日本の外交・安全保障の司令塔をつくるため、安倍内閣が、有識者による検討を始めた。司令塔とは「国家安全保障会議」のことだ。同名の米国の組織にならって「日本版NSC」とも呼[記事全文]
中小企業金融円滑化法が3月末で期限切れになる。リーマン・ショック後、中小企業の連鎖的な倒産を防ぐために、当時の鳩山内閣が亀井静香金融相の主導で成立させた法律である。[記事全文]
日本の外交・安全保障の司令塔をつくるため、安倍内閣が、有識者による検討を始めた。
司令塔とは「国家安全保障会議」のことだ。同名の米国の組織にならって「日本版NSC」とも呼ばれる。
外交・安全保障をめぐる環境は厳しさを増す一方だ。対応できるよう、政府の態勢を整えたいという思いは理解できる。
しかし、首相は6年前にもこれに取り組み、かなわずに終わっている。教訓を生かし、意味ある仕組みをつくれるか。問われるのはその点である。
紛らわしいが、「安全保障会議」はいまもある。首相を含む9閣僚で、国防に関する重要事項などを審議している。
この会議をNSCに改組しようと、第1次安倍内閣は2007年、国会に法案を提出した。9閣僚の会合とは別に、首相、外相、防衛相、官房長官の4人で頻繁に議論を重ね、外交と安全保障に一体的に取り組むことが主な眼目だった。
この法案は、生煮えの失敗作だったと言わざるを得ない。
閣僚が話し合う程度なら、わざわざ法律をつくり、新組織を設ける必要があるのか。後継の福田内閣は構想を白紙に戻し、法案は廃案になった。
そのせいか、首相は今回、情報の重要性を強調している。
「各部署がとった情報を集めて分析し、首相や官房長官に上げる機関がない。横串をかけた分析能力が劣っているのではないか」。外務省や防衛省、警察庁などが集めた情報を集約し、分析を加えるためにNSCを活用するというのである。
確かに、北朝鮮の核問題やアルジェリアの人質事件にみられるように、情報力の強化はさし迫った課題だ。
それは、組織を設ければかなうわけではない。肝心なのはプロ集団の育成である。
海外での情報収集には、言葉を操り、現地に溶け込む専門家の配置が必要だ。NSCで分析するなら、その能力に秀でているうえ、省益にとらわれない人材をそろえる方法を工夫しなければならない。
情報力を強めようとすれば、秘密保全が問題になる。簡単に漏れるのでは、他国も情報を教えてはくれない。だが、情報公開に真剣に取り組まず、秘密保全ばかり言うのでは、不都合な事実を隠したいだけだと国民に疑われる。
情報は鋭利な刃物だ。
それを扱う組織も、作り方次第で薬にも毒にもなる。首相はどれほどの構想を持っているのか。はっきり語ってほしい。
中小企業金融円滑化法が3月末で期限切れになる。
リーマン・ショック後、中小企業の連鎖的な倒産を防ぐために、当時の鳩山内閣が亀井静香金融相の主導で成立させた法律である。
借り手が返済繰り延べを要請したら、金融機関は応じる努力義務があると定められ、モラトリアム法とも呼ばれた。過去2度延長され、30万〜40万社が対象になったとみられる。
倒産件数が劇的に減るなど、危機の封じ込めに一定の効果はあった。半面、救済企業の経営が改善した例は少ない。もともと苦境にあった不採算企業を温存させ、産業構造の転換を遅らせたとの批判は根強い。
金融庁は4月以降も返済猶予を続けるよう金融機関を指導する方針だ。たしかに急激な変化は望ましくない。
しかし、政治が選挙を念頭に倒産の増加を抑え込もうとしているなら論外だ。実質的に不良債権を拡大させることになり、経済の活性化を妨げる。
成長実現に産業の新陳代謝は避けられない。経済や金融システムへの影響を抑えつつ、展望のない企業は徐々に退出させ、企業の再生・再編や起業を促すことに本腰を入れるべきだ。
きざしはある。期限切れを控え、金融機関は相次いで企業再生ファンドを設けている。中小企業と地域経済との結びつきを生かした再建のモデルを示せれば、金融機関の業務改革にもつながる。
金融機関は不良債権処理に追われた時代に借り手企業との距離が広がり、経営支援の能力が落ちた。これを転換する足がかりにしたい。
規模が小さな企業ほど、財務体質よりは経営者の意欲に業績が左右される。金融機関は新たなビジネスの契機となる情報を提供し、相談に乗って、経営者の再建意欲を支えるという使命を帯びている。
1社では仕事が完結しない中小企業でも、近隣の企業と連携すれば、独自の製品開発や販路開拓が目指せる。
たとえば東京都大田区では、行政の音頭取りで地元の病院と企業が医療機器を共同開発し、自動車部品の下請けからの自立を目指す。地元金融機関も参画し、支援や与信のノウハウ強化を図っている。
大田区のような産業の集積がないのなら、金融機関の横のネットワークを生かすべきだ。
金融とは単にお金を貸すだけではなく、知恵と情報を組み合わせた総合サービスであることを再認識してほしい。