素晴らしく心地の良い悪夢
- 地下道で異常なほどに手ごわいモンスターに遭遇したパーティーは、セレスティア(♀)のジャンヌを除いて全滅した。
強敵のモンスターから離脱したジャンヌは死亡したパーティー5名を一人で運んでいた。
「あと少しで出口のはず…」
彼女がそう呟くように、あと少しでこの地下道を脱出する事ができるはずだった。
ジャンヌの前に突然モンスターが現れた。
不気味なドクロを持ってフードを被っている悪夢使いが6匹。 ジャンヌが所属しているパーティーにとって、悪夢使いと遭遇したのはこれが初めてだ。
もちろん奴らに構っている暇などジャンヌにはない。
彼女は逃走の体制を取った。 しかし、逃げられるはずがなかった。
ジャンヌは悪夢使いの魔法で体の自由を奪われ、後は彼らに全てをゆだねることしかできなかった。
もちろん逃がしてくれそうにはない。
5匹の悪夢使いに押さえつけられて身動き取れないジャンヌの前に、もう一匹の悪夢使いがジャンヌの顔の前に近づいてきた。
「もういや! さっさと私を殺して!」
ジャンヌは自分がどうなるかの不安に犯されて取り乱し始める。
『怖がることはないよ 私達はあなた達と同じ学校の元生徒だったの』
そんな時、突然悪夢使いが喋り始めた。
まさか人語を解すモンスターがいたとはジャンヌは思いもしなかったので彼女は戸惑うしかない。
焦りを拭い去ったジャンヌは悪夢使いの一匹に問いかけた。
「せ、生徒だったあなた達がどうしてここに…」
『実はね、私達はこの地下道で罠にはまって全滅しちゃって、パーティーのみんなは灰になりかけたの』
「そ、それで…」
『それは後で教えてあげるね それより先にやらなきゃいけないことがあるの』
「その…やらなきゃいけないことって?」
- 『それはね…あなた達を私達の仲間にすることだよ』
ジャンヌがその言葉を理解するのに5秒もかからなかった。
悪夢使いの言葉を理解したとき、彼女は絶句する。
「そんな! 私をあなた達と同じにするって…」
『違うよ? あなた達だよ?』
「まさか?! 死んでる人たちまでできる?そんなはずが…」
『それはこれからわかるよ』
悪夢使いは被っていたフードの上部分を取って顔を露出した。
「まさか…あなた……」
ジャンヌは戦慄した。 悪夢使いの一匹の正体はフェルパーの女の子シーグだったのだ。
しかし、肌の色は死んだような灰色になっており、瞳の色は金色に輝いている。
シーグとジャンヌは以前同じパーティーだったのだが、その後ジャンヌはシーグとは別のパーティーに移転したのである。
パーティは変わっても元気にやっていると思っていたがまさかこんな事になっていたとは。
『まずはあなたに心地のいい『悪夢』を見せてあげる…』
悪夢使いとなったシーグはそう言ってジャンヌの目を見つめる。
その瞬間、ジャンヌはシーグの金色の瞳が光を発するのを直視してしまった。
「あ…」
シーグの目から放たれた光はジャンヌを眠りの世界へと誘っていった。
- ジャンヌは夢を見ていた。
それは、素肌を晒し薄暗い海のような空間に当ても無く浮かぶ自分の夢である。
ここはどこだろう… まっくらでなんにもみえない…
なにもきこえない、なにもしゃべれない、なにもかんじられない…
こわい、しかもさむけがする… わるいゆめだ…
いまにもこごえしんでしまいそうだ…
いや、ほんとうにさむい このままじゃしんでしまう…
たすけて、しにたくない… さむい、こごえしんじゃうくらいにさむいよ…
たすけて、だれかぁ… せんせい、みんなぁ…
ごめんなさい、ごめんなさい…
だから…たすけて…
おねがい…
ジャンヌの心が絶望で冷めた瞬間、突如黒い羽根が生えた髑髏が彼女の眼前に現れた。
……なんだろう?
まるで、わたしにさわってっていってるような…
あれにさわればすこしはらくになるかも…
ジャンヌは意を決して髑髏に手を伸ばす。
そして彼女の右手が髑髏に触れた瞬間、
髑髏の穴という穴から悪魔の尻尾のような無数の触手が現れ始めた。
触手はジャンヌの耳の穴や口、秘部や肛門に向かって媚薬を飛ばしながら侵入し始める。
ジャンヌはもはや何をやっても無駄だろうと諦め切ってしまっていて、抵抗すらせずに進入を許していった。
触手はジャンヌの口内や子宮の中でぐちゃぐちゃと暴れていく。
ジャンヌは触手の暴れる口の中や秘部が次第に温かくなっていくのを感じ始める。
その度にジャンヌは甘い声を漏らす。
- いったいなんだろう…
あたたかい?いや、きもちいい…
しょくしゅがかきまわしてるとこ、すっごくきもちいい…
それになんだかきぶんがこわくなくなってく……
もっとこのままでいたい…わたしだってこわいのはいやだもん……
おねがい、わたしをもっとあたためて…
もっと…かんじたいの……
ジャンヌの願いを聞いたかのように触手は更に蠢き、ジャンヌは更に甘い声を扇情的に吐き出す。
そんな中、髑髏から黒い光と金色の光が触手を通じてジャンヌの中へ入っていく。
あ…ああ…なにこれ…
さっきよりもきもちいい、いっちゃいそうなくらいにきもちいい…
ひかりが…わたしのなかをみたしてるんだ……
さみしくてしにそうなわたしのなかを……
は、はぁん…あのひかりがわたしを…
みたして…かえていってる……
さむくてしにそうなわたしをいやしてるんだ…
このままで…いいや…
もうがっこうのこともかんがえるきがしないや…
だって…わたしはいいあくむをみてるんだもん…
わたしはあくむつかいになるんだ…
なんとなく…わかる……
わたしはあくむをみせるこになるんだ………
- ジャンヌが見ている夢の外、地下道。
6匹の悪夢使いがジャンヌを見つめていた。
その中のシーグは既にフードを被っている。 その姿は紛れも無く悪夢使いであった。
『はじまったようだね…』
黒い光と金色の光がジャンヌの体を完全に浸食した瞬間、変化が始まった。
ジャンヌの健康的な肌は色を失うかのように血の気を失っていき、死んだような灰色に染まっていく。
頭と腰に生えている鳥のような翼は荒むように黒く染まる。
ジャンヌの変化を見終えた悪夢使いのシーグはジャンヌの耳元に口を近づけて優しく囁いた。
『起きて 私達の新しいお友達…』
ジャンヌは目を開く。 瞳の色は澄んだ蒼から暗い金色へと変わっていった。
『どんな悪夢をご覧になりました? 新しい悪夢使いさん』
悪夢使いの一人がジャンヌのもう片方の耳元で小さく囁く。
ジャンヌは変わり果てた自分の体を舐め回すように眺め、恍惚に満ちた声で答えた。
『とても心地の良い悪夢でした さっきまでの自分がどうでもよくなるくらいに素晴らしい悪夢です』
そう答えるジャンヌのパンツは夢の中の快感で濡れそぼっていた。
夢の中で得た快楽によって、彼女の口には涎を垂れている。 ジャンヌはその口で声を震わせて言う。
『薄暗くて冷たい世界で浮かぶ私、その前に現れた…あぁ、思い出しただけで身震いしてしまいます この素晴らしい悪夢、誰かに見せたいです… はぁん…』
『うふふ…可愛い子ね 今のあなたは永遠の時を生き、悪夢を操る悪夢使い だからその夢はすぐにかなうわ』
悪夢使いの一人がジャンヌに自分達が着ているものと同じフードを差し出す。
『うれしい… 誰かに悪夢を見せることがなんて…』
ジャンヌは妖しい喜びの声を上げながら、そのフードを受け取る。
『私は悪夢使い 生きとし生ける者に素晴らしき悪夢を魅せる者…』
ジャンヌはそんな言葉を呟いて、受け取った悪夢使いのフードを纏った。
その瞬間、彼女は学校の一生徒から悪夢使いの一匹へと完全に生まれ変わった。
『まずは死んでしまったみんなに悪夢を魅せなきゃね…』
- 「クソッ! 早く全滅したヤツらを助けなきゃいけないって時によぉ!」
薄暗い地下道の中、六匹の悪夢使いに遭遇したパーティーの一人が毒づいた。
このパーティー達は神女ジャンヌ率いるパーティを助けるべく、この地下道に来たのである。
しかし、彼らは突如現れた悪夢使い達に襲撃されて手こずっている真っ最中であった。
『心配はいらないわ そんな事、すぐに忘れさせれてあげるから』
「はぁ? 何言いやがるよ!?」
しゃべるモンスターが前にいるというのに、男は動じない。
男は剣を両手で握って戦闘態勢を取った。
『仲間思いなのね…』
悪夢使いはフードをとる。
「!?」
フードを取った悪夢使いの素顔を見た瞬間、男は戦慄した。
灰色の肌、黒い翼、そして見覚えのある顔、その顔は彼らが探していたジャンヌだったのだ。
そう、ジャンヌは悪夢使いとなっていたのだ。
『あなたにとっておきの悪夢を魅せてあげる 全て忘れさせるくらいに心地いい悪夢をね』
悪夢使いとなったジャンヌは妖しく微笑んだ
終
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