エルマ
- …?
…ここはどこだろう?
緩慢な思考から徐々に覚醒してゆく。
気がつくと、私は不思議な状況の中にいた。
自分は椅子に座っていて、周りには…メイドさん?
金持ちの使用人らしき服装の女性が4人、私の周りで忙しそうに動き回っている。
私に黒いドレスを着せ、髪を整え、アクセサリーを付けているところのようだ。
すてき…。
まず初めに、そう思った。
だが…。
意識がはっきりしてゆくにつれ、その異常さが認識できるようになってきた。
自分は確か、お姫様でもなければ、富豪の娘でもない。
使用人もいないし、ドレスなんて…。
そもそも、私は、贅沢のできる生活環境にないはずだ。
では、この状況は何だろう?
最後の記憶を思い出す。
私は確か、学校を出て、帰宅する途中だった。
授業が終わり、調べものをしていたら、予想外に遅くなってしまった。
あんまり遅いと兄に心配をかけるので、急いでいたことは覚えている。
そして…。
…?
思い出せない。
と、メイドさんの一人が声をかけてきた。
「気がつきましたか?もうすぐ準備が終わりますよ。」
なんの準備だろう…?
とりあえず、状況を把握しなくては。
「あ、あの…ここはどこですか?」
声をかけてきたメイドさんに聞く。
「もうすぐ、我が城主の元へお連れいたします。あなたがなぜここにいるのか、
これからどうなるのか、城主から語られるでしょう。」
城主とやらから聞け、ということか。
「…終わりました、こちらへおいでください。」
- メイドさんに導かれ、廊下を進む。
しばらく進むと、大きな扉が現れた。
メイドさんは扉を開き、彼女自身は裾に控える。
進め、ということらしい。
私は素直に従う。
その部屋は、優雅な、そして気品のある装飾が施されており、
天寿が高く、奥行きがあり、奥に立派な椅子があった。
玉座の、いや、謁見の間か…。
きっと、そうなのだろうと思った。
そして、玉座には人影。
女性だ。
私は、その女性の元まで歩みを進める。
その女性の姿は二十歳前後に思えた。
白磁のような肌、端麗な顔立ちに、漆黒の髪を背中まで伸ばしている。
そして、深く、紅い瞳。
黒いドレス姿だった。
きれい…。
そう思った。
- 「ようこそ、我が城へ。」
玉座の女性が口を開く。
「あなたはこの城に、我が僕にふさわしい者として迎え入れられました。歓迎しましょう。」
僕として?
なにがなんだかさっぱりわからない。
おかしいところが多すぎて、どう答えればいいのか分からない。
とりあえず、最初の疑問を口にした。
「…ここはどこですか?」
玉座の間で、城主に対する質問としては、この上なく間抜けな質問だろう。
だが、本当に分からないのだ。
「ここは、ルクレール城。」
返答はそれだけ。
「あなたは誰ですか?」
「ルクレール城の主、クリスティナ・フォン・ルクレール。」
こちらも返答はそれだけ。
もちろん、それだけでは知りたいことは何も分からない。
クリスティナとやらも、それが私の求める答えでないことくらい分る筈だ。
馬鹿にしているのだろうか…?
ちゃんと答えろ、と文句を言おうとしたところ、先に口を開かれた。
「ごめんなさい、ちゃんと答えるわ。」
城主はクスクスと笑って続ける。
「ここはルクレール城、あなたたちの言う山の悪魔のお城。
私はその城の城主、悪魔クリスティナ・フォン・ルクレール。
エルマ、あなたは攫われたのよ。お城の悪魔に。」
- お城の悪魔…。
町には昔から、ある噂があった。
町から失踪した人間は、実はお城の悪魔に攫われたのだ、とかなんとか…。
お城の悪魔とは、昔から伝わるおとぎ話に出てくる悪魔のことだ。
悪いことをすると、お城の悪魔に攫われるわよ、と小さい頃に母に言われたことがある。
子供に言うことを聞かせるためのおまじないだ。
だが、噂によると、その悪魔は本当に存在して、人を攫っているのだとか。
その噂を聞いた時は、そんなばかな、と、信じなかったが…、
ここはその城で、眼の前にいるのがその悪魔で、私はその悪魔に攫われた…と、
そういうことなのか…?
しかし…。
「信じられません。」
当然だ。
この女性は私をからかっているのかもしれない。
「そう?」
またクスクスと笑う。
なんなんだ、いったい。
「うちへ…帰ります。出口を教えてください!」
それでも城主はクスクスと笑っている。
「いいです!自分で探します!」
私はとうとう我慢できずに声を荒げた。
- 踵を返し、部屋を出る。
廊下を渡り、別の扉を探した。
手近な扉を開け、進もうとしたが…その扉を潜り、驚く。
正面に城主がいる。
城主が先回りした…?
いや、ちがう。
先ほどと同じ部屋のようだ。
「あら、戻ってきましたの?」
城主は笑いっぱなしだ。
おかしい、私は確かに先ほどとは違う扉を開いたはず。
すぐに廊下にもどり、別の扉を開く。
…だが、またも同じ部屋。
愕然とする。
いったい、どうなっているのだろう?
出口は?
いや、それよりも、…閉じ込められた?
頭が混乱してきた。
「そう、あなたはここから出ることはできない。」
城主はまるで私の思考を読んでいるかのように嘲笑う。
その言葉は、私をますます混乱させる。
…落ち着け、冷静になるんだ、私。
自分に言い聞かせるが、それでも理解できないことには変わりない。
さて、と城主が口を開く。
「あなたは、私に仕えるためにここに来た。
でも、しばらくの間、あなたは私の客人。
私に仕えるか、私を拒むか、あなたに選ばせてあげる。」
だんだん、怖くなってきた。
「あ、あなたに仕える気はありません!」
もちろん拒む。
お城の悪魔。
出ることのできない城。
もしかして、私は夢を見ているのではないか?
そんな気がしてきた。
「そうね。最初はだれでも拒むわ。…でも、そのうち気分が変わるでしょう。」
城主が立ち上がる。
そして恭しく、優雅にお辞儀をしながら、麗らかに言い放った。
「ようこそ、私のかわいいお客さま。愛して差し上げますわ…。」
城主の目が紅く輝く。
何が起こったのか分からない。
だが、なぜか私は、意識を失った。
- …
「うぅーん…。」
私は見知らぬ部屋で目を覚ました。
ベッドの上だろうか。
柱と、天井のある豪華なベッドだ。
「お目覚めね。エルマ。」
そして、ベッドには白い衣装を着た城主が腰かけていた。
そういえば、なぜ、私の名を知っているのだろう…?
よく見ると自分は服を着ていなかった。
気を失っている間に脱がされたのだ。
ばっ、と手近なシーツで体を隠す。
寝ている間に服を脱がされた。
それだけで、恐怖するには十分だった。
目が覚めると知らないお城でお姫様と謁見。
脱出不可能なお城。
城主の不思議な力によって意識を失った自分。
明らかに異常だ。
そして、いまだ、何が起こっているのか把握できない。
理解が付いて行かない。
「…あなたは、何者なのですか?」
もう、それくらいしか言うことが思いつかなかった。
城主が答える。
「私は、悪魔。人に干渉し、人の心を喰う存在。…趣味趣向から淫魔の部類に入るかもね。」
やはり何を言っているか分からない。
「…私は、これからどうなるのですか?」
最後に、一番気になる疑問を口にした。
「言ったでしょう?あなたは私の僕になるのよ。」
…何を言っても手ごたえがなかった。
「ふふふ、大丈夫よ、そのうち分るわ。」
そのうち、では困る。
早く家へ帰りたい。
お兄ちゃんが待っているはずだから。
- 「さて、さっき私は淫魔だと言ったわね。」
城主が仕切り直すように言う。
「知らないみたいだから教えてあげる。
淫魔とは、人間を淫らにして、その精を吸う存在。
私の場合は、人間の心、感情、あるいは意志、そして生命力を喰うのだけど。」
喰う、と聞いて、はっとした。
きっと、この状況から推測して、私を喰うということのだろう。
…私はここで食べられる…?
しかし、心を喰うとはどういうことなのだろうか。
「大丈夫よ、あなたに噛みついて、お肉をむしゃむしゃ、なんて真似はしないから。」
城主は私の思考を先読みしているかのように、私の不安に答えた。
「私はね、あなたに気持ち良くなってもらいたいだけなの。
あなたは、ただ、気持ち良くなるだけでいいの。」
ぬっ、と城主が身を乗り出してくる。
私は、城主の紅い瞳から目が離せなかった。
「じゃあ、そろそろ始めましょうか。」
城主の瞳が紅く輝く。
謁見の間とのときと同じだ。
しまった、と思ったころには遅かった。
「え…、なに?…動けない!」
体が動かない。
身じろぎすることはできるが、腕に、脚に力が入らないのだ。
「体の自由を奪わせてもらったわ。暴れられても困るからね。辛いかもしれないけど、我慢してね。」
さらに城主が近付いてくる。
怖い…。
これから、いったい何をされるというのか。
城主の顔が近付いてくる。
城主の唇が近付いてくる。
そして…、私は唇を奪われた。
驚きで、眼を見開く。
これは…キス?
まだ、誰ともしたことがないのに…。
思考の片隅でそんなことを思った。
- はじめは優しく触れるような、口付けだった。
それが、だんだん激しく、淫らになってゆく。
私は抵抗した。
口をつぐみ、歯を食いしばり、これ以上自由にさせないように。
しかし、城主の手が、私の体に、胸に触れたとき、思わず力が抜け、
その抵抗を緩めてしまった。
城主はその隙を逃さず、私の口に舌を入れる。
唇を食み、歯茎を刺激し、舌を絡め、唾液を流し込んでくる。
…ん、ちゅ、ぴちゃ…、ちゅ…ん…
なんだろう…。
嫌なのに…頭が、ぼうっとしてくる…。
…今、私は、この女性と体液を共有している…。
…私の体液が吸い取られ、新たにこの女性の体液が染み込んでくる…。
そんなことが、頭に浮かんだ。
いつしか、私の舌は城主の舌を、積極的に求めていた。
「ふふふ、素直になってきたわね。」
城主が銀糸を引きながらそう言った。
「…どう、して…?」
荒い息で、自身の未知の反応に戸惑う。
「…気持ちいいからよ。」
そんな…。
否定したかった。
でも、私はこの行為にどこか興奮を覚えていた。
私の口内が、この女の唾液で染められ、汚され、犯されてゆくことに。
…キスの続きが始まる。
私の口からたっぷりと唾液を吸われ、私の口にたっぷりと唾液を注がれる。
私の体を巡る、すべての水が、彼女と同じになってゆく…。
私の体が、彼女に染められてゆく…。
私が、穢されてゆく…。
そんな気がした。
数分の行為が続き、城主は唇を離した。
「…あ…。」
私を満たしていた温もりが離れて行く。
なんだか、名残惜しい気がして、その直後、自身の欲望に気付く。
そんな…、私…感じていた…?
城主はすべてを見通しているかのような笑みで私を見ていた。
「安心なさい、まだまだこれからよ。」
気付かれている。
私が、感じてしまったことに。
…恥ずかしい…。
強い羞恥心が込み上げてきた。
- 城主が私の胸に手を伸ばす。
さらり、とした感触。
動けない私は身をこわばらせて耐えるしかない。
「きれいな体…。」
城主の手が、ふに、ふに、と私の胸を摩る。
「いい胸ね…。乳首もきれい…。」
城主の指が、私の乳首を、くにくにと転がす。
「…んっ…。」
ぴくり、と体が動いた。
乳首が、硬くなっている。
先ほどからのキスで、私の体は、興奮していたのだ。
そして、城主は下の方に手を伸ばす。
何をするか、すぐに分かった。
私の…性器。
「いやっ!触らないで!」
反射的に体がこわばる。
しかし、城主は容赦なくその秘裂を撫で上げた。
「…あっ…。」
湧きあがる、甘く、切ない感覚。
抵抗できない。
「あまり遊んでいないのね。胸も、ここも、きれい。」
すでに、私の性器は濡れていた。
城主は、にちゃにちゃと音をたてて私の秘裂を撫でまわす。
「…でも、感度は…いまいちみたいね。」
屈辱、恥辱で頭から火が出そうだ。
「かわいそうに、女でありながら、女の悦びを知らないなんて。」
…うるさい、そんなことを言われる筋合いはない。
わたしは城主を睨みつけるが、その視線すら城主は楽しんでいるようだ。
城主は手を拭くと再び私の胸に手をあてた。
「すこし、成長させてあげる。」
- 「かわいそうに、女でありながら、女の悦びを知らないなんて。」
…うるさい、そんなことを言われる筋合いはない。
わたしは城主を睨みつけるが、その視線すら城主は楽しんでいるようだ。
城主は手を拭くと再び私の胸に手をあてた。
「すこし、成長させてあげる。」
成長…?
城主の手が、淡い青色の光を放ち始めた。
「な、何をするの…?」
手が光るという異常。
本来、人間の手は光を発したりしない。
きっと、私がされていることも、なにか異常なことに違いない。
「じきにわかるわ。」
城主は教えてくれない。
そして、その手で、やさしく、やさしく私の胸を撫でる。
徐々に、胸がじんわりと熱を帯びて行く。
その得体のしれない感覚に、私は恐怖した。
なにかされていることは間違いない。
でも、いったい何をされているのか分からない。
しばらくして、城主は手をはなした。
「…すこし、形も整えてあげたわ。感謝しなさい。」
城主の言うとおり、左右で少し違っていた私の胸は治されていた。
だが、とても喜んでいられない。
得体のしれない方法で体を弄られたのだ。
その事実にさらに恐怖が募る。
そして、やはり、弄られたのはそれだけではなかった。
- 「じゃあ、試してみましょう。」
城主が再び私の胸に手を添えた。
「…あ…。」
触れられた、という感覚が以前よりはっきりと伝わる。
城主の手の形が胸を通してはっきりと感じられる。
「胸の感覚を、よりはっきり感じられるようにしてあげたわ。
そして、より興奮できるようにもね。」
確かにそうらしい。
ふにふにと形を変えるたびに、体が熱くなる。
胸を揉まれることが気持ちいいなんて…。
胸から生じる甘い熱に、あたまがぼうっとする。
「そして、乳首も…。」
城主の指がきゅっと私の乳首をつまんだ。
「ああっ…!!」
体を白い閃光が走った。
感じたことのない快感。
みると、私の乳首は中心の突起が以前より大きく膨れていた。
それを、城主は摘み、くりくりと転がす。
「あああ、やあぁ…!」
再び走る白い閃光。
「こんな、こんなのぉぉ…!」
こんなの、いやだ、そう言おうとした…。
「いいのよ、我慢しなくて…。ほら、イきなさい…。」
城主は刺激を強める。
「…ひゃ…!…ぁ…!」
私はついに、絶頂を迎えた。
- …
朦朧とした意識が徐々に戻ってくる。
かすんでいた天井が、徐々に像を結び始める。
…私、どうなっちゃったの…?
天国まで攫われたかのような体の昂り。
今までに自身を慰めた経験がないわけではない。
だから、これが性的な快楽であることも理解できた。
だが、これは、あまりに強すぎる。
視界が戻ってきた。
見ると、城主は私の股間に手をあてていた。
胸の時と同じ、淡い光を放ちながら。
また、何かされてしまう…。
そう思ったが、抵抗しようにも気持ちが付いてこない。
「…やめて…お願い…。」
そう言うのが精いっぱいだった。
「どうして?こんなに気持ちいいのに?」
城主が問う。
他人に体を弄られて、気持ちいい筈がない。
だが、否定するには、やや理性が消耗しすぎていた。
城主は私の答えを待たずに言う。
「そのうち考えが変わるわ。気持ち良くなるうちにね。」
そう言うと、城主の手から光が消えた。
変化が終わったのだ。
- くち、と城主の手が秘裂をなぞる。
「んん!!」
指を浅く出し入れする。
「ん、あ、ああ!」
触れられるたび、体を満たす甘い感覚。
時折激しい刺激を伴いながら、体を駆け抜けて行く。
濡れそぼった淫裂を出発点に、腰、背中、首、そして、頭へ。
体が、ただ快楽が駆け抜けるだけの通路になったみたいだ。
こんな感覚は初めてだ。
こんなの自分の体じゃない。
そう思った。
城主は私に乗りかかり、快楽を与え続けながら、耳もとで囁く。
「あなたはまだ、青くて未熟なつぼみ。でも、あなたはここで女として花開くのよ。」
女として、花開く…?
「そう、淫らに、そして、美しく…。」
淫らに…美しく…。
「そして、私の虜に…。」
快楽とともに染み込んでくるきれいな澄んだ声。
私の体に、魂に、快楽の記憶が刻みつけられる。
彼女の言葉とともに。
- 頃合いを見計らった城主は再び私の唇を塞ぐ。
彼女の左手は私の秘裂に、彼女の右手は私の胸に、彼女の唇は私の唇に…。
城主は私がまたイってしまわないように加減をしながら、
しかし、口では、激しく私を犯した。
彼女と私の唇で、私は奪われ、彼女は与える。
…ちゅちゅ…じゅる…ぷちゅ…。
体液の共有…。
私はまた染められる。
私が…溶け出してゆく…。
彼女と…同化してゆく…。
そう、感じた直後、手の攻めが強くなった。
同化するイメージに取り付かれながら、胸と、性器からの快楽に押し流されてゆく。
私…この人と一つになりながら…あ、あああああ…!
「…ん、ん、んふんんー…!!」
…私が、消えて行く…。
身体を弓なりに反らして、私の意識は閉じた。
- …
眩しさを感じ、目を覚ました。
窓から差し込む光は眩しく、今が昼間であることを伝えていた。
見慣れない部屋。
そうか、私、攫われたんだっけ…?
攫われた時のことは覚えていのに、攫われたことを自覚するなんて。
なんだか変な気分だ。
周りを見渡す。
どうやらここは城主の部屋でもないらしい。
あの後、気を失った私を運び出したのだろう。
…一応、服は着せてくれたらしい。
昨日の出来事を思い出す。
…夢のような、惨劇のような出来事。
体を弄られ、淫れさせられ、そして…天国へ連れていかれた。
体を…弄られた…?
そうだ、私は体を弄られた。
自分の体が何か違うものに変えられたようなイメージが湧いてきた。
そのおぞましさに戦慄する。
「…大丈夫よ。私は未熟だったあなたの女を目覚めさせてあげただけ。
そして、あなたが異様に感じたのは私の力。
あなたの体を弄ったせいではないわ。」
突然声がした。
- 城主だ…。
いつからそこにいたのだろう。
入ってきたことすら気付かなかった。
「ただ、感覚は鋭敏になったはずだから、欲情しやすくはなったでしょうね。」
…冗談じゃない。
何か反論しようとしたが、先に口を開かれる。
「おはよう、エルマ。食事を持ってきたわ。一緒に食べましょう。」
彼女の脇にはワゴン。
ワゴンには二人分の食事。
…そういえば、お腹すいた…。
- 城主はテーブルに食事の用意を広げてゆく。
用意を終えると城主はテーブルについた。
「さあ、食べましょう。」
私も無視するわけにもいかないと思い、しぶしぶテーブルにつく。
パンとサラダとおそらく果物のジュース。
普通の食事に見える。
パンは焼きたてなのか、まだ温もりを保っていた。
おいしそう…でも、食べても大丈夫なのかな…。
そんな私の様子を見ていたのか、城主は微笑みながら言った。
「…毒なんか入ってないわよ。もちろん変な細工もしていないわ。」
そして、パンを自らの口に運ぶ。
もちろん、その様子を見ても私の不安は消えなかった。
でも…お腹すいた…。
さんざん迷った挙句、私はパンに手を伸ばした。
食欲には勝てない。
ふわふわのパン。
簡単にちぎれて、そして、おいしそう。
口に運ぶと、やはり、おいしかった。
豊潤な麦の薫り、きめ細やかな生地、ほのかに甘味を感じさせた。
…結局、私は、サラダも、果物のジュースも、しっかりいただいてしまった。
その様子を、城主は優しい眼差しで眺めていた。
穏やかな空気の中、私たちの食事は進んだ。
お互いの料理が無くなって、一息ついたあと、
さて、と城主は片付けを始める。
そういえば、なぜ、この人はわざわざここに来たのだろう。
確か、この城には何人ものメイドさんがいたはずだ。
しかも、食事まで一緒にして。
聞いてみることにした。
「城主さん…」
「クリス、と呼んでちょうだい。」
「…クリスさん、どうしてここに来たのですか?城主のあなたでなくとも良かったはず…。」
クリスは答える。
「あなたと、食べたかったのよ。それと、あなたと話したかった。」
なんだろう、クリスから、やけに温かさみたいなものを感じる。
「私は、あなたにこの城にいてほしいの。私と共に生きてほしいの。」
まるで愛の告白のような、そんな甘い言葉。
こっちが恥ずかしくなりそう。
普段なら一歩引いてしまうだろうその言葉も、
クリスの気品と風格と相まって、とてもくすぐったく感じる。
そして、どこか、嬉しさも。
わたしは…。
- 「わたしは、家に帰りたい。私の帰りを待っている人がいるから。」
当然だ。
彼女の一方的な愛に応える義理はない。
私には、私を家族として愛してくれた兄がいる。
私は家に帰らなければならない。
家でお兄ちゃんが心配しながら待っているのだ。
「どうしても、それを許さないというのなら、せめて連絡だけでも…」
「だめよ。」
クリスは遮った。
「あなたは、これまでのすべてを忘れ、私に尽くすの。
この城に来た時点で、町に住んでいたあなたは死んだのよ。」
「そんな…!」
町に住んでいた私は死んでなどいない。
いま、ここで生きているではないか!
…お兄ちゃんに会わせてほしい。
もう、二度と会えないなんて嫌だ。
だが、クリスはそんな私の気持ちなど取るに足らないといった態度をとる。
「それより…昨夜の続きをしましょう…。」
昨夜と同じ、体の自由を奪われた。
- ベッドの上で、執拗に愛撫される。
彼女は、私が平静でいられる限界を、わずかに超える快楽を与えていた。
抵抗しようとすれば、抵抗できそうな快楽。
しかし、彼女はそれを許さない。
焦らしているのとも少し違う。
私に、快楽という甘い蜜を、ゆっくりゆっくり染み込ませているのだ。
激しい快楽は与えず、しかし、持続的に、反復的に与え続ける。
叩き込むのではない、染み込ませているのだ。
「…んっ…ぁぁ…。」
ほら、またイかされた。
それは、石を磨く作業に似ているかもしれない。
少しずつ、何度も磨くことで、きれいに、きれいに、仕上げるのだ。
美しく、淫らに。
- もう、なんど、イかされたのだろうか…。
既に、境界は曖昧で、常に絶頂を迎えているかのようだ。
理性は消耗し、しかし、快楽は絶えない…。
「気に病まなくてもいいのよ。触られて気持ちがいいのは当然のことなのだから。」
クリスが淫裂を愛でていた指の力を強める。
「…は、あぁん…!」
すこし強い絶頂…。
なんどもイき続けたせいで息が苦しい…。
「あなたは家へ、お兄さんの元へ帰りたいのね?」
クリスの問いに涙を流しながら、こくりと頷く。
「そう…。でも…。」
再び、少し強い快楽。
また、視界が白くぼやける。
「忘れてしまいなさい…。」
私の願いなど、当然のように、クリスは聞き届けてはくれなかった。
「ここではあらゆる幸せより素晴らしい快楽を得続けられるわ。私が与えてあげる。」
優しい愛撫を施しながら、やはり、優しく囁く。
快楽とともに浸透してくる彼女の声。
「お兄さんとの生活がどれほど素晴らしくとも、あなたは必ず私を選ぶ。」
徐々に、愛撫を強めてくる。
先ほどまで何度もイかされたのに、それでも鮮烈な刺激が与えられる。
「さあ、あなたの乱れる姿、もっと私に見せてちょうだい。」
ああ、また、イっちゃう…。
「…愛してあげる。」
そして、私は快楽に包まれた。
…また、私が消える…。
…お兄…ちゃん…。
- …
彼女は抵抗している。
すでに、何度も快楽を与えたが、
彼女の理性が限界を迎えるとき、必ず『お兄ちゃん』という存在がちらつく。
帰るべき家で自分を待つ、大切な人のため、必死に抵抗しているのだ。
今までも私に、快楽に抵抗した人間はいた。
だが、大抵は、快楽に壊れ、狂い、あるいは…死んでしまった。
この娘も焦れば死んでしまうか、壊れてしまうだろう。
慎重に、花を愛でるように、少しずつ染めてやらねば。
だが…。
ふと、疑問が湧きたつ。
なぜ、人はそうまでして快楽に抵抗するのか?
快楽とはすなわち喜びだ。
素直に受け入れればよいものを、なぜ、死を選んでまで拒むのか。
…まあ、その理由はなんとなくは分かる。
きっと、それは、人としての幸せを失いたくないから。
獣として至高の快楽を得られるとしても、人としてのわずかな幸せを失いたくないから。
あの娘は、現実を受け止められないほど、未熟でも、愚かな人間でもないはずだ。
だが、もう二度と戻ることはできないと宣告されても、決して認めようとしない。
人としての幸せ。
それは、彼女の中で、確固たる礎を築いていた。
そんなにも、忘れられないのか。
そんなにも、大切なものなのか。
では…それならば、それを壊してしまえばいい。
そうすれば、ありもしない希望を手放し、私にすべてを委ねるはずだ。
- そんなにも、忘れられないのか。
そんなにも、大切なものなのか。
では…それならば、その大切なものを壊してしまえばいい。
そうすれば、ありもしない希望など手放し、私にすべてを委ねるはずだ。
しかし…はたしてそれでよいのか。
おそらくそれは最も効率がよく、最も簡単な方法だ。
だが、どこか芸がない。
…いや、面白いことを思いついた。
彼女自身にその幸せを壊させてみよう。
彼女自身にそれまでの幸せを、人としての幸せを壊させるのだ。
それも、最高の形で。
彼女は壊れるだろうか?
それとも…?
どうやら…ふふふ、よい楽しみを見出してしまった。
- …
もう、何日目か。
クリスは現れるたびに私を愛でた。
最初こそ、私の魂を侵すその暴力になんとか反抗していたが、
回数を重ねるたびに徐々に抵抗は薄れていった。
最近では、気を抜くと私から彼女を求めている気がする。
私は快楽に曝されるうちに、歪められてしまったのだ。
なんと、弱い意志か。
なんと、弱い心か。
もちろんそんなことは嫌だ。
私には待ってくれている人がいる。
その人を裏切らないためにも、彼女を受け入れてはいけない。
受け入れれば、きっと、戻れなくなってしまうから。
だが、その気持ちすら、最近は疑わしい。
嫌だ、嫌だと心の中では抵抗していても、実際の行動に表れない。
気を抜くと、彼女を求める私が顔を出す。
…本当はもう諦めていて、
でもそれを認めらたくないから、半ば口実のように心では抵抗しているのではないか?
いや、本当はそうですらなく、
心の中で抵抗したつもりでいるだけで満足しているのではないか?
そんな、疑問さえ浮かぶ。
…私は、疲弊していた。
お兄ちゃんに会いたい。
その気持ちだけは、私の中に確かに存在した。
いや、存在すると必死に信じている。
それだけが、今の私を支えている…。
- 「…エルマ。」
クリスだ…。
また、私を愛でに来たのだろう。
でも、今回は何か雰囲気が違う。
いつもなら、私を少しだけからかって、ベッドに誘う。
別の意味で力ずくで。
だが、今日は、これまでの穏やかな雰囲気ではなく、なにか、真剣な面持ちだ。
そして、少し冷たい。
すこし困惑する私に、クリスは口を開いた。
「あなたに対して、気が変わったの。私はあなたを私の虜にするつもりでいた。でも、やめにすることにしたわ。」
クリスの口から出てきたのは意外な言葉だった。
私を諦めた…。
それは、私の解放を意味しているように思えた。
本来なら諸手を挙げて喜ぶところなのだろうが。
なぜか、複雑な気分になった。
物足りないような、さみしいような…。
- だが、どちらにせよ、彼女の目的は終わったのだ。
きっと私は解放される。
「私を帰してくれるのね…?」
だが、クリスは首を横に振る。
「どうして…!」
なぜ返してくれないのか。
彼女の目的は私を虜にし、僕にすることだったはずだ。
「あなたに別の興味が湧いたのよ。」
「…?」
別の興味…?
まだ、返してくれないことには変わりないらしい。
「あなたは、いまでも家に帰りたいと思っている。
それは、きっと、そこがあなたにとってとても幸せな場所だったから。
…そうでしょう?」
その通りだ。
無言でうなずく。
「その幸せが忘れられないから、あなたは快楽に屈することはなかった。
でも、もし、…その幸せが壊れたとしたら…どう?」
- 何を意味しているのかはすぐに分かった。
「まさか…、お兄ちゃんを殺そうっていうの?」
嫌だ、そんなこと、絶対に嫌だ。
きっとこの女なら、それが可能なのだろう。
嫌な汗が噴き出す。
クリスはクスクスと笑う。
「少し違うわ。」
意味ありげに含みを持たせた言葉。
「…殺すのはあなた。あなたが殺すの。」
…?
何を言っているのだろう?
私がそんなことをする筈がない。
「いずれ分かるわ。」
嫌な予感がする。
「さて、始めましょう。」
クリスの周囲を風が取り巻く。
強い風に、私は目を開いていられなかった。
- しばらくして風が収まったころ、ようやく私は目を開くことができた。
が、その目に飛び込んできたのは信じられない光景で、その存在に驚愕した。
そこにいたのは見慣れたクリスではなかったからだ。
青白い肌。
蝙蝠のような翼。
山羊のような角。
蛇のような尻尾。
黒い下地に黄金の瞳。
その身に纏う威厳と風格。
おおよそ人間の姿ではない。
それは、そう、きっと悪魔と呼ばれるものたちの姿なのだろう。
人にあらざる黄金の瞳が私を見つめている。
- 怖い…。
純粋にそう思った。
体が震える。
知らず、私はベッドの上を後退っていた。
悪魔が口を開く。
「この姿を見せるのは初めてね。」
その声は、聞き慣れたクリスのものだった。
悪魔は震える私を見て、やれやれ、と半ば呆れた様子だ。
「そんなに怯えないでちょうだい。」
溜息混じりにそんなことを言う。
以前、クリスは自身を城の悪魔だと名乗った。
私は、彼女がずっと人と変わらない姿をしていたから、全然意識していなかった。
ちょっと不思議な力が使えるお姫様、くらいにしか思っていなかった。
だが、眼の前にいるのは怪物だ、異形だ。
おそらくこれが悪魔と呼ばれる存在なのだろう。
「な、何をするつもり?」
震える声で魔物と対峙する。
「いつもとだいたい同じよ。あなたは気持ち良くなるだけでいいの。」
いつもと同じ。
つまり、この悪魔は私を犯す、ということなのだろう。
悪魔の体が近付いてくる。
- これは忌むべき存在だ。
この存在には触れてはいけない。
人としての本能が、そう警鐘をならす。
だが、怯えきった体は言うことを聞かず、まともに立ち上がることさえできない。
それでも私は必死に手足を動かして後退さった。
だが、到底逃げ切れるはずもなく、あっという間に追い詰められ、腕をつかまれる。
血の気を感じさせない青い肌が、顔が近付く。
黒地に輝く金色の瞳が私を捉える。
紫色の唇が、舌舐めずりをしている。
穢される。
本気で、本気でそう思った。
体は震えっぱなしだ。
目には涙が浮かんできた。
逃げたい、逃げたい…。
だが、いやに艶やかな紫色の唇は、容赦なく私と結合した。
- 連日の快楽がよみがえる。
体の力が抜け、震えが収まった。
慣れ親しんだ唇の感覚に、いつもどおりの反応を返す私の体。
唇を奪われた私は…快楽に身を委ねてしまう。
口を侵す異形の快楽を、自ら舌を絡め、求めてしまう。
悪魔の唇から注がれる忌むべき毒を、おいしそうに求めてしまう。
私はいつの間にか、穢されることを拒めなくなってしまっていたのだ…。
青い魔物が私に覆いかぶさる。
悪魔の手が、口が、私の体を弄ぶ。
今までにも感じた、私自身を犯される感覚。
今、初めて感じる、人外に体を委ねる生理的、精神的な嫌悪感。
にもかかわらず、際限なく昂ってしまう、十分に快楽を叩き込まれた体。
まるで、私が自身の体に人であることを否定されているようだ。
私は今、悪魔の愛を一身に受けていた。
嫌だ。
こんなのは嫌だ。
だというのに、まるで禁忌を侵すような行為に、別の昂奮も覚える。
一通り私の体を味わって、悪魔は私を快楽から解放した。
- 悪魔が問う。
「今日、なぜ私はこの姿をしていると思う?」
分からない、そう、首をわずかに横に振ることで答えた。
クリスは人外の顔でクスクスと笑う。
いま、この状況において、その嘲りさえも、獣かなにかの声に聞こえる。
そして、悪魔はその目的を明かした。
「あなたを、私の眷属に、あなたも悪魔するためよ。」
- …私も悪魔にする…?
確かにそう言った。
「ほら。」
クリスは自分の体を指した。
悪魔の股間に変化が…。
ミチミチと音を立て、それが現れる。
棒状の肉。
それが何なのか、私はすぐに理解し、戦慄した。
ペニスだ。
灰色のペニス。
ペニスが悪魔の体に現れたのだ。
「嫌ぁ!やめてっ!」
その肉棒を何に使うのかは明白だ。
その凶器で、私を突き貫こうというのだ。
- 「まだ、あなたの処女は頂いていなかったわね。」
私の淫裂を、悪魔の青い指が愛おしそうに、すりすりとなぞる。
お誂え向けに、その割れ目は、十分すぎるほど潤っていた。
悪魔の青と、私の桃色、それを透明な粘液が彩る。
「あなたの処女は私が頂くわ。悪魔に処女をささげるなんて光栄なことなのよ。」
嫌だ…。
さんざん穢された体でも、それでもまだ…私は純潔なのだ…。
そんな意識が、今更になって芽生える。
この純潔は愛すべき男にささげるもの。
こんな化け物にくれてやるものではない。
「嫌ぁぁ!お願い、やめて!おねが…ムグッ…!」
必死に懇願するが、口を塞がれる。
瑞々しく、毒々しい、紫色の唇に。
慣れ親しんだその感覚に、抵抗の意思が奪われる。
私の頬に涙が伝わる。
私は泣いていた。
「大丈夫、気持ちいいから。」
唇を離した悪魔…。
人にあらざる顔で、私をやさしくなだめる。
もちろんその悪魔の言葉は、私を落ち着かせることはなく、
人外に犯される昂奮を、今まで以上に呼び覚ますだけだ。
そして、ついに彼女の凶器があてがわれる。
「…ああ…やめて…。」
最後の懇願をする。
悪魔は、優しい微笑みをその人外の顔に浮かべて応えた。
もちろん、私の願いを聞き入れるはずはない。
「それじゃあ、行くわ。」
にゅぷ、と彼女の先端が、私の肉を押し広げた。
- 「痛い!いたい…!」
初めて本格的な異物を受け入れる痛み。
そして、ミチ、ミチという感覚が膣から伝わる。
処女膜が徐々に裂けているのだ。
ついに、奪われる。
私の純潔が奪われてしまう。
「いやああああ!!」
叫んでいた。
しかし…。
ずりゅり、と彼女の凶器が突き刺さる。
奥まで届いているのが判った。
貫き通されたのだ。
痛みと、そして、喪ってしまった絶望に、私の心は押しつぶされる。
「あ…あああ…。」
精神力の限界を超えていた。
衝撃が大きすぎて半ば放心状態だ。
その様子を、悪魔は悦に浸りながら眺めていた。
「…ねえ、聞いて。」
悪魔が耳元で囁く。
「今から私の精を、あなたに注ぐの。」
- 精を注ぐ…。
中に…出される…。
その言葉に反応し意識が引き戻された。
「お願い…やめて…。」
泣きながら懇願する。
だが、この願いが聞き届けられることも、当然、ない。
悪魔は残酷に断じる。
悪魔の肉が私の中をゆっくり出入りする。
痛い、痛い。
しかし、その痛みすら私を昂らせる。
今夜初めて他者を受け入れる私のそこは、
初めてにもかかわらず、快感を伴う適度な痛みを伝える。
それは初めてクリスと交わったとき彼女が施した術が原因か、
連日犯され開発されたのが原因か、
それとも、この悪魔の能力か、
はたまた、その全てか、
私にはわからない。
穢されることを、まるで喜ぶかのように、私の体は昂る。
そのことだけは同じだった。
既に、好い嫌いは関係ないのかもしれない。
私の体は、ただ、ただ昂奮してゆく。
- 「んっ、ふっ…出すわっ。受け取りなさい!たっぷりと注いであげる!」
おなかの中の異物が膨張する。
精を出されるのだ。
悪魔の精は人にとって忌むべき毒だ。
それは、私にも本能で感じとることができる。
人にとって穢れの塊でしかないその液。
それが、今、まさに、私に注がれる。
「いや!いやあああ!」
…びゅるるる…。
粘性を帯びた汁が体の中に打ち付けられる。
その不快で心地良い衝撃を、私は何もできずに感じていた。
「ああ…出てる…私の中に、出てる…。」
私の子宮が、体が、魔物の精に汚染されてゆく。
- もう、この胎で胎児を育むことはできないだろう。
できたとしても、穢れの中から産み落とされるその子が…あまりにも哀れだ。
私は…穢されたのだ。
「まだまだ行くわよ…。」
悪魔はしばらく止めていた体の動きを再開した。
先ほどよりも、早く、激しく。
「んんっ、ああっ、…もうっ…やめて…。」
先ほどから私は、目の前の悪魔に懇願することしかできない。
「…まだ、快楽が足りない様ね。」
悪魔は淫靡に笑う。
私の懇願は、逆に悪魔の加虐欲求に火をつけただけらしい。
「その顔、その絶望、最高よ…。すべてを奪ってあげる。」
また、口を塞がれる。
彼女の手は、私の乳首と、陰核に。
その全てから快楽を送り込まれる。
「んんん〜〜!んん!んんん…!」
頭の中が真っ白に染まる…。
一度…二度…三度…。
絶頂を何度も迎え、そのたびに、子宮が喜び、私の理性がずたずたに破壊される。
もう何も分からない。
死んじゃう、このままじゃ、死んじゃう…。
「エルマ、分かる?あなたの膣が私のペニスを締めあげてるわ!おしそうに私の精を受け入れてるわ!」
そんなの分かんない、分かんないよ…。
…びゅぷぷ、びゅぷ…。
際限なく注がれる精。
そして、快楽の波。
悪魔の精が快楽の波に乗り、全身に行き渡るようだ。
指の先まで犯し、穢される錯覚。
それが、幾度も繰り返された後、やっと、悪魔の動きが収まった。
…悪魔が私に突き刺していた凶器を引き抜く。
それが納まっていた亀裂から、とぷとぷと白い液が流れ出ている。
私の子宮は悪魔の精で満たされていた。
- 悪魔が囁く。
「気持ち良かったかしら…?」
私はもう、なにも反応することができない。
「感じるでしょ…?私の精を。」
悪魔は私の下腹部を愛おしそうに擦る。
「…あなたの子宮で、あなたの卵と私の精が結びつき、新たな命が生まれるのよ。素敵でしょう。」
私の中に悪魔の子を宿してしまう。
死にたい…そう思った。
だが、悪魔は続ける。
「でも、そこから赤子が生まれ出ることはないわ。
あなたに宿ったその命は、あなたの肉体を依代に成長する。
そして、人間だったエルマの肉体に取って代るの。
エルマの魂を宿したままね。」
すでに冷静でない私には何を言っているのか分からない。
つまり、どういうことなのか。
「あなたは生まれ変わるのよ。わが眷属として。悪魔として。」
それは悪魔の精を、生を与えられるということ。
- 嫌…だ…。
緩慢な思考はなおも悪魔を拒絶する。
こんな、存在になりたくない。
そう思った。
だが、もう遅い。
体に新たな変化を感じる。
お腹が…熱い…?
「受精が始まったの。
あなたはお母さんになるのよ。
すぐにその子に生まれ変わるのだけど。」
「あ、あ、いや…いや…。」
絶望的な受胎宣告。
そして、変化が始まるのだ。
私の変化、悪魔への変化。
「疲れたでしょう。ゆっくり眠りなさい。」
悪魔の目が私を捉える。
「目が覚めるころには終わっているわ。安心してお休み。」
目が覚めるころには変化が終わっている…。
悪魔への変化が…。
そんな言葉が私の中を反響して、でも、そこからなにも生み出さず、私の意識は閉じた。
人間の体に宿っていた私の、最後の意識。
それが、…終わった。
- …
「…目覚めなさい…。」
最初に聞こえたのはクリスの声。
「…目覚めなさい、エルマ。…エルマ・グラフ・フォン・ルクレール。」
私は、再び生を開始した…。
…
- …
目を開くと、私にあてがわれた部屋だった。
そして…。
例の悪魔が私の顔を覗き込んでいた。
やさしい笑みを浮かべながら。
「…!」
私は、がばっ、と跳ね起き、すぐに距離を取ろうとベッドの端まで逃げた。
また、恐ろしいことをされる。
そう思った。
「そんなに怯えないで。」
悪魔は…クリスは苦笑いを浮かべている。
そして、やれやれ、といった様子で溜息をつくと、手鏡を示しながらこう言った。
「自分の姿を見てごらんなさい。」
まさか…。
- 最後の記憶を手繰り寄せる。
あなたは悪魔に生まれ変わる。
クリスはそう言っていたはずだ。
…視界の端に、なにか異様なものが見えたが、気にしない。
恐る恐るクリスから手鏡を受け取り、のぞきこむ。
「……!」
声が出ない。
「とても素敵よ、エルマ。」
クリスがすり寄ってくる。
私は、それどころではなかった。
「なに、これ…?…いや…、いや、いやああああ…!」
悲鳴を上げる。
これが自分の姿だとは信じたくない。
鏡に映っていたのは以前の私ではなかった。
血の気の感じられない、白というより、むしろ青か灰色の肌。
手足の指には黒く光沢を放つ爪。
背中には漆黒の翼。
頭には山羊のような角。
腰からは蛇のような尻尾。
黒地の眼に黄金の瞳。
鏡を受け取るとき、確かに見えた私の手。
どこか異常だったが、理性が無視させた。
その手は青く、その質感には見覚えがあったというのに。
鏡にクリスの姿も写りこむ。
私の姿はクリスと同じだ。
悪魔の姿。
私は悪魔の姿をしていた。
- 「覚えているかしら?最後の夜のこと。」
最後にクリスと交わった夜。
「あの夜、エルマの卵と、私の精で生まれた新しい存在。
私が植え付け、あなたが育てた新しい命。
…それがあなた、悪魔エルマ。」
私は自身の姿にパニックになり、そして泣いていた。
私は、私は変わってしまった。
もう誰も、お兄ちゃんですら、私がエルマだと分からないだろう。
それどころか、きっと、忌むべきものとして退治されるのだ。
悲しい、あまりにも悲しい。
そんな私を、クリスが優しく抱き寄せる。
何も言わず、廻した手で頭を撫でる。
まるで、慰めるように。
悲しむことなんてない、それよりも、生まれ墜ちたことを喜びなさい、と。
- しばらくして、私は落ち着いてきた。
クリスの言葉に感化されたわけでもない。
泣き疲れてしまったのだ。
クリスが優しく声を掛ける。
「安心なさい。気を静めて。望めばあなたも人の姿をとれるわ。」
そう言うと、クリスは目を閉じてその術を示した。
翼が消え、角が消え、尻尾が消え、肌の青が抜けて行く。
そうして、クリスは初めて出会ったときの人間とほとんど変わらない姿に変化した。
目を開き、私を見つめる。
「ほら、気持ちを落ち着かせて。」
私もその様子を見て、真似てみることにした。
呼吸を落ち着かせ、人の姿をイメージする。
…本当だ、翼や、角、尻尾は闇に溶けるように消えていった。
肌の色も青から、人の色に戻ってゆく。
私から悪魔の特徴が消え、以前のエルマの姿をほぼ取り戻した。
これなら、誰が見ても私だとわかってくれるだろう。
すこし、安心した。
しかし、そこで気がついた。
自身の体が以前と少し変わっている気がする。
均整がとれている…というか、美しさが増したように感じる。
どうして…?
クリスが疑問に答える。
「あなたは人を誘う悪魔に生まれ変わったのよ。
当然、より人を魅了する姿になるわ。」
悪魔に生まれ変わった…。
信じたくないが、きっと事実だ。
先の私の姿。
あれは、紛れもなく悪魔のもの。
青い肌の怪物。
それが、今の私…。
もう、どうしようもないことなのか。
思いつめてしまう。
- 「お腹がすいたでしょう?食事にしましょう。」
クリスの言葉で現実に引き戻される。
以前、クリスは自分の食事は人の心だと言っていた。
悪魔の食事。
私も、そんなものを喰うというのか。
「もう準備はできているわ。ついてきなさい。」
そう言うと、クリスは闇に溶けていった。
気配を追いかける。
不思議と、どうすれば彼女について行けるのか、すぐに分かった。
だが、それは異形の業、悪魔の業。
空間を移動することに躊躇いを感じる。
「…早くおいでなさい。」
再びクリスの声が聞こえる。
あまり待たせると、機嫌を損ねそうだ。
結局、移動することにした。
人の身ではありえない方法で。
- クリスの入った部屋に出てみると、そこには二人の女性、いや、少女がいた。
どこかで見覚えがある…。
そうだ、最初に私をドレスで飾っていたメイドさんたち。
その中の二人だ。
彼女たちが、クリスとなにかの契約をしていることはすぐに分かった。
人でありながら、人であることを捨てた者たち。
悪魔に生涯仕えることを望んだ者たち。
悪魔の庇護、快楽と引き換えに、己の生を悪魔にささげる者たち。
それが、今回の食事だ。
早速、クリスはベッドに二人を招き入れる。
そして、すぐに快楽の宴が始まった。
愛撫と、キスの、宴。
彼女たちの悦びが、クリスを包み込み、クリスに力を与える。
…気持ち良さそう…。
きっとこれが食事。
悪魔の、淫魔の食事。
…おいしそう…。
そう思ってしまった。
しかし、わずかな間を置いて、その思考に気付いて愕然とした。
私は今、何を思ったのか?
人間が…おいしそうに見えた…?
それは、もはや、人間の思考ではない。
ここで人間を喰うことは、すなわち、悪魔としての生を受け入れるということ。
こんな体にされても、それでも私は悪魔にはなりたくない。
この欲求に屈してしまえば、きっと、二度と戻れなくなる。
元の生活に…お兄ちゃんと暮らした幸せな日々に戻れなくなる。
それだけは、嫌だ。
- だが、そんな私の様子を見越してか、クリスが揺さぶりをかける。
「ほら、お行き。」
抱いていた少女の片方を私に差し向けたのだ。
熱に浮かされた少女の肢体がゆらゆらと近づいてくる。
私は恐怖した。
その少女にではない。
私の中に湧き上がってくる黒い欲望に、だ。
そんな私の欲望を見透かしたようにクリスが言う。
「したいようにすればいいのよ。
それがあなたの食事なのだから。
体の声に心をゆだねなさい。
そして、その子を悦ばせてあげなさい。」
したいようにする…。
この少女に口づけを、優しい愛撫を、乳首に性器に刺激を、そして…。
…愛してあげたい…。
温かな感情。
黒い欲望。
少女の手がそっと私に触れる。
私は、そのまま抱きしめてしまいたいという欲求を、必死に抑えた。
抱きしめてしまいたい。
でも、きっと、引き返せなくなる。
目をつむり、その災厄が過ぎ去ることを、必死に待った。
- しばらくして、私にそのつもりがないことを悟ったのか、
その少女は困ったような表情をクリスに投げかける。
「仕方ないわね。いいわ、こっちにいらっしゃい。」
そして少女は嬉しそうにクリスの与える快楽に戻っていった。
「恐れているのね。悪魔になることを。」
クリスは憐れむような表情でそう言った。
「でも、これでどうかしら?」
クリスは抱いていた少女の片方を押し倒すと、体を絡ませ、激しく愛撫する。
熱いキスを浴びせ、指を性器に出し入れする。
「あ、クリス様…だめ…!」
少女は言葉こそ拒否の姿勢を見せるが、その顔は歓喜に染まり、そして嬌声をあげた。
私はその光景から目が離せない。
彼女を取り巻く快楽の嵐の中に、吸いこまれてゆくような錯覚まで覚える。
「あ、あ、ああああ…!」
そして、間もなくその少女は絶頂を迎えた。
彼女の悦びが迸る。
そして同時に、私の体もビクンと反応する。
無抵抗で、哀れで、おいしそうな獲物…。
…飛び掛かってしまいたい。
でも、それだけは我慢しなくては。
私の中に残された、人間の理性が必死に抵抗する。
私は、耐え、耐えきった。
- 「…強情ね。いいわ、あなたが我慢できなくなるまで、眼の前で見せつけてあげる。」
クリスは、幸せそうに果ててしまった二人の少女を抱えながら、悪態をつく。
「そうね…。あなたが、一言『ほしい』と言えば、分け与えてあげる。
いつでも待っているわ。」
そういって、クリスは自室に戻っていった。
二人の少女を残して。
私も消耗した精神を引き摺りながら自室に戻ることにした。
その日から、私の、悪魔の誘惑に堪える日々が始まる。
- …
…もう5日目だ。
あれ以来、クリスが人間の食べ物を運んでくることはなくなった。
そして、その代わりに、城の人間たち私の目の前で犯した。
何度も、何度も。
そのたびに、私は、精を奪う欲求に苛まれる。
背を反らし、喘ぎ声をあげる人間。
迸る魂、生命力。
その中に飛び込むことができるなら、どんなに素敵なことか…。
吸いたい…取り込みたい…。
時を追うごとに私の欲求は増していった。
ほしい、ほしい、と体が訴えている。
気を抜けば、無意識に飛びついてしまいそうだ。
この体は勝手に動き出し、クリスが差し出す御馳走を、
欲望の向くまま、食い荒らすことだろう。
だが、それでも私は耐え続けた。
でも…。
きっと、もう限界が近い。
人の心と、悪魔の体の戦いは、終局に近づいていた。
どうやら、私の心より、悪魔の体の方が、強い。
このまま消耗を続ければ、私の心の方が先に力尽きることだろう。
- 気付くと私は、人の姿をしていないことが増えてきた。
しっかりと意識を保たなくては、人の姿を保っていられない。
目覚めた夜は、なにも苦労しなかったというのに。
私は…もうだめなのだろうか…。
そんな考えが、残された私の心を支配し始めていた。
クリスは、食べないと体に悪いわよ、などと皮肉を言う。
体だけに毒ならそれでいい。
この忌まわしい体だけが死んで、心だけ生きてほしい。
だが、実際は、心は体に宿っており、体が弱れば心も弱る。
そして、今の私は、心の方が弱い。
…そう、もう限界が近い。
- …
そして6日目。
私は人の姿でいることを半ば諦めていた。
精神力を振り絞って人の姿を取ったとしても、すぐに戻ってしまうのだ。
そして、おぞましいこの姿にも、もう慣れた。
だらしなく翼を広げ、天井だけ見て時を過ごす。
私の戦いは、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
- 「エルマ…。」
いつものようにクリスが現れる。
だが、今日は、獲物の姿がない。
訝しむ私にクリスは口を開いた。
「お兄さんがお城に来たわ。今は眠っていらっしゃるけど…。」
クリスの口から発せられた言葉はあまりにも意外なものだった。
お兄ちゃんがここに来た…?
- 攫われた私を助けに来てくれたんだ…!
嬉しい、この場で泣き崩れてしまいたい。
再びお兄ちゃんに会えることを何度夢見たことか…!
だが…、クリスは気になることも言っている。
今は眠っている…?
それはどう意味なのか。
この女は悪魔だ。
兄に、どんなおぞましい仕打ちを施したのか、まったく予想ができない。
「…何をしたの?」
恐る、恐る、聞く。
「斬りかかってきたから、気絶させただけよ。心配するようなことはしていないわ。」
その言葉に安心する。
怪しげな術はかけていないということ。
そして、クリスは嘘を言わない。
- 「せっかくおいでくださったのですもの。
あなたにも会わせてあげる。
だけど、話をつける必要があるわ。
何せ斬りかかってきたんですもの。」
兄は、私を助けるため、この悪魔と対決したのだ。
そして…負けた。
なんと、無謀なことをしたのか。
だが、それも、私を助け出すためにしたこと。
私を想うが故に犯した無茶。
「わたしの用がすんだら、あなたを呼ぶわ。
そうしたら来てちょうだい。」
そう言うとエルマは消えていった。
…今は再会できるとことを素直に喜ぼう。
もう、会えないかもしれないと思っていた、大切な人なのだから。
- だが、この姿をさらすわけにはいかない。
青く、おぞましい、化け物の姿。
…きっと、お兄ちゃんが悲しむ…。
意志を振り絞って人の姿を取る。
翼、角、尻尾、…問題なく消えた。
鏡をみて、姿を確認する。
よし、大丈夫、今までの私だ。
あとは、なんとかこの姿を保って、お兄ちゃんに会おう。
クリスの知らせを待つ間、戻ってしまいそうになる体を何とか抑え続けた。
…お兄ちゃんに会える。
その思いがあれば、苦しくて困難だった姿の制御も容易く感じられた。
そして、その時が来る。
「…入っていらっしゃい。」
クリスの呼ぶ声。
「…はい。」
私は声の元へ急いだ。
- だが、部屋に出て、愕然とする。
お兄ちゃんは確かにいた。
ただ、同時に私にとって最悪の状況が待っていた。
たちこめた淫臭。
うっすらと、精液の匂い。
クリスはお兄ちゃんの準備を、食事の準備を整えていたのだ。
- 会いたかった、お兄ちゃん。
ベッドに寝かされ、ペニスを隆起させ、クリスの暴力に曝されていた。
生まれかけの快楽がわずかに漂っている。
あ…まずい…。
理性に亀裂が入りそうだ。
私の体を作るすべてのものが、本能をむき出しに、暴れ始める。
最後の抵抗を見せる、私の弱りきった心を、悪魔の体が、巨大な鉄球で砕きにかかる。
よこせ…!その精をよこせ…!と。
すぐにでも飛びかかり、襲い、喰いつきたいという衝動を、必死に抑え込む。
でも…ああ、もう駄目だ。
翼が、角が、尻尾が、実体を持ち始める。
きっと、もう、見えてしまっているのだろう。
お兄ちゃんの目が驚愕に見開かれているのが分かる。
私の中の悪魔を、ついに隠しきることができなかった。
…やってしまった。
昔、自分が本当に小さかった頃、我慢できずに、お漏らしをしてしまったような…、
そんな気持ち。
- もう、どうにでもなれ…!
などと思いそうになり、それでも必死に踏みとどまる。
お兄ちゃんを、食べる気か…!!
そう自分に言い聞かせ、必死に耐える。
でも…。
鍛え上げられた、たくましい肉体。
熱と色を帯びた吐息。
若く、瑞々しい躰。
きっと、精も、おいしい…。
ほしい、食べたい、飲みたい、吸いたい…。
そんな考えが頭のなかをぐるぐると回る。
クリスがお兄ちゃんのあそこをさらり撫で上げる。
悶えるお兄ちゃん。
ほんの少し、快楽の匂いが増したように感じ、私の意識が揺らぐ。
あ…、と思ったころにはもう遅かった。
- 気付くと、兄の姿は大きく、唇には肉の感触があった。
私は、吸い込まれるように、お兄ちゃんの唇を奪っていたのだ。
ああ、こんなにも近くに、我が命の源がある…。
もう少し、もう少しだけ手を伸ばせば、その全てを自分のものにできる…。
少しだけ、少しだけなら、吸っても…いい、よね…。
そんな気持ちが口をついて出てしまう。
「ごめんなさい…。お兄ちゃん、ごめんなさい。もう、私、駄目みたい。」
自らの中にある限界と欲望の吐露。
こんなこと、絶対に言うべきでない。
でも、もう、私の欲望は止められない。
既に堰は切れてしまっていた。
今更、どんな抵抗しても、この欲望の奔流を押しとどめることはできない。
そして、ついに、私の口が裏切る。
兄に最後の言葉を告げる。
「お兄ちゃん、…ちょう…だい。」
- ああ、不思議…。
体が勝手に動くみたいだ…。
…私は獲物の上に跨り、抵抗できないように、しっかりと捕えていた。
そもそも、獲物の体はすでにクリスが呪縛していた。
もう、この男に逃げる術はない。
私はゆっくりと腰を下ろし、精の源をヴァギナにあてがった。
だが、そこで、そこまで来て、降下する体がぴたりと止まった。
…理性が最後の抵抗を図る。
だめだ、こんなこと、やってはいけない、と、必死に叫び声をあげる。
しかし、私の体は、心はすでに欲望に染まっていた。
人としての理性が悲鳴をあげる中、悪魔としての本能が雄叫びをあげる中、
ゆっくりとお兄ちゃんを、口に含んだ。
あとは咀嚼して飲み込むだけ。
- ついに悪魔の本能を抑えられなかった私の理性が、
自らの力不足を懺悔するように、謝罪の言葉を漏らす。
「ごめんなさい…ごめんなさい。」
だが、精の最初の一滴が、私の体に触れて、それも終わった。
生命力の波が、私の体を満たし、駆け抜ける。
私の中に、命を吸い上げるイメージが湧きだし、私の全てを支配する。
そして、現実もその通りになった。
獲物の体から精が噴射されるたび、私の体は命を取り戻してゆく。
その感覚が、いままで感じたどんな快楽よりも、気持ちいい。
性的な快楽ともまた少し違う。
とにかく満たされてゆくのだ。
「ああ、いい…!いいよぅ…!」
もう何を言っているのか分からない。
ああ、もう、よく分からない。
枷を外された悪魔の本性が、目一杯暴れまわる。
気持ちいい、気持ちいい、おいしい、おいしい。
体が喜んでいる。
本能が喜んでいる。
私の下で、獲物が何か言っているが、もうどうでもいい。
若く豊富な精を、思う存分、吸い上げ、貪る。
体が満たされてゆく。
吸い上げられた生命力が、砂漠に降った雨のように、私を潤してゆく。
その代り、体の下では、お兄ちゃんの命がみるみる小さくなってゆく。
でも、そんなことは気にならない。
私は何度か絶頂を迎え、それでも足りず、求め続ける。
「あはははは、あはははは…。」
最高の気分だった。
私は悪魔…。
人の精を貪る悪魔…。
もう、あとには戻れない…。
- …
「はぁ、はぁ…。」
あ、れ…?
吸い上げる精の量が少なくなってきて、我に返った。
お兄ちゃんは…動かない。
よく見ると、白目をむいて冷たくなっていた。
死んだ…?
殺してしまった…?
そんな…まさか…!
激しく動揺する。
お兄ちゃんはどう見ても死んでいる。
私が…殺してしまった…!
いや、落ち着け、私…!
とにかく助けを呼ばなければ…!
- 「クリス…。クリス…!」
クリスはすぐに現れた。
「どうしよう…お兄ちゃんが…。私、私…。」
もう、私はパニックだ。
「落ち着いて。大丈夫、この男はまだ生きているわ。」
本当に…?
でも、でも…。
「この城には、治癒の術の使い手もいるわ。手当をすれば、じきに目を覚ますでしょう。」
助かる方法はあるらしい。
…もうクリスだけが頼りだ。
「…お願いします。お兄ちゃんを助けてください。」
精一杯のお願い。
助けてほしい。
大好きな人を、このまま死なせてしまうなんて絶対に嫌だ。
「いいわよ。貸しにしておいてあげる。」
クリスはふっふっふと得意げに承諾した。
「本当に…?本当に…?」
私は今にも泣きだしそうだ。
- そんな私をなだめながらクリスは闇に向かって呼びかける。
「シーラ!」
誰かの名だ。
使用人の一人だろう。
「…はい。ただいま。」
すぐに、メイドさんが現れる。
ただし、私たちと同じ方法でこの部屋に現れた。
それに、人間の雰囲気をしていない。
このメイドさんも…魔物だ。
「この方の世話を任せるわ。」
「承知しました。」
そう、短いやり取りを終えると、すぐに行ってしまった。
魔物だがクリスの従者だ。
きっと信頼できる。
「ありがとう、クリスさん…。…良かった…。本当に、良かった…。」
私はクリスに泣きすがっていた。
そんな私をクリスは優しく撫でる。
「クリスでいいわよ。それよりも…どうだった?」
意地悪そうに恥ずかしいことを聞いてくる。
「…。」
小悪魔め…。
そんな風に思って、おかしさが込み上げてきた。
まあ、正直に答えてもいいでしょう。
「…良かった…。」
恥ずかしいけど、正直に答えた。
やや、恥ずかしがりながらも、憮然とした様子のわたしを見て、
クリスは、二コリ、と微笑む。
「そう。それは良かったわ。」
クリスはなんだか嬉しそうだ。
- …
それからの私は変わった。
もう、食事にも、悪魔にも抵抗も嫌悪も抱かない。
クリスに頼んで、彼女の食事を分けてもらっている。
クリスは快く分け与えてくれた。
クリス曰く、同族は互いに敬うものなのだとか。
私は彼女とも、シーラとも、城の人間たちとも積極的に体を重ねた。
私が与える暴力を、快楽を、皆、喜んで受け入れてくれる。
私が、触れ、汚す度にみんな喜んでくれるのだ。
私は嬉しかった。
人間だったころは、あんなに嫌だったのに、今ではとても楽しい。
きっとこれが悪魔の、淫魔の本能なのだろう。
私は与えられた新しい生を満喫した。
私には、なんだってできた。
大抵のことは望めば思い通りになった。
ほしいものは作り出すことができたし、空だって飛べる。
クリス曰く、力の及ぶ範囲なら、運命も、因果も作りかえることができるのだとか。
…それ故に退屈だ、とも。
そして、3日の時が過ぎた。
- 「エルマ様、お兄様が目を覚まされました。」
待ちに待ったシーラの報告が入った。
…ああ、お兄ちゃん、無事でよかった。
でも、すぐに会うのは躊躇われた。
きっとまた、私は我慢することができず、殺しかけてしまう。
何せ、食べてしまいたいくらい大好きなのだから。
これから、どう向き合っていけばいいのだろう。
私は悪魔。
お兄ちゃんは人間。
本当ならば、互いに相容れないもの。
普通なら、喰うもの、喰われるものの関係になってしまう。
そうでなければ、クリスと城の人間たちのように、主と僕の関係を持つこともできる。
でも、その両方とも嫌だ。
私とお兄ちゃんは兄妹でいたい。
- …そうだ、いいことを思いついた。
お兄ちゃんも、私と同じ、悪魔にしてしまえばいい。
それならば、食べてしまうこともない。
同族として愛し合うことができる。
なにより、家族として、またやり直せる。
- ちょうど、私のおなかでは、お兄ちゃんの精と私の卵が結びつき、胚の素が誕生している。
初めて交わったときに手に入れた、お兄ちゃんの精から生まれた命だ。
お兄ちゃんと私の愛の結晶…。
これをお兄ちゃんに植え付けてあげよう。
お兄ちゃんも悪魔になるならば、先に生まれ変わった私が、お姉ちゃんだ。
せっかくだから、お兄ちゃんを、可愛く作り変えてしまおう。
胚の性別は女の子。
悪魔に、淫魔になるならば、やはり女の子がいい。
夢と妄想と欲望は際限なく膨らむ。
私は胚を育てることにした。
お兄ちゃんに植え付けるため、植え付けるのに都合にいい形に。
これを、お兄ちゃんに植えつけるのだ。
- 胚を育てながらこれから起こる出来事に思いを馳せる。
…悪魔になってしまった私を見て、お兄ちゃんが恐怖に慄く姿が目に浮かぶ。
そのお兄ちゃんを恐怖のどん底に縛りつけながら、作り変えてしまうのだ。
逞しく、勇敢な青年から、か弱く、可愛く、無垢で、素直な少女に。
少女の姿をしたお兄ちゃん。
きっと、小さい頃の私そっくりになる。
私たちは兄妹なのだから。
そして、そのお兄ちゃんに、少女の快楽を叩き込む。
成す術なく快感に飲まれ、戸惑いながら、自身が少女であることを否定しながらも、
少女の悦び目覚め、少女として成長してゆくのだ。
そして、いつしか私のことをこう呼ぶのだ。
『お姉ちゃん』と。
お兄ちゃんを、私の妹に…。
ああ、考えただけでぞくぞくする。
すぐにでも実行してしまいたい。
だが、焦りは禁物だ。
徐々に染めてゆかなければ楽しみがない。
…
私の中の胚は間もなく私の望む形に成長した。
その形は子宮。
これがお兄ちゃんを少女として改変し、お兄ちゃんの中で成長し、
やがて、その体を悪魔へと作り変える。
もうすぐ夜がやってくる。
さあ、お兄ちゃんの元へ行こう。
- 「こんばんは。」
お兄ちゃんの部屋に出た。
「…エルマ。」
なにもない空間から現れる私。
それだけでも、お兄ちゃんにとっては悲しいはずだ。
悪魔になってしまった私。
危険を顧みず、単身、敵地に乗り込んで、
せっかく会えたというのに、…その人は悪魔になっていた。
悲しいに違いない。
「…ここを出て、帰ろう。」
それでも、お兄ちゃんは私を助け出すつもりでいる。
単純なのか、純粋なのか、それとも不屈か。
私は、悪魔になってもそんなお兄ちゃんが愛おしい。
だからこそ、捕食者と獲物の関係でもなく、主従の関係でもなく、
家族として、兄妹として、この男と生きて行きたい。
- だから、これから、お兄ちゃんに辛いことを強いるとしても、
私はこの任務をやり遂げなくてはならない。
今の私を正直に話す。
「あの夜、とてもうれしかった。
お兄ちゃんが危険を顧みず、私を助けに来てくれたことが本当にうれしかった。
本当に私のことを想ってくれているんだって、うれしくて泣きそうだったの。
でも、…私は裏切っちゃった。
お兄ちゃんがほしくてほしくてたまらなくなっちゃった。
だから…気がついたら襲ってた。
そのときはお兄ちゃんを襲う自分が、我慢できない自分が嫌で嫌でたまらなかったけど、
…とてもおしかったの。
信じられないくらい。
それで、分かったんだ。
…もう私は戻れないって。」
きっとわかってくれるはずだ。
いや、今は分かってくれなくてもいい。
いずれ…そう、いずれ分かる。
- 「多分もう、私には人間が食べものかなにかにしか見えないの…。」
少し大げさかもしれない。
自分の言葉にそう思った。
でも…私の言葉一つ一つに、動揺を深めてゆくお兄ちゃんを見ていると…、
ああ、いけないことなのに…もっと苛めたくなる…。
「私にはお兄ちゃんがとってもおいしそうに見える。」
きっと、お兄ちゃんにとって、絶望的な言葉だろう。
でも、その絶望が、とても可愛い。
どん底にたたき落とされて、這いあがれずに泣いているお兄ちゃんを抱きしめてあげたい。
すでに私の中にはどす黒い欲望が渦巻いていた。
「お兄ちゃんの意志、決意はどんな味かしら…。」
お兄ちゃんの心がみるみる恐怖に染まってゆく。
「兄ちゃんはいつでもわたしを守ってくれる。
私はすごく感謝しているの。
そして、今回も私を守りにきた。」
私は続けた。
この言葉は、お兄ちゃんに私の気持ちを伝えるためのものだったのか、
それとも、お兄ちゃんを追い詰めるためのものだったのか、もう、その境界は曖昧だ。
「お兄ちゃんは私を本当に愛している。
可愛がっている。でもね、私もお兄ちゃんを可愛がってみたい、そう思ったの。」
そうだ、私ばかり愛されて、私には愛させてくれないなんて…ズルい。
「だから、可愛くしてあげる。」
- 私は自分から悪魔の特徴を曝け出す。
漆黒の翼、蛇の尻尾、山羊の角。
「…エルマ、やはり、悪魔になってしまったのか…。」
お兄ちゃんは、恐怖に染まりながらも意外と落ち着いている。
というか、何か覚悟のようなものを感じる。
私がいなくなってから半月、きっと、本気で私を助け出すつもりだったんだ。
でも、もう、私は元に戻ることはない。
かわいそうなお兄ちゃん。
必死で探し求めた妹は、すでに怪物になり果てていたのだから。
でも、それも終わり。
かつての私との幸せと取り戻しに来たお兄ちゃんは、新たな私との幸せと手にする。
「これからお兄ちゃんの体を作り変えてあげる。とびっきり可愛くしてあげるんだから。」
…そして。
…そう、私が愛してあげる…。
- 私の胎内から、胚を取り出す。
悪魔の肉、悪魔の愛、これから、それをお兄ちゃんに与えるのだ。
この子宮、肉の塊はお兄ちゃんの中に入り込み、成長し、そして、悪魔へと変貌させる。
さすがに耐えきれないのだろう。
お兄ちゃんが恐怖に染まる。
がたがたと震える。
珠のような汗をにじませながら、がたがたと震えている。
ふふふ、可愛い…。
ああ、もう、ぐしゃぐしゃになるまで可愛がってあげたい。
その夜、お兄ちゃんを少女に変えた。
- …
次の日の朝。
私は外の風景を見ながら物思いにふけっていた。
昨夜は、お兄ちゃんを少女に変えた後、加虐の限りを尽くしてやった。
男として、兄として、精神的に。
昨夜、お兄ちゃんが最後に見せた泣き顔が脳裏に浮かぶ。
町ではそれなりの剣の腕を誇っていたお兄ちゃん。
剣術の大会で入賞したことを得意げに話してくれた時のことを思い出した。
『エルマがいじめられても俺が助けてやる!』
『お兄ちゃんに任せろ!』
そんなことを、冗談混じりに嬉しそうに話してくれた。
私は、そのおかしさに笑いながらも、すこし嬉しかったのを覚えている。
だが、彼が再び剣を振るうことはないだろう。
少女になってしまったお兄ちゃん。
あの細い腕では今までの剣はとても扱えない。
…私は、とても酷いことをしている。
彼の想い、決意、愛、すべてを踏みにじり、
高潔だった彼の矜持に、どす黒い私の欲望を、べちゃべちゃと塗りたくっているのだから。
- でも、もうあとには引き返せない。
もうやってしまったのだ。
ちゃんと悪魔になれるよう、導いてあげないといけない。
私はもう、元に戻ることができない。
人と悪魔、相容れないもの同士の"対等"な関係は、互いを不幸にするだけだ。
だから、私は決意したのだ。
お兄ちゃんも私と同じ悪魔にすると。
私の胚は、お兄ちゃんの快楽で成長する。
胚が十分なじむまでの間、快楽を与え続けなくてはならない。
少女としての快楽。
それは、彼にどれほどの屈辱と絶望をもたらせているのだろう?
私は、人間の生を失ってしまったのと同時に、
何か、大切だったものを失ってしまったのかもしれない。
そのかわり、悪魔の生と、力と、人間とは異なる愛を得た。
愛するが故の加虐。
そう、自分に言い聞かせた。
なんだろう…この気持ち…後悔…?
- …
その夜もお兄ちゃんに快楽を与える。
「はぁあ、やぁああ…!」
生まれ変わった、生まれたばかりの、乳首を優しく摘んであげる。
それまでに入念にキスをされ、言葉で責められ、興奮状態だった、その少女の肢体は、
乳首への刺激だけで軽く絶頂を迎えてしまったようだ。
お兄ちゃんを少女に変えたとき、ある種の呪をかけた。
それは、彼の、彼自身の姿に対する妄想の具現。
彼が、自身の姿、つまり、少女の姿にたいして抱く妄想。
少女が快楽を受けるとき、どんな反応、振る舞いをするか。
彼の深層にある少女のイメージを引き出して、自身にその仕草を取らせる。
それが、私が彼に掛けた呪。
彼は、彼の意志とは関係なく、少女の嬌声をあげ、快感に悶え、
そして、歓喜の声を上げながら絶頂を迎えるのだ。
彼は自身が見せる、理想の少女の反応に、戸惑い、興奮し、心を昂らせる。
その快楽と昂奮の記憶は、彼に幾度となく刻まれ、彼を蝕み、
やがて彼はその記憶に飲まれる。
無意識に自分の理想の少女に近づいてゆくのだ。
無垢で、素直で、純粋で、かわいらしい少女に。
- 今夜は、もう十分にほぐしてやった。
あとは、ゆっくりと快楽を染み込ませてやるだけだ。
「あは、お兄ちゃん。もう、ぐっしょり…。おっぱい、摘まれて感じちゃったんだね…。」
彼が流す愛液を掬い取り、濡れた指先を鼻先に近づけてやる。
「いい匂いでしょ…?お兄ちゃんのエッチな匂い。」
彼は、その光景に、嫌悪と昂奮の表情を見せる。
男としての性欲と、少女としての快感。
その両方に彼は苛まれるのだ。
とても耐えられないだろう。
その様子をじっくりと堪能した後、私は彼の秘裂をもう少し触ってやることにした。
すでに、かすかに膨らみ、陰核の望むその恥丘に手を這わす。
人差し指と薬指で、少しだけ割れ目を広げてやり、その間を中指で捏ねてやる。
「あっ…あっ、だめ、エルマ…やめてぇ…んっ…。」
子猫のような声。
彼の耳にも入っているはずだ。
「だ〜め、それに、言ったでしょう?
私のことは、お姉ちゃんって呼びなさいって。」
意地悪に囁いてやる。
お兄ちゃんは、何度言っても、私のことをお姉ちゃんとは呼んでくれない。
だから、快楽で言うことを聞かせるのだ。
「ああ、お、…お姉ちゃん、分かったから…や、やぁ…。」
『お姉ちゃん。』
その響きに私は身悶えする。
あの、逞しかったお兄ちゃんが、子猫のように悶え震えているのだ。
可愛い、可愛すぎる…。
はじめはなかなか『お姉ちゃん』と呼んでくれなかったが、
十分に快楽を与えてやれば、ちゃんと呼んでくれるようになった。
もしかすると、自分でも何を言っているのか分からなくなっているのかもしれない。
そうだとしても、忘我に至るまで感じてくれるお兄ちゃんは、たまらなく愛おしい。
「ふふ、よく言えました。…ご褒美をあげなくちゃね。」
彼の秘裂の少し奥の方と陰核の少し下をやや振動を与えながら同時に圧迫し、
刺激してやる。
「あっ…だ、らめっ…ふぁあぁ…!」
かくかくと体を震わせ、身をこわばらせながら、背中を反らせる。
どうやら達したようだ。
小さくてかわいらしい割れ目が、ヒクヒクと蠕動している。
彼のおなかの中では、子宮が伸縮する刺激が嵐のように駆け巡っているに違いない。
お兄ちゃんは、少女として、女の子の悦びを味わっているのだ。
- 焦点の定まらない視線で虚空を眺めているお兄ちゃんの顔を見る。
自分の中の女の子の欲望と快感に、その都度、最大限抵抗し、
でも、何度となく敗北するお兄ちゃん。
健気な抵抗も、また、苛めがいがある。
私は、まだ快感の余韻で、意識がはっきりしないであろうお兄ちゃんにキスをした。
すべてが終わった後、果たして、お兄ちゃんは私を許してくれるだろうか。
悪魔に生まれ変わったとき、私は、それこそ自ら死を選びかねないほどに、苦悩した。
それと同じ苦しみを、お兄ちゃんに与えようというのだ。
いや、彼の場合はもっと酷い。
私は、今でもエルマだ。
それは人間だったころと変わらない。
しかし、彼は違う。
全く異なるものになってしまうのだから。
- …
お兄ちゃんの中の胚が十分に成長した。
もう、お兄ちゃんを悪魔に変えてしまうには十分だろう。
どうしてか、お兄ちゃんを悪魔に変える場所は、私たちの家がいいと思った。
最後に、私が人間だったころの幸せに、もう一度触れてみたくなったのだ。
そして、その幸せに、しっかりと決別したい、とも。
私は、お兄ちゃんとともに城を離れる旨を、クリスに伝えた。
「そう。わかったわ。好きになさい。」
クリスはあっさりと承諾した。
「でも、時々は遊びにいらっしゃい。私はいつでも暇だから。」
少し、さみしそう…。
そう思った。
- …
その夜、お兄ちゃんと、城での最後の行為を交わす。
ついに、お兄ちゃんは、女の子を受け入れた。
そして、私の愛も…。
さあ、すべての準備が整った。
最後の仕上げをしよう。
- 翌日、お兄ちゃんと一緒に町に戻った。
一緒に夕焼けに染まる、慣れ親しんだ道を歩く。
私たちの家に向かって。
手をつないで、歩くと、私たちは最初から本当の姉妹だったみたいに思える。
だが、やっと、私の願いがかなうというのに、私の心は迷い、そして、すこし怯えていた。
これから起こる変化。
それは、今までの私たちに、致命的な変化を与えるのだ。
家についた。
久しぶりの我が家。
私が人生のほとんどを過した家。
人間だったエルマの、幸せがたくさん詰まった場所。
お兄ちゃんと一緒に、あの頃のように食事をとる。
今夜の料理は私が作った。
野菜の切り方、鍋の振るい方。
私は全部覚えていた。
本当は、お兄ちゃんが助けに来たとき、一緒に逃げて来れたのかもしれない。
もちろんそれはありもしない幻想。
あの時、私は限界だったのだから。
私の料理をふたりで味わう。
味わうのは料理の味だけではない。
部屋の空気、テーブルの雰囲気、かちゃかちゃと食器が立てる音。
全てが私たちの幸せを形作っていたものだ。
ふたり、なにも言葉にしなかったが。その幸せだけは共有できた。
だが、それも終わる。
そう、永遠に…。
いよいよ夜がやってくる。
お兄ちゃんに植え付けた胚を目覚めさせるのだ。
これで、お兄ちゃんは人としての生を終え、悪魔として生まれ変わる。
だが…。
本当にこれでよかったのか?
ほかに方法はなかったのか?
今となってはすべてが遅すぎた。
- ついに、お兄ちゃんの胚を目覚めさせた。
私の卵とお兄ちゃんの精で生まれた悪魔の命。
度重なる行為でお兄ちゃんの体にくまなく行き渡った肉の塊。
快楽を吸い、十分に力を蓄えた、忌むべき子宮。
それが、いま、生まれた目的を果たす。
苦しむ兄の姿を見て、私は今までのことを思い出していた。
ふたり、支え合って暮らしてきた十数年。
おとぎ話の怪物に攫われてしまった私。
魔物に変えられてしまった夜。
お兄ちゃんは助けに来てくれた。
そして、私はそれを、…穢した。
汚し、踏みにじり、ずたずたに切り裂いた。
それでも、お兄ちゃんは私を愛してくれる。
昨夜の夜…。
今日の夕食…。
私の幸せ…。
私は泣いていた。
もう堪えられない。
お兄ちゃんに謝らないと…!
こんな悪い子の私を叱ってもらわないと…!
一番大切な人に、この愚かな心を、断罪してほしい…!
私は、彼の夢の中に潜った。
- 「…お兄ちゃん、私を許して…。」
そう…、謝らないと…お兄ちゃんに謝らないと…。
「私、耐えられなかったの…!お兄ちゃんが……食べ物にしか見えないのが…!」
…違う…。
「今まで私を愛してくれた!私も愛している!でも、それなのに!どうしても、獲物として見てしまう!!」
…違う…違う…。
「…私が、悪魔になっちゃったから。」
私は、いま、言い訳をしている。
私が悪魔になったから仕方なかった。私は悪くない、と…。
…違う…違う違う…!!
私が言いたいのはこんなことじゃないのに…!!
「そんなのはいや!絶対にいや!」
私の口は、私の弱さを反映するように、言うべきでない言葉を吐く。
正直に、自分の行いをここに曝し、謝らねばならないのに、
それらしい言葉を並べて逃げようとする。
こと、ここに及んで、立ちすくむのだ。
絶対に嫌われる、
許してなどくれない。
大切な人が離れて行く。
…その恐怖に打ち勝てない。
「だから…。お願い…。お兄ちゃんも悪魔になって、…ください…。」
ああ、最後まで、私は、お兄ちゃんの優しさに甘えようというのか…。
- 「…いいよ。」
お兄ちゃんは、承諾する。
違う…私は、私は…。
「エルマの頼みだ。断ったりしない。」
最後まで優しいお兄ちゃん。
言うならば、今しかない。
今言わなければ、一生、後悔する。
必死に口を開く。
「…私、お兄ちゃんを傷つけた…」
最初の言葉が出た。
「私…お兄ちゃんの想いを裏切った…!」
そこからは堰を切ったように懺悔の言葉が溢れ出す。
「私、お兄ちゃんを…化け物にしようとしている…!!」
叫んでいた。
もう、文章になってない。
これは、私の罪の、ただの羅列だ。
きっと、これでは伝わらない。
だが、それでも、お兄ちゃんは微笑む。
お前の気持ちは、よく分かった…構わない…構わないんだ…と。
「…ごめんなさい。…ありがとう。…お兄ちゃん。」
- …
私は、人として死に、悪魔として生まれ変わった。
手に入れた悪魔の本能と力に、私は何か凄い存在になった気分でいた。
しかし、実際はどうだ?
悪魔の本能に振り回され、大切な人を傷つけ、…迷いを捨てきれない。
結局、私は何も変わってないのだ。
ただ強くなった気がしただけ。
だが、そんな私を、お兄ちゃんは笑って許してくれた。
また、救われたのだ、私は。
やっぱり、お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんに新たな名を与える。
アルマ。
アルマ・グラフ・フォン・ルクレール。
前から決めていた名前だ。
私によく似た響き。
ふふ、ちょっと紛らわしいかな?
そして、私と同じ、クリスに貰った、ルクレールの名。
もう、人間だったお兄ちゃんはいない。
ここに在る存在は、私の妹、アルマだ。
これから二人で生きて行こう、アルマ。
- …
…
…
その日は、姉妹を襲っていた。
それはゲームだった。
私が姉を、アルマが妹を調教し、機が熟す頃に、
姉妹をくっつけてみよう、というゲーム
どちらがうまく堕落させられるか、そういうゲーム。
この手のゲームはアルマのほうが上手だった。
今回もアルマ担当の妹の方が攻め、私が担当の姉の方が受けている。
ふふん、と得意げなアルマの顔を見て、私は、ぶ〜、と膨れる。
あれから3年の月日が経った。
私たちはクリスの縄張りであるあの町を出て、違う町へ移り住んだ。
アルマとは結局別々に暮らしている。
もともと私たちの狩りは単独行動なのだ。
最初こそ、共に行動していたが、
次第に別々に狩りをするようになり、別々に寝床に戻るようになり、
気付けば別々に暮らしていた。
今では、たまに、気が向けばふたりで獲物を捕まえたり、互いに愛し合ったりする程度。
あれだけふたり、共にあることを望んだのだというのに。
- でも、まあ、それでもいい。
私たちの関係は変わってしまったのだから。
愛し方が変わってしまったのだから。
適度に距離を置いた方が互いに心地よいのだ。
眼下で交わりあう姉妹に思いを巡らす。
きっと、これから彼女たちの関係は、今までのようにはいかないだろう。
私たちが、ぶち壊してやったのだから。
この娘たちは今、愛し合い、そして幸せそうだ。
だが、きっとその幸せは、…長くは続かない。
隣にいるアルマの顔を見る。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
アルマはそんな私の様子に気付き、不思議そうな顔をする。
「アルマ…。」
私は悪魔だ。
だが、非情にはなりきれなかった。
いまも獲物の未来に思いを馳せている…。
なんだか、嫌な気分になってしまった。
なんとかならないものか…。
やはり、城を構えた方がいいのかもしれない。
クリスと同じように。
人を住まわせ、与え、与えられる環境を整えた箱庭。
愛の巣を作るのだ。
うん、そうしよう。
これからのやるべきことに、胸を躍らせながら、ひらり、と、ひとり寝床へ向かった。
アルマは最後まで不思議そうな顔をしていた。
fin
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