル抜群で、エンカーブレイスと比べると劣るものの、美人である。少し悪戯っぽい部分のある女性である。 「あら。今日もモテモテですね。エンカーブレイスさま」 皮肉を込めてエンカーブレイスに話しかけた。 エンカーブレイスはその人物を確認すると、締まっていた表情を崩した。 「なんだ。グレイスか・・・そこに居たんなら出てきたらいいのに」 「だってあの子とても嬉しそうにしてたから。会話の邪魔しちゃ悪いでしょ?」 彼女の名は天使第6階級のグレイス。エンカーブレイスとは親友である。実力的には優秀、その2つ上のエンカーブレイスは天才と言ったところだろうか。 グレイスが意味深な笑みを浮かべながらエンカーブレイスを肘でつついた。 「それにしてもエンカーブレイスが私達の前じゃ普通の女の子だなんて・・・誰も疑わないよね〜」 「な、何よそれ。私は別に演技してるわけじゃないわよ。だって皆に砕けた態度を取るわけ無いでしょう?」 聞いての通り、エンカーブレイスは本当は普通の女の子として居たいらしいが、第8階級という責任のある地位についていることもあってそう簡単にはいかないらしい。何より当の本人が礼儀を重んじる性格であるので、例え皆が許してもこの姿勢は崩さないのだ。 グレイスは、相変わらずとでも言いたげな表情を見せた。 「そういうことにしといてあげるわ」 「もう。そうやっていっつもからかうんだから!」 「ふふっ、だってエンカーブレイスの反応が面白いんだもん。1日に1回はからかわないと調子が狂っちゃうわ」 「やだ。いじわるなんだから〜」 と、そこに男の天使がやってきた。こちらも中々の美形である。天使たちは基本美人が多いようだ。 「こらグレイス!エンカーブレイスをからかってる場合じゃないだろう?お前、次の任務があるんじゃないのか?」 「あ、レガント!もう仕事終わりなの?」 「ああ。今日は簡単だったからな」 2人の表情を見ながら、エンカーブレイスは心の中で思っていた。 (時間が出来たからグレイスに会いに来たんだわ・・・) まだ若さ溢れる彼は天使第8階級のレガント。グレイスと恋人関係にある。 近々結婚するのでは・・・と、エンカーブレイスはにらんでいる。 実際この時、グレイスのお腹の中には新たな命が宿っていた。まだ本人も気がついていないが。 早速抱き合って軽いキスをする2人・・・ エンカーブレイスはため息をついた。 「(どうやら私はお邪魔みたいね・・・)相変わらず昼間っから仲のいいこと・・・では私はこれで失礼します。レガントさん」 「あ、ああ。すまないな・・・君も早くイチャつける相手を見つけることだ」 「わ、私はそのようなことにはまだ・・・し、失礼しましゅっ!」 エンカーブレイスは翼を広げると全速力でその場を去った。 その様子を見ながら2人が笑っていた。 「ふふっ、あんなに動揺しちゃって。年頃ね」 「だな」 空を飛んでいたエンカーブレイスは、ふと木の陰に見慣れた顔を見つけた。 「ん?・・・フィリシーン?」 エンカーブレイスは引き返し、そのフィリシーンの側に歩み寄った。 「どうしたの?元気ないわね」 座っていたのはエンカーブレイスの親友のフィリシーン。天使第6階級。 この頃はエンカーブレイスと同様、綺麗な白い肌をしている。 フィリシーンはエンカーブレイスにようやく気付き、ぼ〜っと見つめ返してきた。 「・・・今日ね・・・任務の最中に車に撥ねられそうになったの」 「えっ!?そ、そうか・・・フィリシーンはまだ下界に慣れてないのよね・・・でもそれでショックを受けてるようには見えないけど?」 フィリシーンは大きくため息をついた。 「・・・そのときね・・・助けてくれた人が居て・・・その人のことが頭から離れなくて・・・」 「・・・・・・はは〜ん。なるほどね〜。下界人に恋しちゃったわけか〜」 フィリシーンは少し間を空けた後、呟いた。 「・・・問題はそこじゃないのよ・・・」 「えっ?」 「・・・その人ね・・・・・・・・・その・・・・・・まだ誰にも言わないでよ?」 「な、何だか凄そうね・・・聞くの止めようかしら・・・」 「いいえ、聞いて!・・・その人は・・・・・・・・・あ・・・・・・なの・・・」 「えっ?今なんて言ったの?」 「だ、だから・・・・・・悪魔・・・なの・・・」 「ええええええぇぇぇっ!!!!??」 天使と悪魔は相容れない存在。お互いが嫌っている。 当然、エンカーブレイスはとてつもない衝撃を受けた。 いつまでも唖然としているエンカーブレイスを見て、フィリシーンが呟いた。 「・・・やっぱりまずいよね・・・どうしよう・・・エンカーブレイス!天使術で私のこの気持ちを消して!」 「えっ!?・・・・・・」 エンカーブレイスは困惑した顔で答えた。 「そ、それは・・・で、でも・・・貴女はそれで納得できるの?」 「・・・う、うん・・・」 「絶対に後悔しない?」 「・・・・・・う・・・・・・うん・・・・・・」 「じ、じゃあ・・・・・・」 エンカーブレイスは決意すると、片手を突き出した。 「い、いくわよ!『マスターオブ――』」 「や、やっぱりダメっ!!ゴメン!!」 エンカーブレイスの天使術を中断させ、フィリシーンは突如その場から飛び立ってしまった。 エンカーブレイスも慌てて後を追う。 「ちょっとフィリシーン!どこに行くの!?」 「次の任務を貰ってくるっ!!」 「ま、まさか会いに行く為じゃないでしょうねっ!?聞いてるのっ!?フィリシーン!!」 「お、お礼ぐらい言ってもいいでしょう!?」 「で、でも・・・相手は悪魔なんでしょ?」 「もういいから!自分で何とかする!!バイバイっ!!」 「ちょっ――」 フィリシーンは全速力でエンカーブレイスを引き離した。 この時、エンカーブレイスは不安を感じていた・・・それはフィリシーンの未来か、或いはわが身の未来か・・・ フィリシーンが任務を放棄し、悪魔と下界に住むことにした・・・その情報が入ってきたのはその一週間後だった・・・ このことは天使の議会でも最重要問題とされ、その処遇が問われた。地位を剥奪すべきか、それとも厳しい実刑(禁錮等)を与えるべきか・・・ 天界中がフィリシーンの事件で揺れていた。 天界でこれだけ問題視されるとなれば、天使を見下している魔界ではより一層問題である。 悪魔の王は特級の悪魔を送り込み、フィリシーンとその悪魔を殺そうとした・・・ 結果、フィリシーンと悪魔は瀕死の重傷を負った・・・ 出血多量のフィリシーンと、身体中に傷を負い瀕死の悪魔。 刺客の悪魔はそれを見て死を確信し、魔界に引き上げた。 死期を悟った悪魔は、なんとフィリシーンに自らの血を飲ませた。 目覚めたフィリシーンの肌は、雪のような白い肌から小麦色に変わっていた。翼も天使のものは全て抜け落ちていた。 その横には変わり果てた姿の悪魔が居た・・・ フィリシーンに残されたのは絶望、後悔、そして憎悪だけだった。 「そん・な・・・どうして・・・どうして天使と悪魔が愛し合ってはいけないの!?どうしてっ!!・・・・・・何故一緒に死なせてくれなかったの・・・何故私を・・・生かしたの・・・」 そんな事件があるとは知らない天界・・・ 悪魔と駆け落ち・・・親友の不祥事に頭を悩ませていたエンカーブレイス。 そのエンカーブレイスは、議会に特別召集され、意見を述べていた。 「・・・フィリシーンは天使資格の剥奪、そして・・・天界からの追放が妥当だと思われます・・・」 本当は『親友』として天界に居るぐらいは認めてあげたい。 だが、『天使』としては、これが精一杯だった。まさに苦渋の選択だったのである。 魔界へ追放された方が肉体的な刑罰よりもマシである・・・このまま天界に居ても苦痛だけだと考えたのだ。 その夜。そんなエンカーブレイスの自宅に(第7階級から一軒家になる)、ボロボロの姿のフィリシーンが尋ねてきた。 「フィリシーン!!??ど、どうしたのその肌の色!!それに怪我だらけじゃない!!」 エンカーブレイスを見たフィリシーンは、いきなり抱きついた。 「・・・エンカーブレイス・・・私・・・私どうしたらいいのぉっ!!??うわあああああああん!!!!」 「待って、何があったの?・・・私に話して・・・」 フィリシーンから全ての事情を聞いたエンカーブレイスは、凄まじい怒りとともに魔界に乗り込んだ。 いつになく強気になっていたエンカーブレイスは、この事件のことを材料に魔界と交渉し、なんとかフィリシーンの居場所を確保した。 フィリシーンは魔界行きを拒んだが、天界を追放されたフィリシーンには魔界に行くしかなかった・・・ そして別れの時・・・ 「エンカーブレイス・・・ごめんね・・・私のせいで迷惑かけて・・・」 「謝らないで。私は何も出来なかった・・・親友のあなたを護ることも・・・」 「私が蒔いた種よ、自分で枯らせるわ。じゃあ、お元気で・・・」 「・・・フィリシーン・・・」 フィリシーンは悲しげな後ろ姿と共に去り、エンカーブレイスと二度と会うことはなかったのである。 その後、エンカーブレイスは議会とも地道に交渉を続けた。何とかしてフィリシーンの居場所を作りたいと思っていた。天界に居ることを許可して欲しい、その後の彼女は私が護ると。 (親友の一人も護れなくて・・・天界なんて護れるもんですか!) そんな矢先、新たな事件が起こってしまう・・・ それによって影で努力していたエンカーブレイスの想いは潰えるのであった・・・ それから1週間ほどしたある日・・・ 騒々しくグレイスが宮殿に走ってきた。そして、丁度帰る途中だったエンカーブレイスを発見した。 「た、大変よ!エンカーブレイス!!あ、悪魔が!!とてつもなく強い悪魔が攻め込んできた!!」 「何ですって!?・・・敵の人数は?」 「たった一人!でも皆やられちゃったの!!」 「分かった・・・」 エンカーブレイスは宮殿を出ようとした。 「待ってエンカーブレイス!!」 グレイスが呼び止めた。 「え?」 「一人で行くの!?」 エンカーブレイスは、その問いに真剣な表情で答えた。 「・・・第8階級以上の天使はほとんど出払っている・・・それに、彼らは重要人物。まだ若い私なら万が一のことがあっても損害は少ない・・・」 「そ、損害だなんて!」 「・・・第6階級以下の天使ではまず勝てない・・・だから一人で行くわ」 「わ、私も行く!親友の貴女を見捨てて置けない!!」 「ダメよ。貴女のお腹の中には新たな命が宿っている・・・万が一もあってはならないわ。グレイスはこのことを出来るだけ多くの人に伝えて」 エンカーブレイスは1人で宮殿を飛び出した。 一人の悪魔が天使を今まさに犯さんとしている。 周囲には傷つき倒れた多くの天使が居る。 「・・・待ちなさい!そこの悪魔!」 エンカーブレイスが叫ぶと、悪魔は振り返った。 「・・・俺に何か用か?」 「あなたの好きにはさせません!!私が相手になります!!」 「・・・くっくっくっく・・・抜群のボディライン・・・それに顔もいい。その力溢れる表情、苦痛に変えてやりたいね・・・いいだろう。こんな上物を前にしたらクズ天使などもう興味を惹かんからな・・・」 この悪魔こそがブルータルである。 ブルータルは余裕の表情で身構えた。 「ここの天使は弱すぎるなぁ・・・そら、これでも喰らえっ!!」 ブルータルは殴りかかった。 エンカーブレイスはそれを左に避けると、右足でブルータルの足を払った。さらに身体を捻り、後ろ蹴りを鳩尾に決める。 −ドフッ!− 「ぐっ、こ、このアマ〜っ!」 ブルータルは片膝をついた。 「油断していたあなたが悪いのです」 エンカーブレイスはすかさず両手に8枚の羽根を持ち、一気に投げつけた。 「図に乗るなよ!!」 ブルータルは片手を着き、両脚を器用に使って羽根を蹴り落とした。 エンカーブレイスはその間に回りこみ、ブルータルを蹴り飛ばした。 −ドガッ!− ブルータルは瞬時に起き上がり、エンカーブレイスに飛び掛った。 かわそうとした瞬間、尻尾がエンカーブレイスの片足を掴み、足をとられて尻餅をついた。 「貴様みたいな奴、最高にムカつくぜ・・・だがその分、最高に面白いんだよな」 ブルータルは片手を突き出し・・・ 『マイティラスト!!』 それに合わせ、エンカーブレイスも天使術を放った。 『マスターオブスペース!!』 術がぶつかり、相殺される。 ブルータルはこのやりとりを楽しむかのような笑みを浮かべた。 「ちっ、魔力は互角かよ・・・だが俺はまだ本気を出してないぜ。俺にとっちゃこの戦いもセックスの前戯の内ってなぁっ!!」 「そうですか・・・でしたらこのまま負けて後悔しない内に本気を出すことです。私も・・・ここからは本気です」 エンカーブレイスは尻尾を力強く引っ張り、ブルータルを引き寄せた。 そしてタイミングよく拳を鳩尾に叩き込んだ。 −ドゴォッ!− 「ぐっ・・・く・・・」 ブルータルが苦痛に顔を歪める。 「降参しなさい。今ならこれ以上の攻撃はしません」 エンカーブレイスの言葉に、ブルータルが笑った。 「ぷっ、くっくっくっくっく・・・はーっはっはっはっ!!」 「?何がおかしいのです・・・・・・っ!?」 エンカーブレイスの左手は尻尾を掴み、片足は尻尾に掴まれ、左拳はブルータルの鳩尾に入っている。 そしてエンカーブレイスの腕をブルータルが掴んでいた。 「両手が使えなければ相殺はできないだろ!!内面の魔力だけで俺に勝てるものか!!」 「しまっ――」 ブルータルはエンカーブレイスの腕を身体から外し、地面に押し付けた。 そして空いている手をエンカーブレイスの胸に置いた・・・ 『マイティラスト!!』 「ああぁっ!?」 エンカーブレイスがブルータルの悪魔術を受けてしまった。 (くっ!!ま、負けるもんかっ!!決めたのよ!!フィリシーンを天界に帰してあげるって!!) エンカーブレイスはブルータルによる精神の侵食を、魔力で防いでいた。 「中々やるな・・・どんどん強くしてくぜぇ!ほら!ほらっ!そらぁっ!」 −ドンッ!ドンッ!ドンッ!− エンカーブレイスに注がれる魔力が増えていく。 エンカーブレイスは顔を苦痛にゆがめながら、ただただそれを耐え続けた。 「くぅぅっ!!」 中々支配されないエンカーブレイスを見て、ブルータルが呟いた。 「いいぞ。天使ってのはそうでなければな。この前もある天使を殺しに行ったんだ。そいつはあろうことか悪魔をたぶらかした悪女でよ。その悪魔もろとも殺してやった・・・と、思ったんだがな、その天使・・・今は元だから堕天使だな、そいつが魔界にやってきたんだ。悪魔が自らの最期の命で天使を救ったんだそうだ・・・くっくっくっくっ!俺を見たときのあいつの怯えた顔、最高だったぜ!最大の恐怖ってのは凄いな。俺が命令すればあいつは逆らえねえ・・・仇なのにな。はっはっはっはっはっ!!」 エンカーブレイスはその言葉を聞いて怒りに燃えた。 「お、お前が!!お前がフィリシーンをっ!!フィリシーンの人生を!!」 「ん?当たり前だ。天使と悪魔は相容れない存在。だから犯すと気持ちいいんだろうが!!そらっ!!これが俺の本気だっ!!」 ブルータルの魔力が格段に増えた。 −ドンッ!− その瞬間、エンカーブレイスの精神に衝撃が走った。支配される・・・ −どくんっ!− 「ああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」 その瞬間、エンカーブレイスの精神はブルータルの支配を受けることになった。 負けた・・・そう思ったその時だった。 「エンカーブレイスっ!!!!」 「エンカーブレイスっ!!!!」 そこに2つの声が聞こえた。 (この声・・・グレイスとレガントさん・・・来ちゃダメ・・・こいつ・・・凶悪よ・・・) レガントが叫ぶ。 「おのれ貴様ぁっ!俺が相手だ!」 ブルータルはようやくレガントに意識を向けた。 「あぁ?何だか知らねえがてめえも瞬殺っ!!」 「やれるものならな!!」 「そらぁっ!!滅殺!!」 「ウザいんだよ!!お前ぇっ!」 2人が一気に間合いを詰め、肉弾戦が始まった。 −ドドッ、ズドドドドッ、ガッ− レガントとブルータルが殴りあう。さすがにレガントも第8階級だけあり、なかなかの戦いを繰り広げている。 グレイスはその間にエンカーブレイスのところに走り寄った。 「エンカーブレイスっ!!しっかりして!!」 エンカーブレイスは意識が朦朧としていた。その表情は緩み、ぼんやりとグレイスを見つめている。 「グレイス・・・逃げるのよ・・・」 「待って!今私が術を解いてあげる!!」 グレイスは天使術をエンカーブレイスにぶつける。だが、ブルータルの術に勝つことはできなかった。 「そ、そんな・・・もう一度・・・」 そんなグレイスを見て、エンカーブレイスは言った。 「無駄よ・・・私も意識を保つのがやっと・・・早く逃げるの・・・」 「分かってるわ!エンカーブレイスも!」 「私が闘う・・・あいつはフィリシーンの人生をめちゃくちゃにした奴だから・・・」 「けど!貴女に死なれたらフィリシーンも悲しむわ!」 「・・・フィリシーンは私を恨んでると思う。だから私・・・刺し違えてでも倒す・・・」 「エンカーブレイスっ!!何を言って――あうっ!!」 エンカーブレイスがグレイスの首に手刀を当てた。 気を失ったグレイスは、エンカーブレイスによって木陰に運ばれた。 「・・・私は勝つ・・・勝って皆を護るわ・・・」 その時、レガントが地面に倒れこんだ。 ブルータルが息を上げていた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・くそ、粘りやがって・・・雑魚のくせに・・・」 エンカーブレイスは意を決して向かい合った。 (さっき悪魔の術を受けてしまった・・・悪魔術は欲望を操作する力・・・なんとか、なんとか耐えるしかない!あいつを倒す為の時間ぐらいは耐えなければ!) ブルータルは薄ら笑いを浮かべた。 「術を喰らって意識も有り、さらには動けるとは・・・だが終わりだな・・・お前は俺の術を受けた・・・さあ、『セックスがしたくなってきた』だろ!?」 −ぞくっ− エンカーブレイスの身体を例え難い感覚が走った。 (く、噂には聞いていたけど・・・凄い力ね・・・早く勝負を決めないと!!) エンカーブレイスは8枚の羽根を一気に投げた。そしてブルータルがかわす間に間合いを詰める。 しかし、ブルータルは宙に飛び上がった。エンカーブレイスも追いかける。 それからもブルータルはかわすだけで攻撃してこない。 その間、エンカーブレイスの息があがってきた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 「くっくっく・・・動けば動くほど身体の熱が上がる・・・そしてあせるほど心拍数が上がる・・・お前は自らの手で拍車をかけていたのさ。まあ抵抗しなければ最終的に堕ちるんだがな」 ブルータルはエンカーブレイスの後ろから抱きつくと、豊満な胸を強く揉んだ。 −むぎゅうっ− エンカーブレイスはあまりの衝撃に身体を反らした。 「ああぁぁぁっ!?」(な、何これ・・・だ、ダメ・・・力が入らない・・・) エンカーブレイスはブルータルに抵抗できないまま、地上に下ろされた。 そして突き飛ばされ、伏せの形になる。 「あうっ・・・く・・・」(身体が・・・言うことを聞かない・・・何なのよ・・・この身体・・・感じすぎよ・・・) 「長かった・・・ようやくここまで来たな・・・くっくっくっくっく・・・」 ブルータルは待ちわびたように、ズボンを下ろした。そしてパンツも下ろす。 エンカーブレイスは今から何をされるのか分からない恐怖と、植えつけられた期待感に揺れていた。 「はふーっ、はふーっ」(く、身体が・・・ダメだ・・・治まらない・・・) ブルータルが指でおま○こをなぞった。 「パンティーの上から分かるほどもうびしょびしょか・・・よくここまで耐えたもんだ」 「あうんっ!!や、やめ、なさい・・・」 「よく言うぜ。ここをこんなに濡らしてる奴の台詞か?」 ブルータルは勢い良くパンティーを破り取った。 「ははっ!後ろの穴までひくついてら!」 「ううっ・・・」 「それにこのピンク色・・・綺麗な一本筋・・・さては貴様、処女だな?」 「う・・・」 「はーっはっはっはっは!!来て良かったぜ!!最高の獲物だ!!」 ブルータルはエンカーブレイスの衣も剥ぎ取る。 そして勢い良くエンカーブレイスの胸を揉みしだいた。 エンカーブレイスの豊満な胸が形を変える。 「あん!!うん!!やっ!!はっ!!はんっ!!んっ!!」 「はっはーっ!思った通り最高の揉み応えだ!!このウエスト!!ヒップ!!最高だ!!最高だぜ!!」 (くっ、なんて屈辱なのっ!!悪魔に弄ばれて、こ、こんなにも・・・乱れるなんて・・・) ブルータルは一旦止めると、ペニスをおま○こにあてがった。 「さーて。ぶち込むかぁっ!!」 「やあぁっ!!」 「うるせえっ!!」 −ぐっ、ぐぐっ− 「ん、キツイな・・・」 「ああっ!!や、やめてええっ!!!(今日は安全日じゃない!!今悪魔に犯されたら!!)」 「まあいいか。どうせこの場限りだ!!」 −ぶちぶちっ− ブルータルは強引にペニスを押し込んだ。 エンカーブレイスの全身を強烈な痛みが襲った。 「がああぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!」 ブルータルは不思議な感覚を覚えていた。 「んっ、ま、不味い!な、何だこの女の締め付けは!この俺がも、もう・・・」 ブルータルが数回腰を動かす。 −ぱんっぱんっぱんっ− 「や、やはりこの女!かなりの名器だ!!これで処女だとは宝の持ち腐れだ!!」 「がっ!ぐっ!ああっ!!ああっ!!」 「うっ、も、もう出るっ!!」 意識の飛びかけていたエンカーブレイスだったが、その言葉でハッとした。中だしされたら孕んでしまう・・・ 「ああっ!!?らっ!!らめっ!!なかは!!らめぇっ!!!!」 「もう遅え!!うっ!!」 −ドクンッ!ドクンッ!ドクン!・・・− エンカーブレイスは、自分の子宮に熱い精液が流れ込んでくるのを感じた。 「いやあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」 それからはエンカーブレイスにとって地獄のような時間が続いた。 ただ、エンカーブレイスの悲鳴のような喘ぎ声・・・そしてブルータルの高笑いが聞こえていた・・・ ブルータルがようやく満足した時には、エンカーブレイスは失神していた。 大量の精液がエンカーブレイスにかかり、エンカーブレイスは虚ろな表情で地面に倒れていた。 「はぁ・・・はぁ・・・(負・・・けた・・・わたし・・・だめ・・・)」 「はーーっ!幸せだな。この瞬間が」 ブルータルはとりあえずエンカーブレイスの衣で自分のペニスを拭いた。 そしてパンツとズボンを穿いた。 「また機会があったら遊んでやるぜ。お前は最高の女だった・・・喜べ」 ブルータルは満足気にその場を後にした。 その時・・・ 「許さないっ!!!!」 −ドシュシュシュシュッ!− ブルータルの身体を8つの羽根が貫通した。 「な、何だ・・・・・・と・・・」 ブルータルは穴だらけになり倒れそうだったが、何とか踏みとどまる。 「き、貴様っ!」 ブルータルの身体中が血で染まる。 振り返ったブルータルの前には、精液にまみれたエンカーブレイスが立っていた。 「・・・許さない・・・(こいつだけは!!皆の人生を弄ぶこいつだけはぁぁっ!!!!)」 その瞳はまっすぐにブルータルを睨んでいる。 「く、くそ・・・こ、これは・・・まずい・・・くそおっ!!この女ぁっ!!」 ブルータルはエンカーブレイスを見た。だが、エンカーブレイスの気迫に恐怖を感じた。 「な、何だこの感情は・・・お、俺が怯えていると言うのか!?こ、こいつ・・・う、ううっ・・・か、必ず・・・復讐・・・し・て・・・や・るぅぅ!!」 ブルータルはふらふらと宙に浮かぶと、その場から姿を消した。 エンカーブレイスはそのままブルータルが立っていた場所を睨んでいた。エンカーブレイスを突き動かしたのは執念だった。 エンカーブレイスはそのまま気を失って倒れこんだ・・・ その後、エンカーブレイスはグレイスの家で意識を取り戻した。 「・・・グレイス・・・」 グレイスは涙を浮かべながらエンカーブレイスに抱きついた。 「無事でよかった。貴女まで死んでしまったらどうしようかと・・・」 「・・・私・・・まで?・・・・・・もしかして・・・レガントは・・・」 「・・・死んだわ・・・治療の甲斐なく・・・」 「・・・わ、私・・・また・・・護れなかった・・・勝てなかった・・・」 「そんなの責めてない!!あなたは私と同じ天使!!神様じゃないわ!!」 「・・・ご、ごめん・・・なさい・・・」 「ごめん・・・エンカーブレイスも酷い目に遭ったのに・・・」 エンカーブレイスはたいした外傷は無かった・・・ だが、精液を限界まで受けたその子宮は、グレイスの後始末程度では効果をなさなかった。 そして・・・妊娠が発覚したのである。 周囲は勿論中絶を勧めた。悪魔の子など産んではならない・・・なにより母体の生命に関わるかもしれない。 だが、エンカーブレイスは中絶を拒否した。 「確かにこの子の父親は最低な奴です・・・凶悪な悪魔です・・・ですが・・・この子の母親は私です!・・・それに、この子は何も悪いことをしていません!・・・私が育てます。立派な天使にしてみせます!」 エンカーブレイスの強い意志は、誰の言葉でも変えられなかった。 エンカーブレイスはグレイスに相談した。 グレイスはこの子の父親に恋人を殺された・・・グレイスはなんと言うだろうか・・・ グレイスは意外な返答をした。 「エンカーブレイス。あなたの言うとおりよ。子供は悪いことをしていない。それにね。母親にしか分からない感情も有るわよ。私もこの子を立派な天使にして見せるわ。だから貴女も・・・勝負よ。どっちの子が天使になるか」 「ありがとうグレイス・・・」 結局、エンカーブレイスは難産の末に子供を産んだ。名前は色々と悩んだが、結局まだ決められなかった。生まれてから決める人も居るんだし、いくらでも悩んで決めればいいとそう思っていた。 グレイスもそう応援した。 エンカーブレイスは子供を愛おしそうに抱いた。そして眠りについた。 だが、エンカーブレイスはその後目覚めることは無く、そのまま永久の眠りに着いた。 多くの人がエンカーブレイスの死を悲しみ、悪魔を恨んだ。無論、後にシオンと呼ばれる子も『悪魔の子』として忌み嫌われたのであった・・・ シオンを護るつもりだったエンカーブレイスが死んだことにより、シオンは孤立無援の状態になったのである。 それから5年後・・・ グレイスはわが子に一部の話をしていた。 「いい?あの子は悪いことをしたわけじゃないんだから、周りが何を言っても貴女は流されてはダメなのよ?」 まだ小さな女天使は、それをただ聞かされていた。 「ねえママ・・・どうしてみんなはあのこをいじめるの?わるいことしてないんでしょ?」 「・・・それはね。あの子が悪魔の血をひいているからよ」 「・・・でもてんしのちをひいてるんでしょ?わたしたちとおなじだよ」 「そうよ。でも皆はそれが受け入れられないの」 「じゃあわたしがあのことおともだちになる。いまはダメでもいつかなるよ」 「そうね。きっとなりなさい」(そして私とエンカーブレイスのように強い絆を) こうして、グレイスは娘に希望を託し、ルナ地区からレム地区に転属した。 それから25年後・・・ かつてのエンカーブレイスの説得の効果により、議会の中にもフィリシーンを密かに応援する者も居た。 その者がフィリシーンに依頼を要請した。武道大会に出て欲しいと。 最初は議会への恨みから断っていたフィリシーンだったが・・・ 「・・・なんですって?相手はエンカーブレイスの息子!?」 「ああ。性格も無茶苦茶で・・・あんな奴を認めるわけにはいかんのだ」 「・・・そう。分かったわ。私を会場へ・・・彼が天使を諦めればいいんでしょ?私が天使を諦めさせてあげる」 孤独から逃れるように、すっかり性格の変わってしまったフィリシーンだったが・・・ そのフィリシーンは舞台の入口から『悪魔の子』を観察していた。 「ふ〜ん。彼が『悪魔の子』か・・・エンカーブレイスに似て美形じゃない。でも皆に嫌われてるのよね。勿体無いわ・・・ねえエンカーブレイス・・・私が貴女の子、教育してあげるわ・・・だから私が貰ってもいいよね・・・もう孤独は嫌なの・・・あなたなら助けてくれるよね・・・」 フィリシーンはどす黒い欲望を胸に秘め、ゆっくりと会場に足を進めたのであった・・・
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